業界動向
Access Accepted第541回:E3 2017取材を終えて。誰のためのゲームイベントなのかを考える
開催前に大手パブリッシャやプラットフォームホルダーのプレスカンファレンスが数多く行われ,メインイベント開幕時には早くも疲労感に包まれてしまうのが,最近のE3の通例であり,それはE3 2017でも変わらなかった。しかも,ライブストリーミングが当たり前になった現在,プレスカンファレンスもはやプレス向けイベントといえず,メーカー側もプレショウなどと呼んでいる状況だ。というわけで今週は,ゲームジャーナリストの立場から見たE3 2017を考えつつ,人気パブリッシャやタイトルについてのさまざまなデータを紹介したい。
一般入場者の受け入れにより,かつての華やかさが帰ってきた
その結果,昨年と比べて3割近くも多い6万8400人の入場者数を記録し,昨年は静かだったショーフロアには,再び賑わいが戻った。任天堂ブースとソニー・インタラクティブエンタテインメントブースの間にある通路は移動もままならないほどごった返しており,これほどの人をE3で見たのは久しぶりのことだった。
ピーク時には7万人が参加していたのだから,毎年,仕事で訪れる筆者にとってこの盛況ぶりは,どこか懐かしさを覚える光景でもあった。ただ,できることなら,ドイツのgamescomのようにショーフロアとビジネスエリアを完全に分け,ショーフロアでは,より余裕のある状況で,249ドルも支払って参加した一般入場者を歓迎するような形式にしてくれたほうが良かったのではないかと思う。あるいは東京ゲームショウのように,ビジネスデイを設けるのも有効だっただろう。
ちなみに,E3 2017で何よりありがたかったのは,多くの一般来場者がいたもかかわらず,入退場時のセキュリティチェックがほとんどなかったことだ。これまではバックパックのポケットを1つ1つ開けて,怪しいモノがないか確認し,ときにはIDの提示を求められていただけに,カメラやPCなどの重い機材を背負って歩くメディアには嬉しい変化だ。
さらに今年は,ショーフロアの喧騒を避けた多くのメーカーが,コンベンションセンターの2階にある部屋や,会場近辺のホテルでデモを見せるということも多く,それらの間を分刻みのスケジュールで移動している筆者にとって,出入りのチェックに手間取らなかったことは高く評価したい。とはいえ,関係者しかいなかった昨年までは,どうしてあんなに厳しくチェックされていたのだろうか。考えてみれば妙な話だ。
4Gamer「E3 2017」記事一覧
プレスカンファレンスの意義はあったのか
しかし,かつて重要な意味を持っていたはずの「新作タイトル発表の場」としてのE3がどうだったかといえば,筆者としては失敗だったと言わざるを得ない。それが顕著だったのは,直前に開催されたプラットフォームホルダーのプレスカンファレンスだ。
例えば,ソニー・インタラクティブエンタテインメントが日本時間の6月13日10:00に開催した「PlayStation E3 Media Showcase」は,例年になく短い1時間ほどのイベントになり,昨年までのようなインディ―ズタイトル推しもなく,2016年のE3や,同年末に開催された「PlayStation Experience 2016」で発表されたものが発表作品のほとんどを占めるという内容だった。「アンチャーテッド 古代神の秘宝」や「Destiny 2」「KNACK ふたりの英雄と古代兵団」といった作品を除いて,多くのタイトルが「2018年リリース」という味気ない状況で,昨年見せてくれたようなイケイケ感はなかった。
また,イベントでは最新のトレイラーが次々に流されていくばかりで,開発者が壇上に出てゲームのアピールをするといった場面はなく,ほぼ1時間にわたって映像の上映が続いた。最後には,SIE Worldwide Studiosのチェアマンであるショーン・レーデン(Shawn Layden)氏が登壇し,「皆さん,深呼吸しましょう。ジェットコースターのような1時間でしたね」と会場を盛り上げようとしていたが,あまり効果はなかったかもしれない。
本来なら新作タイトルをプレスや関係者にアピールするはずのこうした催しが,ただ映像を流すだけのイベントに変化してしまったわけで,筆者が会場で会った友人のジャーナリストによれば,海外ではこうしたやり方を「ソニースタイル」と呼んでいるという。こうなった理由はもちろん,ライブストリーミングの一般化にあり,「メディアと関係者向けのイベント」という体裁を取りつつも,重要視しているのはファンに最新映像を届けるということのほうなのだ。
現在は,ほとんどのパブリッシャがこのスタイルを踏襲しており,もはやメーカーは“カンファレンス”という難しい言葉は使わず,“プレショウ”(Pre-Show/事前のショウ)と呼んだりしている。これでは,関係者はイベントに参加する必要もなく,ホテルやオフィスでストリーミング映像を見ているだけでよくなってしまう。
筆者としては,パブリッシャやプラットフォームホルダーには改めて,E3におけるプレスカンファレンスの存在理由を考えてほしいと思っている。同時に,我々メディアも,現地へ行くことの意義をもう一度考え直す必要があるだろう。
ここ数年,ライブストリーミングしかないと批判を受けていた任天堂のイベントだが,それが非常に理にかなったやり方だと思えるほど,参加することが辛いプレショウが多かったのだ。
E3 2017で人気だったパブリッシャやタイトルは?
さて,今回のE3を語るうえで,キーワードの1つとなるのが「4K」だろう。Microsoftが,「Project Scorpio」としていた高性能Xbox Oneの名称を「Xbox One X」と発表したのはもちろんニュースだが,あの「Minecraft」が「Super Duper Graphics Pack」で4Kに対応することは多くのゲーマーたちを驚かせた。ソニー・インタラクティブエンタテインメントの新作の多くがPlayStation 4 Pro対応にしているほか,多くの独立系デベロッパが4K解像度をサポートするとアナウンスした。
もっとも,E3 2017を訪れた一般客の間で,「4Kゲーミング」はそれほど話題にならなかったような気もする。あくまでも個人的な印象だが,イベント終了後の海外メディアやSNSを見ても,「グラフィックスが4Kだから,このゲームは買いだな」というような意見はほとんど見られない。
大手パブリッシャが開発し,話題になったタイトルはおおむね4K解像度に対応しているが,一般の盛り上がりに欠けた理由としては,そもそも4Kのテレビが北米の家庭に浸透していないということが挙げられるだろう。ロンドンに本拠を置くリサーチ会社HIS Markitの見積もりによれば,2017年の4Kテレビの浸透率は,アメリカで18%,イギリスで14%,日本ではわずか6%だという。
4Kでしか楽しめないゲームは今のところなく,4K対応ゲームのために高額のテレビを買おうという消費者はそれほど多くないだろう。これは筆者に,VRゲームが市場に出る前の熱狂と,その後のいささか冷めた雰囲気を思い出させる。
会場の任天堂ブースには人が文字どおり押し寄せていたが,「Switchは4Kじゃないからプレイしない」と言うゲーマーはいないはずだ。4K解像度というだけで飛びつくほど消費者は単純ではないということだろう。
では最後に,リサーチ企業や動画配信サイト,SNSなどで発表された,「E3 2017のトレンドが見えてくるデータ」をいくつか紹介して,記事を終わりたい。
■Twitchで最も視聴者が多かったE3事前カンファレンスのストリーミング
■YouTubeで最も視聴された新作ゲームトレイラーは?
■Facebookで最も話題にあがったメーカーとゲームソフト
■Twitterのハッシュタグに使われた人気ソフトTOP10は?
■E3で最も評判の良かったメーカーはElectronic Arts
■E3で最も話題になったタイトルは「アサシン クリード オリジンズ」
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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