インタビュー
[OGC2008#08]ゲームポット植田氏,JOGA推奨の不正対策ソリューションや,Webメディアと異なるゲーム内広告の可能性を語る
そして,3月14日の「Online Game & Community Service conference 2008」(OGC 2008)では,同協会の市場調査に基づいてオンラインゲーム業界の現状を解説するとともに,現在取り組んでいる事柄についても,話題を披露するとのこと。
そのプレビュー版として,ここでは会長を務めるゲームポット 代表取締役社長 植田修平氏および,事務局長の川口洋司氏へのインタビューをお届けする。継続的な取り組みに当たる組織だけに,目新しい話題ばかりというわけにはいかないものの,植田氏の個人的見解も含めて,日本オンラインゲーム協会が取り組もうとしている課題やアプローチの概要を,ぜひ押さえておいてほしい。
オンラインゲーム業界,厳しい「正常化」の時代
本日はよろしくお願いします。AOGCでは統計調査の披露や活動内容の紹介が恒例でしたが,今回の講演ではどういったお話を予定していますか?
植田修平氏:
そうですね,メインとしては現在調査中の2007年度の統計資料に基づいて,いまオンラインゲーム業界がどんな傾向にあるかというお話を,まずはさせていただきます。
4Gamer:
最新動向,というわけですね。
植田修平氏:
ええ。それに添える形で,JOGA(日本オンラインゲーム協会)の紹介と,現在取り組んでいる事柄についてお話しさせていただき,総括的には今後の日本オンラインゲーム業界の展望を,僭越ながらお話しさせていただこうかと。
4Gamer:
いやいや,全然僭越じゃないですよ(笑)。ではまず,2007年度統計資料の見どころについて,ごく簡単に教えてください。
植田修平氏:
テーマになるのは,おそらく次のような感じです。オンラインゲーム業界が出来てから,まだそれほど経っていませんよね? 実際,2000年初頭に黎明期があって,ブロードバンドの普及を背景に2003年,2004年から,ぐんと伸びてきたというところだと思います。
4Gamer:
そのとおりですね。
植田修平氏:
こういう言い方が適切かどうか分かりませんが,その流れに乗って伸びてきた国内外の会社さんが,たくさんいらっしゃいます。現にマーケットは急激に成長してきました。ただ,それに見合う以上の数のコンテンツが供給される,つまり過剰供給気味でマーケットが整理されつつあるのが,昨年から今年にかけての状況でないだろうかと。
4Gamer:
な,なるほど。
植田修平氏:
講演本番では,タイトル数やジャンルなど細かい指標を挙げる予定ですが,まあ,かなり正常化されてきたと。
4Gamer:
正常化,ですか。
植田修平氏:
つまり今年は,需給バランスが見合った年になるのではないだろうかと。そういう意味での「正常化」です。
4Gamer:
捉え方次第では,すごくシビアな市場だということにもなりますよね?
植田修平氏:
そうですね。前述のように,マーケット自体は拡大しています。ただ,運営や方針を含めて,オンラインゲーム会社のサービスが市場に問われている,ということなのです。
オンラインゲームは参入障壁が少ないという意味で,小資本でも比較的簡単にビジネスを起こせます。しかし,そのあとが問題なのです。高い勉強代に終わるケースも少なくない,というか。
4Gamer:
なんというべきか,それは適切な見解ですね。
植田修平氏:
個人的な見解として,これからはきちっとファンに支持されるタイトル,支持される運営がテーマになってくると思います。
4Gamer:
それはそれで,パブリッシャの代表取締役社長としての見解を,どこかで詳しく伺いたいと思うテーマですね。いまそれはしばらく措くとして,そうした市場分析が,JOGAさんの内部で進んでいるわけですか。
植田修平氏:
いまちょうど,進めているところですね。ただ,あくまでJOGAは業界団体として,みなさんのビジネスの手助けをする役回りですので,個々に細かく見ていくことはしません。
4Gamer:
それはそうあるべきかもしれませんね。
不正アクセス,ゲーム内広告,人材,作品輸出が課題
ただ,やはり市場拡大は我々に与えられた大命題ですから,そのためにJOGAとしてできることを,お話させていただきます。
4Gamer:
ではまず,その内訳の部分を教えてください。
植田修平氏:
いま,分科会という形で四つの課題に取り組んでいます。その一つめが不正アクセス/RMTの分科会です。
4Gamer:
公式サイトにも掲載されている,分科会組織ですね。
植田修平氏:
そうです。例えば現在,不正アクセスが非常に多くなっているという事実がありますし,RMTも大きな問題です。オンライゲームはビジネスモデルからして,長い期間サービスを継続しますので,これらがはびこることは,将来にわたる機会損失につながります。
なので,これは業界として徹底的に取り組む必要があり,不正は撲滅する必要があります。
4Gamer:
そこはたいへん明確な課題というわけですね。
植田修平氏:
実際にセキュリティの事業者さんにご協力をいただいたり,決済会社さんにご協力いただいたりして,お客様が安全に楽しめる仕組み作りを進めています。
4Gamer:
なるほど。
植田修平氏:
二つめが,ゲーム内広告の分科会です。昨年は「Second Life」が盛り上がった年だと思うんですけど,フタを開けてみると企業側こそ盛り上がったものの,実際使っている人がどれだけいたのか。ユーザーさんの動向と企業側の思惑というのが,あまり合致しないモデルであったようにも思います。
4Gamer:
アジア地域では,とくにそう思えますね。
植田修平氏:
とはいえ,オンラインゲームに関して言えば,実際にたくさんの方がほぼ毎日,何時間という時間を費やしてそれぞれの会社さんのゲームを楽しんでくださっているというのが,厳然たる事実としてあります。
それだけ接続して滞在するコンテンツは,ほかのWebサービスににあまりないものだと思います。それをきちっと生かすべく,開発サイド,プレイヤーサイド,そして広告代理店さんの意向をうまく整理したうえで,B2Bのビジネスとして成り立つような施策を,いま分科会のなかで模索しています。
4Gamer:
それは,どんな議論が進んでいるのか,実に興味深いですね。
植田修平氏:
分科会には数多くの広告代理店さんにご参加いただきまして,クライアント側のニーズをヒアリングしています。広告は当然ながら,クライアントがあって初めて成り立つものですから。
メーカー側が「これだけのバリューがあります」「これだけの会員数,アクセス数があります」と言っても,それをどうビジネス化していくかが問題です。それを,各関係者の間でまとめていまして,年内には新しいモデルとして打ち出せると思います。
4Gamer:
モデル……ですか。
植田修平氏:
新しいメディアであるがゆえの,ちょっとした手助けですね。協会主導になってしまうと,えてしてうまくいかないですから。あくまで我々は橋渡し/調整役で,実際にはメーカーさんなり代理店さんなりが動きやすいようにするのが課題です。
4Gamer:
そうですね。もともと事業主体ごとのお話ですし。
植田修平氏:
三番目は人材育成/マッチング分科会です。オンラインゲームは新しいビジネスですので,まだ人材が揃っていないというのが,正直各社の悩みなんですよ。
4Gamer:
そもそもイメージしづらいですよね。仕事内容が。
植田修平氏:
そうですね。その意味で世の中に対する認知向上と,若い人材を受け入れていくという面で,いろいろ考えていくべきかなと。
オンラインゲームが,ほかのビジネスと違って面白いのは,普通にイメージされる“ゲームの開発”ばかりが仕事じゃないという面です。例えばデータベースの開発や,Web構築,デザインもあればマーケティングもあって,運営/サポートも含まれる。非常に広いジャンルに携われる業種の一つだと思うんですね。
ビジネスモデルにしてもそうで,アイテム課金もあれば,月額課金もあって,完全な無料モデルやハイブリッド型もある。ビジネスとしての広がりをいろいろ感じられる産業でもあると思っています。
4Gamer:
そうですね。一口にこんな仕事と言い切れないところが。
植田修平氏:
しかも最近ですと,オンラインゲームのグローバル化が進んでいます。この視点に立つと,家庭用ゲーム機よりも広い範囲の国々でサービス可能な事業モデルです。
4Gamer:
すでに世界中で成り立っているプラットフォームであると。
植田修平氏:
そうなんですよ。だから新興国においてもサービスが可能です。海賊版の問題も起きづらいですし。そうした,国境のないビジネスすら展開できる魅力的な産業だと考えています。そのあたりの認知を進めていきたいなと。そして,多くの方々にこの業界に入っていただいて,次世代を担う人材を育てていければ,という話です。
その手始めとして,合同での会社説明会なども企画している最中です。
4Gamer:
なるほど。
植田修平氏:
で,最後の四つめがゲーム輸出分科会です。これはすでに昨年から動き出していまして,例えばJETRO(日本貿易振興機構)さんの支援を受けて,東南アジアの国にゲームを輸出するための活動として展示会に出展したりしています。現在のところ実例はタイだけですが,それ以外の国/市場へのアプローチも考えています。
4Gamer:
公式サイトで報告されていた,GC Asiaへの出展などですね。
植田修平氏:
オンラインゲームの場合,韓国からライセンスを買ってきて日本でサービスするという流れがまずありますが,最近では日本で作ったゲームを韓国や中国でサービスする,東南アジアでサービスするといったケースも,かなり増えてきています。
今後国産ゲームはどんどん増えてくると思いますが,そういった場合,マーケットは日本だけではありません。我々が考えるべきは,グローバルな視点でより大きなマーケットを目指しておりますので,その部分の支援をJOGAとして,あるいはJETROさんなどと連携しつつ,コンテンツを売り出していくことのサポートをしたいと思っております。
日韓に共通する伸び悩みは,新機軸の不足ゆえ?
なるほど,ここまでの四つがJOGAの活動として説明される部分ですか。では,順番にそれぞれについてお聞きしていきます。まず,マーケットの分析についてですが,「運営や方針を含めて」オンラインゲームサービスが市場に問われているという部分については,どんなことが論点になりますか?
植田修平氏:
オンラインゲームはパッケージ販売と違って,継続ビジネスです。面白いゲームが出来て人が集まったとしても,1か月で飽きられてしまうと,なかなかビジネスが成り立たない。それはジャンルによって違う部分もあって,ずっとい続けてくれるゲームもあれば,ある程度楽しんだら次の作品に移ってよい,というゲームもあります。このあたりは,ゲームデザインの問題でもあるわけですが。
そのあたりの見極めが,十分にできていない会社さんがいらっしゃるというのも,残念ながら現実です。
4Gamer:
そうですね……我々から見ていてちょっと悲しく思えるのは,会社単位であれ作品単位であれ,イヤな意味でファーストイン・ファーストアウトな例が増えてきてしまったことです。つまり,続くサービスだけが続く。これはどう考えても,市場全体が伸びたり縮小したりすることとは別ですよね。新規参入業者が,市場に跳ね返されちゃっているといいますか。
植田修平氏:
ええ,それはあると思います。固定ファンを押さえたゲームサービスは,運営方法さえ誤らなければ,ある程度継続できる。いまサービス中止にいたってしまう作品を見ていくと,簡単にスタートさせて,あっさりと中止してしまう。そういう例が多かったように見受けられます。
4Gamer:
そうかもしれません。
植田修平氏:
そのあたりはサービスの仕方,もしくはタイトルの選別/開発において,オンラインゲームビジネスの仕組みを,きちっと理解されていない場合が多かったのではないかと,個人的には思います。
4Gamer:
ただ,コミュニティの維持を前提とした継続ビジネスは,裏を返すと先行者メリットが強いビジネスですよね。あるジャンルで大きなヒットが生まれたあと,極論するともうそのジャンルには新規参入がいらないかもしれない……。
市場に後から入る場合であればあるほど,独自の切り口や新しい方法論が必要とされて,それが次第に高いハードルになっていく気がします。
植田修平氏:
そうですね。現状のユーザーさんからすると,やはり現状のコンテンツより魅力的なものが出ない限り,新しいところには移りにくいということがあると思います。
4Gamer:
プレイヤーさんにしてみれば,当然そうですよね。
植田修平氏:
これは日本も韓国も同じ状況だと思うのですが,昨年韓国では,人気タイトルの変動がほとんどありませんでした。いろいろなゲームが開発され,サービス開始されていましたが,新しい成功事例はそれほど多くなかった年でもあります。
4Gamer:
そう思います。
植田修平氏:
やはりそれは,作品に新しい切り口が見いだせず,どれもビジュアル的にはきれいだけれども,ゲーム性自体は似たり寄ったりというか。
4Gamer:
何かの追随作が多いですよね。
植田修平氏:
そうなんです。なので,それが(ヒット不作の)大きな原因であると思います。実際日本のオンラインゲームも,現状半分くらいが韓国産ゲームですから,同じような状況が起きているのかなあと。
4Gamer:
昨年の韓国では,大型MMORPGが軒並み不調で……。
植田修平氏:
そうですね。
4Gamer:
それがまた,目立ったのかもしれませんけれど。一方でオンラインFPSとしては,比較的新しいタイトルが勃興していたりといった動きはあるわけですし。違うゲームジャンルに進出すれば,反応が違うといった例になるでしょうね。
……当日,統計に基づいて説明するのは,タイトル数や継続状況ということになりますか。
植田修平氏:
そうです。
JOGA推奨のセキュリティソリューション実現を目指す
では,次の話題である不正アクセス/RMTですが,最近新しい動きが始まったということでしょうか? もちろん,どちらも議論/対応は続けられている分野なわけですが。
植田修平氏:
いままでの動きは,どちらについてもメーカーごとの対応が主でした。不正アクセスに関して,きちんと決済会社とタッグを組んで動いていたかというと,そうでなく個々にという意味ですね。
それに対してJOGAでは現在,VISAさんと協力して取り組んでいます。オンラインゲームに限らず,VISAさんでの不正アクセス事例について教えていただき,それをオンラインゲームに当てはめて考えつつ,どういう対策が必要かを整理したり,VISAさんが用意している不正対策ソリューションの導入について検討したり,といったことです。
4Gamer:
信販会社さんと,そのセキュリティソリューションという話題でしばしば持ち上がるのは,信販会社さんが想定していたよりも多くの不正アクセスが生じてしまった場合,その損害をめぐってパブリッシャさんとの間で綱引きが起き得る……といったことですよね。そういったお話は,やはりありますか?
植田修平氏:
問題になる件数は多くないですが,それは実際に起こるみたいですね。そういう状況になると,信販会社さんから見た場合,あまり取り引きしたくない相手になってしまう。いったん売り上げが立っても,その何十%が不正アクセスかといった話になったらたいへんです。
それをきちんと未然に防ぐという意味でも,不正アクセス対策を強化したソリューションを,業界全体に啓蒙していく必要があります。
4Gamer:
そうですね,そこがまず原点といいますか。
植田修平氏:
あとは,いかに不正対策ソリューションを用意しても,その上を行く新しい不正が生じていくことは考えられますので,そのあたりはVISAさんなり,ほかの信販会社さんなりと密に連携をとっていく必要があります。
基本の部分として,情報共有がすごく大事なんですよ。というのも,何らかの不正行為が行われたときに,その被害を受けた会社がきちんと対策を講じても,たいていの場合,次は別の会社のゲームサービスがターゲットとなっていくからです。その意味で,互いに連携をとるだけでも,被害はかなり抑えられます。
4Gamer:
背後関係が経済事犯だったりすると,どのゲームサービスからふんだくっても同じですからね。狙えるところはどこでも狙うから,みんなで一斉に駆除しないといけないというか。
植田修平氏:
そうなんですよ。対策していないところに,どんどん行っちゃいますから。全体に対するアクションは協会だからできる部分でもあるので,そこを強化していきたいですね。
4Gamer:
そうすると,この分科会の機能は,情報を持ち寄ったうえでフィードバックする,情報交換会であり勉強会であると。
植田修平氏:
そうです。そしていずれ,何らかのソリューションを入れるとなったときに,「JOGA推奨」が付いていれば,ある程度の安全が確保されているというような形にしたい。そうすれば新たに参入した会社さんなども助かるはずです。というのも,不正アクセスが多いと,なかなか新しい課金システム提供/信販会社さんとの契約に到らないというケースがあるようなのです。
4Gamer:
ああ,なるほど。契約時にすでに問題になると。
植田修平氏:
そこで,JOGAが推奨するものが入っていることで,ある程度の信用が確保されるという形に,最終的には持っていければと。
4Gamer:
認定,ないし信頼の付与に持っていきたいわけですね。
ゲームならではの可能性を追求するゲーム内広告
続いてゲーム内広告のお話なのですが,これはJOGAでまとめた成果が,いったいどんなものになるか,やや想像しづらいのですが。公式サイトにも「モデル」とありますよね。
植田修平氏:
ここの部分について,協会としてどうこうというのは難しいと思っています。というのも,メーカーの利害関係と代理店の利害関係について,平行線の部分もあるからです。
ですので,これはJOGAとして足並みを揃えて取り組むとなると,どうしても時間がかかってしまいますから,お互いのニーズが合った段階で実行に移したほうがよい。モデルケースというか,トライアルを重ねていくなかで,それぞれに将来性があるかどうかが分かってくるのだと思います。
そこで,JOGAとしては橋渡し役になり,その中でニーズがマッチするパブリッシャさん,代理店さん,クライアントさんには,どんどんやってくださいと。
4Gamer:
まさしくトライアルだと。
植田修平氏:
ええ。そして対立する場面も出てくるわけです。例えば「ゲームの世界観を壊す」だとか。でも,ある広告手法がマッチするかは,ゲームごとにばらばらなんです。そこで強制力や統一性を持たせる必要はないので――
4Gamer:
うまくいく事例を蓄積していけばよいと。そうすると,事例の積み上げや,代理店サイドのオファーのリストであるとか,そういう形になるのですか?
いまはその前の段階ですね。広告代理店さんのニーズとパブリッシャさんのニーズが,ようやく互いに理解できるようになってきたかな? というところです。
4Gamer:
ヒアリングの段階ということですか?
川口洋司氏:
ヒアリングの次の段階ということです。意識を摺り合わせて,次の段階に進もう,という。代理店さんがメディアに求めるのは,より媒体効果の高いものですし,そのメディアを担うパブリッシャさんとしては,プレイヤーさんのことを第一に考えています。
その部分の摺り合わせに,時間がかかったという状況ですね。
4Gamer:
ゲームごとの世界観の“強度”とか,ゲームシステムに依存する部分が大きいでしょうしね。具体的なやり方については。それと,いささか重い課題だと思いますが,効果判定についてはどうお考えですか?
植田修平氏:
ゲーム内広告をどういう商品として売り出していくかというところで,これも議論が分かれるところでして。まだ「こうしていきましょう」という合意は出来ていないんですけれども,メディアとして捉えた場合はWebサイトと同じで,どのくらいのインプレッション数があって,どのくらいのユニークアクセスユーザーがいて……というような数字が欲しいと。
4Gamer:
そこは一つ,分かりやすい話ではあります。ただその測定は,たいへん難しいですよね。
植田修平氏:
ええ。そこには測定技術の問題がまずあります。しかし一方で,ゲーム内広告の価値を計る手段が,そういった見せ方でよいのかという,より根本的な議論もあるわけです。
4Gamer:
効果判定の方法が,本当にビュー測定レベルでよいのですか? というお話ですね。
植田修平氏:
我々のゲームが発揮する広告価値が,単に見られた回数でよいのか? そういう主張の仕方でよいのかという話も,議論の一つです。
ここからは私見になりますが,ゲーム内広告を単に看板みたいに見せる方法もあります。それは街中のビルボードと同じく,背景に埋もれているものです。その一方で,プレイヤーさんが欲しがるアイテムとして広告要素を組み込むという方法もあります。
4Gamer:
確かにどちらも実例がありますよね。
植田修平氏:
そうです。そしてそれぞれでプレイヤーさんの意識はぜんぜん違ってくるのです。背景として見えるものと,意識して買うものの広告価値は,ページビューやインプレッションのように一律で計れるものなのか? というところがあります。
4Gamer:
そうですね。かといって,それぞれに加えるべき係数が,一律で弾けるという話にもならなそうです。
植田修平氏:
ですので,最初の打ち出し方,代理店さんやクライアントさんへの適切な見せ方というものに,すごく悩むのです。
良くも悪くもWebサイトは,クリック数やインプレッション数,単価いくらみたいな形になっているじゃないですか?
4Gamer:
はい。数値に還元できるということを,出発点にしてしまっているところがあります。
植田修平氏:
だからクライアント側からすると,コストパフォーマンスが見えやすい。一方,雑誌やテレビ,街の看板もそうですが,こちらは費用対効果が分かりづらい。そういったものもあるじゃないですか。
4Gamer:
広告の世界につきまとう曖昧さ,ですね。でも,数値化できたからといって,何かが客観的に計れたとは限らない……。
植田修平氏:
ですから,どこに価値を求めるかが,出発の段階ではすごく大事なところではないかと思っています。各代理店さん,各パブリッシャさんの意向も違いますので,まずは論点を整理していったほうが,のちのちマーケットが大きくなったときに,非常に意味のあるものになるかなあと。
4Gamer:
では「インゲーム広告モデルの実現」と公式サイトにあるのは,どういった手法がどんな価値を持ち得るかという,(定量的でなくて)定性的な分析だと考えてよいのでしょうか?
植田修平氏:
ええと,いまのはだいぶ私の見解が入ってしまっていますが……。
でも,だいたい論点はそういったところかと。いまのWeb広告とも違った,オンラインゲームに合った広告モデルを模索していきましょう,ということですから。
4Gamer:
単なるバナー広告と――
植田修平氏:
同じ価値にして,本当によいのだろうか? ということです。
設立から1年のタイミングで,成果を発表
4Gamer:
次なる話題は人材育成と求人ですが,会社説明と人材マッチングというお話でしたね。人材をめぐる課題は,まずもって求人面にあるという感じですか?
植田修平氏:
そうですね。みなさんいま何で悩まれてます? と聞いてみると,人材確保が非常に難しいという話が,一番多く出てきます。
とくに,ゲームマスター(GM)と技術者が多いようです。
4Gamer:
どちらも一朝一夕には,養成できなそうですね。
植田修平氏:
先ほども触れたとおり,オンラインゲームは意外と職種が多岐にわたります。作品開発を行っているところであれば,もちろんプログラマーがいますが,開発を行わないところでも,サーバー周りやネットワークのエンジニア,データベース設計者,Webプログラマーやデザイナーなど,かなりの種類の技術職を要します。
もちろんそれとは別に,きちんとビジネスモデルを構築できるマーケッターやプランナーなどといった人材が,圧倒的に足りません。
4Gamer:
それは,外からでもなんとなく感じることがあります。
植田修平氏:
このビジネスは,ITサービス業的な要素が強いもので,既存のゲームビジネスとも若干異なるものです。業界が出来てからも短いので,経験者がゴロゴロいるわけでもないですし。そのあたりが,各業者さん共通の課題ですね。
4Gamer:
では,パブリッシャさんが複数集まった合同説明会みたいなものをやっていくイメージでしょうか?
川口洋司氏:
その前の段階ですね。どんなやり方がよいのか検討しています。
植田修平氏:
例えばどこかの団体,学校などから,インターンの学生を募集して,夏休みの間,興味のある会社さんに派遣し,体験していただくとか,そういったことも今後やっていこうと考えています。
4Gamer:
コンソールゲーム業界を含めて言うと,ゲーム業界に入りたいと思う人はけっこういると思いますが,どんな人材が求められているかは周知されていないですし,認識差が大きいかもしれませんね。
植田修平氏:
実際,JOGAに加盟されている会社さんには,開発会社さんもおられますが,パブリッシャ的な会社さんが多いわけです。「ゲーム開発」を行うことよりも,サービスに寄った仕事のほうが現実として多かったりします。そうした人材が,実際に求められているわけです。
4Gamer:
取り組み項目の最後である,ゲーム輸出分科会関連ですが,これは今後出るトレードショーを増やしていくとか,そういった感じですか?
そうですね。IP(知的資産)を持っている会社さんと,これから伸びるマーケットを結びつけることを,積極的にサポートしたいと思っています。
4Gamer:
トレードショーに商談ブースを構えるのは,通常各企業さんですが,そこでJOGAが果たす役割はどんなものでしょう?
植田修平氏:
いえ,現在はJOGAでまとめています。これは出展費用も含めてです。
川口洋司氏:
タイのときはそうでした。JETROさんから紹介してもらったブース内にスペースを設けるという形で。
植田修平氏:
もちろん,展示会の性格や助成金によっても変わってくるのですが,各社の費用負担を抑えつつ参加していただけるように,ということです。
4Gamer:
GC Asiaへの参加が,その一例ということでしょうか。
川口洋司氏:
そうですね。JETROさんがブースを構えるため「どうですか?」とお誘いいただいたところで,何社かが出展した,というところです。
植田修平氏:
JETROさんだけじゃなくて,いまは台湾のTCA(台北市コンピュータ同業協会)や,韓国のKOGIA(韓国ゲーム産業振興院)と提携してますので,韓国の会社さんがパブリッシャを探しているときには,JOGA主催でマッチング商談会を開くとか,その逆とかといった形で,各国と協力し合っています。
4Gamer:
Taipei Game ShowやG★に,今後JOGAさんが参加することもあり得る,ということでしょうか。
植田修平氏:
それも可能性としてはあるでしょうね。具体的な予定はまだありませんが。
4Gamer:
JETROのお話が出たところで関連団体のお話なのですが,JOGAが最も深い関係を持つ官公署は,引き続き経済産業省 関東経済産業局ですか?
川口洋司氏:
もともと経済産業省産業クラスタープロジェクトの一環である首都圏のIT&コンテンツベンチャー支援ということで始めたオンラインゲームフォーラムが,JOGAの母体となっていますので。
4Gamer:
JETROさんとのつながりは,それら官公署からですか?
川口洋司氏:
タイでのイベント出展は,JETROさんから話が来て,それが関東経済産業局経由でこちらに伝えられたものです。まあ,ケース・バイ・ケースです。
4Gamer:
なるほど,先方からのアプローチもあるわけですね。ところで,今年はコンソールのオンラインタイトルがいよいよ各所で形になりそうで,OGC 2008でもSCEさんがPLAYSTATION HOMEについて講演したりします。JOGAさんのいわばカバーエリアが,今後そうした部分に広がっていく可能性はありますか?
川口洋司氏:
もともと,IT&コンテンツベンチャーの任意団体からスタートしていますから,その色は強いですし,PCゲームサービス会社の団体という色もけっこう強いと思います。
植田修平氏:
そうですね,どちらかといえばやはり,PCオンラインですね。我々の基盤としては。ダウンロードクライアントとアイテム課金の会社さんが主流ですから,ビジネスモデル面で見ても,かなり違いがありますしね。
4Gamer:
あくまでPCオンラインが主体と。では,今年の活動に関してですが,ゲーム内広告や不正アクセス対策,あるいは人材確保といった分科会ごとの活動成果について,年内のどのあたりで形にするご予定でしょうか?
植田修平氏:
それぞれ,とくに期限を定めているわけではないのですが,さしあたり設立後1年のタイミングとなる6月には,なんらかの形でのアウトプットを予定しています。
4Gamer:
おお。そうなるとJOGAからさまざまな発表がなされるのも,それほど遠くないわけですね。ともあれ,まずはOGC 2008で講演を聴きに来てくれる,オンラインゲーム業界関係者さん達や,関心を持つ方々に向けて,最後に簡単なPRをお願いします。
植田修平氏:
JOGAではマーケットの拡大と認知向上に,大きな課題として取り組んでいきたいと思います。オンラインゲームはいままで,ポジティブかネガティブかという点で,ネガティブな話題のほうがニュースになりやすい傾向がありました。
とはいえ,ここ数年で急成長している業界ですし,ビジネスモデルとしても非常に面白い取り組みをしている業界でもあると思います。競争が激しくなっているのは事実ですが,グローバルな市場を見据えており,今後とも大きな成長が見込める魅力的な業界だと思っています。
互いに力を合わせて,世界に打って出られる,健全で良い業界にぜひしていきたいと思いますので,ファンの方も含めてぜひご協力をお願いします。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
講演予定内容全般にわたって,駆け足のインタビューとなってしまったが,JOGAの現在の取り組みについて,その概要はご理解いただけたかと思う。
マーケット全体の成長ペースと,新規参入タイトル数を見比べたとき,運営方針にまで考察が及ぶという,いささかシビアな市場分析もさることながら,今後の取り組みとして楽しみな話題はゲーム内広告だろう。
インタビューにも表れているとおり,植田氏はゲーム内広告が持つ可能性について,たいへん積極的な展望を持っている。Webメディアのバナー広告のように語られるべきでないというのも,オンラインゲームが持つプレイアブルメディアとしての可能性が,さまざまに探求されるべきだという持論の表れなのである。
そんな彼が主宰するJOGAが,今後どんな考えを提示していくのか。ある程度明らかになるのは今年6月近辺のようだが,それに先立って,取り組みと考察の内容を統計に基づきつつ語るOGC 2008での講演を,楽しみに待ってほしい。講演本番は3月14日の第3講,会場Cで12:15PMから1:00PMにかけて行われる。
- 関連タイトル:
Second Life
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Second Life(Macintosh)
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