連載
「キネマ51」:第18回上映作品は「相棒シリーズ X DAY」
グラスホッパー・マニファクチュアの須田剛一氏が支配人を務める架空の映画館,「キネマ51」。この劇場では,新作映画を中心としたさまざまな映像作品が上映される。
第18回の上映作品は,「相棒シリーズ X DAY」。なぜ公開時に取り上げなかったでしょう,いささか気になりますねぇ。
「相棒シリーズ X DAY」公式サイト
関根:
ということで,キネマ51,年内ラストです。
須田:
毎年恒例,今年のNo.1映画を選出しなければいけないんですけども……。
関根:
そうですね,そんな決まりがあったなんて初めて知りましたけど,まあいいでしょう。じゃあ,せっかくなんでお伺いしますが,去年は何でしたっけ?
須田:
去年ですか? 去年は,確か,あの,「海猿」?
関根:
はいはい。で,一昨年は?
須田:
「踊る大捜査線」?
関根:
なるほど。支配人にとって公開年なんて取るに足らないことなんですよね。時代に流されないその姿勢,さすがです。
須田:
いやいや,とんでもない。
関根:
褒めてませんけど……。
まあ,要するにフジテレビが大好きということですね。じゃあ,今年は第14回で取り上げた「ストロベリーナイト」ということになるんでしょうか。
須田:
違いますよ! 僕がフジテレビの映画しか観ていないと思っているんですか?
関根:
完全にそういう前振りだったじゃないですか。
須田:
いやいや,そこはね,意外性というか。
関根:
では,栄えある2013年のNo.1映画はっ?
須田:
それは,「相棒シリーズ X DAY」です。
関根:
あ,テレビ朝日映画ですね。それは意外だったなー。
須田:
見事に聞き流していただいて,ありがとうございました。
関根:
いやいや,とんでもない。
須田:
褒めてないんですけどね!
まあ,そんなことを言ってますけど,部長のNo.1も。
関根:
もちろん相棒シリーズ X DAYですよ。
一応お伺いしますが,この映画がNo.1の理由は何ですか?
須田:
それはですねぇ,「相棒」が好きだからです。
関根:
いかにも支配人らしい理由ですね。ありがとうございます。
好きだから……以外の理由ももちろんあります
まあ,劇場公開は,今年(2013)3月だったんですけど,11月にBlu-ray&DVDが発売されましたし,先日地上波でも放送されたので,満を持しての紹介かと。いやぁ,良かったですね,今回も。
須田:
良かったです。先に言っておきますと,僕達はこれまで相棒についてさんざん語り合ってきましたので,多少説明不足な会話になってしまうかもしれません。
なので,注釈が多めになるかもしれませんが,そこはご了承のほど,よろしくお願いいたします。
関根:
そうですね。極端な話,「良かったですね」「良かったですよ」だけで,僕達は十分満たされますからね。
須田:
確かに(笑)。
関根:
でも,そういうわけにもいかないので。
……さて,何から話しましょうか。
須田:
まあ,まずはスタッフのお話から。今回は監督が橋本 一[1]さん。東映の中堅といっていいんでしょうかね。劇場版の相棒では初メガホンなんですが,「探偵はBARにいる」シリーズや,「臨場 劇場版」といった作品を作り上げてきた方です。
相棒のTVシリーズでは「潜入捜査〜私の彼を探して!」や「殺人の資格」[2]などで監督を担当していて,命の尊厳,重さといった重厚なテーマを描かせたら天下一品ですね。
関根:
しかも脚本は,櫻井武晴[3]さん。
須田:
警察内幕ものといえば櫻井さんというくらいで,フィクションでありながらも数々の問題提起をしてきました。
関根:
TVシリーズでもお二人のタッグには,重厚な作品が多いんですよ。シーズン7「逃亡者」,シーズン9「ボーダーライン」[4]などがそうなんですが。
須田:
いやぁ,どれも重いですね。しかも,ドラマとはいえ,起こっている事件が……というか,起こった事件に対する警察をはじめとした登場する公的機関の対応が妙にリアルなんですよ。
関根:
そこがこのチームの作品の鍵ですよね。僕は「ゴルゴ13」という漫画[5]が大好きで,世界の政治経済の現状は新聞でもTVでも池上さんの解説でもなく,ゴルゴ13で学んできたんですよ。それと同じで,日本の政治経済のことを知りたければ,相棒さえ観ればいいとすら思っているんです。
そういった意味では,今回はサイバー対策犯罪課の警察官の出自が。
須田:
あれですね,ITバブルが弾けて,転職して警視庁に入庁したっていう話。
二人:
あ,そういうことなんだ! っていうね。
須田:
必ずしも,警察官になりたくて入ってきたわけではないんだな,と。そこで,彼らと捜査一課の刑事との対比が生まれる。
人物像,物語の世界観にスパイスが振りかけられていますよね。
関根:
彼のテンションの低さ,納得できるんですよ。凄いですよ。やっぱり櫻井脚本ならではの分厚さということで。
誇張せず等身大なんですよ,捜査一課を煙たがる感じとか。ああいう熱い感じの刑事は,苦手なんだよ……みたいな。彼らの目線って警察内部にいながら一般人で,でもそれにはちゃんと理由があった。
関根:
いやいや,さすがですね。そして銀行,金融庁,財務省。
須田:
怖かったですね,あの話。橋本演出,櫻井脚本が重厚すぎて,ホントなのか,ウソなのか分からないけど,とにかく怖いんですよ。
関根:
劇中に出てくるようにATMが使えなくなったりすることって,たまにあるじゃないですか。え,裏にはそんなことが? みたいな怖さが伝わってきますね。
須田:
それこそ,「半沢直樹」という国民的ドラマで,巨大メガバンクが一行員によってメタメタにされてしまうということが描かれた。だからこの映画で描かれたことなんて,もっと起こりうるわけですよ。まあフィクションの世界ですけども,でも,何か現実に起こりうる怖さみたいなものをはらんでますよね。
関根:
二人で盛り上がってますけど,ストーリーを何も話してませんね。
須田:
そうでした。いけませんねぇ,そんなことじゃ。
関根:
あ,右京さん出た[6]。
須田:
つまりこういうことです。日本全国を巻き込んだ金融パニックがおこる日“X DAY”に翻弄される人々と,そこに向かって捜査をしていく二人の警察官の話。以上です。
関根:
間違ってはいないです。
須田:
あ,あと,すごく面白いです。
関根:
それも間違っていないです。
支配人の「相棒」愛があふれだす
須田:
話してもいいですか。
関根:
支配人,止まらないですね,どうぞ。
須田:
今回は,TVシリーズでは名サブキャラとしておなじみだった,捜査一課の伊丹刑事[7]が主人公なんですね。
関根:
そしてその相棒となるのが,田中 圭さん演ずるサイバー犯罪対策課,岩月 彬。
須田:
もうシーズン12まできているこの「相棒」組に入るのって,たいへんなことじゃないですか。新参者で。しかも,主役で入るなんて,どれだけプレッシャーがかかるのかっていう。でも,やっぱりねぇ,田中 圭さんは演技がうまいし,なじんでましたね。
多才ですよね。キネマ51の第5回でも取り上げた団地ムービー,「みなさん、さようなら」は覚えてらっしゃいますか?
須田:
はい,もちろん。あぁ,主人公をボコる奴ですね,あいつ,最低でしたね。あんな役もこなしちゃって。憎たらしかったですね。
関根:
さらに,先日最終回を迎えたテレビ東京系列のドラマ,「ノーコン・キッド」[8]でも,実家のゲーセンを継いださえない青年を演じていて。
須田:
あの役,まさに僕と同い年なんですよ。いわゆるオタクでもない普通の男の子。昔は,普通の男の子がゲーセンでゲームやってたもんですよ。
関根:
あれも見事な演技でしたね。
須田:
今回の相棒劇場版の後にTVシリーズでも1話出てきたじゃないですか[9]。きっとこれから毎シーズン,必ず出てきてくれるんじゃないかと。
関根:
楽しみですねぇ。あの,X DAYから話が外れてしまうんですけど,三浦刑事[10]。
須田:
三浦刑事ね。ちょっとね,このときは三浦さんいたんだってね。
関根:
僕らは相棒を10年以上見続けてるっていうことになるわけですよ。
須田:
そうですよ。
関根:
もうね,僕らも相棒ファミリーみたいなものじゃないですか。
須田:
そうですよ。ファミリーですよ。1年のうち半分の期間を一緒に過ごすわけですから。
関根:
僕らファミリーにとっても,三浦刑事の件はとても衝撃というか。
須田:
三浦刑事って警察官カット,ビシッとしたカリアゲなんですよ。で,途中,ちょっと伸びるじゃないですか,でもまたカリっとしてくるんですよ。警察官とは何か,刑事とは何かってことを,髪型から入ってるんですよ。今,映画でも,ドラマでも,警察ものが増えたじゃないですか,相棒の大ヒットのおかげで。
関根:
その言い切りは支持します。
須田:
で,ベテラン刑事役なのに茶髪で襟足がある役者がいるんですよ。その時点で,刑事になんか見えません。それに比べて相棒の人達はスパッと切っていて。
それを一番体現していたのが,三浦刑事だった。ちょうどこの映画の撮影に入る前に,三浦刑事役の大谷さんと田中さんは共演してるんですって,舞台で。で,場を作ってくれたんですって,田中さんがスッとこの組に入れるように。いい方ですよ,大谷さん。素晴らしい。
関根:
その大谷さんの姿勢が,そのまま三浦刑事に反映されていたんでしょうね。だからこそのシーズン12の第1話[11]ですよ。
須田:
そう,あれが最終話じゃないってところがね。妙だなって思ったんですよ。なんで出世したんだろう? って。喜んだじゃないですか,みんなも僕らも。
関根:
えーっ! みたいな。でも出世は,はなむけだったんですよね,結末知ってみたら……。
須田:
昇進させて勇退させるなんて,素敵な愛じゃないですか。大谷さんが卒業するんだったら,三浦刑事が卒業するんだったら,今のままじゃだめだっていうね。
関根:
いやぁ,だいぶ脱線しましたけど,それを思って劇場版を観ると,また感慨深いものがありますね。
須田:
部長,なにか言い残したことはありますか。
関根:
話をしようと思ったら何時間でも終わらないですけど。とにかくキネマ51としてはですね,迷わず観てほしい映画としてオススメしなくてはならないですね。
須田:
そうですね。相棒が好きな人はもちろん,これまで観たことはないんだけど……っていう人にとっても,入口として十分いい映画。
関根:
主人公,田中 圭さんが新キャラクターっていうことで,彼と同じように相棒の世界に入っていける。
須田:
田中 圭さんが,優しく手をね,差し伸べてますから。僕も初めてなんで一緒に行きましょうよってね。だから一緒に安心してください。
関根:
そうですよね。ディズニーランドでいうところのキャストみたいなもんですよね。
須田:
誘ってくれますよね,近い距離感で。ミッキーのポジションである杉下右京は一瞬だけしか出てこないけど許してねって。今回,グーフィーが主役ですけど,グーフィーと遊ぼうよってね。この例え,いいのかなぁ?
関根:
分かるようで分からないですけど,支配人が楽しそうにお話されているんで,それで良いのかな,と。
「相棒DS」は今回は無しっていうことで
関根:
そろそろゲームの話をしたいところなんですけど,この映画と一緒に楽しみたい,支配人オススメのゲームは?
須田:
あ,ゲーム? もう数年前になるんですけども,ニンテンドーDSで,相棒の……。
関根:
言うと思いました。
でもそれ,ことあるごとに紹介してきたでしょ。
須田:
いや,もう一回遊んでほしい。遊んでほしいなぁ。
関根:
まあ,その思いは伝えたということで,ほかをお願いします。
須田:
そうですね,えーっと。あ,ちょっとトイレ行ってきていいですかね。
(3分経過)
須田:
お待たせしました。
関根:
なんかシュッとしてお帰りですが。
須田:
あのですね,相棒って,アメリカ人にとっての「バットマン」のような存在だと思うんですよ。
関根:
戻ってきたと思ったら突然すごい発言ですね。この3分間に何があったんですか!
須田:
なんていうんですかね,僕,バットマン好きじゃないですか。ブルース・ウェイン好きじゃないですか。なんか,右京さんってブルース・ウェインみたいな面もあって……。
関根:
いいっすよ,僕の顔色は伺わなくて。話し続けてください。
須田:
だからーなんかーバットマンかなーって。
関根:
なんで,急にギャルになったのか分かりませんが。
須田:
ちょうど,「バットマン:アーカム」シリーズっていうスピンオフゲームの最新作「バットマン:アーカム・ビギンズ」(PlayStation 3 / PlayStation Vita / Xbox 360 / Wii U / iOS)が発売されたんですよ。これは,アーカムシリーズの前日譚みたいなストーリーだから,いわばアーカムシリーズのスピンオフでもあるんですよ。
関根:
ふーん。
須田:
……それです。
関根:
はい。
須田:
今からバットマンの世界に入り込むのって,ちょっとたいへんじゃないですか。その入口としてちょうどいいかなって。田中 圭さんのように手を差し伸べて待っているわけですよ,バットマンが。こう,手招きしながら。
関根:
その姿,想像すると怖いんですけど。年末最後の作品,シメにふさわしい曖昧さで,最後まで支配人ワールドを貫いていただいたということで,今年もありがとうございました。
須田:
来年も,ゆるっと皆様どうぞよろしくお願いいたします。
二人:
良いお年をお迎えください。
「相棒シリーズ X DAY」公式サイト
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