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[TGS2005#43]PCゲームにATIロゴが目立ち始めた理由
言われてみれば,今回のTGS2005にNVIDIAのブースはなく,欧米産PCゲームの多くは,ATI Technologies(以下ATI)ブースで展示されている。また「Guild Wars」や「Call of Duty 2」といった"Valve Software以外の大物"に,ATIのロゴが付くなど,目立つようになってきたのは事実だ。
事前にはこれ以上の情報がなく,正直何をどこまで聞けるのか不安ではあった。とはいえ,せっかくの機会。ATIの子会社で,各ベンダーとの技術協力を行っているATI ResearchのISVリレーションズ部ディレクター Neal Robison氏に,会場内(のベンチ)で話を聞いてみた次第である。
■XboxとPCにゲームを提供するなら,ATIが選ばれる
4Gamer編集部(以下,4Gamer):
初めまして。ATIテクノロジーズジャパンからは,あなたのチームが今後,ゲームデベロッパやパブリッシャとの連携を強化していくと聞いています。まず,具体的には何をしているのか教えてください。
私の部署は,各デベロッパやパブリッシャに働きかけて,ATIに最適化したものを世に出してもらうために存在しています。
コンテンツの開発に当たって,最も重要なことは技術的な見通しです。世界中の開発者などと直にやり取りして,現在,または将来のATIプロダクトに最適化してもらうのがミッションですね。ちなみに,RubyのデモやRender Monkeyを作ったりするのも私のチームです。
4Gamer編集部(以下,4Gamer):
ATIとデベロッパの結びつきといえば,真っ先にValve Software(以下Valve)が浮かび,それですべてといった感じでした。そんな状況にあって,例えばこのTGS2005では,どっと多数のデベロッパやパブリッシャがATIブースに名を連ねていますよね。この急激な変化には,Xbox 360の存在があるとしか思えないのですが。
Robison氏:
ATIとMicrosoftは長い間協力関係にあります。お互い技術者を派遣したり,ですね。そして,次世代機の開発に当たって,MicrosoftはATIを,グラフィックス面の開発パートナーとして選んでくれたわけです。そもそも,DirectX 8.1くらいからMicrosoftとの関係は非常に良好ですから,必ずしもXbox 360だけがその理由ではありません。
もちろん,ATIとMicrosoft,ゲームデベロッパ3者間の連携が強化されることは,取りも直さず,Xbox 360とPC用ゲームを同時に開発したり,移植したりすることが容易になるのを意味するとは思います。
4Gamer:
Xbox 360用ゲームタイトルをPCに移植するのは,Xbox時代より容易なのですか?
Robison氏:
もちろんそうです。ただし,Xbox 360とPCだけではありません。ATIにはRadeonだけでなく,XilleonとImageon(編注:Xilleonはデジタルテレビやセットトップボックス用System On Chip,Imageonは携帯電話など用の小型モバイル機器向けグラフィックスチップ)もある。ですから,あるプラットフォームに作ったタイトルは,別のプラットフォームへも容易に移植できますよ。
4Gamer:
なぜそんな質問をしたかというと,今後はXbox用に開発されるタイトルのほとんどにATIロゴが付いて,プレイステーション3用だとNVIDIAロゴになるのではないか,業界は二分されるのではないかと考えているからなのです。そして,それがPCに移植されるときには,「まずどちらで出たか」で,どちらとパートナーシップを組むかが決まるような印象を持っていたりするわけですが。
Robison氏:
パブリッシャからすると,Xbox 360で出すのか,はたまたプレイステーション3やPCで発売するのかというのは,難しい決断になるでしょう。すべてのプラットフォームで発売できるのが理想ですが,それにはコストも技術もかかります。
ただ,Xbox 360のアーキテクチャはPCと似ていますから,ミドルウェアもそれほど大きくは変わりません。一方,プレイステーション3はCellを採用しているから,PCとはアーキテクチャがまったく異なります。
4Gamer:
三つの中から二つを選択するなら,Xbox 360とPCが正解?
Robison氏:
難しい決断を下すとき,「PC版も投入する」という前提で考えれば,PCと近い環境で開発できるXbox 360を選ぶことが多くなると思います。逆も然りですね。PC用に作っておいたタイトルをコンシューマへ移植するとき,Xbox 360のほうが,よりスムースに行えます。
さらに,Xbox 360とプレイステーション3は確かにコンシューマ機のレベルを大きく引き上げますが,そこでしばらく留まるという現実があります。これに対して,PCのパフォーマンスは今後も上がり続けていきますよね。そうなると,いま「Xbox 360とPC」という選択を行ったパブリッシャなりデベロッパは,そこで培った技術で,よりパフォーマンスの高いPC用タイトルを作ることになるでしょう。
では,彼らはATIとパートナーシップを組むことになり,PCゲームにATIのロゴが出るようになるというわけですか?
Robison氏:
そうなると嬉しいですね(笑)。
4Gamer:
そういえば,同じくATIがグラフィックス周りで協力している,任天堂の「Revolution」の話が出てませんね。RevolutionとPCでは,Xbox 360とPCのような関係があるのでしょうか?
Robison氏:
Revolutionに関しては,まだ何も言えないんですよ。ただ,開発者に対してはもちろん技術的なアドバイスを行っています。Xbox 360のように,発表会にATIの社員が出かけていって,壇上で何かしゃべったりするようなことはありませんが,ロゴマークは露出することになります。
4Gamer:
そうなると,移植や同時開発の難度は,Xbox 360ほど簡単ではなさそうですね。どのプラットフォームでも構いませんが,日本のデベロッパとATIがゲームを共同開発するとかいったことはあるのですか?
Robison氏:
Xbox 360とPCに関してはありますね。ATIではトロントとボストン,レドモンド,シリコンバレー,ロンドンにソフトウェア支援の技術者を抱えていますから,その人間がお手伝いすることになります。コードを書くのを手伝わせてもらったりね。
■先行するNVIDIAをどう捕らえるのか
最近,ATIの協力で作られたゲームタイトルだと,起動時にATIのロゴが出ますよね。以前は「ATI Get in the Game」でしたが,これは方針が変わったのですか?
Robison氏:
そうですね。ATI自体のブランド力が高まったから,シンプルなロゴマークに切り替えました。
4Gamer:
NVIDIAには「The way it's meant to be played」ロゴがありますが,ATI Get in the Gameはまさにあれの対抗だったと思います。ああいった特別なロゴはもうやらないのですか?
Robison氏:
考えているかいないかでいうと,考えています。やる,と断言はしませんが。
4Gamer:
PCゲームにおけるゲームデベロッパやパブリッシャとの協力関係という意味では,NVIDIAに一日の長があるのは否定できないと思います。とくにNVIDIAは,Electronic Artsとの戦略的提携を行うなどしていますから,今からキャッチアップするのは難しいのではと思うわけですが。
いい質問ですね。まずATIとしては,すべてのデベロッパやパブリッシャに対してオープンにいきたいと考えています。
ATIとNVIDIAが,同じデベロッパへ同時にアプローチすることは当然あるでしょう。そのときに,マーケティング,技術,サンプルなど,あらゆる面でより信用に足れば,そのデベロッパはATIを選んでくれるはずです。
4Gamer:
開発者からすると,使い慣れているQuadro FXを離れて,Fire GLに移行するのはかなり大変ではないかと思いますが。
Robison氏:
北米市場に関していえば,ゲーム開発用端末の出荷量ベースのシェアは,現在Fire GLとQuadro FXとでほとんど変わらないですよ。日本ではいろいろな事情でサポートが遅れてしまったため,残念ながら現時点ではそうなっていませんが。
4Gamer:
ソフト面ではどうでしょう? 「Maya」のAlias Systemsや「SoftImage」のAvidといった,3Dグラフィックス開発ツールベンダとの連携や提携は,どこまで進んでいますか?
Robison氏:
トロントとボストンのチームが,非常にいい関係を築いています。これ以上の深いところについては答えられません。
4Gamer:
分かりました。では,少々話を変えますね。ATIのロゴが出る条件に,何か明確な基準はありますか? ぶっちゃけた話,いくらATIから資金援助があったらロゴが出るとか。
Robison氏:
そういうわけではありません。技術者を派遣したり,技術の教育だったり,最終的なクオリティ向上のお手伝いだったり。もちろん,共同マーケティングや広報広告活動の結果だったりもします。
あくまで一例ですが,「鬼武者3」の開発に,直接的な資金援助は行っていません。鬼武者3に関していうと,マーケティングと広報活動をお手伝いさせていただいてますね。そういうときにも,ATIのロゴは出ることがあります。
4Gamer:
鬼武者3の話が出たところで,日本の話もさせてください。NVIDIAは最近,プレイステーション3をターゲットにしていると思いますが,大々的にシェーダプログラムの技術者を日本で募集しているようです。ATIは日本に常駐する技術者を育成したり集めたりといったことは考えていますか?
Robison氏:
日本のPCゲーム市場が非常に小さいこともあって,現在は北米とヨーロッパ,韓国でしか直接のサポートを行えてはいません。でも,Xbox 360が発売された後なら,日本についてもベンダー支援の拠点設置を考えていますよ。いつ,とお約束はできませんけども。中国,インド,ロシアについても同様です。
もちろん,大きなタイトルが動くときだと,トロントやボストンのチームから拠点のない国へ人間を派遣することはあります。
4Gamer:
最近だと,何のタイトルで技術者の派遣がありました?
Robison氏:
さすがにそれは言えませんよ(笑)。
話をしてひしひしと感じたのは,Robison氏が,PCゲームとXbox 360に並々ならぬ期待を寄せていることだった。
ライトユーザー向けのオンライン課金型ゲームが全盛となっている日本市場を日々眺めている身としては,果たして氏が見ているPCゲーム市場は,本当に筆者が見ているものと同じなのか,疑問に思うほどだ。
いずれにせよ,プレイステーション3よりは,Xbox 360用タイトルのほうが,PCでも出しやすいのは確かだろう。Xbox 360が国内で成功するかどうかについては判断材料を持たないのでコメントは差し控える。しかし,こと日本市場に関しては,NVIDIAがどんどんコンシューマ(=プレイステーション3)に近づいていくことで,ATIがPCプラットフォームで気を吐く時代が来てもおかしくはないだろう。
TGS2005にNVIDIAのブースがなく,ATIのブースがあったことは,結果として非常に示唆的だったねと,後に振り返ることになるのかもしれない。(佐々山薫郁)
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