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[AOGC2007#09]「LOTRO」を国産/韓国産MMORPGと同じスタートラインに引き上げる,さくらインターネットの戦略とは?
笹田氏は最初に,さくらインターネットという企業と,「ロード・オブ・ザ・リングス アングマールの影」(以下,LOTRO)の紹介をした。
約6000台のサーバー構築/運用を行うホスティング事業を基盤とした,国内最大のバックボーンを誇るインターネットサービス事業者 さくらインターネット。国内のインターネット通信の,約10%のアクセスシェアを保有しているというのだから,その地力は相当なものである。
同社はその強みを生かし,2006年8月には,オンラインRPG「ダンジョンズ&ドラゴンズオンライン:ストームリーチ」(以下,DDO)の正式サービスを開始し,オンラインゲーム市場へ,力強い第一歩を踏み出した。このあたりの経緯や詳細については,「こちら」や「こちら」のインタビュー記事に明るい。
そんなさくらインターネットの次なる一手が,LOTROだ。全世界で約1億部の発行部数を誇る名作ファンタジー小説「The Lord of the Rings」(邦題 指輪物語)の世界が忠実に再現された,期待の大作MMORPGである。開発は,DDOと同じくTurbine社が手がけており,世界観の再現には,トールキンエンタープライゼスも協力しているというのだから,世界中の原作/ファンタジーファンがこぞって注目するのも納得と言えよう。
また笹田氏は,欧米産タイトルが日本でブレイクしなかった「理由とされてきたもの」は,キャラクターデザイン/課金体系の問題だと語った。すなわち,長年のアニメ/漫画文化が発達した日本では,欧米タイトルのリアリスティックなデザインは受け入れられず,月額課金モデルのハードルが高かったため,多くのプレイヤーを獲得できなかったというわけだ。
しかし,それはあくまで不振の「理由とされてきたもの」であり,欧米タイトル不振の本当の理由は,「コミュニティの生成がうまくできなかったこと」に起因していると,笹田氏は考えているようだ。
その際に引き合いに出された「オンラインゲームをプレイするにあたり,大事だと思うこと」というアンケートの結果では,友人と一緒に楽しむことが一位となっており,また「あなたが,そのオンラインゲームを最初に楽しいと思ったのは,どんなときですか?」とのアンケートでは,パーティプレイやギルドといったゲーム内コミュニティを通じて,固定の友人ができたことが一位となっていた。
ではなぜ,欧米タイトルではコミュニティの形成がうまくいかなかったのか。それに対し笹田氏は,「コミュニティ形成時期と日本語版発表時期とのタイムラグ」という解答を用意していた。
まず,英語版のMMORPGが発表されたとき,日本のコアプレイヤーらが中心となって,「日本語」のファンサイトを中心とした「英語版」のコミュニティが発達していく。一方,そのMMORPGの日本語版は,英語版の発表から数か月〜数年後という大きなタイムラグを経てリリースされるわけだが,日本語のコミュニティを育んできた多くのコアプレイヤーは,英語版のサーバーで手間ひまをかけてキャラクターを育ててしまっており,日本語版へ移住は難しい。
そうなると,「英語版」と「日本語版」を遊ぶプレイヤー間に豊かなコミュニティが育ちにくく,情報交換のハードルが高くなり,日本語版のゲーム内世界では,初心者を牽引するコアプレイヤーが足りなくなってしまう,というわけだ。
それを言ったら,韓国産MMORPGだって同じことではないか,韓国産MMORPGはタイムラグがあっても人気があるよ? といった反論もあるかもしれない。しかし,韓国産MMORPGの韓国語版をプレイするには,多くの日本人にとって英語よりも難しい,韓国語を理解する必要があるし,場合によっては韓国語版のOSが必要になることもある。さらに,韓国語版のオンラインゲームで会員登録をする際には,韓国の国民番号が必要だったりする。
つまり,韓国語版がプレイしづらい状況があったからこそ,ローカライズのタイムラグが発生せず,ゲームを遊びはじめるタイミングと,日本でのコミュニティ形成のタイミングが同調したため,スムースな会員獲得/コミュニティ形成の流れが生まれたというのだ。
笹田氏は,そういった状況を踏まえたうえで,LOTROの世界同時発売を決定したのだという。LOTROは,アメリカでの正式サービスインから,遅くても数週間後に日本語版をサービスインさせる予定で,その数週間のタイムラグは,日本語版によるオープンβテストでフォローするという。つまり,英語版LOTROのコミュニティが日本で形成される前に,日本語版をプレイできる環境を提供してしまおう,という戦略である。
それにより,日本語版LOTROは,ライトユーザー/コアプレイヤー/原作ファンなど,幅広い層をコミュニティに取り込み,ゲームを通じて成長するプレイヤーと,プレイヤーを通じて成長するコミュニティを,見事にシンクロさせられるだろうと,笹田氏は予想している。そして,LOTROの世界同時期発売戦略によって,欧米産オンラインゲームは国産/韓国産オンラインゲームと同じスタートラインに立つことが可能になるだろうとし,講演の結びとしていた。
講演には,とくに刺激的な意見が含まれているわけでもなく,欧米産MMORPGに明るい人なら,誰もが一度は考えたことがある内容だったに違いない。しかし,欧米産タイトルの不振を,キャラクター/ビジネスモデルという安易な固定観念で理由付けするのではなく,一歩踏み込んだコミュニティ形成論に発展させた点は見事であった。さすが,熱烈な洋ゲーファンでもある笹田氏,といったところだろうか。
さくらインターネットの戦略により,LOTROは日本に根を張ることができるのだろうか。日本語版のサービスが終了してしまった北米産の名作達と同様,ゲーム自体の完成度はかなり高いと思われるLOTROだけに,その展開からは目が離せない。一ゲームファンとしては,祈りにも似た想いを胸に,まずは日本語版の登場を待ちたいところだ。(大路政志)
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