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[GDC07#13]「Dark Messiah of Might and Magic」はこうして作られた
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印刷2007/03/08 23:39

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[GDC07#13]「Dark Messiah of Might and Magic」はこうして作られた

Arkane Studios Raphael Colantonio氏
 Ubisoft Entertainmentが2006年にリリースした「Dark Messiah of Might and Magic」は,刀剣などの武器や,魔法を使って戦う一人称視点のアクションゲーム。本作のリードデザイナーがその開発の歴史を振り返るという,GDCならではの講演を行ったので,今回は一人のファンとして出席したのである。

 普段プレイしているゲームの“開発苦労話”を聞くのは楽しい。プレイ中には意識もしないようなシーンの一つ一つに,それなりの努力や苦労があったという事実は,別に知らなくても困らないが,知っているとNHKの「プロジェクトX」を見たような気分になれる。GDCは,そういう話を聞けるおそらく世界最大のイベントであり,3月7日に行われた「The Challenge of Designing a First Person Melee Combat Game」も,そんな講演の一つなのだ。
 登壇したのは,本作のデベロッパであるArkane Studiosのクリエイティブデザイナー,Raphael Colantonio氏。まだ20台後半といった風情の若いクリエイターだ。

 Dark Messiah of Might and Magic(以下,DMMM)の最も特徴的なところは,一人称視点での斬り合いをメインとする戦闘システムだ。FPS(First Person Shooting)と呼びたいところだが,実際にはあまりシュートしないので,ここでは仮に「FPF」(First Person Fighting)と呼ばせていただきたい。ダメと言われても困るけど。

■企画を売る
 Colantonio氏とArkaneの苦労は,まずパブリッシャにゲームを売り込むところから始まる。「一人称視点のチャンバラ」と説明し,「はい」とハンコをついてくれるような太っ腹のパブリッシャはいないので,「ポンコツ車を売るセールスマン並みに大変」だったとのこと。
 こういうときに功を奏するのは,とにかく熱意しかないだろう。刀剣によるリアルな近接戦闘というコンセプトを納得させるのには時間がかかったが,最終的には成功する。成功しなかった場合,こうして「開発の舞台裏」といった原稿を書いているはずはないので,成功するのである。



■サンプルを作る
 次に,どんなゲームにするかを示すサンプルを制作する。サンプルがあるのとないのとでは,その後の開発スピードが大きく違ってくる。一本のサンプルは,数百枚の企画書に匹敵するのである。欧米におけるゲーム開発では,もうこの段階でかなりの物を作ってしまうとのことだ。
 スクリーンに映し出されたサンプルゲームのムービーは,ごく短期間で制作されたものだそうだが,「AR XII」という仮のタイトルや,メーカーのロゴまで入っていた。これだけを見る限り,製品版にかなり近く,ちょっと驚きだ。
 これは,Source Engineの採用によるところが大きく,こうしたミドルウェアの使用は,この段階での手間を大幅に軽減してくれる。グラフィックスなどの派手な面だけでなく,開発期間の短縮という観点からも,ゲームエンジンの重要性はますます高くなりそうだ。



■用語の統一
 開発は,複数のメンバーによって行われるため,用語の統一を図っておくことが重要とのこと。刀を上げて防御の姿勢を取ることを「Parrying」,プレイヤーのアドレナリンバーが最大になることを「Adrenalized」といった具合に用語を決めていき,次々に辞書に登録する。
 FPFというジャンルは,ほかのジャンルからのアナロジー(類推)があまり効かないことや,またマニュアルを別のスタッフが作成することから,この「Building Vocabulary」と呼ばれる作業は必須であった。DMMMに限らず,近頃のゲーム開発では,この作業はとても重要なものとなっているという。
 ただし,Colantonio氏自身は,この作業に「うんざりした」そうだ。




■細部の検討
 FPSでは,レティクル(照準)をターゲットに合わせてトリガーを引けば,弾丸が直線的にターゲットに向かっていく。しかし斬り合いでは,剣は弧を描くような軌跡になるため,そうはいかない。
 例えば,下に示した写真(左下)のようにビンと樽が置かれているとする。左にあるビンを壊すとき,FPSの方式をそのまま使ってしまうと,ビンだけが壊れて,途中で剣が当たっているはずの樽が壊れないという,なんともおかしなことになってしまう。

 さまざまな方法を試した末,彼らが編み出したのは,「武器がヒットするポイントを,武器(刀剣)の軌道に沿ってずらしていく」という手法だった。“ヒットするポイント”を“ヒットするゾーン”と呼べるほど広くし,不自然さを取り除いたのだ。
 DMMMの開発にあたり,こうした細かい部分についての検討に,最も長い時間を費やしたそうだ。

 「80/20の法則」という経験則がある。これは,ゲーム全体の20%の開発に対して,労力全体の80%が必要となる,というものだ。刀剣による斬り合いは,ゲーム全体から見ればさほど大きな要素ではないが,ゲームの面白さを決定付けるほど重要だ。

「上を向いているときと,下を向いているときの刀剣の軌道が同じではおかしい」

「狭いところで振りかぶったとき,キャラクターの背後にある壁に刀剣を当てるべきか」(当てればよりリアルになるが,その分爽快さは減少する)

……などなど,一つの問題を解決するたびに,新たな問題が生じたという。当然ながらその中には,現在の技術では克服できない問題もあり,プレイヤーが不自然さを感じないような解決策を模索することになる。



■プレイヤーもまた難敵
 開発がある程度進捗したところでテスターが集められ,デバッグ作業と仕様の変更が繰り返された。
 FPSや三人称視点の斬り合いには慣れたゲーマーも,DMMMのようなFPFには馴染みがない人が多い。Colantonio氏が驚いたのは,斬り合いの最中,マウスを連打するテスターが多かったことだという。
 重々しい剣戟シーンを再現することが本作のコンセプトの一つであり,連打したからといって剣を素早く振り回せるわけではないが,ほとんどのプレイヤーが(事前のレクチャーにもかかわらず)マウスボタンを連打する。
 マウスボタンの連打は一例に過ぎないが,Colantonio氏はこのような状況から,「プレイヤーは,開発者の思ったとおりにはプレイしてくれないもの」と結論づけた。

 開発チームが選んだのは,「So What?」(だからどうした)と開き直り,そのままにしておくこと。プレイヤーに,このような戦闘システムに慣れてもらえばいいという考え方だ。
 そのためにDMMMでは,チュートリアルの充実を図ったが,操作方法を変えるという選択肢もあったかもしれないという。



 こうしたステップを経て市場に投入されたDMMMだが,もちろん,開発中に解決できなかった課題も多くある。もし次回作を作るとしたら,あれもしたいこれもしたいとColantonio氏は言うが,そうした積み残しが出るのは,おそらくすべての創造的作業につきもののことなのだろう。
 一人のプレイヤーとしてごく正直な感想を言えば,DMMMの近接戦闘シーンには不満も割とある。ここがこうなっていればよかったのにと思う箇所も少なくなく,このあたりが,彼らが目指した完成形に到達していない部分なのだろう。

 とはいえ,今回こうした開発の裏側を覗けたことで,DMMMに対するイメージが少し変わったのも間違いないところだ。(松本隆一)

  • 関連タイトル:

    Dark Messiah of Might and Magic 日本語マニュアル付英語版

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