レビュー
「音」で選ぶ,ゲーマーのためのサウンドカード購入ガイド
Xonar,
PCI Express Sound Blaster X-Fi Titanium,
SE-200PCI LTD
» 2008年末に,ゲーム用途でサウンドカードを選ぶ。それがどこまで現実的な価値を持ち,どんな意味があるのかを,アーケードやゲーム機のサウンド制作に多数かかわってきたプロのサウンドデザイナー,榎本 涼氏が,「音」の側面から考察する。いわゆる「音質」に留まらず,むしろゲームにおいて重要な「音情報」を軸にPCサウンドを考えると,どんな結論が出てくるのか。すべてのPCゲーマーにとって必見だ。
いわゆるオンボードサウンドが一般化して久しい。「ゲームをプレイするに当たって,どのサウンドカードを選ぶべきか?」などという疑問は,そもそも持たなくなった人のほうが多いだろう。あるいは,これといった情報がないので,草の根の掲示板やWikiなどで仕入れた情報を基に,「“地雷”を避けつつ,とりあえずSound Blasterを」ということになった人も多いように思われる。
本稿は,そういった人達に向けた記事だ。サウンドカードは“PC標準”のオンボードサウンドと何がどう異なり,どんなメリットがあるのか。そして,Sound Blasterとそれ以外のサウンドカードは何が違うのか。今回は,2008年末において一般PCユーザー向け最新世代モデルといえる6枚のサウンドカード,
- Xonar DX
- Xonar D2X
- Xonar HDAV1.3 Deluxe(以下,Xonar HDAV)
- PCI Express Sound Blaster X-Fi Titanium Fatal1ty Champion Series(以下,X-Fi Ti Fatal1ty)
- PCI Express Sound Blaster X-Fi Titanium(以下,X-Fi Titanium)
- SE-200PCI LTD
を用意したので,これらを用いて,「音」という側面から,サウンドカードの存在理由について考えてみたい。
すでに過去の常識は通用しない
「ゲームサウンド」の質的変化
さて,テストに先立ち,PC用サウンドカードを取り巻く状況について,はっきりさせておきたいことが二つある。それは,
- Sound Blasterは,もはや「PCゲーム用サウンドカードの定番」ではない
- ドライバモデルの刷新によって,ドライバの完成度は,より重要になっている
点だ。
順に見ていこう。1.についてだが,4Gamerで何度かお伝えしてきているように,Windows Vistaでは,ゲーム内のサウンド再生に当たって,DSP(Digital Signal Processor,サウンドチップ)を用いたハードウェアアクセラレーションが廃止されている。
Xonar DX メーカー:ASUSTeK Computer 問い合わせ先:ユニティ(販売代理店) news@unitycorp.co.jp 実勢価格:1〜1万3000円(2008年12月26日現在) |
Xonar D2X メーカー:ASUSTeK Computer 問い合わせ先:ユニティ(販売代理店) news@unitycorp.co.jp 実勢価格:1万8000〜2万円(2008年12月26日現在) |
Xonar HDAV1.3 Deluxe メーカー:ASUSTeK Computer 問い合わせ先:ユニティ(販売代理店) news@unitycorp.co.jp 実勢価格:2万3000〜2万4000円(2008年12月26日現在) |
また,ゲームがマルチプラットフォームで展開されるに当たって,すべてのPCに組み込まれているわけでもないマイナーな規格をサポートすることの難しさもある。結果として,Windows Vistaの登場以降,ほとんどのゲームデベロッパは,Sound Blasterを前提としたゲームサウンドデザインを行わなくなってきている。
つまり,Creative独自規格である「EAX ADVANCED HD」と,それによってもたらされる「最大発音数」と「音場処理」のメリットは,最新世代の3Dゲームにおいて,もはや成立しているとは言い難いのだ。
長らく築かれてきた実績もあり,有力な選択肢であることは間違いないが,同時に「唯一無二の選択肢」でなくなっていることは,押さえておく必要があるだろう。
ところで,いま「最大発音数」という単語が出てきたが,これは「同時に何音処理できるか」を示す数である。今回のテストに先だって,Windows Vistaの登場以降に登場した3Dゲームタイトル――もちろん「すべて」ではないが――を試した限り,同時発音数が32音を極力超えないようにプログラムされていると見てよさそうである。
筆者はゲーム機やアーケードを中心として長らくサウンドデザインに携わってきたが,その立場から,「どんなハードウェアでもサポートできる最大公約数的な最大発音数(=32音)をうまく活用し,うまく聴かせている」と感じられたのが,「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)である。
例えば銃。連射すると「ダダダダダダダーン」と音が鳴るが,よく聞くと余韻の「ーン」は最後の発射音分しか聞こえていない。これは,32音のうち,1音分(※サウンドデザイナーはこれを「1スロット」と呼ぶ)を消費して,「ダーン」という銃の音をかぶせていく(=前の音を消しながら連続して鳴らしていく)のを繰り返しているためだ。こうすると,数秒の間にものすごい数の音が鳴ったように聞こえるが,現実には,貴重な同時発音数は1スロット分しか使っていないことになる。
一方,手榴弾の炸裂音などは「ドシュー」という長い音だから,仮に銃と同じ手法だと不自然になる。こういう長い音は,音が消えるまで,あるいはプログラム側で消すまで鳴り続けるようにしておくわけだ。こういった最適化によって,最大発音数はかなり自在にコントロールできる。
PCI Express Sound Blaster X-Fi Titanium Fatal1ty Champion Series メーカー:Creative Technology 問い合わせ先:クリエイティブメディア TEL 03-3256-5577 実勢価格:2万〜2万6000円(2008年12月26日現在) |
PCI Express Sound Blaster X-Fi Titanium メーカー:Creative Technology 問い合わせ先:クリエイティブメディア TEL 03-3256-5577 実勢価格:1万2000〜1万5000円(2008年12月26日現在) |
事実,後述するテストにおいて,今回試したすべてのサウンドカード(およびオンボードサウンドデバイス)で,とくに音数が増えたり減ったりした印象は受けていない。
さらに,EAX ADVANCED HDというと,対応ゲームタイトルでリッチなアンビエント(≒環境音)を作り出す機能も,Sound Blasterのブランド力を高める要素だったが,EAX ADVANCED HD非対応のタイトルでは,言うまでもなく「Environmental ○○」などといった機能は活用されない。
Creativeの推す「OpenAL」を利用すれば,OpenAL上でアンビエントを実現することも不可能ではないはずだが,筆者の周囲を見わたしてみても,2008年末におけるマルチプラットフォーム対応サウンドデザイン環境において,OpenALが使われている形跡はほとんどないのが実情だ。
2008年末の時点で,サウンドデザイナーがマルチチャネルサラウンドを語るとき考慮されるのは,
- 「360度どこから音が出ているか」を指定する,シンプルな定位情報とボリューム情報
- Xbox 360もしくはPLAYSTATION 3のライブラリ
のどちらか。前者はマルチプレイFPSなどで用いられるマルチチャネルの手法だが,現実問題として,MicrosoftがDirectX SDKにXbox 360と互換性のあるAPI「XAudio2」を組み込んだため,PC,ゲーム機を問わず,今後は後者に一本化される可能性がかなり高い。となると,Sound Blasterを選ぶ理由は,また一つ失われてしまうことになる。
続いて2.のドライバに関する部分だが,これは各論とも関連するので,簡単に述べておきたい。
今回試したオンボードサウンドチップは,DFI製の「Intel P45 Express」チップセット搭載マザーボード「LANParty JR P45-T2RS」に搭載されたRealtek Semiconductor(以下,Realtek)製のHigh Definition Audio CODECである「ALC885」だが,WDM再生(≒音楽やビデオなど,一般的なサウンド出力)ではそれほどひどくないのに,DirectSoundを使ったゲームの音がびっくりするほど低品質になってしまった。とくに,効果音が聞き分けにくくなったのが大きく,ゲーム内のサウンド情報収集に支障をきたすほどだったことは,明記しておく必要があるだろう。
つまり,ハードウェアアクセラレーションが行われなくなった最新世代のゲームサウンドにおいては,出力デバイスのハードウェア的な品質だけではなく,ドライバ周り――筆者はドライバの専門家ではないので深く突っ込まないが,おそらくクラスドライバ周りだろう――の品質が重要になっているというわけだ。
……以上が,2008年末の状況を押さえるうえで,確認しておきたい点だ。少々前置きが長くなったが,テストのセットアップに入っていきたい。
7製品を用意し,2chステレオ,
リアル&バーチャルサラウンドを検証
さて,冒頭で紹介したとおり,今回は6枚のサウンドカードを用意しているが,前出のDFI製マザーボードが搭載するオンボードサウンド機能で,Realtek製のHigh Definition Audio CODEC,ALC885を入れた7製品で検証を行う。
サウンドカードはいずれも製品版だが,念のためお断りしておくと,ASUSTeK Computer(以下,ASUS)製品×3とX-Fi Ti Fatal1tyはメーカーから借りたサンプル,X-Fi TitaniumとSE-200PCI LTDは店頭で購入したものとなる。7製品の主なスペックは表1を参照してほしい。
テストは,大きく分けて4種類。具体的には,以下のとおりとなる。
- ステレオ出力とマイク入力の周波数並びに位相特性
筆者のヘッドセットレビューに準拠したテストで特性を見る - WDM出力
「iTunes」を利用して,音楽再生品質をチェックし,同時に2Dゲームとの違いを確認する - 2Dゲームにおける,BGMと効果音の2chステレオ出力
いかにも“シューティングらしい”BGMと効果音の組み合わせがあり,かつリプレイ再生が可能なタイトルとして,「東方地霊殿〜Subterranean Animism.」(以下,東方地霊殿)を用意。難度「Lunatic」のリプレイを使って,3面ボス戦をチェックする - 3Dゲームにおける,5.1chサラウンド出力
リアルな5.1chサラウンド環境と,対応サウンドデバイスではバーチャルサラウンド出力検証。テストに用いたゲームタイトルは前出のCall of Duty 4で,リプレイは4Gamerのベンチマークレギュレーション6.0で用いているものと同じだが,開始から5分程度,屋外/室内を含むさまざまな局面の移り変わりをチェックする
WDM出力テストにiTunesを選んだのは,リファレンスシステムであるApple製「PowerMac G5」とDigidesign製「Pro Tools|HD 192 I/O」(以下,192 I/O)の組み合わせと比較するに当たって,アプリケーションを共通化すると,プラットフォームの違いをかなり吸収できることが事前検証で判明したためだ。なお,MacOS X側では,WindowsにおけるWDMに相当するドライバ「Core Audio」をiTunesに掴ませて再生を行っている。
このほか,テストに用いた機材や詳細なテスト環境は,専門的な内容が多いため,本稿の最後にまとめることにした。興味のある読者は目を通しておいてもらえれば幸いだ。
サウンドカードごとに特性をチェック
予想以上にバラけた得手不得手
というわけで,ここからが本番。メーカー名アルファベット順に,製品をチェックしていこう。
■Xonar DX
まず,WDM出力の周波数および位相特性を見てみるが,気になったのは超高域の落ち込み。20kHzあたりから急激に落ち込んでいる。それ以外はリファレンスとほぼ相似形で,位相も問題ないが,この特性を裏付けるように,WDMを用いた2.1chステレオ出力による音楽試聴でも,高域はやはり,やや落ち込んで聞こえる。高域のノイズが発生しないよう,物理的にシールドした結果,超高域も落ち込んでしまっている印象だ。
ちなみに,筆者がそういう推測に至ったのは理由がある。
実は,原稿執筆時点の最新β版ドライバ「6.12.8.1747」を用いると,HDDのシーク音が聞こえてしまうのだ。仮にソフトウェアレベルで対策しているなら,HDDのシーク音が聞こえるほどの変化が生じれば,いきおい,超高域の特性が変わる可能性も高いのだが,聞いた限り,違いは感じられなかった。そのため,ノイズ対策をハードウェアレベルで行っている可能性が高いとした次第である。
この「高域のなさと低域の薄さ」は,結果として音のスケールが一回り小さくなった,貧弱な印象を与えているが,実のところ一番気になるのは,(周波数特性計測では分からないのだが)低域のアタックが多少遅れて聞こえる点である。
今回,0.1ch(=サブウーファ)出力はアナログミキサー上で ルーティングしている。同時に,サウンドカード側でクロスオーバー周波数(≒サブウーファが担当する周波数帯域の上限値)を設定していないので,認識できるほどサブウーファ出力がディレイすることは原則的にありえない。にもかかわらず,ダンスミュージックでよくある,アタックの早いバスドラムは明らかに半拍遅れてしまう。これは正直,かなり気になった。
次に2Dゲームの代表として用意した東方地霊殿だが,WDM出力テストと同様の音質傾向で,上位機種や他社製品と比べてもとくに乖離した印象はない。これは,ゲームのBGMや効果音に,20kHz以上の帯域(の音)はほとんど含まれないためだ。通常,ゲームサウンドをデザインするときは,メモリを節約するため,サンプルレートを落とすのが普通で,音を聞く限り,東方地霊殿も例外ではない。低域については,ボス戦らしい楽曲ということもあって“鳴りっぱなし”であり,タイトなアタックが感じられないため,気にならないものと思われる。
Call of Duty 4の5.1chリアルサラウンド再生は基本的に良好。ただし,専用コントロールパネル「Xonar DX Audio Center」にある「FlexBass」タブから適切なスピーカー設定を行わないと,サブウーファに送られる信号レベルが小さくなるので注意が必要だ。これは,後述するXonar D2Xにも当てはまる。
上で述べたとおり,サンプルレートが落とされているため,高域の落ち込みはほとんど気にならない。
また,Dolby Virtual Speakerの特徴だが,部屋鳴りをシミュレートしているせいか,妙な残響感というか,モジュレーション(変調)がかかったような音になりやすい。筆者もそうなのだが,これが気になるプレイヤーは多いと思う。
ステレオヘッドフォンで仮想的なマルチチャネルサラウンドサウンドを実現するDolby Virtual Headphoneも同様で,ステレオ再生よりはかなりマシである。通常のステレオ再生だと,Call of Duty 4のような「音源が左右前後へ瞬時に移動していく」タイトルで,左右の音源移動が唐突過ぎ,耳が追いかけにくいのだが,これが幾分改善される。筆者は個人的に,バーチャルサラウンドはあまり好きではないのだが,FPSタイトルをヘッドフォンでプレイするときには必須だろう。
最後にマイク特性だが,あくまでWDMドライバ経由の参考情報として,周波数特性の波形を示しておきたい。今回試したすべての製品で,マイク入力の位相に問題はなかった。
さて,Xonar DXでは入力時も20kHz以上が急激に落ち込んでいる。また,125〜300Hz付近が多少強いようだ。実際にしゃべってみた印象だと,はっきり分かるレベルで音の遅れが発生する。また,ピーク近くになると音が歪みやすくなるので,大声を出すプレーヤーの場合,マイク入力レベルはやや下げ気味にしておくのがよさそうだ。
■Xonar D2X
ただし,カードは全体的にシールドされ,コネクタは対応した色のLEDで光るなど,見た目の高級感は増している。
WDMによる出力周波数&位相特性は下に示したとおり。基本的にはリファレンスと相似形だが,Xonar DXほどは近くない。理由は定かでないが,物理的なカバーによるシールドで各帯域をフィルタリングしてしまい,多少異なる周波数特性になっているのではないかと推測できる。
20kHz以上で急激に落ち込み,低域が半拍遅れて聞こえるのはXonar DXと同様。ただし,250Hz付近より下はXonar DXと比べてむしろリファレンスに近く,同時に超高域が落ちているせいか,Xonar DXと比べると低域のパワー感はかなり強く感じられる。
また,これはXonar DXと共通なのだが,多少,ダイナミクスに乏しい――小さい音をちゃんと小さく,大きい音をちゃんと大きく再生できず,とくに,小さい音の音量差が正しくないことがある――印象も受けた。
とはいえ,東方地霊殿の試聴印象は上位モデルや他社製品と変わらない。低域はXonar DXより多少なりともしっかり出ているうえ,BGMもきちんと聞こえる。BGM付きの2Dアクションタイトルをプレイするにおいて,Xonar DXとXonar D2Xの違いはせいぜい低域の再現度くらいと断じて差し支えないだろう。
Call of Duty 4のリアル5.1chサラウンド再生もXonar DXと同様にまずまず良好だ。高域が落ち込んでいる分だけ,華やかさには欠けるが,リアル5.1ch出力なら。現状でこれくらいの品質があれば,必要十分ではないかとも思う。
試しにXonarシリーズ3製品の専用コントロールパネルからDolby Virtual Speaker/Headphoneのバージョンを確認してみると,すべて同じ。Dolby Virtual系のバーチャルサラウンドにおける回り込みの聞こえ方はサウンド出力品質,とくに高域特性によってずいぶん変わるので,これが原因かもしれない。
WDM経由のマイク特性は下に示したとおり。3〜8kHzが多少乖離しているのと,20kHz以上の落ち込み以外は,ほぼ相似といっていいだろう。レイテンシと,マイク入力レベルが高めで大声でしゃべると歪みやすいのはXonar DXと同じだ。
■Xonar HDAV1.3 Deluxe
RCAインタフェースを採用することもあって,下位モデルとは周波数特性がどう変わってくるか気になるところだが,結論からいうと,20kHz以上で急激な落ち込みが見られるのは変わらず。また,2〜3kHzがやや荒れ気味で,125〜200Hzくらいが多少強く見えるが,そのほかはリファレンスに近い。
実際の試聴印象だが,今回テストしたXonarシリーズのうち,低域が遅れず,タイトな低域再生を楽しめるのはXonar HDAVだけだったことを述べておきたい。125Hz〜200Hzが気持ち持ち上がっているためか,低域は自然さを保ったまま強く再生され,いわゆる“ファットな(=太い)低音”が得られるのだ。超高域の落ち込みが試聴印象にもよくない影響はもたらしているものの,低音の好きな人や,サブウーファを持ったスピーカーシステムを利用している人に向いた音質傾向といえるだろう。
また,後述するSE-200PCI LTDほど極端ではないものの,RCAインタフェースを採用しているためか,オーディオ機器に近い質感の音を得られるのが印象的だ。音楽を聴いていて,まとまりのある心地よさがあったのは,今回テストしたなかではXonar HDAVとSE-200PCI LTDだけである。
ただ,東方地霊殿ではこの差が顕著に表れてこない。リサンプリングされているために効果音の高域特性は高くなく,低域も重低音というよりは低域〜中低域が中心だからだろう。生楽器を使用していないこともあって,それほど低域特性の高くない最近の打ち込み系BGMを前にすると,Xonar HDAVはその優位性を発揮できない印象だ。
また,Dolby Virtual Speakerや同Headphoneの効果も,下位モデルとは異なって聞こえる。リア成分が,本当にリアで定位しているように感じられるのだ。とくに,Dolby Virtual Speakerは今回試した製品中,最もしっかりと“リアに回った”感がある。2ch/2.1chスピーカーを利用してバーチャルサラウンドを楽しむなら,一押しといっていいだろう。
Dolby Virtual Headphoneも,後述するCMSS-3Dheadphoneと比べると一歩譲るものの,斜め後ろ150°くらいまでは感じ取れる。
マイク入力特性は下に示したとおりで,150Hzくらいに軽いピークがあるのと,20kHz以上の落ち込みが顕著。全体として,リファレンスとは似て非なる特性になっているが,実用上はクリアな印象を受けるのは面白い。
レイテンシは相変わらず発生するものの,大声でも下位モデルと比べると歪みにくかった。高価な分,マイクプリアンプのヘッドルームに余裕があるのかもしれない。いずれにせよ,マイク入力レベルに神経質になる必要はそれほどなさそうだ。
最後に一点,非常に気になったのは,スリープからの復帰時に,昔のサウンドカードのような,大きなクリップノイズが乗る点だ。Xonar DXやXonar D2Xでは発生しないので,おそらくドライバの問題だろう。早急な対応を期待したいところである。
■PCI Express Sound Blaster X-Fi Titanium Fatal1ty Champion Series
カードとX-Fi I/Oドライブはいずれもノイズ対策のシールド処理済み。出力コネクタはカード版Sound Blaster伝統のステレオミニ。カード側にもマイク入力コネクタは用意されている。なお,外部給電は必要ない。
出力時の周波数&位相特性計測結果は下に示したとおり。Xonarシリーズのような目立った落ち込みはないものの,180Hz付近が盛り上がり,700Hz以上が全体的に高めになっているなど,細かく見るとシールドの影響らしきものが見て取れよう。ただ,全体としてはかなりリファレンスに近い。
音楽再生を行ってみると,比較に利用した192 I/Oとよく似た印象を受ける。「店頭売価で50万円を超える192 I/Oと同じ」と聞くと驚くかもしれないが,低域と高域がやや強く,軽い“ドンシャリ”サウンドという音質傾向まで同じである。X-Fi Ti Fatal1tyのほうが高域は強めだが,あまりにも似ていることからするに,採用しているD/Aコンバータが同じなのかもしれない。
192 I/OのD/Aコンバータは非公開なので,筆者の想像になってしまうが,いずれにせよ,1音1音を聞き分けるのに適した,いわゆる「モニター」サウンドであるとは断言できる。Xonar HDAVやSE-200PCI LTDの「リスニングに適した」サウンドとは対極といえるだろう。
ただ,東方地霊殿では,前述したとおりの理由で,ほかのカードとの差が分かりにくい。強いていえば,1音1音を聞き分けやすいので,敵弾をカスったときの効果音などを,幾分捉えやすい印象は受けるが,その程度である。
5.1chリアルサラウンドでは音源移動が分かりやすい。サブウーファもしっかり鳴るので,クールな音ながらパワーも感じられる。ただしこれは,「EAXの効果」でも「X-Fi Xtreme Fidelityサウンドチップの実力」でもなく,「Call of Duty 4のサラウンドサウンド設計にしっかり追従できている」ということ以上でも以下でもない。この点は十分に注意してほしい。
続いて,Creative独自技術であるCMSS-3Dによるバーチャルサラウンドスピーカー機能「CMSS-3DVirtual」だが,比較的優秀といえる。Xonar HDAVのDolby Virtual Speakerには及ばないものの,割としっかり,斜め後ろ120°くらいまで音が回るのを確認できた。
Dolby Virtual Speakerほどには,不自然なエコーやモジュレーション(≒音と音の相互干渉)が発生しないのもポイントが高い。リアの定位感(≒どこから音が鳴っているか)よりも,音質(≒エコー感のなさ)を重視する人だと,こちらのほうが好みかもしれない。
しかもCMSS-3DVirtualと同様に,不自然なエコーやモジュレーションがないため,音質的にも有利。2008年末に3Dゲームをプレイするに当たって,最も優れたバーチャルサラウンドヘッドフォンプロセッサだと述べていいだろう。
しかし,気をつけたいこともある。それは,X-Fi I/Oボックスのヘッドフォン出力端子を利用すると,真後ろへの定位感が弱くなること。カード側のヘッドフォン出力と比べて,X-Fi I/Oボックスのそれは,品質が落ちるわけだ。もっといえば,X-Fi I/Oボックスに音質面での価値はない。
WDMドライバ使用時におけるマイク入力の周波数特性は下に示したとおり。出力特性と同じく,ディテールはリファレンスと異なるものの,気になるのは250〜400Hz付近くらいで,波形全体に破綻はない。また,Xonarシリーズのようなレイテンシも感じない。
マイク入力レベルは非常に高いので,かなり低めに設定しておくことをお勧めする。マイクにもよるが,それでもしっかりと小声を拾ってくれるだろう。
■X-Fi Titanium
周波数特性は下に示したとおり。リファレンスから多少乖離した波形なのは上位モデル譲りだが,物理的なシールドがないためか,180Hz付近や16kHz付近の盛り上がりは少なくて済んでいる。
音質傾向は基本的にX-Fi Ti Fatal1tyと同様。リスニング系ではなく,モニター系の音質傾向なのも,もちろん同じだ。X-Fi Ti Fatal1tyよりもドンシャリ感が緩和しているので,より192 I/Oに近い音質傾向になっているともいえる。
東方地霊殿,Call of Duty 4を使用したテストの傾向も,基本的にX-Fi Ti Fatal1tyと同じ。「低域と高域の山と谷がきつくない」のがときおり分かる程度の違いである。
CMSS-3Dをオンにしたバーチャルサラウンドスピーカー/ヘッドフォンの効果も,X-Fi Ti Fatal1tyと同じだ。「高域と低域が多少抑え気味なのになぜ?」と思うかもしれないが,とくに12kHz以上にある山の高さの違いは,CMSS-3Dによるバーチャルサラウンド処理が,(Dolby Virtual系とは異なり)超高域特性にそれほど依存しないアルゴリズムなのではないかと推測している。
最後はマイク入力端子の周波数特性。400Hz〜3kHzを中心に乖離が生じているが,全体としてはまずまずリファレンス似といえるレベルだ。X-Fi Ti Fatal1tyと比べると特性は多少異なるものの,マイク入力の高さや,レイテンシがほとんど気にならない点は,やはりX-Fi Ti Fatal1tyと同様である。
全体として,差額分だけダウングレードしているかというと,まったくそんなことはない。一見ただの廉価版だが,音質傾向的には,X-Fi Ti Fatal1tyよりも明らかにオススメだ。
問題があるとするなら,X-Fi Ti Fatal1tyとX-Fi Titanium両製品に共通して,オーディオコンソールが不安定な点だろう。とくに,ステレオとサラウンドの切り替えがうまくいかない状況に再三出くわしたのは閉口させられた。
■SE-200PCI LTD
特徴的なのは,カード全体ではなく,オンキヨー独自の技術を詰め込んだステレオアナログ段のみがシールドされていること。専用のD/Aコンバータを採用し,出力端子もオーディオ機器で標準的なRCAピン×2になっている。一応,ブレイクアウトケーブルによる7.1ch出力もサポートされているが,見るからにオマケといった佇まいである。
オーディオ機器メーカー製サウンドカードということで注目の周波数特性だが,まずRCAコネクタから見ていこう。当然というべきか,基本的にはリファレンスに相似だが完全にイコールではないという,ほかのサウンドカードと同様の結果になっている。Xonarのような高域の落ち込みは見られない。
一方,ステレオミニピンコネクタの特性は,RCAコネクタのそれと比べてリファレンスから乖離している。とくに125〜400Hz付近と1〜2kHz付近で顕著だ。
SE-200PCI LTDが持つRCAコネクタの出力特性 |
SE-200PCI LTDが持つミニピンコネクタの出力特性(※RCA出力時と同様に問題がないため,位相特性は省略した) |
RCA端子を使用したミュージック再生だが,Xonar HDAV以上に「オーディオ機器の音」。ファットで暖かみのある「リスニング系」の音だ。
Xonar HDAVとは異なり,20kHz以上もしっかり再生可能なためか,超高域もより伸びやか。残響もしっかり残って聞こえる。また,ファットな音質傾向のせいか,ボーカルがほかの製品よりも“前に出てくる”印象だ。
サブウーファ帯域も,「ドスン」と鳴る感じで,しっかりした低域を再生してくれる。低域のディレイはゼロでこそないものの,Xonar DXやXonar D2Xのような,露骨に気になるレベルではない。
よく聞くと,ダイナミックレンジが多少圧縮されており,その分だけ,通称「トランジェント」と呼ばれる,ドラムなどアタックの鋭い部分が多少丸まり,結果として全体がまとまって聞こえるようになる。いわゆる軽い「サチュレーションがかかった」状態だ。「リスニング系」で「オーディオ機器の音」なのは,これが理由だろう。仮に,SE-200PCI LTDの音が嫌いだという人がいれば,それは「SE-200PCI LTDの品質に問題がある」のではなく,「オンキヨーの音作りがその人とは相性がよくない」ということではないかと思われる。
さて,ゲームの音だが,まず東方地霊殿において目立った違いはない。これはほかの製品と同様だ。
Call of Duty 4のテストに当たっては,製品として致命的,しかし位置づけを考えれば納得できなくもない不具合を発見してしまった。今回用意したSE-200PCI LTDは秋葉原の某ショップで購入した製品版だが,ブレイクアウトケーブルのフロントL/R極性(=配線)が逆になっていたのである。交換には時間がかかることから,今回はフロントL/RのみRCA,残りはミニピンを利用することにしている。
話を戻そう。一見,3Dゲームが苦手そうなSE-200PCI LTDだが,最大発音数の制限による発音数不足のような印象はまったくなく,音が途切れたり,音が少なくなったりといったトラブルはない。また,「オーディオ機器メーカーの音」がするリアル5.1chサウンドは,高域特性に優れ,Xonar HDAVと同様,ぱっと聞いてすぐに音の良さを感じられるレベルだ。
ただし,銃を連射するタイミングで,多少モジュレーションがかかったように聞こえる。音の分離が非常によすぎて,音源移動が極端に感じられることもあった。高域特性が原因なのか,ドライバの実装方法によるものかは分からないが,このあたりはXonar HDAVと比べると一,二歩譲る。
なお,搭載するサウンドチップ「Envy24-HT」はQSound Labs製のサウンド技術「QSound」に対応し,バーチャルサラウンドを提供できるようになっているが,SE-200PCI LTD(などのオンキヨー製サウンドカード)では,Windows XP環境でないと利用できない。今回は32bit版Windows Vistaでテストしているため,QSoundのテストを行っていないことをお断りしておきたい。
最後にマイク入力特性は下に示したとおりで,500Hz〜2kHz付近がかなり乖離しているものの,全体としてはリファレンスと比べて,そう大きくは外れていない。特別なことを何もやっていないからか,レイテンシも感じない。大声でもあまり歪まないようで,ヘッドフォンプリアンプもそれなりの品質がありそうだ。マイク入力品質に,ほかと比べて極端に見劣りするような部分はないといっていいだろう。
■ALC885
High Definition Audioに対しては,Dolby Laboratoriesが「Home Theater」や「Master Audio」といったロゴプログラムを展開しているが,これを採用するかどうかはOEMとなるマザーボードベンダーの裁量に任される。そして,今回利用したDFI製マザーボードではDolbyの認証を受けていないため,バーチャルサラウンド関連の機能は利用不可だ。
WDM出力の周波数特性は下に示したとおりで,180Hzくらいが軽く山になっていること,300〜500Hzの帯域が大きくリファレンスから乖離していること,そして7kHz付近の谷が大きいことを除けば,全体的にまずまずといった印象である。
では,音楽再生を行ってみるとどうかだが,中高域の情報が少なく感じられる。ボーカルが奥に引っ込んで聞こえ,全体の広がり感を多少欠いている印象だ。
これは何かというと,(波形から想像しづらいのだが)表1で示した,S/N比の低さが影響しているのだろう。これによって,Hi-Fi感に乏しい,“荒れた音”になっているものと思われる。
そして,最も衝撃的なのが,冒頭の話とも関連するゲームサウンドを再生する,DirectSound周りと思われる部分の実装だ。
東方地霊殿を聞いてみると,効果音がほかの6製品とは別モノに聞こえる。「ビシュン」という音が「ビュン」に変わって聞こえるくらい,と述べれば伝わるだろうか? BGMも,メロディは聞こえるものの,リズムセクションが前に出てこないため,全体的にかなり貧弱な印象になってしまう。
ここまでも繰り返してきたとおり,ゲームサウンドということもあって,東方地霊殿の音源は音響的に高品質というわけではない。そのため,一定水準を保ったサウンドカードで聞くと違いは出てこないが,ALC885だけは一聴して「あ,音が違う」と感じられる。この差は大きい。
また,リアル5.1chサラウンド出力時に致命的なのは,後ろで「コロン」と転がった手榴弾の音などがほとんど分からない点。よく聞くと鳴ってはいるのだが,音質が変わってしまっているせいか,気づけないことがあるのだ。
百歩譲って音質は我慢するとしても,残念ながら「音を情報として収集する」ことがゲーム性の一つであるFPSのようなタイトルには,まったく向かないと言わざるを得ない。
マイク入力は,WDMで見る限り,高域が急激に落ち込むという,Xonarシリーズと似た印象。ただ,実際に音声入力する限り,特別に悪いわけではない。確かに高域は落ちて聞こえるが,大声で歪みやすいとか,レイテンシが激しいといった問題もない。
もっとも,あくまでこれはWDMでの結果だ。今回は時間の都合で,DirectSound入力したものを実際にゲーム上で確認するところまで踏み込んでいないが,再生品質を考えると,何があっても不思議ではないことを押さえておきたい。……もちろん“何もない”可能性もあるが。
「これを買えばOK」という製品はない
用途別に選ぶのが正しい買い方
結論を述べよう。今回のテストでは「これさえ買っておけば大丈夫」という製品は見当たらなかった。むしろプレイヤーのゲーム環境に応じて,適切なものを選択するべき,といった結果になっている。
本稿では,想定されるさまざまなゲーム環境のなかから,
- ステレオスピーカーシステムで,ステレオ再生のみサポートしたゲームをプレイ
- ステレオスピーカーシステムで,マルチチャネル再生をサポートしたゲームをプレイ
- ヘッドフォンで,マルチチャネル再生をサポートしたゲームをプレイ
- マルチチャンネルスピーカーシステムで,マルチチャネル再生をサポートしているゲームをプレイ
- ゲームもプレイするが,どちらかというとPCでは音楽を楽しむケースのほうが多い
という,大多数と思われる人達を想定しており,Xonar HDAVのデジタル出力検証記事のような,ある意味で“尖った”利用方法には踏み込んでいない。この点は注意してほしいが,ざっくりとオススメの製品をまとめるならば,
- リアルマルチチャネルサラウンドやバーチャルスピーカーを重視するならXonar HDAV
- モニター系のサウンドやバーチャルヘッドフォンに重きを置くならX-Fi Ti Fatal1tyかX-Fi Titaniumで,実勢価格を考えると後者
- 音楽再生品質重視で,ゲームは2chステレオのタイトルが中心ならSE-200PCI LTD
といったところになるだろうか。各製品の向き不向きについては,表2にまとめてみたので,参考にしてしてもらえれば幸いだ。
もう少し突っ込んで述べてみると,まずXonarシリーズの台頭具合には目を見張るものがある。細かい点で気になる部分はまだまだ少なくないが,それでも最新作となるXonar HDAVが持つ,アナログ出力やドライバ周りの完成度は,「ゲーム用サウンドカード市場に一石を投じる」以上のインパクトを持っていると言っていい。
続いて,パフォーマンスレビューではまったくいいところのなかったPCI Express Sound Blaster X-Fi Titanium。Microsoftの方針転換によって,“単なる”個性豊かなサウンドカードになりつつあるSound Blasterだが,しかしその個性のうち,いまや大部分を受け持っているCMSS-3D,とくにCMSS-3DHeadphoneの品質は,間違いなく素晴らしい。ヘッドフォンでマルチプレイFPSをプレイするようなユーザーには一押しだ。
あとは,もう少し危機感を持って,ドライバの完成度向上に努めてくれるといいのだが。
一方,あくまでも我が道をいくオンキヨーのSE-200PCI LTDが,ゲームでも十分“使える”と分かったのは収穫だった。アナログ出力を前提とした音楽鑑賞用カードとして十分利用に堪え,かつ,1.や4.のプレイ環境にも対応できるわけで,バーチャルサラウンドを考慮しないのであれば,有力な選択肢になるだろう。
最後にHigh Definition Audio CODEC代表として用いたALC885だが,現時点では(現時点でも?)ゲームのサウンド処理を任せられるだけの信頼性を獲得できていない。時間の都合でサンプル(=マザーボード)が少なくなってしまったのが悔やまれるが,WDMとDirectSound(など)で音が変わるというのは,PCサウンドの基本機能(=WDM)を提供するという,オンボードサウンドそもそもの立ち位置を踏まえるに,大いにありえる話だ。
もちろん,オンボードサウンド機能を提供するHigh Definition Audio CODECはほかにも種類あるので,すべてが今回のALC885と同じ特性になる保証はないが,一般市場向けマザーボードでの採用例が最も多いと思われるRealtek製品が“これ”では,ゲームとの互換性は推して知るべしであろう。
現在,オンボードサウンドで満足しているという人は,ぜひ,今回取り上げたカードのどれかを試してみてほしい。どれを買っても,後悔することだけはないはずだ。
●テスト環境および手順
テストに用いたシステムは表3のとおり。ごく一般的なミニタワーPCケース「ALTIUM VR1000」に組み込んだ状態になる。
サウンドデバイスのドライババージョンは下に示したとおりで,いずれも,テストを開始した2008年12月8日時点の最新版である。ただし,β版は(本文でも一部触れたように)予期しない問題が発生するなど,テストに差し障りがあったため,用いないことにしている。
- Xonar DX:V6.12.8.17.38
- Xonar D2X:6.12.8.1738-RC01
- Xonar HDAV:6.12.8.1744_RC01
- X-Fi Ti Fatal1ty:2.17.0004
- X-Fi Titanium:2.17.0004
- SE-200PCI LTD:5.20a
- ALC885:R2.10
サウンドカードやHigh Definition Audio CODECの周波数および位相特性計測には,Sony Media Software製の波形編集ソフト「Sound Forge」(Version 9.0e)から,スイープ波形の再生およびマイク入力の録音を行った。音楽再生に用いたプレイヤーソフトは,本文でも触れているとおり,「iTunes」(Version 8.0.2)となる。
出力テストに当たっての録音用,そしてマイク入力テストに当たっての再生用システムとしては,PowerMac G5にインストールされた「Pro Tools|HD」を利用。再生に当たっては,Pro Tools|HDの入出力インタフェースである「Pro Tools|HD 192 I/O」からLOUD TechnologiesのMackieブランド製12chミキサー「Onyx 1220」にまとめてから,スピーカーユニットに対して出力を行う。一方,録音時は,表3に示したテスト用システムからの出力をRME製マイクプリアンプ「QuadMic」に入力した後,Pro Tools|HD 192 I/Oへ渡している。実際にマイクで音声入力を行うときは,シグマA・P・Oシステム販売のDHARMAPOINTブランド製ゲーマー向けヘッドセット「DHARMA TACTICAL HEADSET」(型番:DRTCHD01BK)を使うことにした。
出力周波数特性計測の流れ |
入力周波数特性計測の流れ |
波形表示に用いたのは,Waves Audio製のソフトウェアオーディオアナライザ「PAZ Psychoacoustic Analyzer」(以下,PAZ)。下に示したのがリファレンス波形で,二つあるペインのうち,上段が周波数特性,下段が位相特性を示したものである。
上段は横軸が周波数(=音の高さ),縦軸がオーディオレベル(=音の大きさ)をそれぞれ示しており,ざっくりいえば,周波数ごとの音の大きさを見ることができる。サウンドカードの入出力波形がこのリファレンスに近ければ近いほど,リファレンスに忠実なオーディオ特性を持っていると言えるため,今回は,リファレンス特性グラフの色を黄緑に変更したうえで,テストした特性グラフと重ねて評価することにしている。
下段は,グラフ株にある半円を中心に,グラフがまっすぐ真上に伸びていれば正常で,そうでなければ左右ステレオの音がズレている(=位相差)があると判断できる。もっとも,今回検証した7製品はいずれも出力の位相特性に問題がなく,また入力テストはマイクを想定したモノラルで行っており,位相ズレが起こる可能性が基本的にないため,本文ではとくに触れていない。
なお,用いたスピーカーシステムは,フロントL/RとセンターがDynaudio Acoustics製「BM 6A」,リアL/RがGenelec製「1029A」,そしてサブウーファがDynaudio Acoustics製「BM 10S」。バーチャルヘッドフォンのテストに用いたヘッドフォンは,AKG製の「K240 Studio」だ。
ステレオ再生の場合,サウンドカード側でクロスオーバー周波数を設定せず,Onyx 1220のsend機能を使用してBM 6A+BM 10Sの2.1スピーカー構成へとアナログ2.1ch出力をし,「サウンドデバイスからステレオ再生を行った場合の再生品質」を見る。一方,リアル5.1chサラウンド出力時は,「0.1ch」まで評価するため,サウンドカード側のクロスオーバー周波数設定に任せる。XonarとPCI Express Sound Blaster X-Fiは,手動設定が行えるため,BM 6Aの特性とBM 10Sの動作設定に合わせて60Hzにした。
スピーカーシステムによるステレオ再生試聴環境の模式図 |
5.1chリアルサラウンド再生試聴環境の模式図 |
なお,音楽再生のテストに用いた楽曲は下記のとおりである。
- The Boys Town Gang「Can't Take My Eyes off You」(Single Version)
- Bjork「Hyper-ballad」
- DJ-Sammy「Why」
- Earth, Wind & Fire「Fantasy」
- Michael Hedges「Aerial Boundaries」
- Linkin Park「One Step Closer」
- Anne-Sophie Mutter, James Levine; Vienna Philharmonic Orchestra「Sarasate, Zigeunerweisen, Op20」
- Carlos Kleiber, Vienna Philharmonic Orchestra「Beethoven, Symphony #5 In C Minor, Op 67,“Fate”-1, Allegro Con-Brio」
- Mstislav Rostropovich「Bach, Cello Suite $1, in G, BWV 1007, 1-Prelude」
- Sarah Vaughan「I Didn't Know What Time It Was」
- 関連タイトル:
Xonar
- 関連タイトル:
Sound Blaster
- 関連タイトル:
WAVIO
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