業界動向
奥谷海人のAccess Accepted / 第218回:さよならデューク 〜 「Duke Nukem Forever」の歴史
10年以上にわたって開発が続けられていたことから,「Duke Nukem For-Never」とまで呼ばれ,もはやベテランゲーマーの記憶からも消えつつある「Duke Nukem Forever」の開発元3D Realmsが,突然閉鎖された。ファンだけでなく,業界関係者や働いていた開発者達にとっても突然の出来事だったらしい。そこで今回は,3D Realmsというメーカーやその作品を振り返ってみる。
3D Realmsの公式サイトには,「Goodbye」という文字と共に開発チーム全員の集合写真が掲載されているだけ。冗談好きのメーカーであるため,本当に閉鎖してしまったのかどうか理解できなかったファンも多いようだ。中央に座るのがジョージ・ブルウサード氏で,ここに写っていないコミュニティマネージャーのジョー・シーグラー氏が撮影した写真であるらしい
北米時間の5月6日,アメリカの独立系ゲーム開発会社,3D Realmsが突然閉鎖された。在籍していた社員も,ほとんどが同日中に解雇されたという。
3D Realmsというメーカーの名前は,ベテランのPCゲーマーや海外ゲームファンなら一度は聞いたことがあるはずだ。同社を有名にしたのは,なんといってもFPS黎明期の1996年に登場した「Duke Nukem 3D」,そして,その直後にスタートし,結局なんと足掛け13年間にもわたって開発中だった続編,「Duke Nukem Forever」だろう。
Duke Nukem Foreverの軌跡については,2004年に掲載した本連載「すでに開発8年目に入った,あの名作について」でも紹介しているが,ここではまず,3D Realmsというメーカーについて詳しく紹介していきたい。
3D Realmsは,Apogee Softwareという社名で,1987年にテキサス州最大の都市ダラスに近いガーランド市で旗揚げされた。創設者は,最後の日までCEOを務めていたScott Miller(スコット・ミラー)氏で,デビュー作はHigh ASCIIで制作した「Kingdom of Kroz」。1991年には,のちに同社のプロデューサー兼デザイナーとして有名になったGeorge Broussard(ジョージ・ブルウサード)氏がそこに加わり,彼らの二人三脚が始まったのだ。
3D Realmsが開拓したビジネスモデルは,“シェアウェア”と呼ばれるゲームの無料配布だった。これは,ゲームの序盤だけがプレイできるものを店頭やBBS,そして周辺機器のパッケージにバンドルした形などで配布し,ユーザーが気に入ったなら,すべてプレイできるレジストレーションコードを購入してもらうという手法である。ミラー氏によって生み出されたビジネスモデルだが,レジストレーションコードが不正取引されたりなどで,あまり儲からなかったらしい。そのため,序盤の3分の1を無料配布し,完全版は郵送するというモデルに変更されている。いずれにしろ,この販売方法は業界で「Apogeeモデル」と呼ばれ,1990年代前半の北米PCゲーム市場に一石を投じることになった。
やがて3D Realmsは,「Commander Keen」や「Wolfenstein 3D」などのタイトルで知られたid Softwareをはじめ,Epic MegaGames(現Epic Games)やActivisionなどとも提携し,シェアウェア販売を拡大していった。
1993年にid Softwareから「DOOM」がリリースされた。id Softwareはコンビニエンスストアの「7-Eleven」などの新規流通チャンネルを開拓し,当時世界に存在していたMS-DOS搭載PCの約5分の1にインストールされた計算になる,約1600万本ものシェアウェアを配布したとされる。とはいえ,当時アメリカで学生をしていた筆者の記憶では,マウスやサウンドカードを購入するたびにDOOMのCDが添付されていたので,1600万本のうちかなりの数が重複していたのは事実だろう。
一方の3D Realmsは1994年,ただのブランド名だった3D Realmsを社名に格上げし,従来のApogeeはピンボールゲームなど,あまり流行らなくなったジャンルのブランドとして分離させている。前年の1993年にサイドスクロール型の「Duke Nukem II」を3D Realmsブランドでリリースしていたので,DOOMのライバルとなるであろう力の入った続編も,同じブランドから発売したほうがいいと判断したのだろう。
3D Realms閉鎖のニュースの後,いくつかのDNFの最新画像が公開された。Take-Two Interactiveは「Duke Nukem Forever」の独占販売権を獲得しているが「Duke Nukem」の商標権を持つのは3D Realms。公開された最新画像を見る限り,かなりの部分が完成している雰囲気のDuke Nukem Foreverをめぐっては,いずれややこしい話になりそうな気もする
1996年に誕生したDuke Nukem 3Dは,DOOMの競争相手としては最適だったかも知れない。詳しいことは,以前の記事でも紹介しているので割愛するが,DOOMをしのぐMODコミュニティのサポートや,「Duke Nukem 3D: Atomic Edition」で採用された「キャプチャー・ザ・フラッグ」モード,そしてTotal Entertainment Network(現EA Pogo.com)との提携によって開催されたプロゲーム大会など,FPSにおけるゲーマーコミュニティの隆盛は,3D Realms(そしてDuke Nukem 3D)抜きでは語ることができない。デュークという明確なヒーローが存在していたことから,一時は映画デビューの話も持ち上がったほどだった。
だが,渾身の一作となるなるはずだった続編,Duke Nukem Foreverは,結局その姿を我々の前に現すことなく,3D Realmsのまさかの閉鎖という形で終わってしまったのだ。
Duke Nukem 3D以来,「Max Payne」(2001年)や「Prey」(2006年)のようなタイトルのプロデュースという形で我々の前に登場してきた3D Realmsだが,肝心のDuke Nukem Foreverのほうは,内部のいざこざから生じた開発チームの崩壊や,何度となく行われたゲームエンジン/企画の変更などにより,開発は進まなかった。13年といっても,開発がストップしていた期間のほうが長かっただろう。本腰を入れて“現行”バージョンのDuke Nukem Foreverが制作され始めたのは,Preyのリリースが終わってからであるらしい。
閉鎖に至る詳細は今のところ明らかではないが,ウワサによれば,最近の経済不況の影響で急速に資金繰りを悪化させた3D Realmsは,Duke Nukem Foreverのパブリッシャになる予定のTake-Two Interactiveに500万ドル(約4億8500万円)の追加資金を要請したものの,それを断られたために経営が立ち行かなくなってしまった。以前,そのTake-Two Interactiveからの,Duke Nukemシリーズの版権を3000万ドル(約29億円)で購入するという提案を蹴ったことがあるだけに,なんとももったいない話というか,どうも時機を逸するような運命にあるメーカーらしい。
ここ最近,ようやくDuke Nukem Foreverの情報がいろいろと聞こえてくるようになり,コミュニティマネージャーのJoe Siegler(ジョー・シーグラー)氏も,あるファンサイトのインタビューに答えて開発が順調に進行していたことを話していた。多くのファンは,正式発表が近いことを感じ取り,やがて公開されるであろうプレスリリースやゲームイベントに思いを馳せていたはずだ。シーグラー氏は,3D Realms閉鎖の話が浮上した6日に公式サイトのフォーラムに登場し,「(あのインタビューを受けた)数日前には,何にも知らされていなかった」と話している。経営の停止は内部の開発者たちにとっても寝耳に水だったのだ。
だが,3D Realmsが閉鎖されても,Duke Nukemというブランドは残る。別のサードパーティが同シリーズをピックアップする可能性も含め,Duke Nukem Foreverが日の目を見るチャンスはまた残されているといえるだろう。DSやPSP向けのタイトルである,「Duke Nukem: Critical Mass」も,いずれDeep Silverからリリースされる予定だ。
以下は余談だが,非常にうがった見方をするなら,今回の閉鎖そのものが広報的な目的を持っていた可能性もゼロではない。
かつて,Duke Nukem ForeverやMax Payneなどの版権を,パブリッシャのGT Interactiveとの係争の末に勝ち取った3D Realmsは,Gathering of Developersという会社を設立してゲームのパッケージ販売にも乗り出そうとしていたことがある。このGathering of Developersが志半ばで倒産したとき,Duke Nukem Foreverの販売権を含む遺産を買収したのがTake-Two Interactiveだったのである。
そこで,Duke Nukem Foreverの開発もようやく軌道に乗った今,融資や販売に関して気まずい関係の続くTake-Two Interactiveと関係を改めるため,3D Realmsを意図的に解散し,いずれ再スタートを図る。今回の閉鎖が,そんなアクロバットである可能性も否定することはできないのだ。
ひょっとしたら,“地球最後の希望”であるデュークが,数か月後にひょっこり帰ってくる……。彼ならそれくらいやりそうだなと思いつつ,もうしばらくは様子を見ることにしよう。
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