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「SHORT PEACE」第5の作品,「月極蘭子のいちばん長い日」について,須田剛一氏が激白?(「キネマ51」第9回)
グラスホッパー・マニファクチュアの須田剛一氏が支配人を務める架空の映画館,「キネマ51」。この劇場では,新作映画を中心としたさまざまな映像作品が上映される。
第9回の上映作品は前回上映作品「シュガー・ラッシュ」とは別の意味で,ゲームとの親和性が非常に高い映画,「SHORT PEACE」を取り上げる。
というのも本作は,「九十九」(森田修平監督),「火要鎮」(大友克洋監督),「GAMBO」(安藤裕章監督),「武器よさらば」(カトキハジメ監督)という4作品と,オープニング(森本晃司監督)からなるオムニバス作品なのだが,これらに続く作品として,ゲームが開発中であり,それに支配人が関わっていることが明らかになったのだ(関連記事)。
そんなこんなで今回は,いつもとはちょっと異なる趣向でお届けしよう。なお本稿の最後には,森田監督と安藤監督からのコメントも掲載するので,映画版SHORT PEACEに興味のある方にも,ぜひ目を通していただきたい。
映画「SHORT PEACE」公式サイト
須田:
部長,まずは10周年おめでとうございます。
関根:
あ,ありがとうございます。
須田:
本業はここの部長ですけど,バイトしている飲み屋がね,10周年を迎えたということで。
関根:
そうそう,バイト先がね。いやいや,嬉しいです。グラスホッパーは?
須田:
15年ですね。
関根:
それはそれは,おめでとうございます。
須田:
いやー,いろいろありました!
で,話は変わるんですが。今回は「SHORT PEACE」を上映しようかなと。実はちょっと深い関わりがありまして。
関根:
いつもながら唐突ですね。大友克洋さんの新作を含む短編アニメーションオムニバス映画に,支配人がどう関わっているんでしょう?
須田:
ンムフフフ。それはですねぇ!
大友克洋さんと短編
関根:
大友さんといえば,短編というイメージがありますよね。
須田:
え,そ,そうですね。もう本題ですね。
関根:
大友さんは,アニメーションの世界でも「ロボットカーニバル」「迷宮物語」「MEMORIES」といった短編オムニバス作品[1]に関わっていらっしゃいました。
須田:
短編との相性が良いといいますか,大友さんの漫画も,短編が多いですよね。
4Gamer:
確かに「AKIRA」を除くと,長編のイメージはあまりないですよね。
須田:
「童夢」もありますよ。
4Gamer:
あ,そうだ。でも単行本1冊だから,中編とでもいいましょうか。
須田:
そうですね。まあ,だからこそ,短編アニメーションが馴染みやすいというか。
で,今回のSHORT PEACEは,オープニングアニメーションと四つの短編を一度に楽しめる作品なんです。
関根:
簡単に説明しましょうか。
須田:
はい。まず,オープニングアニメーションは,「MEMORIES -彼女の想いで-MAGNETIC ROSE」やKEN ISHII「EXTRA」のPV[2]などで名を馳せた森本晃司監督作。
関根:
SHORT PEACEの世界観を伝える素晴らしい演出でしたね。
4Gamer:
登場する少女の声が,はるかぜちゃん(春名風花)[3]で。
須田:
はるかぜちゃんだったんだ。あれは良かったですねぇ。
関根:
続いて本編。「FREEDOM」の森田修平監督作,「九十九」。ボロボロになった傘や着物に魂が宿って現われた妖怪と,旅人の物語。
須田:
畳の部屋で繰り広げられる幻想世界のCGの美しさに,目を奪われましたよ。
関根:
登場する妖怪のコンセプトデザインを岸 啓介さん[4]が担当されているんですが,素晴らしい造形でしたよね。
須田:
いやあ,マテリアルが美しかった。
関根:
そして,次が,大友さん脚本・監督の「火要鎮」。「ひのようじん」と読むんですね。これについてはちょっと後に回すとして,次が安藤裕章監督の「GAMBO」。
戦国時代末期,ある村に落下してきた鬼らしき化け物と,村の少女と心を通じ合わせた白い熊の闘いを中心に描いた作品ですね。
4Gamer:
決め技がベアハッグ[5]っていう。
須田:
そうです,熊だけに。とんちがきいてますね。
4Gamer:
あの頃の小橋建太を彷彿とさせるスリーパー・スープレックスなんかも飛び出していました。
須田:
説得力のあるスープレックスでしたね。安藤さん,「鉄コン筋クリート」の演出をされている方なんですね。いや,ほんと,プロレス愛が感じられました。
4Gamer:
この時代に格闘アクションっぽい動きを描こうとすると,総合格闘技っぽくなりそうなところで,きっちりプロレスの動きになっていたのが嬉しかったですね。
須田:
そうそうそうそう,もう完全に。ハーリー・レイスのような重いエルボーなんかもあって。久々の本格プロレスアニメですよ!
4Gamer:
異形のものが激闘を繰り広げる様は,ある種,プロレスの原点に近いものがあるような気すらしますね。
関根:
原案脚本とクリエイティブディレクターを担当した石井克人さんが,長年温めていた企画らしいですよ。キャラ原案は,貞本義行さんだし,かなり豪華な作品[6]です。
須田:
そして次は,大友さん原作の『武器よさらば』[7]。
関根:
最初に出てきたメカが,いきなりカトキハジメデザインでした。
須田:
そうでしたね。
4Gamer:
ところどころの映像や視点が非常にゲームっぽかったですね。
須田:
確かに。これでこのままFPSを作れそうですよ。
関根:
全編を通じてカトキハジメ監督の原作への思いが溢れる作品でした。
須田:
そして,先程もちょっと触れた,大友さんの火要鎮。
関根:江戸時代のお嬢様と,火消しの男の淡い恋物語。「明暦の大火」や「八百屋お七の大火」などを題材にした作品です。
須田:
最初に絵巻が出てきて,それをめくっていく雰囲気でお話が進んでいくのが,なんとも良い感じでした。
関根:
絵巻物に描かれているような画風で全体が構成されていたのが印象的ですね。俯瞰の絵が基本的にクォータービューっていうと伝わりますかね。
須田:
「ドラゴンクエスト」風というか,いや,違うなぁ,「ランドストーカー」風ですね。あれよかったですよ。絵巻物とランドストーカーといえば,昔からこの構図ですよね。
4Gamer:
最近のブラウザゲームにも多い構図ですから,ゲームファンなら違和感なく楽しめそうです。
須田:
なるほどー,TeTさん,さすがの表現力ですね。
関根:
伝わってくれれば良いのですが……。
なんと「SHORT PEACE」に続編が?
須田:
実はこのSHORT PEACE,オープニングの森本さんと4作品のオムニバス作品なんですが,なんと5作品目もあるんです。
関根:
おっ,なんかさらっとすごく大事な話をしていませんか?
須田:
しちゃってますよー。しかもそれはゲームなんです。
4Gamer:
ゲ,ゲームですと?
関根:
そ,そうなんですか!
須田:
だからこそ,ここで取り上げなくてはと。しかも,なんと……。
関根:
それは当然,クォータービューなんですよね?
クォータービューのシミュレーションだと思ってしまうのも,理解はできます。
関根:
じゃあ,選択肢が出てきて,選ぶのを間違えると即死しちゃうような?
須田:
それ,ファミコン版「AKIRA」でしょ。違います。横スクロールなんです。
さらに言うと,SHORT PEACEって全作品共通のテーマが“日本”なんですよね。ということで,ゲームも日本をテーマにしていまして,実は……。
関根:
あっ,いろんな県に行って位置登録をすると,ご当地アイテムが手に入ったりするようなやつじゃないですか?
須田:
横スクロールっていってるでしょ!
4Gamer:
あ,四国巡礼を逆に回ると死んだ人が蘇る[8]ゲームですか!
須田:
それは坂東眞砂子。舞台は新宿で,完全オリジナル作品です。しかも……。
4Gamer:
日本の都市部を舞台にした横スクロールアクションですか。そういうゲームやったことありますね。動物が出てくるやつ。
須田:
思ったよりちゃんと近付いちゃってるけど。
関根:
分かった! 途中でスケボーに乗れたり,バナナ取ったり,名人が出てきたりするやつですね。
須田:
無理に離さなくてもいいー!
関根:
というか,支配人はやたらそのゲームに詳しい様子ですけど,なんでそんなに情報を持っているんですか?
須田:
よくぞ聞いてくださいました!
それはですね,なんと,僕が関わっているからなんですよ。
関根:
……まあ,気付いてましたけど。どこまで支配人が我慢できるかなって。
須田:
部長はドSですね,ほんと。
関根:
いやいや,そんな,照れるじゃないですか。
須田:
褒めてないですから。
で,やっと言えたところで,このゲームのこともっと詳しく知りたい方は,このリンクをたどってください,と。
関根:
もう,すっかり同じお馴染みになりました「このリンクに」。支配人が,「このリンクに」って言うと,TeTさんの作業が一つ増えるんですから,あまり乱発しないでくださいね。
須田:
まあ,でもね,4Gamerさんに掲載していただいた記事なので,ぜひ皆さんに読んでもらいたいですからね。
関根:
確かに。支配人,2億回に1回くらい,良いことおっしゃいますよね。
須田:
そのセリフ,そっくりそのままお返しします。
ゲームの内容は?
関根:
ところでSHORT PEACEって,すべてを大友さんが監修しているというわけではないんですよね。
須田:
そうですね。ただ,大友さんのカラーで統一しようという雰囲気はありますよね。あとは,ゆかりのあるいろんな方々に参加していただくというのも,コンセプトです。
関根:
なるほど。じゃあ,このゲームも,参加ゲストがけっこういらっしゃるんですか?
須田:
はい。最近のグラスホッパー作品で大活躍のコザキユースケさんにメインのキャラクターデザインを担当してもらっているんですが,スクウェア・エニックスの吉田明彦さんをはじめ,豪華なゲストデザイナー達にも参加していただきました。
関根:
アニメーションパートもあるんですか?
須田:
もちろんです。今回は,CGアニメを得意とする,神風動画さん[9]とご一緒させていただきました。アニメーションの方々と,がっつり組み合って一緒に作ることが出来たっていうのが,面白い経験でしたね。
4Gamer:
今までのゲームのイベントシーンみたいなアニメーションの使われ方とは,違うものになるんですか?
須田:
はい,違いますね。神風動画さんって面白いスタイルのアニメーションタッチをいっぱい持っているんですよ。
4Gamer:
では,「解放少女」なんかとも,また違ったアニメーション世界を描こうとしているということですか?
須田:
ええ。かなり違うものになっています。
とにかく,この映像も必見ですよ。映画のSHORT PEACEに負けないぐらい,素晴らしい作品に仕上がっていると思います。もしかしたら,アニメーション部分の尺は,劇場版のどの作品よりも長いかもしれません。
関根:
では,その作品はどんなタイトルなんでしょう?
須田:
「月極蘭子のいちばん長い日」です。世界中の立体駐車場をすべて管理している月極という財閥のお嬢様,女子高生の月極蘭子が主人公なんです。
関根:
月極財閥ですか? 立体駐車場を?
須田:
そうそう。駐車場ってたくさんあるじゃないですか。その駐車場はすべて月極家が所有しているんですよ。……って,誰かから聞きました。
関根:
ああ,はいはい,そうなんですね,見たことありますよ,月極駐車場。あれは月極財閥が持っているんですね。
4Gamer:
確かにすごい組織ですよね。
須田:
しかも駐車場の地下には大動脈があってですね,実は全部がつながっていて,あらゆるところに行けちゃうんです。で,月極蘭子はそこを通って世界中を移動し,悪いヤツをスナイピングするんです。
4Gamer:
という横スクロールなんですね。
須田:
ええ。横スクロールといえば「TOKYO JUNGLE」ということで,日本の横スクロール界の新進気鋭,クリスピーズさんともコラボレーションさせていただいています。
4Gamer:
あ,ボケたつもりが,本当に近いところまできてたんですね,さっき。
須田:
そうなんですよ,実は。
関根:
で,シナリオは……?
須田:
僕が書きました。
関根:
やっぱりそうですよね。
須田:
何か問題でも?
関根:
安定の須田ワールド全開ゲームだなと。いや,でも,SHORT PEACEの5作品目,楽しみです。
話,戻って
須田:
あらためて映画の話なんですけど,どの作品も素晴らしいんですが,やはり大友さんの火要鎮のことは,見終わってからもずっと考えちゃいますね。
印象的でしたか。
須田:
江戸時代の火消し達の衣装や刺青であったり,時代全般の風俗であったりって,実写よりアニメーションのほうが再現しやすいものなんじゃないかな,とか。
関根:
なるほど。
須田:
この当時の火消しの人たちって,花形だったんですよね,きっと。みんな刺青してて,ちょっとワルで,でも,男が憧れる仕事だったのかなと。
関根:
僕らの火消しのイメージっていうと,どうしてもサブちゃん[10]になっちゃうわけですけど。
須田:
そうですよね。まあでも,カッコイイですよね。火消しって,火の手が回らないようにするために水を撒くのではなくて,建物を壊す。こういった火の消し方も短編作品の中で,じつにスマートに描写されていて。歴史的な,なんというか,文化をきちんと伝えていますよね。
ある意味、アニメーションが記録映画の代わりにすらなるっていうのを,今回の大友さんの作品を観て,つくづく感じました。
関根:
しかも,それが,きちんとエンターテイメント作品になっているというのが素晴らしいですね。
須田:
そうそうそうそう。
4Gamer:
着物の柄なんか,実写よりも美しいんじゃないかと思ってしまうほどでした。
須田:
解像度の高いペインティングだからこその輝きがありましたね。
4Gamer:
それと,炎の動きも好きでした。
須田:
いやぁ,美しかったですね。僕らの爆発といえば,ガンダムでよく観るピンク系の燃料爆発炎なんですけど,それとは違う黒煙を含んだ恐ろしい火事の爆発の美でしたね。とにかく画面に映るものがすべて美しかった。
関根:
見どころ満載ですよね。
須田:
これを観ると,ランドストーカーみたいなをゲーム作りたいなって思いますよね。
関根:
そっちですか。
須田:
月極蘭子のいちばん長い日に,クォータービューの要素が入れられなかったのが,つくづく残念です。
関根:
とはいえ,ストーリーを聞いた感じから察するに,支配人色はかなり出しているんじゃないですか?
須田:
バンダイナムコゲームスさんからは,好きにやっていいというお話をいただいたので,かなり自由に楽しく,ね。
関根:
なるほど,良い意味で,好き勝手に作ったということですね。
須田:
そうですね,良い意味で,好き勝手にやらせていただきました。
関根:
なるほど,じゃあ良い意味で,だいぶ悪ふざけしてるともいえるような。
須田:
そうですね,良い意味で,やってます。
4Gamer:
それ,良い意味で,問題あるんじゃないですか?
須田:
いえ,良い意味で,大丈夫です!
関根:
それ,まんま良い意味ですから!
須田:
じゃ,良い意味で,また次回〜。
安藤裕章監督と森田修平監督に
自作の見どころとゲーム版に期待することを聞いた
●「GAMBO」安藤裕章監督
石井克人さんの作品の根底には,暴力を描くというものがありますが,ただ暴力そのままを描くのではなく,エンターテイメントとしてお客さんに提供する優しさもあります。そして今回の作品は,見に来たお客さんをいやな気持ちで帰らせないという意味の優しさも含めて,プロレスっぽいものです。
少女が生贄に出されてしまうという,ちょっと嫌な世界のお話ですが,鬼には鬼で自分が生き延びられないのなら子孫を残したいという希望があります。そしてGAMBOという熊は,生贄に出されてしまう少女が抱く,破壊願望の象徴です。そうした背景を想像しながら見ていただけると嬉しいですね。
「SHORT PEACE」の各作品は日本を舞台にしている以外,バラバラでまとまりがありませんが,まとまりのないことが日本的でもあると思います。なので,「月極蘭子のいちばん長い日」も自由な作品になることを期待しています。
●「九十九」森田修平監督
今回の作品は,付喪神を描いたものですが,リサイクルによって豊かさを得ていた江戸時代を描いている側面もあります。
映像としては,質感や立体感を意識しています。それらが「コトッ」と音を立てたり,「カチカチ」と鳴るときに,実在感が出るようなサウンドデザインを,笠松広司さんが見事に形にしてくれました。音楽のような効果音,効果音のような音楽のどちらともない,絶妙なバランスになっていると思います。
主人公の男にしても,見ただけで強そうだと分かるような,存在力のあるキャラクターにしています。強そうなんだけど実は修理屋で,でも過去がありそうで……というところを察してほしいですね。
気付いたら「SHORT PEACE」には現代の日本を舞台にした作品がなかったので,ゲームがそれを扱っているというのは,非常に良いことだと思います。それに,神風動画がかなりたいへんなことにチャレンジしているそうなので,楽しみにしています。
安藤裕章監督(左),森田修平監督(右)
映画「SHORT PEACE」公式サイト
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SHORT PEACE 月極蘭子のいちばん長い日
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