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“ヒャダイン”こと前山田健一さん,どんなゲーム音楽に影響を受けてきたんですか?
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印刷2010/09/14 10:00

インタビュー

“ヒャダイン”こと前山田健一さん,どんなゲーム音楽に影響を受けてきたんですか?

アニメ&アイドルソングのガラパゴス化(いい意味で)


4Gamer:
 ゲーム音楽に慣れ親しんでいた一方で,十代の頃はtrfなんかもお好きだったんですよね。

前山田さん:
 小室哲哉さんのプロデュース作品全般が大好きでしたね。
 だから今でもあの頃に聴いていたものを,しょっちゅう聴いています。成長してないなって思うんですけど(笑)。

4Gamer:
 ただ,前山田さんが最近作られている楽曲って,ああいうものとも違いますよね?

画像集#011のサムネイル/“ヒャダイン”こと前山田健一さん,どんなゲーム音楽に影響を受けてきたんですか?
前山田さん:
 うーん……。でも実はJ-POPって,メロディ自体は20年ぐらい前からそれほど変化してないと思うんですよね。さすがに1970年代の歌謡曲を聴くと,メロディが古いと感じることはあるんですけど,20年ぐらい前のものはサウンド自体が古いことはあっても,メロディは変わっていないかなって。
 仕事で作っているキャッチーなメロディというのも,僕が十代の頃に聴いてきた音楽から影響を受けていますし,それを2010年の機材と音でやっているから,2010年の作品に聞こえるだけじゃないかと思います。

4Gamer:
 そう言われてみると,確かに思い当たる節はあるかもしれません。
 ただ最近の日本の音楽市場の中において,前山田さんもよく手がけられている,アイドルソングやアニメソングって特異だと思うんですよね。ほかに似たものがないというか。

前山田さん:
 ぶっ飛んでるものが多いですよね(笑)。
 多くのJ-POPって洋楽のイミテーションの部分が多いと思うんです。アメリカのプロデューサー兼ラッパーのミッシー・エリオットによると,「J-POPは5年遅れている」そうなんです。

4Gamer:
 そんなにですか……。

前山田さん:
 それが悪いってことじゃないんですけどね。受け入れられているわけですから。最先端のサウンドを作るクリエイターも日本にはいるんですが,それだとなかなかセールス的に厳しいんですよ。
 一方,アニメソングとかアイドルソング,もちろんゲーム音楽もそうだと思うんですけど,そういったJ-POPの流れとは別なんですよね。きっとミッシーには理解できないと思いますし。

4Gamer:
 J-POPの流れとは別で,独自進化をしているということですね。

前山田さん:
 いわゆるガラパゴス現象とでもいうんでしょうか。
 特定の層に向けて,どんどんとがったものが生まれていって,気付くと世界的に例のないものになってしまっています。
 だから普通の音楽リスナーにしてみると,「ださい」とか「J-POPは終わった」みたいな印象を持たれるかもしれないんですけど,ちょっと違うな,と。

4Gamer:
 別方向に進化したわけですからね。

前山田さん:
 ええ。確かに天秤にかけて,ださいと言われてしまうのはしょうがないかもしれないんですけど,独自の進化を遂げてきているわけです。だから「前山田の曲はださい」って言われても,僕は胸を張って「はい,そうですね」って言える自信があります。
 それって,アニオタやアイドルオタが「ださい」っ言われるのと同じだと思うんですよ。でも,アニオタだってアイドルオタだって,自分達のことをださいとは思っていないでしょう。
 格好いいとも思っていないかもしれないですけど,自分が好きなものに対して一生懸命になれているという自信はあると思うんですよね。

4Gamer:
 自分が好きなジャンルが凄いものなんだっていう,ある種のプライドは持っていますよね。

前山田さん:
 そういう人達に支えられて,作り手が切磋琢磨していく中,どんどん新しいものが生まれていって,ガラパゴス化していると思うんです。
 それで僕が嬉しく思うのは,そうやって進化してきたものが,最近は海外でも認められ始めていることなんです。アニメやゲームは以前からそういう傾向がありましたけど,アイドルまで海外で人気が出るようになってきました。
 こうやって日本の文化が世界で認められるのって,素晴らしいことだと思うんです。

4Gamer:
 アニメやゲームはともかく,日本のアイドルみたいなジャンルって,海外にはあんまりないんですよね。例えばアメリカなんかで,アメリカ人がアイドル視している人が歌っている曲って,普通に格好いい洋楽ですし。

前山田さん:
 そうなんですよね。普通にクラブでかかっているような。
 歌もダンスもそんなにうまいわけじゃなく,スタイルだってモデルに比べたらいいわけでもない女の子達が,グループで歌ったり踊ったりしているのって,アメリカにはまずないですよね。
 これも日本が誇れる独自の文化だと思うんですよ。

4Gamer:
 いわゆるサブカルではなく,オタクカルチャーみたいなものですよね。
 以前だとそこにどこか後ろめたさを感じながら愛してきた人も,今はけっこう堂々と公言できるようになってきた印象はあります。

前山田さん:
 背徳の美学というか,隠れキリシタンでいる喜びっていうのはありましたけどね(笑)。


ネットを介してダイレクトな反応があると,やりやすい


4Gamer:
 そういったオタクカルチャーを取り巻く環境の変化って,ネットの普及も大きな要因だと思うんです。
 従来は単体,あるいは小規模な仲間だけでマイノリティとして活動していた人達が連携しやすくなりましたし,その中の面白い人,声の大きい人のおかげでジャンルそのものに,ある種のメジャー感が生まれてきたような気がします。

画像集#012のサムネイル/“ヒャダイン”こと前山田健一さん,どんなゲーム音楽に影響を受けてきたんですか?
前山田さん:
 ニコニコ動画なんて,その最たる例ですよね。
 そうそう,遊助の「ミツバチ」がニコニコ動画で面白いことになっているのはご存じですか?

4Gamer:
 見ました見ました(気になる人は要検索)。

前山田さん:
 実は僕,あれを見てちょっと安心したんです。
 オタクカルチャーやニコニコ動画を好む人達が,マジョリティになってきたのかな? と思っていたんですけど,ヒット曲に対してああいう扱いをして,みんなで喜んでいるじゃないですか。あれ,マイノリティのやることですよね(笑)。

4Gamer:
 世間で流行しているとされているものに対するレジスタンス的な。

前山田さん:
 なんか,反骨心みたいなものを感じられると,凄く嬉しいんですよ。
 ……でもAKB48がここまで売れ,ニコニコ動画のユーザーもどんどん増えていますから,きっとオタクカルチャーってどんどんメジャーなものになっていくんでしょうね。

4Gamer:
 そのあたりの例でいうと,初音ミクなんかも凄い人気ですよね。

前山田さん:
 凄いですよねぇ……。みんな好きですもんね。
 ただ正直,僕はあんまり興味がないんです。好きとか嫌いとか以前に,よく分からないんですよ。それで乗り遅れた感じはあって,ちょっと悔しいんですけど。

4Gamer:
 いい曲はありますよね。

前山田さん:
 ええ,たくさんあります。
 でも使ってみると面倒くさいんですよね(笑)。自分で歌って声をいじればあっという間に済むようなことでも,30分以上かかりましたから。
 ただ,初音ミクのおかげでクリエイターがどんどん出て来られる土壌になったのは,いいことだと思っています。

4Gamer:
 前山田さんの場合,自分で歌うという武器をお持ちだからこそ,そう感じるのかもしれませんね。

前山田さん:
 そうかもしれませんね。
 自分で歌いたくないトラックメーカーにとって,凄く便利なツールだとは思いますもん。だってボーカル曲を作って,歌い手を探すとなると,これまではもの凄くハードルが高かったですし。
 それに初音ミクっていう,みんなが好きなボーカルに歌わせることで,受け入れられやすいというのもありますから。

4Gamer:
 ニコニコ動画で発表したものに対して,反応がすぐに返ってくるのが嬉しかったそうですが,そのときの喜びと,お仕事で作った曲に反応があったときの喜びは,どちらが大きいものですか?

前山田さん:
 あ,それは同じですね。どちらも手放しに喜べないところがありますから。
 というのも,ヒャダイン名義の活動は,元ネタとなったゲームの曲,世界観があってこそなんですよね。僕はそれをカバーしてるだけなんで,褒められたら嬉しいものの,100%僕の力というわけではありません。
 アーティストさんに曲を提供して,いい反応をいただくのにしても,やっぱり僕の力じゃなくてアーティストさんの力なんですよ。

4Gamer:
 では,Twitterなども含め,受け手からの反応がダイレクトに伝わってくる環境については,作り手としてどう感じていますか?

前山田さん:
 いい点,悪い点のどちらもあると思います。

4Gamer:
 具体的には?

前山田さん:
 モノを作るのって,独りよがりになりがちなんですよね。世に出す作品は,自分の中では80点以上の高得点であるはずなんです。20点のものを自発的に出す人なんていないでしょうから。
 で,それに対するいい反応,悪い反応がダイレクトに返されると,自分と世間の評価のコンセンサスがとれます。すると,自分のナルシシズムが溢れちゃっている部分が矯正されて,客観的になりますし,その結果,世の中に受け入れられやすい作品を作りやすくなるんじゃないかと思うんです。
 これは,ヒャダインとしての活動で痛感したことですね。再生数なりコメントなりで感想をいただくと,次はどういう方向に持って行くべきかというのも考えられますし。

4Gamer:
 では,悪い点にはどんなことがありますか?

前山田さん:
 距離が近すぎると,作り手側が受け手にこびを売りすぎてしまいかねない,受け手に対して戦々恐々としながら,顔色をうかがいながら作らなきゃいけないような状態に陥りがちなことですね。

4Gamer:
 う〜ん,なるほど……。
 かといって,自信を持って世に送り出した作品に批判が集まると,作り手の軸が揺らいでしまうこともあるでしょうし。

前山田さん:
 分かりますね。
 批判を恐れてしまうと,独自性がなくなって無難なものばかり作りたくなるものですから。

4Gamer:
 モノを作る以上,どうせなら褒められたいという気持ちは多くのクリエイターが持ちますよね。

前山田さん:
 批判されるとやっぱり落ち込みますからねぇ(笑)。結局のところ,クリエイターのタイプによって受け止め方が変わるっていうだけの話だとは思うんです。
 僕の場合,いろいろな意見を取り入れていきたいタイプなんですけど,もっとアーティスト肌の人の場合,すぐに反応が返ってくる状態ってしんどいでしょうね。

4Gamer:
 精神安定剤として活用できる人もいれば,不安の種にしか思えない人もいる……これは,クリエイターではない,一般のネットユーザーにもいえるかもしれませんね。

前山田さん:
 そうなんですよね。
 ただ運のいいことに,Twitterにしろ2ちゃんねるにしろ,mixiにしろ,自発的に見なきゃいいだけの話なんですよね。だから,自分で距離感さえコントロールできれば,そんなひどいことにはならないんじゃないかな,とは思います。


僕は僕のファン。だからみんなと一緒に楽しい気分に……


4Gamer:
 こうした,ある種の双方向コミュニケーションを,誰もが手軽に行えるようになると,クリエイターにとっての物作りのあり方も変わっていくんでしょうか。

画像集#010のサムネイル/“ヒャダイン”こと前山田健一さん,どんなゲーム音楽に影響を受けてきたんですか?
前山田さん:
 がんがん変わっていくでしょうね。
 その結果,いいものが生まれてくると思います。みんなが本当に欲しいもの,望んでいるものを作りやすくなりますから。
 自分の中で作り上げた世界観を叩きつけるタイプのクリエイターにとってはしんどいでしょうけど,僕みたいに下世話なものを作る場合は,双方向性があるのはありがたいです。

4Gamer:
 そういえばAKB48なんかも,ある種の双方向性を持っていましたよね。

前山田さん:
 ええ。劇場に行けば会えるというのは,双方向性ですよね。今にして思うと,Web 2.0的なものをアナログな劇場という場でやっていたわけで……やっぱり秋元 康先生は凄いです。
 当初,あんまり近かったらありがたみがないんじゃないか? とも思ったりしたんですけど,今の時代ならではの受け入れられ方をしていったんですよね。

4Gamer:
 双方向性だけじゃないですけど,従来のやり方が通用しなくなる局面が増えてきた時代ですよね。
 そこにうまく自分を当てはめていこう,というのが前山田さんのスタンスですか?

前山田さん:
 はい。大事なことだと思っています。
 流行を仕事にしている以上,そこに自分を当てはめざるを得ませんから。それは荷が重いことですし,プレッシャーを感じることもあります。世の中の流れに乗れないと,錆びていく一方だと思いますし……。
 まあ,僕がそれに乗り切れているかというと,そうでもないんですけど(笑)。常にアンテナを張り巡らせていないと,まずいとは思っています。

4Gamer:
 そんな前山田さんが,音楽の仕事を続けてるモチベーションは,どこにあるんですか?

前山田さん:
 とにかく作品を作るのが好きなんですよ。曲を作るのが楽しくて。
 それがリリースされて,楽しいと思う気分をいろいろな人が感じてくれたら,もっと嬉しいんですよね。
 この何年かでそういう経験をさせてもらって,そういう思いが強くなりました。

4Gamer:
 自分を喜ばせながら,みんなを喜ばせようということですね。

前山田さん:
 ええ。僕は僕のファンですから。同時にそれをみんなで楽しんで,一緒に楽しい気分になりましょう! というのが,モチベーションです。

4Gamer:
 そういえば,私立恵比寿中学の「えびぞりダイアモンド」は,聴いていると妙に楽しい気分になります。

前山田さん:
 ありがとうございます。僕もあれは,もの凄いお気に入りなんです。我ながら好き放題やった曲で,自分で聴いていてもかなり楽しいんですよ。次から次へ面白い要素が出てくるんで。
 声が裏返った女の子が出てきたと思ったら,アニメ声が出てきたり,蚊みたいな声が出てきたり,変なセリフが出てきたり(笑)。

4Gamer:
 前山田さんが関わっている楽曲全般に共通していることだと思うんですが,上からの目線で「これをやらせたら面白かろう」みたいな雰囲気は感じられないんですよね。一緒に楽しんでいるようで。

前山田さん:
 あの子達が一生懸命だから,こっちも一生懸命にやりつつ,楽しんでいるんですよね。
 ……ただ,ああいう楽しいことをこれから先,何回させていただけるんだろう? とは思っています。えび中ちゃんにしろ,ももクロちゃんにしろ,あんな吹っ切れたことばっかりやっているわけにはいかないと思いますし。

4Gamer:
 ちょっと寂しいですけど,確かにそうですよね……。

前山田さん:
 まあほかにも,「みつどもえ」というアニメの関係でランティスさんとお仕事をさせていただいているんですけど,あそこもけっこうぶっ飛んでいて(笑)。
 歌詞が「パイ」ばっかりの曲を作らせてもらったり(「ABCよりDEFっス!!」。前山田氏が作詞/作曲/編曲),ひたすら男を罵倒しているドSな曲を作らせてもらったり(「ありがたく思いなさいよねっ!!」。前山田氏は作詞で参加),その点ではクライアントさんにも恵まれていますね。

4Gamer:
 こういうのだけをやらせておけばいい,みたいに思われてしまう危惧はありませんか?

前山田さん:
 イロモノ限定ってことですよね(笑)。

4Gamer:
 真面目なものとイロモノと,その両輪がいいバランスで回る状態が,クリエイターとして理想的な状態ですか?

前山田さん:
 はい,それはもう。
 ちょうど今日も,ピアノを弾きながら「そろそろ真面目な曲を作らないとなぁ」って思ったところです。怒首領蜂 大復活は,かなり真面目にやらせていただいたんですけどね。
 ただ基本は,イロモノも真面目なものも,楽しみながら作って,皆さんにも楽しんでいただけたらなって思っています。

4Gamer:
 今後のご活躍に,リスナーの一人として期待しています。
 今日はありがとうございました。

前山田健一さん公式サイト


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