連載
「キネマ51」:第17回上映作品は「クロニクル」
グラスホッパー・マニファクチュアの須田剛一氏が支配人を務める架空の映画館,「キネマ51」。この劇場では,新作映画を中心としたさまざまな映像作品が上映される。
第17回の上映作品は,ハリウッドの超能力zenkaiパワームービー「クロニクル」。
映画「クロニクル」公式サイト
部長,2020年に東京オリンピックが。
関根:
それ先日も話しませんでしたっけ?
須田:
いやいや,またこの話をしなくてはならないのですよ。
関根:
そりゃまた,どうしてですか?
須田:
知ってましたか,部長? 最近話題になってる,1980年代に描かれた「AKIRA」[1]という有名なコミックで。
関根:
はいはい。
須田:
ニュースになったじゃないですか,2020年に東京オリンピックが開催されることを予言していたと。
関根:
オリンピックが決まってからの東京の物語でしたよね,AKIRAは。
須田:
部長はAKIRAのどこが好きでした?
関根:
え,オリンピックというよりAKIRAの話なんですか,この流れ。しかも好き前提なんですね。まあ,好きですけど。
最初に読んだのは,まだ中学生ぐらいの頃だったので,やっぱり大友克洋さんの絵の格好良さですかね。正直言うと,ストーリーというよりは,コミックの装丁だったりとか,描き込まれた背景だとか,大友さんの描くキャラなんかのほうに気持ちが惹かれました。
須田:
マンガというものが一つのデザイン様式を帯びたことによって,ポップカルチャーにもなり,アートにもなりっていう,まさに当時の革命的作品でしたよね。
関根:
支配人はAKIRAのどういったところが?
一番はサイキックの部分ですよね。大友さんの絵だからこその写実的な世界。僕らの身の回りに実際にサイキッカーがいるかのような距離感が表現されていて興奮しました。ところで部長,そんなAKIRAが実写化したらどうなると思いますか?
関根:
うーん,正直イメージは沸きにくいですけど,もしやるんだったらCGじゃなくて本当に物をバンバン壊すような特撮で見たいですね。リアルな破壊が見たいです,無理難題ですけど。
須田:
確かにやってほしいですね。でもねぇ部長,実はそんなAKIRAの実写化みたいな映画が出来ちゃったんですよ。今日は,その映画をご紹介したいと思います。「クロニクル」です。
関根:
うーん……。
須田:
あれ? 完璧なイントロだと思ったんですが。
関根:
これをAKIRAの実写化と言ってしまったら,何というか「ドラゴンボール」の実写化以来の衝撃ですよ。
須田:
そこまで言うかー。
部長,まだテンションあがらず
AKIRA話は,ひとまず置いておくとして。
関根:
あ,なんか僕を説得にかかってませんか?
須田:
いやいや,そういうわけではないんだがね。
関根:
明らかにごまかしましたね。まあいいです。
支配人は,どういったところに興味を持ってクロニクルをご覧になったんですか?
須田:
この映画って大作じゃないんですよね。
でも低予算ながら,大ヒットしたんですよ。
関根:
低予算といっても10億円くらいかけてますけどね。
ハリウッドの予算規模は日本とは比べものにならないですから。
須田:
でも,その10倍以上の興行収入を全世界であげているらしいんですよ。
関根:
凄いですね。
須田:
あれ? 響かないですか。
関根:
うーん,まあ凄いですよね。
あの,えーっと……映像は面白いと思いましたよ。
須田:
そうなんですよ。今回って徹底して,カメラの中から見た映像だけで作られてるじゃないですか。
関根:
全部でしたっけ?
須田:
そうです,全部です。固定の監視カメラから,手持ちのカメラ,スマートフォンや,TVの中継カメラまで,あらゆるカメラで撮られているんですよ。途中でね,若干苦し紛れのホームビデオ映像もありますけども。
関根:
でも,あれもアイデア勝ちという感じはありますよね。
ネタバレになるので言えないですけど,手持ちカメラを手で持たないで撮影する発想は面白かったです。
須田:
あ,ちょっと乗ってきましたね,部長。
関根:
いやいや,まぁねぇ,面白いなと感じるところもありましたから。でも,支配人がそこまで思い入れを持ってこの作品をプッシュする理由はまだ分からないんですよね。
須田:
それはですね,今年のキネマ51は「V/H/Sシンドローム」や「ABC・オブ・デス」といったショートムービーを多く取り上げたと思うんですよ。
関根:
はい。
須田:
あの作品を撮った監督達の中には,いわゆる動画投稿サイトなどで注目されたクリエイターも数多くいました。そういった新しい映像作家のステップアップの一つの方向性が,このクロニクルだったんじゃないかと。
そういう意味で,今年の集大成として年末にぜひ紹介したいなと思ったんですよね。
関根:
なるほど。SNSや投稿動画の世界から,目線を広げるように,大作を撮ったということですね。
須田:
はい。役者も有名な人は出ていなくて,それも何か投稿映像の雰囲気をよりリアルに感じさせてくれるし,映画の原風景みたいなものも実は感じたんですよ。
関根:
頭で思い描いた空想世界を映像化させてみたいという純粋な心というか。
須田:
そうですね。ワクワクした気持ちをそのままにですね。
でも,映画の中盤くらいまで投稿映像の集合体のような,ありそうでなかなかないぐらいのリアルなテンションが続いたんですが,最後を意外とハリウッドらしく仕上げたのが……まあね。
関根:
まあね。受けたんでしょうね,若者に。
そういう意味では,収束のさせ方はやや強引かなと。
須田:
それこそなんていうか,男同士の喧嘩の一番たちの悪いパターンで。いい喧嘩だと,マンガでいうと「
クローズ」,映画だと「クローズZERO」「クローズZEROII」なんかがあって。
関根:
全部クローズじゃないですか。
須田:
ああいうね,不良同士の喧嘩ってある意味正しいというか,
校内なり,神社や土手,丘の上公園などでみんなで規則正しくやるというルールがあるんですよ。
関根:
決闘ですよね。
須田:
そう。でもサイキッカーの友達同士で喧嘩したら,いろんな人を巻き込んで多大な迷惑をかけることになってしまう。だから喧嘩しちゃいけないなって思いました。仲良くしてください。
関根:
なんだか小学生の読書感想文みたいになってますよ(笑)。
須田:
覚せい剤ダメ,ゼッタイ! みたいな教育映画ってありますけど,あれみたいに,エスパー同士の喧嘩ダメ,ゼッタイ映画だったなと。
やっぱりエスパーになるのを許されるのは,クラーク・ケントのような聖人[1]であって,この映画の主人公みたいなオタクがそんな力を得ちゃいけないという教育映画ですよ,これは。
関根:
確かに。自分に不利な事態が起こると,あれは彼らが僕をだましたんだみたいにすぐいじけるややこしい性格の男は,特殊能力を持ってはいけないということですよね。
須田:
あらゆることをネガティブシンキングに変えられる発想の転換。そういった主人公でしたからね。
僕は,この映画,途中からもっと大きな話になっていくのかなと思ったんですよ。でも,非常にインナーワールドでね。
関根:
単純に子供の喧嘩ですよね。それって結局何も解決しないことが多いと思うんですが,この映画も,正直何にも解決してないですよね。
須田:
そうですか? だって,主人公はゴニョゴニョになったし,友達は,ゴニョゴニョっと行っちゃうし。
関根:
そんなにネタバレに配慮しているんならこのくだりいらないんじゃないんですか。
須田:
今のゴニョゴニョの部分を10円玉でこすると,ネタが隠れているんですよ,みなさん是非。
関根:
そういう嘘テク教えるのやめてください。モニターが傷つきますよ。
須田:
部長,とりあえずなんでもツッコんでくれるので助かりますよ。
関根:
完全に遊ばれてますよね,僕。
今年のキネマ51の総括としての映画,その2
実は僕も,今年のというか近年のアメリカ映画の特徴をより強く感じる要素がこの映画にあったんですよ。
須田:
自画撮り,投稿映像,手持ちカメラという要素ではなくですか。
関根:
はい,それは,近年のアメリカ映画の主人公がオタク化してるということです。
須田:
なるほど。
関根:
日本でも,「桐島、部活やめるってよ」[3]なんかのように,脇でヒーローを支えるオタク目線の作品が多いと思うんですよね。
で,この作品や「キック・アス」,そして今年取り上げたショートムービー作品は,基本オタク目線の投稿映像が多かったです。前回紹介した「ブリングリング」は,オシャレ映画なのに,主人公グループの男の子がオタクでした。そういう意味での総括かなと。
まあ,今回のオタクは,正直,相当たちの悪い自己中オタクだったわけですけども。
須田:
まさに。
関根:
日本って,例えばアニメオタクとか,鉄道オタクなんかも市民権を得て,オシャレな部類のオタクが生まれてきたりしてるじゃないですか。もちろん,日陰の存在のままでありたいと願うディープなオタクもいるんですけど。
でも,アメリカってオタクが一般レベルで虐げられているんだと思うんです。
須田:
なるほど。確かに,日本はオタクが生きやすい時代になった。社会的にだいぶ認められてきていますよね。オタクがオタクとして胸を張れる場所があるんでしょうね。ひょっとしたら隔離されているだけかもしれないですけど。
関根:
「カンブリア宮殿」[4]で,海洋堂の社長[5]がクールジャパンなんて嘘だ,みたいな話をしていて。国は,何をいまさらオタクをバックアップしているんだと。自分達は虐げられてきたからこそ,それを屈辱のバネとしてなんとか自分達の生きていく場所を見つけて,いつか見返してやるという反骨精神で面白いものを生み出してきたんだ,と。でもそのとおりじゃないですか,日本のオタクカルチャーって。
須田:
はい。正解〜。
関根:
だからそうやってぬるま湯に浸かっていたら,その反骨精神が無くなって,新しいものって生まれにくくなるのかな,なんて危惧してみたりするんですよ。
それに対してアメリカって自由の国だし,簡単に自由の国って言葉でくくっちゃいけないかもしれないですけど,やっぱりどんなタイプの人達も同じ場所に放り込まれてしまう。
ブリングリングの男の子も,学校の廊下で女の子にキモいってののしられてましたしね,この作品でも主人公が明らかにバカにされる姿が描かれてました。
どちらが正しいというわけではないですけど,もしかしたらアメリカで虐げられてきたオタクパワーが,日本のオタクを凌駕する時代が来るかもしれませんよね。
須田:
それは切磋琢磨するという意味で楽しみに感じますよね。
まぁ,実際もう,凌駕されてきているところもありますから。
関根:
うーん,確かに。
須田:
あと最後に,これは映画に限らずどの世界にもあることだと思うんですけど,ものを作っている人間ってどこかで代名詞だったりとか,名刺代わりのものって必要なんですよ。それが次のステップにつながるのであって。クロニクルは,この監督が次に凄い映画を撮るためのチケット,そんな映画だと感じました。
この監督は今,ハリウッドで主流になっているスーパーヒーロー系,マーベルやDCのコミック原作ものなんかでオファーが高確率で舞い込むわけでして。そこで本当のヒーローを描いたときにクロニクルの真骨頂が観られるんじゃないのかなと思います。
関根:
なるほど。この映画を観る支配人の,ものを作る立場からの視点というのは非常に面白いなと思いました。
須田:
ぼくもYouTube世代ですから。
関根:
YouTubeをボーっとデスクで眺めてる世代でしょ。
須田:
ということで,ゲーム。
関根:
あ,久々にごまかした。
須田:
これに近いことがもっと街破壊レベルでできるっていうと,有名なゲームですけど,SCEが出しているゲームがあるんです。
関根:
なんていうゲームなんですか。
須田:
えーっとね,バーンってやるやつです。
関根:
ん? なんですか,バーンってやるやつ?
須田:
そそ,バーンってやるやつ。えーっと,あ,「INFAMOUS」っていう人気シリーズなんですけど,主人公が超能力を持っていて,空飛んだり,ピョンピョン跳んだりとかね。敵が出てきたら街の色んなものを使って闘って,ぶっ壊してみたいな。
関根:
この映画,そのまんまじゃないですか。
へー,じゃあこのゲームをやってから映画を観たら,より,劇中のサイキッカー達の動きがリアルに感じるかもしれませんね。
須田:
ぜひ遊んでみてください。
で,今年の総括なんて話が出ていましたけど,実は年内,あと1回枠が残ってるんですよね。
関根:
そうですね,年内ラストは,まあ,僕達の今年のベスト映画をご紹介させていただきます。
須田:
ですです。ではお楽しみに〜。
映画「クロニクル」公式サイト
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INFAMOUS 〜悪名高き男〜
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