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対戦格闘ゲーム制作ツール「EF-12」が目指す,格闘ゲームの理想とは。クアッドアロー代表・小野口氏にTGS 2013会場で話を聞いてみた
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印刷2013/09/30 18:48

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対戦格闘ゲーム制作ツール「EF-12」が目指す,格闘ゲームの理想とは。クアッドアロー代表・小野口氏にTGS 2013会場で話を聞いてみた

画像集#004のサムネイル/対戦格闘ゲーム制作ツール「EF-12」が目指す,格闘ゲームの理想とは。クアッドアロー代表・小野口氏にTGS 2013会場で話を聞いてみた
 東京ゲームショウ2013の「インディーズゲームフェス2013」エリア内,クアッドアローブースにて,同社が制作する「EF-12」の試遊台が出展されていた。これは,キャラクターモデルを自作して3D対戦格闘ゲームを制作できるフリーのソフトウェアであり,アルカナハートの愛乃はぁとがゲスト参戦したことでも話題となった(関連記事)ツールだ。

 今回4Gamerでは,東京ゲームショウ2013の会場にて,EF-12を制作するクアッドアローの代表取締役,小野口正浩氏にインタビューをする機会を得た。EF-12が目指しているものや,キャラクター性からゲームバランスにわたる小野口氏の対戦格闘ゲーム哲学を聞いてきたので,ぜひチェックしてみてほしい。

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Project [ EF-12 ]公式サイト



EF-12が目指す,対戦格闘ゲームの未来


4Gamer:
 本日はお忙しい中お時間をいただき,ありがとうございます。さっそくですが,EF-12について,簡単に説明をいただけますか。

小野口正浩氏
画像集#001のサムネイル/対戦格闘ゲーム制作ツール「EF-12」が目指す,格闘ゲームの理想とは。クアッドアロー代表・小野口氏にTGS 2013会場で話を聞いてみた
小野口正浩氏(以下,小野口氏):
 簡単に言うと,3D格闘ゲームのMOD用ツールのようなものです。いちおう,こちらで作った作例も入っていますが,元のゲームはあってないようなものなので,MOD用ツールの方が主体ですね。

4Gamer:
 いわゆる「3D格闘ツクール」に近いもの,という認識で良いのでしょうか。

小野口氏:
 間違いではありませんが,そう言ってしまうには,EF-12はあまりにもハードルが高いです。クアッドアローが業務用に使っている3Dモデルや,アクションのためのライブラリ群がそのまま入っているので,商業作品レベルのものが制作できるくらいの知識やノウハウがないと,ツールを使いこなすのは難しいと思います。その分,使いこなせれば相当クオリティの高いモデル――,例えばXbox 360辺りの商業作品で使われているレベルのモデルが作れます。

4Gamer:
 というと,EF-12のライブラリ群が実際に使われている商業タイトルもあるのでしょうか。

小野口氏:
 はい,あります。名前を出せるもので言うと,バンダイナムコゲームスさんの「アクセル・ワールド -銀翼の覚醒-」PS3 / PSP)の3Dパートなどです。私はもともとナムコで「鉄拳」シリーズなどを作っていたので,アクションに強いライブラリ集になっているんですよ。

4Gamer:
 お話を聞く限り,EF-12のライブラリ群は商用のツールと言えそうですが,これをフリーで配っているのは何故なのでしょう。一般的に考えれば,お金を取って当たり前だと思うのですが。

小野口氏:
 私としては,3Dモデル用のツールを配っているのではなくて,対戦格闘ゲームというスポーツのルールを知ってもらいたい,そしてe-Sportsの大会で使ってもらいたいという気持ちがあります。野球や将棋などもそうですが,ルールそのものがお金を取るのはおかしいですから。

4Gamer:
 一口にルールと言っても,概念としてはかなり幅広いですよね。小野口さんのおっしゃる対戦格闘ゲームというルールは,どこまでを指すものなのでしょうか。

小野口氏:
 ちゃんと調整されたキャラクターが入っていて,これで大会ができる,というところまでですね。調整については,弊社がオフィシャルな形で判断し,取捨選択のジャッジをしていきます。

4Gamer:
 まずユーザーからキャラクターモデルやバランス調整案を集めて,そこからクアッドアローさんが対戦格闘ゲームとしてのバランスを調整して,フィックスすると。そこまでがルールというわけですね。パッケージ化された商業の対戦格闘ゲームと同じものという認識で良いですか。

小野口氏:
 ええ。ただ,対戦格闘ゲームをスポーツとして見たとき,商業作品は「売れなくなったらなくなってしまう」という問題点を抱えています。アスリート達にとっては,その競技にずっと打ち込んでいけるという保証が必要だと思うんですよ。

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4Gamer:
 それはそうだと思いますが,もし仮に,クアッドアローさんが何らかの事情でなくなってしまったとしたら?

小野口氏:
 有志の方に引き継いでもらえればと思っています。そのためのフリー配布でもあります。

4Gamer:
 では,小野口さんにそうまでさせる理由というか,EF-12の目指すところはどこにあるのでしょうか。

小野口氏:
 ゲームが商業としてではなく,スポーツとして認められるシチュエーションを作り,ゲーム業界全体の文化的価値を底上げするのが目標です。例えば,夜遅くまでサッカーをやっている子供は,サッカー少年と呼ばれますが,同じ事をゲームでやると,何故か引きこもりと呼ばれる。ゲームがスポーツとして認められれば,そういう状態はなくなると思うし,制作者達ももっとリスペクトされると思うんですね。

4Gamer:
 なるほど,目標としているところは分かりました。では,EF-12を公開してから約1年が経ちますが,反響の方はいかがでしょうか。

小野口氏:
 大きな反響はいただいていますが,先ほども言ったとおり,使いこなすにはかなりの知識がいるので,実際にモデルを作ろうというところまで進んでくれる人は,非常に少ないです。なので,今はできる人を集めようとしている段階です。プレイヤーを集めるのは,そのあとになるでしょう。

4Gamer:
 現状では対戦格闘ゲームとして作っているというよりも,まずキャラクターモデルを集めているところだと。

小野口氏:
 そうなります。

4Gamer:
 キャラクターモデルと言えば,EF-12にアルカナハートの愛乃はぁとがゲスト参戦したことで話題を呼びましたが,参戦の経緯をお聞かせください。

愛乃はぁと
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小野口氏:
 もともと,アルカナハートのプロデューサーである高屋さん(高屋幸治氏)とは旧知の仲なのですが,彼は「今のままのやり方では格闘ゲームのビジネスは続いていかないのではないか」と危惧していて,新しいやり方を模索していたんですね。そこで,「商業とインディーズをミックスしてみてはどうか」ということで,今回のコラボレーションが決まりました。うちとしては,アルカナハートのおかげでEF-12を知ってもらえますし,向こうとしても,素早い立ち上げができて,結果をすぐに見せられるというメリットがありますから。

4Gamer:
 ただ,アルカナハートは2D格闘ゲームですが,EF-12は3D格闘ゲームですよね。どうやって落とし込んでいるのでしょうか。

小野口氏:
 今のところ,2Dの挙動をするタイプと3Dの挙動をするタイプの2つが入っていて,前者であればホーミング移動が,後者であれば軸移動ができるようになっています。といっても,今はまだ「こういうことができますよ」という,キャラクターモデルの提示だけですね。アルカナハートという名前が付くと,どうしても「こんなのはアルカナハートじゃない」と思われるかもしれませんが,まず前提として,これはEF-12にとっての愛乃はぁとなんです。それが今後どういうキャラクターになっていくかは,ユーザーの要望と,エクサムさんの作り方次第になります。


4Gamer:
 いくら作り方次第とはいえ,愛乃はぁとだったら,“はーとふるぱんち☆”や“鉄拳ぱんち“はほしい,と考えると思うのですが。

小野口氏:
 それをたくさんのユーザーが望むのであれば,そうなっていくはずです。もちろん,エクサムさんが「本流は別にあるからもっとチャレンジャブルにしようよ」と考えれば,まったく違うものになる可能性もあります。

4Gamer:
 その辺りの裁量は,モデルの制作者に委ねられていると。極端な話ですが,例えば愛乃はぁとが「鉄拳」のレイ・ウーロンのモーションで戦っても,小野口さんとしては構わない?

小野口氏:
 ええ。私としては,キャラクターの形や見た目はどうでも良いと思っています。

4Gamer:
 そうなんですか? 4Gamerでは今までさまざまな格闘ゲームクリエイターにお話をうかがってきましたが,「キャラクター性と競技性のバランスをどう取るか」という点については,皆さん「難しいけど頑張ってバランスを取っていくしかない」――,つまり,対戦格闘ゲームを作るうえで,キャラクター性は必要条件だとおっしゃっていました。でも,小野口さんとしては,キャラクター性は完全に切り捨ててしまって構わないという判断なのでしょうか。

小野口氏:
 そもそもEF-12は,キャラクターモデルとファイトスタイルが別扱いですし,例えば「鉄拳」のミシェールの動きをするキングがいても良いと,私は思っています。でも,現段階ではそれは受け入れられないじゃないですか。なので,今はモデルに対して1対1で技を入れている状態なんです。

4Gamer:
 うーむ,なるほど……。

小野口氏:
 そこには,今までに培ってきた「格闘ゲームはこうあるべき」という概念がありますから,今すぐにというのは難しいと思います。だから,まずEF-12を受け入れてもらってから少しずつ変えていければと思っています。

愛乃はぁとの操作方法
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競技ツールとしてのバランス調整について


4Gamer:
 先ほど,キャラクター性は捨てても良いとおっしゃっていましたが,それはつまり,EF-12は競技性に特化した対戦格闘ゲームにしていく,ということでもありますよね。競技性を担保するゲームバランスのジャッジは,クアッドアローさんが行うとのことですが,どういった施策を考えているのでしょうか。

小野口氏:
 まず,今までの商業作品は,ユーザーからのバランス調整案があっても,反映される保証がなかったと思うんですよ。仮にされるとしても,製品になるのは半年から2年後であったり。それは,競技のルールとしてはよろしくないと思うんです。

4Gamer:
 確かに,商業作品では,反映に時間がかかることが多いですね。

小野口氏:
 なので,EF-12では,調整が気に入らなかったらモデルの作り手やプレイヤーに意見交換をしてもらって,どんどん良いものにしていく,という流れを作っていくつもりです。できれば,プロゲーマーの人に意見いただければなお良いですね。アスリートであれば,自分の道具を調整できて当たり前ですから。

4Gamer:
 ただ,「この技が弱いから強くしてくれ」と言う人がいるとして,それは普通,ごく一面的な見方でしかないですよね。その判断も,モデルの作り手やプレイヤーに委ねていくと。

小野口氏:
 それを最終的に判断するのは私の役目なので,ジャッジが必要になるまでの間は,好きに議論してもらいたいんです。

4Gamer:
 例えばですが,もの凄く難しいコンボができれば“強い”というキャラクターがいるとして,でもそれをできるのは上位プレイヤーの1%ぐらいしかいない――,そういう状態だったとしても,その1%の意見に合わせるんですか?

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小野口氏:
 はい,上に合わせます。結局,一番うまい人の言うことがもっとも真実に近いと思いますから。プロのアスリートが8割方納得しているのであれば,それはルールとして公正なものという判断で良いと思っています。最近の対戦格闘ゲームは,うまくない人達のために救済措置を入れているから,話がややこしくなっているところがある。EF-12としては,うまい人が勝って当然というもので良いと思っています。

4Gamer:
 でも,うまい人が勝って当然というゲームでは,うまくない人がなかなか遊ばないのではないでしょうか。

小野口氏:
 そうですね。なので,とっかかりとして,1人用のモードも入れていこうと考えています。そこで熱くなってきた人は,そのままアスリートになれば良い。プレイヤーとアスリートの間には,明確に線引きがあって良いと考えています。

4Gamer:
 なるほど,ある程度分かりました。少し話を戻しますが,バランス調整に関して,頻繁にパッチが当たるというのにも,賛否両論がありますよね。少なくとも現状の対戦格闘ゲームプレイヤー達は,頻繁に調整されるのを好んでいない印象があります。

小野口氏:
 商業作品は,デベロッパの一方的な都合でやっていますから。EF-12は,ユーザーが調整したいからやるものであって,自分達の意志に反してパッチが当たることは有り得ません。それに,誰かにとって意志にそぐわない調整がかかったとしても,あとから要望を言うことができます。それを繰り返して,良いものにしていけばいい。

4Gamer:
 しかし,プレイヤーそれぞれが,自分の関わっていないキャラクターの変更点についてまでを正しく判断したり意見を出していくためには,コミュニティ全体に格闘ゲームに対する高いリテラシーが必要になりますよね。大抵の格闘ゲームプレイヤーは,自分が勝ちやすい調整にしたくなるものだと思うのですが。

小野口氏:
 今までの格闘ゲームのアスリート達は,既にあるものに対して自分を最適化していく,というやり方,考え方をしてきました。でも,EF-12では,それぞれが競技としての公平性を考えて意見をしていく――,そうできるように考え方を根底から変えていってほしいんですよ。

作例として用意されたキャラクターには,既存の格闘ゲームキャラクターを模した動作や技が搭載されていた。また,基本的には6ボタン方式を採るが,キャラクターを選択したあとに,そこに適合した操作体系を選択するという作りになっていた
画像集#002のサムネイル/対戦格闘ゲーム制作ツール「EF-12」が目指す,格闘ゲームの理想とは。クアッドアロー代表・小野口氏にTGS 2013会場で話を聞いてみた


4Gamer:
 うーむ……。要するに,格闘ゲームのバランス調整を,できる限り集合知でやっていこうというお考えなんですね。

小野口氏:
 はい,そうなります。

4Gamer:
 その実験は凄く面白いとですし,うまくいってほしいと思います。ですが,その結果ゲームが面白くなるかどうかはまた別の話ですよね。ゲームバランスがとれていることは優れたゲームの持つ要素ですが,必ずしもそれがすべてではない。結局のところ,それを決めるのは「このゲームはこうあるべき」という強い理念を持ったバランサーの存在なのではないか,という気がします。

小野口氏:
 EF-12にとって,それは現時点では私だと思います。個人的には,私のジャッジが,ユーザーの意見に押されて拮抗した辺りが,もっと良い状態なのではと考えています。これまで語ったことは,どれもまだ実現できているわけではありませんし,従来の対戦格闘ゲームの概念とはちょっと違っているかもしれません。ですが,それでコンセプトを曲げては意味がないので,ずっとこのやり方でやっていきたいと思います。

4Gamer:
 実現できるよう,期待しています。それでは最後に,読者にメッセージをお願いします。

小野口氏:
 今はまだモデルの作り手もプレイヤーも多くはありませんが,無料なのでぜひダウンロードして遊んだり,実際にモデルデータをいじったり,簡単なところからで良いので試してみてください。よろしくお願いします。

4Gamer:
 ありがとうございました。




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 インタビューの後,筆者は会場の試遊台でEF-12をプレイさせてもらったのだが,インタビューにもあるとおり,まだ対戦格闘ゲームとして遊べる状態には至っておらず,ゲームとして評価するのは難しいと感じた。あえて操作感やグラフィックスについて語るなら,アーケードで稼働していた「幽遊白書 〜死闘!暗黒武術会〜」に近いものだったといえる。小野口氏がEF-12で目指す未来に到達するためには,まだまだ長い時間がかかりそうである。

 それにしても,格闘ゲームにおいて,キャラクター性と競技性は,果たして分離が可能なものなのだろうか。対戦格闘ゲームを競技として抽象化するなら,確かにキャラクターは邪魔な存在なのかもしれない。波動拳は,ただ当り判定を持った移動するオブジェクトでさえあればよく,そこにリュウというキャラクターはなくても良い。
 とはいえ,それが面白いかどうかはまた別の問題だ。リュウという存在があるからこそ,プレイヤーはキャラクターとつながることができ,短いプレイ時間の中にストーリーを見出すことができる。こんな有用なキャラクター性というツールを,なぜわざわざ手放すのか。

 インタビュー中,そこがずっと気になっていたのだが,試遊後に気づいた。そもそも,「ゲームは面白くなくてはならない」という,我々にとってあたりまえの前提が,小野口氏とは異なるのではないか?
 試遊後,この点について小野口氏に疑問を投げかけてみたところ,「メカニクスとしては面白くなくてはならないが,演出が面白い必要はない」という答えが返ってきた。……メカニクスと演出の境をどう考えるかにもよるが,とことん“上級者”にフォーカスしようとする,氏の考えを端的に表した言葉といえるかもしれない。

 個人的には小野口氏の考えに諸手を挙げて賛同できるわけではないが,このような思い切った試みもまた,対戦格闘ゲームの未来と可能性を広げる一助となることは間違いない。また集合知によるバランス調整というのも,一つの実験として考えると,かなり興味を引かれるところだ。前人未踏のゴールに,本作がどれだけ迫ることができるのか,いち格闘ゲームファンとして今後も見守っていきたい。

画像集#005のサムネイル/対戦格闘ゲーム制作ツール「EF-12」が目指す,格闘ゲームの理想とは。クアッドアロー代表・小野口氏にTGS 2013会場で話を聞いてみた 画像集#008のサムネイル/対戦格闘ゲーム制作ツール「EF-12」が目指す,格闘ゲームの理想とは。クアッドアロー代表・小野口氏にTGS 2013会場で話を聞いてみた
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Project [ EF-12 ]公式サイト

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