レビュー
3000円で買えるゲーマー向けキーボードの価値は?
GMKB109BK
» FPSでよく利用される21キーの同時押しに対応しながら,実勢価格は3000円以下――。発表されるや否や,既存のゲーマー向けキーボードとは一線を画す安価な設定が話題を集めた製品を,米田 聡氏が分析する。低価格が魅力の新製品には,ゲームプレイに当たってどんなメリットがあるのだろうか。
1万円を超える価格設定も珍しくないゲーマー向けキーボードのなかにあって,すこぶる安価な同製品だが,果たして価値はどこにあるのか。“安物買いの銭失い”にはならないのか。白黒2色用意された本シリーズから,今回は黒モデル「GMKB109BK」をシグマA・P・Oシステム販売から借用できたので,じっくり検証してみることにしたい。
基本的には一般的な日本語キーボードそのもの
チープではないが,価格なりという割り切りも必要
というわけで,まずは本体を眺めてみよう。
一見して分かるように,外観はごくごく普通の日本語キーボードである。
本製品はFPS向きとされるが,FPSといえば,その主流は欧米産タイトル。“カジュアルFPS人気”もあって,最近は日本語環境に最適化されたタイトルもちらほらと出てきたが,依然として相性は英語キー配列のほうがいい。ヘビーなFPSプレイヤーには釈迦に説法だが,日本語配列のキーボードと英語配列のそれでは,記号キーの配列が異なるため,ゲームのキーアサイン設定などで戸惑う原因となるからだ。
例えば,英語キーボードを想定したゲームタイトルを日本語キーボードでプレイしているとき,@(アットマーク)を入力しようとして[Shift+`]キーを押すと,[(大括弧)が実際には入力されてしまう。なのでこの場合は[Shift+2]キーを推す必要がある,といった具合だ。ほかにも“英語キーボードを想定したタイトルを日本語キーボードでプレイするに当たって気をつけるべきキー”の代表的なところでは,”([Shift+け]),*([Shift+8]),()([Shift+9][Shift+10])といったあたりが挙げられる。
ただ,GMKB109シリーズはゲーム以外でも快適に使えるということがウリの一つになっている。国内では日本語キー配列に慣れている人が多いので,あえて日本語109キー配列を採用しているのだろう。
キーピッチは日本語フルキーボードでは標準的な19mm。これは筆者個人としても,最も使いやすいキーピッチである。キートップの高さは6mmで,こちらも標準的だ。
この特徴を実際のキータイプで実感することはできなかったが,ある程度の期間使い込んでラバーキャップの強度が失われてくると,ラバーキャップがズレにくいという特徴が実感できるようになるかもしれない。なお,キー押下の耐久性は公称500万回と,メンブレンスイッチを採用するキーボードとしては丈夫に作られており,このあたりは激しいアクションを想定したゲーマー向け製品らしいところだ。
さて,カタログスペック上のキー押下圧は50g,キーストロークは4mm。ラバーキャップ式バネなので底付きがないタイプだが,実際にキーをグッと押し込むと(ゴムバネ長と同じ)6mmほどのストロークがあった。筆者がレビュー記事中で「ストローク」と記述するときには,後者の値を用いているので,本稿としては「キーストローク6mm」としたい。
どうやら,公式のキーストローク値はキースイッチがオンになる(反応する)高さのようで,確かに4mmほど押し込むとキーが反応した。ちなみに押下圧,ストロークともキーボードとしては標準的なスペックだが,ゲーマー向けキーボードとしてはいずれもやや大きめの値である。
本体サイズは450(W)×160(D)mmで,10キー付きの日本語109キーボードとしては,コンパクトな部類に入る大きさだ。高さは公称37mmだが,これは装備するチルトスタンドを立てていない状態,かつキーを含まない状態における,最も背の高い部分(=キーボード最奥部)の値。手前は同12mmとなり,かつチルトスタンドを立てるとキーボード最奥部は同50mmとなる。全般に扱いやすい,ノーマルなデザインにまとめられている。
本体の重量は670g――厳密な計測にならないのは承知のうえでケーブルを重量計からどけてみると620gだった――で,非常に軽い。この軽さと相まって,ゲームで激しく使用するとキーボードが動きやすいのは難点といえるだろう。ホームセンターなどで,滑り止め用のシートやゴム材などを追加すると行った工夫が必要かもしれない。
ただ,安価なキーボードにありがちな本体の歪みはなく,グラツキ感などもまったくない。また(これも安いキーボードにありがちだが)打鍵中にキシミ音が出ることもなく,安いなりにしっかり作られている印象は受ける。
チョイスには少々疑問もあるが
21キー同時押し機能そのものは価値アリ
以上,外観や基本仕様に特筆すべき点はほとんどないGMKB109シリーズだが,最大の特徴は,FPSでよく使うとされる21キーの同時押しに対応する点だ。
前提となる話をしておくと,文字入力が主目的となる一般的なキーボードでは,「複数のキーを同時に押す」ことがあまり考慮されていない。これはちょっと考えればすぐ分かるが,テキスト入力を行うに当たって一度に入力するキーはたいてい1〜2個だ。[Shift][Ctrl][Alt]キーあたりを押しながら何か作業するにしても,せいぜい3キーがいいところである。そのため,一般的なキーボードでは,「複数のキーが同時に押されたとき,“押されたこと”を認識できる数」が制限されている。一般的なキーボードの場合,高価かそうでないかにかかわらず,たいていは多くても5キー程度が限界。さらに,キーの組み合わせによっても制限は変わり,例えば[R]と[F]といった“縦方向”の組み合わせだと,2キーまでという製品も多い。
その点GMKB109シリーズでは,左手側を中心に用意された21キーなら,同時に押されてもすべて入力される。確かに所定の21キーはすべて同時入力が可能だった。「普通のキーボードではない」ことは,21キーの同時押しを試してみるとすぐに分かるはずである。
なお,同時押しがサポートされるのは付属のUSB→PS/2コネクタを使用してPCのPS/2ポートに接続した場合に限定されることには注意しておきたい。USB接続を使用している場合,製品カタログに記載されている仕様どおり,最大6キーまでの同時押し対応となる。これはUSBキーボードに使用されるデータ転送モード(ロースピード,インタラプティブ転送)に「一度に送れるデータサイズは8bytesまで」という制限があるためだ。
同時押し対象外のキーはどうかというと,最大5キーの同時押しに対応。列が異なるキーの組み合わせだと,ケースによっては2キーまでとなることもあった。また,所定の21キーと,同時押し対象外のキーを組み合わせた場合も,最大5キーに制限される。一つでも21キー以外のキーが“混ざる”と,同時押し可能なキーの数が一気に減るので,プレイ時には少々注意が必要と思われる。
ただ,そういっても始まらないので,17キーで考えることになるが,現実的には,移動用の[W/A/S/D]キーをはじめ,ゲームのデフォルト設定のまま使うことになりそう。アクションによく使われる[Ctrl][Shift]もきちんと同時押し対象に組み込まれるので,むしろ下手にカスタマイズしないほうがいいかもしれない。
では,その同時押しにはどんな意義があるだろうか。具体例を挙げつつ説明していきたい。
筆者が最近よくプレイしている「Enemy Territory: Quake Wars」(以下,ETQW)において,最も多用することになるのは前進[W]+左右移動[A/D]+加速[Shift]+ジャンプ[Space]というコンビネーションだ。Quake系をプレイしたことのある人には説明不要と思われるが,これは(普通では到達できないところまで飛び上がる)「トリックジャンプ」という操作を行うためのもの。ETQWでは定番の操作だが,列が異なる場所にあると2キーしか同時押しに対応しない,一般的なキーボードでこれを実行しようとすると,「[Shift]+[A/D]と[Space]は同時押しせず,少しタイミングをずらして[Space]を押す」といった対応が必要になる。実際,筆者は普段使っている「Happy Hacking Keyboard Lite」(※PS/2接続)で,タイミングをずらしてうまくジャンプできるよう工夫している。
この点GMKB109BKでは,わざわざこういった工夫をせずとも造作なくトリックジャンプのコンビネーションを入力できる。プレイヤー側で試行錯誤する必要がないので,例えばFPSを始めて間もないプレイヤーがFPSならではの操作法習得に取り組むとき,GMKB109BKの21キー(17キー)同時押し機能は間違いなくメリットとなるはずだ。特定の操作がうまく入力できたりできなかったりした人は,キーボードの交換によって“腕が上がった”ように感じられるかもしれない。ベテランFPSプレイヤーでも,新しいキーコンビネーションを必要とするゲームに取り組むとき,ああだこうだとキーの入力順を考えなくても済む。
ただ,確かに同時押し回りは優秀である一方,ゲーマー用キーボードとしてはストロークが深すぎることは,マイナスポイントとして触れておく必要があると感じた。序盤で触れたとおり,GMKB109BKのキーを反応させるためには,4mmほど押し込む必要があり,これが操作の遅れ(=もたつき)として体感できてしまう。ゲーマー用キーボードでは,反応速度を高めるため,ストロークの浅いキーを装備するのが定番なので,本製品もそうであればなおよかったというのが正直な感想である。
やはり制限は目に付くが
価格を考えれば十分に価値がある
GMKB109BKを乱暴にまとめると「よくある安価な日本語キーボードに,21キー同時押し機能を加えただけの製品」である。キーの品質が高いわけでも,反応速度に優れるわけでもない。本格的なゲーマー向けキーボードと比べてしまうと,明らかに,そしてかなり劣る。
いきなり本格的で高価なキーボードに移行するのはハードルが高いが,3000円ならなんとかなると考えた人は少なくないだろう。「いずれ満足できなくなること」を覚悟のうえで,ステップアップの第一歩として導入するなら,本製品がオススメだ。
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