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Access Accepted第678回:姿を消していく欧米の中堅デベロッパ
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印刷2021/03/08 00:00

業界動向

Access Accepted第678回:姿を消していく欧米の中堅デベロッパ

画像集#001のサムネイル/Access Accepted第678回:姿を消していく欧米の中堅デベロッパ

 近年,欧米ゲーム業界では,「中堅」と呼ばれるデベロッパの買収が相次いでいる。コンシューマ機が新たな世代に突入し,開発費用の高騰が避けられなくなったことや,リリースされるタイトルが増えすぎて思ったようなヒットにならなかったなど,大手の傘下に入る理由はさまざま。とはいえ,自分が好きなタイトルのデベロッパが独立したスタジオでなくなってしまうことには,一抹の寂しさを感じる人もいるだろう。今週は,そんな欧米ゲーム業界の動きをまとめてみた。


Codemasters,Bethesda,そしてGearbox Softwareも買収


 Take-Two Interactiveが,Codemastersの買収をアナウンスしたのは2020年11月のことだった。入札により9億9400万ドル(約1047億円)で双方が合意したとするプレスリリースまで配信されたが,その直後から,「入札は終わっていない」という声がCodemastersの持株会社であるCodemasters Group Holdingsから聞こえ始め,12月にはElectronic ArtsとCodemastersが12億ドル(約1245億円)での買収に合意したことが報じられた(関連記事)。
 筆者を含め,この逆転報道にビックリした人も多いはずだが,Take-Two Interactiveはその後,「買収提案を撤回した」ことを発表しており,フライングだった可能性もありそうだ。いずれにせよ,Codemasters Group Holdingsの株主達が「売る気満々」だったことだけは間違いない。

アーケードライクな「二ード・フォー・スピード」のElectronic Artsと,リアリティの高さが売りのCodemastersのコラボレーション。果たしてどのような新作が生まれてくるだろうか
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 Codemastersは1986年にロンドンで設立された,ゲーム関連企業としては長い歴史を持つデベロッパで,これまで「Dirt」シリーズや「F1」シリーズのほか,「Colin McRae Rally」「TOCA」などのレースゲームのブランドによってゲーマーに広く認知されてきた。2019年にはマニアックなレースシミュレーション「Project CARS」シリーズを開発するSlightly Mad Studiosを傘下に収めるなど,経営は好調だと思われていた。

 しかし,同社が得意とするレースゲームジャンルを俯瞰すると,現在はPlayStationフランチャイズの「グランツーリスモ」と,Xboxフランチャイズの「Forza (Motorsport)」が双璧を成しており,Codemastersの「F1」「Dirt」シリーズや,Electronic Artsの「二ード・フォー・スピード」シリーズが2番手グループを形成,その下に「Project CARS」などのコアなタイトルが続く形だ。持てる技術の粋を集めて新作を出したとしても,ネームバリューで「グランツーリスモ」や「Forza Motorsport」に勝てるかどうか分からない。そこがゲームビジネスの難しいところであり,また面白いところであるとも言えるが,レースゲーム専業になりつつあったCodemastersに対して,株主達が危機感を抱いたのかもしれない。

 ちなみに,かつてさまざまなレースゲームシリーズを持っていたElectronic Artsだが,現在は,ほぼ「二ード・フォー・スピード」シリーズに収斂しており,それも2019年の「Need for Speed Heat」以降,新作が出ていない。リアルなモータースポーツのライセンスを取得したのは,「NASCAR 09」(2008年)が最後となっているが,今後,CodemastersのIPと開発ノウハウを活用してこのジャンルを巻き直し,ラインナップを強化してくる可能性は高い。

今はMicrosoftの傘下になったが,コンシューマ機版ではPlayStation独占でリリースされるArkane Studiosの「DEATHLOOP」。1日が終わる前に8人のターゲットをキルしなければならないという宿命を背負った暗殺者が主人公だ
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 またMicrosoftは2020年9月,Bethesda Softworksの親会社であるZeniMax Mediaを75億ドル(約7800億円)という高額で買収し,我々を驚かせた。
 詳しくは本連載の第661回「MicrosoftによるBethesda Softworksの買収を考える」で紹介したとおりだが,ZeniMax Mediaの中核となるのはもちろん,「Fallout」「The Elder Scrolls」シリーズを作り出す400人規模のBethesda Games Studioで,系列の8つのスタジオを合わせると総勢2300人という大企業並みの陣容を誇っていたが,このすべてがMicrosoftの傘下に入ることになった。買収前に(コンシューマ機では)PlayStation独占が発表されていたTango Gameworksの「GhostWire: Tokyo」とArkane Studiosの「DEATHLOOP」は,契約を尊重するとしてエクスクルーシブタイトルのままになっているが,その後は,Xboxフランチャイズにとって頼もしいファーストパーティになるだろう。


もはや「中堅」は消えていくしかないのか


 こうしたゲーム業界の大型再編は2021年に入っても続いており,2月初めにはスウェーデンに本拠を置くEmbracer Groupが13億ドル(約1400億円)で「ボーダーランズ」で知られるGearbox Softwareを買収したという発表があった(関連記事)。Embracer Groupは,THQブランドを買い取ったNordic Gamesの持株会社としてスタートしたが,2018年2月にヨーロッパの大手パブリッシャだったDeep Silverを傘下に持つドイツのKoch Mediaを買収して以降,急速な拡大を続けており,現在ではヨーロッパを中心に59のデベロッパと220のIP,そして120近い開発中タイトルを抱えるまでに成長。ヨーロッパを中心に,日本を含めた40か国で約5500人の従業員が働いているという。

2月5日には,Gearbox Softwareとの合併を告げるEmbracer Groupのオンラインプレスカンファレンスが行われた
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 Embracer Groupの体制は,THQ NordicとDeep Silverのほか,インディーズゲームを担当するCoffee Stain Studios,オンラインゲームを担当するSaver Interactive,モバイル分野のDECA Games,そして小規模なプロジェクトへの投資を行うAmplifier Investという6つのディビジョンに分かれている。トップダウンではない,ディセントラライズド(Decentralized。分権化)とも呼べるシステムが特徴で,Embracer Groupがゲームの開発に口出しすることはないという。

2020年のゲーム企業トップ10[All Top Everything(https://www.alltopeverything.com/top-10-biggest-video-game-companies/)より]。Embracer Groupの昨年の収益は5億4500万ドルで,業界17位だった
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 Gearbox Softwareとは株式の持ち合いで,形の上では買収でも「合併」という位置付けになっており,テキサス本社のほかカナダのケベックにある支部やパブリッシング部門など,合わせて500人の従業員は再編されることなく,7つめの部門として継続していくようだ。ただし,Gearbox Softwareにとってドル箱とも呼べる「ボーダーランズ」は,パブリッシャの2Kとの関係を今後も続けるとしており,Gearbox Softwareは新たなIPを成功させるという責務を負うことになる。

 Codemasters,Bethesda Softworks,そしてGearbox Softwareはそれぞれの長い歴史の中でファンに愛され続けてきたデベロッパであり,欧米ゲーム業界の規模で見れば「中堅」ながら,AAAタイトルを開発できるだけの力を持ったメーカーでもあった。しかし,以上のような最近の状況を見る限り,こうした中堅どころはもはや存在を許されず,ゲーム業界は大企業とインディーズデベロッパの両極に分化しつつあるように見える。

 高性能なツールが安価,もしくは無料で提供され,デジタル配信システムによる流通が普及した2007年頃以降,それまで以上に多くの人がグローバルにゲーム開発を行うようになり,年間にリリースされるタイトル数が爆発的に増えたため,ゲームビジネスは大きく変化した。
 大企業がラインを絞り込んで高騰し続ける開発リソースを超大型タイトルに注ぎ込む一方,アーリーアクセスで開発資金を賄いながら少人数で作る「Minecraft」のような作品がヒットし,短いサイクルで柔軟に開発・運営を行うモバイル市場が大きく発展したことが,中堅デベロッパの存続を難しくする要因に挙げられそうだ。

音信不通になっていたGearbox Softwareの「Brothers in Arms」シリーズの新作開発にも弾みがつくのだろうか?
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 細かいニーズに対応したさまざまなゲームが大量に作られる多様化した現在の市場では,それまでのような方法論でヒット作を作ることが困難になり,中堅デベロッパにとって多額の予算を投入したタイトルの失敗は大きな打撃となる。そんなプレッシャーと危機管理意識が大きな企業の傘下に入るという決断を加速させているようにも見える。Ubisoft EntertainmentやTake-Two Interactiveのような規模の大きな企業でさえ,ときどき買収話が聞こえてくるほど,ゲーム業界は変化が激しい。コンシューマ機が新たな世代を迎えた今,欧米ゲーム業界のドラスティックな再編は,まだしばらく続いていくことになるはずだ。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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