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印刷2009/05/22 14:36

業界動向

奥谷海人のAccess Accepted / 第219回:どうなるデューク

奥谷海人のAccess Accepted

 先週,「Duke Nukem Forever」を13年にわたって開発していた3D Realmsが閉鎖した話題をお伝えしたばかりだが,予想どおりというかなんというか,Duke Nukem Foreverに関係する企業間で激しい攻防戦が繰り広げられようとしている。3D Realmsが「我々が閉鎖するというのは間違った情報だ」とまで言い出す状況で,Duke Nukem Foreverの所有権や開発など,どのように転ぶのかがまったく分からなくなりつつあるのだ。そんなわけで,今回は前回に引き続き,欧米ゲームビジネスのちょっと泥臭い部分にスポットライトを当ててみよう。

第219回:どうなるデューク 〜 マッチョヒーローを巡る攻防戦が泥沼化

 

販売元Take-Twoとの間で裁判沙汰に発展
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それがMS-DOS向けのゲームだったことに驚きさえ感じるが,1996年にリリースされた「Duke Nukem 3D」は,id Softwareさえ遠慮がちだったMODサポートやコミュニティの育成など,今あるFPSの原風景を確立したタイトルといえる。警官殺しやトップレスダンサーなど“暴力ゲーム”としての悪名も高かったが,これらの要素はラスベガス周辺を舞台とするDuke Nukem Foreverにも受け継がれる予定だった

 3D Realmsの公式サイトに別れを告げる「Goodbye」という文字が掲載されたのは,北米時間5月8日のことだった。当初,メッセージの真意を測りかねたファンの間でさまざまなウワサが流れたが,同社のコミュニティ・マネージャーである,Joe Siegler(ジョー・シーグラー)氏が「ウワサは本当です」とフォーラムに書き込んだことで,3D Realmsの閉鎖は“公式”のものとなったのだ。
 その前後の模様や,そこにいたるまでの経緯などに関しては,先週の当連載「さよならデューク 〜 長いような短いような「Duke Nukem Forever」の歴史」に詳しく書いたとおりだ。表向き,閉鎖の理由は,ゲームの開発はおろか,このところサードパーティ製タイトルのプロデュースさえ行なわなかった3D Realmsが,経営を行き詰まらせたためとされている。

 さて,前回の記事の最後に,Duke Nukem Foreverを期待するファンの一人として「デュークが,数か月後にひょっこり帰ってくるかもしれない」という希望(というか憶測)を付け足した筆者だったが,その後の動きから,どうやらここしばらくはかなわない話になったようだ。  というのも,Duke Nukem Foreverのパブリッシャ(になる予定)だったTake-Two Interactiveが5月11日,ニューヨーク州最高裁に訴状を提出し,3D Realmsを相手に訴訟を起こしたのである。訴状によると,Take-Two Interactiveは,それまで販売権を保有していたGathering of Developersから2000年にDuke Nukem Foreverを含む資産を買収しており,その中から開発資金として1200万ドル(約11億5000万円)を3D Realmsに支払ったが,3D Realmsは意図的に開発を遅らせて,Take-Two Interactiveに損害を与えたという。
 加えて,それらの権利は3D Realmsがなくなったあとも変わらずTake-Two Interactiveにあるとしたうえで,Duke Nukem Foreverのソースコードやアートが外部に漏れないよう,同社の幹部達に「接触禁止」(退社した社員に対して会社の開発機材やアセットの持ち出し/再利用を禁止するもの)を求めている。これはつまり, 3D Realmsの倒産によって一切の契約が反故になったことを利用した“元”幹部達が,勝手にDuke Nukem Foreverの権利譲渡などを行うことを,Take-Two Interactiveが警戒していることのあらわれだ。

 これに対して3D Realms側は,5月16日付けでプレスリリースを出し,「Take-Two Interactiveから1200万ドルを受け取ったことはない」と,裁判で争う構えを見せている。このプレスリリースによると,1998年の時点でGT Interactiveから40万ドル(約3900万円)を開発資金として受け取った以外, Duke Nukem Foreverの制作およびアナウンスされていない新作の販売権として,2008年夏に250万ドル(約2億4000万円)を受け取っただけだと反論している。これまでにかかった2000万ドル(約19億円)にもおよぶ開発資金のほとんどは,「Max Payne」や「Prey」などのプロデュースによって得た自己資金で賄っているという主張だ。
 興味深いのは,このプレスリリースの中で「我々が倒産したというのは誤解だ」としていることだろう。オフィスを閉鎖したのは事実だが,その後すぐにコアメンバーで再結成したというのだ。公式サイトが通常どおり運営されているばかりか,「Goodbye」のメッセージを書き込んだはずのシーグラー氏自身も頻繁にフォーラムへの書き込みを続けており,一時閉鎖が「版権を確保するための試み」であり,再結成は「訴訟の根拠を失わせるための応急処置」なのではないかとする見方も浮上している。

 

今回の騒動で思い出す,過去の例とは
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Gathering of Developers(GoD Games)というと,E3で会場の真ん前の駐車エリアを借り切った独自イベントを行い,スクールガール風のセクシー衣装を着せたモデルをはべらせてのプレス発表会を筆者は思い出す。同社は,たった2年で独立を失い,2004年にはTake-Two Interactive内のブランドとしての役目も終えて,歴史の中に消えていった。写真の右の人物は,ちょっと嬉しそうなシーグラー氏。2001年の写真だ

 ここで思い出されるのが,前回の記事でも少しだけ触れたGathering of Developersに関する顛末だろう。
 Gathering of Developersは,「開発者のための,開発者による販売レーベル」として,現在Gamecock Publishingを運営するMike Wilson(マイク・ウィルソン)氏や,Harry Miller(ハリー・ミラー)氏を中心に1998年に結成された。ここに,3D Realmsをはじめ, Epic MegaGames(現Epic Games)やPopTop Gamesといった開発会社6社が集まり, Electronic ArtsやGT Interactiveといった巨大な流通網を持つ既存のパブリッシャに頼らないという理想を持った独立系販売会社が誕生したのだ。まだデジタル流通など夢にも思えなかった当時としては,非常に革新的な試みだったといえるだろう。

 GT Interactiveについても説明しておこう。この会社は1993年に突如ゲーム業界に登場した販売専門の会社だが,いきなりid Softwareの「DOOM」を射止めて大成功を収め,初年度に設立資金の10倍に相当する収益をあげている。1995年にはNASDAQに上場し,アメリカ最大のメガストアチェーン,Walmartから専属流通権を獲得。これはつまり,GT InteractiveをとおさなければWalmartでゲームが売れないということであり,まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだった。
 この頃から盛んに企業買収を繰り返していたGT Interactiveだが, 1997年に「Civilization」などで知られたMicroproseを,2億5000万ドル(約240億円)という前代未聞の巨額で買収。しかし,全額を払い終える前にネットバブルが弾けて一気に株価が暴落し,資金繰りに行き詰まるという,なんともあっけない末路をたどった。

 以上から,GT Interactive弱体化の間隙をつくように,Gathering of Developersが結成されたことが分かる。Epic Gamesの「Unreal」(1998年)などが,GT Interactive最後期に販売したタイトルに当たるが,問題なのは,当時「そろそろ発売されるだろう」とされていたDuke Nukem Foreverの行き先だった。水面下でどういう話が交わされたのかは分からないが,最終的には,GT Interactiveが所有権を半ば放棄し,Gathering of Developersからリリースされることに落ち着いたのだ。
 ところが,「開発者のための販売会社」だったGathering of Developersは,開発者側の権利を認めすぎたため,発売予定タイトルの開発遅延に苦しめられることになる。2000年には経営の悪化が表面化し,同社はTake-Two Interactiveの傘下に入ることになったのだ。つまり,このときの買収資金がGathering of Developersに支払われたことになるのか,あるいはGathering of Developersを構成する3D Realmsなどに払われたのかという判断によって,今回の訴訟の行方は変化するだろう。

 Gathering of Developersの話を長々としてしまったが,今回の騒動と前後して誕生しているのが, Radar Groupという会社だ。Rader Groupは,3D Realmsの創設者であるScott Miller(スコット・ミラー)氏が2008年夏に設立した会社であり,知的財産の管理を主な業務としている。当然,映画版Duke Nukemのマネジメントや,ゲームソフト販売の仲介的なことを行うための起業だろう。
 このRadar Groupが,GT InteractiveからDuke Nukem Foreverを勝ち取ったGathering of Developersと重なって見えるのは,筆者だけではあるまい。実際,3D Realmsがプロデュースした「Prey」の新作がRadar Groupからリリースされる予定になっていたりと,この二つの会社は非常に近しいようだ。今回の騒ぎに関してミラー氏が声明を出すなど,3D Realmsの業務にも創業者として関与し続けており,裁判の行方によっては今後,Radar Groupの名前が頻繁に登場することになるかもしれない。

 GT Interactive対Gathering of Developersだった前回と,Take-Two Interactive対3D Realmsで決定的に違うことは,パブリッシャであるTake-Two InteractiveがGrand Theft Autoシリーズの成功で豊富な資金を保有しており,落日だったGT Interactiveとは比較にならないほどの体力を持っていることだろうか。サードパーティを食い物にするといわれていたGT Interactiveと違い,Take-Two Interactiveの業界での評判は悪くはなく,開発会社と裁判沙汰になったといっても,評判が大きく落ちることはないだろう。
 今のところ,「3D Realmsが,Radar GroupレーベルでのDuke Nukem Foreverを販売しようとしていた」根拠は見えないが,今回の騒動を整理してみると,ゲームビジネスのいささか泥臭い側面が感じられる。
 この裁判は,少なくとも1年は続くという見通しで,それが決着するまではDuke Nukem Foreverの発売どころか新情報を得ることすらないはずだ。一番のとばっちりを受けたのは発売を期待していたファンなのだろう。

 

■■奥谷海人(ライター)■■
サンフランシスコ在住の4Gamer海外特派員。ゲームジャーナリストとして長いキャリアを持ち,多様な視点から欧米ゲーム業界をウォッチし続けてきた。業界に知己も多い。本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,連載開始から200回以上を数える,4Gamerの最長寿連載だ。
  • 関連タイトル:

    Duke Nukem Forever

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