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印刷2021/08/30 10:30

業界動向

Access Accepted第696回:「Roblox」や「Core」に感じる新しい未来世界の始まり

画像集#007のサムネイル/Access Accepted第696回:「Roblox」や「Core」に感じる新しい未来世界の始まり

 ここしばらくの間に,子供たちの間で「Roblox」が盛り上がっているという話題をよく耳にするようになった。「Roblox」はユーザーが自分でコンテンツを作り,それを他のユーザーと共有して遊ぶというサービスであり,ゲームというよりは“ゲームプラットフォーム”と呼ばれるものだ。そうしたゲームプラットフォームは定期的に新しいものがリリースされているが,最近はその動きが活発化しているようだ。今回は「Roblox」を筆頭としたゲームプラットフォームを紹介しつつ,ゲーム市場で活発化するトレンドについて紐解いておきたい。



子供たちに熱狂的な支持を得ている「Roblox」とは?


 COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の巣ごもり需要によって,ゲーム市場は大きな恩恵を受けているが,その中でも「Roblox」というオンラインプラットフォームがアメリカの子供達から大きな支持を集めている。
 日本ではそれほど知名度のあるサービスではないものの,プログラミング言語「Lua」を使ってユーザーがゲームを作成,それを他のプレイヤーが無料で楽しめるという趣向のもので,レゴのようなキャラクターを使ってMMOアクションやパズルゲーム,ペット育成ゲームなどを楽しむことができる。
 今は少し落ち着いてきた様子だが,2020年後半には1億2000万もの月間アクティブユーザー(MAU)を獲得し,アメリカの9歳から12歳までの子供たちの3分の2,16歳以下の子供たちの3分の1がプレイしているというのだ。

「Roblox」の中の人気アプリの1つ「Adopt Me!」はペット育成型のライフシム。筆者がプレイしていると何とも場違いな雰囲気を感じてしまう……
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 「Roblox」の公開は,PC版が2006年9月とかなり古いのだが,創業者の1人で現CEOのデイヴィッド・バスズッキ(David Baszucki)氏「口コミに頼って広報は一切行わない」という方針によって,10年以上も地道にサービスが運営されてきた。2015年までにはAndroidやiOS,Xbox One向けにもローンチされ,「子供たちのプログラミングやゲーム開発を学習する場になる」という話題が広がり始めた。
 2018年9月に経済誌Forbesが報じたところによると(外部リンク),2018年にはすでにMAUが7000万を超えていたという。その当時ですでに3億ドルの資産価値があると見積もられていたが,その後2年でMAUを倍増させ,今やゲーム市場でも,無視できない存在感を発揮するようになったわけだ。

 「Roblox」のゲーム制作ツールである「Roblox Studio」は,オブジェクト指向のプログラミングシステムにより,ベースとなる環境を変えていくような形でマップを作ることができ,そこにルールを重ねていくことでゲームを作る。ゲーム内のキャラクターが着る衣服なども制作でき,それらのアイテムはインゲームマネーを介して売買が可能。コンテンツクリエイターが30%,Roblox側が70%の取り分で収益分配するというビジネスモデルだ。

「Roblox Studio」は,Luaペースのオブジェクト指向プログラミングシステムで,プログラミングの理解がなくてもゲームが作れ,しかもお金が儲かる可能性を秘めている。このあたりも若者たちの気を引く部分なのだろう。実際,すでにこのゲームをきっかけにゲーム業界入りした人もいるという
画像集#003のサムネイル/Access Accepted第696回:「Roblox」や「Core」に感じる新しい未来世界の始まり

 すでに170万人のクリエイターにより制作された2000万ものゲームが存在しており,もちろんその多くは中途半端な作品であるが,人気のあるゲームを制作する人の中には年間10万ドル以上を稼いで,これを専属ビジネスにしているようなクリエイターも存在する。ゲームの累計収益は,2020年6月には15億ドルだったのが,2020年10月には20億ドルに達した。
 「マインクラフト」でユーザー・ジェネレイテッド・コンテンツ(UGC)の楽しさを知ったという子供たちが,「Roblox」でゲーム作りをしてみようと流れてくるパターンも多いようで,そうした教育ツールとしてのニーズも理解し,Roblox側はオンライン教育(外部リンク)にも余念がない。

 「Roblox」のようなゲームは,いわば「デジタルの公園」だ。ユーザーは自分の発想を生かして自由に遊べるわけだが,それゆえに問題も少なからず起きる。
 「Roblox」はチャット機能などを規制しているとはいえ,サードパーティのサーバーを使うなどして規制を回避したうえで,他のゲーマーに性的な言動を投げかけるといったサイバーハラスメントも起きているし,卑猥だったり暴力的なゲームを作るようなクリエイターもいる。
 また,人気ゲームの中には日本のゲームアニメのキャラクターを流用したものも少なくなく,ドラゴンボールやワンピースなどのアートワークをよく見かける。RobloxはおもちゃメーカーのHasbroと提携してナーフガンやモノポリーといったライセンスを取得したアイテムも用意されている。その一方で,どの知的財産がオーケーで,どれが保護されていないのか,子供たちにはよくわからないという,カオスな状況になっているように思える。
 Roblox側は,そうした問題が発生すると速やかに対処するという姿勢を見せてはいるが,次々と生まれてくる問題に対処が追いついていない印象だ。改善傾向にはあるものの,まだまだ時間はかかると思われる。

欧米ではワリと年少の子供たちに高く支持されている「Roblox」だが,指摘されるさまざまな問題を見ていると,当初の「マインクラフト」を思い出す。改善されてより健全な場所になっていくのだろう
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オリジナルのゲームも作れるソーシャルハブ型ゲームサービスの数々


 ここのところ,「Roblox」のようなゲーム自作型でありつつ,必ずしもゲームだけではなくコミュニケーションの活用の場である“マルチバース”型のプラットフォームが続々登場し始めている。
 Mythical Gamesがアーリーアクセスを実施している「Blankos Block Party」は過去にも本誌で何度か触れたことがあるサービス(関連記事)で,プレイヤーは“ブランコ”と呼ばれるビニール人形風のデジタルアバターとなって世界に飛び込み,障害物競争やプロレス風のランブルマッチ,シューティングゲームやプラットフォームアクションなどに興じることができる。アバターのデザインはプロのグラフィックスデザイナーやストリートアーティストたちが提供しており,プレイヤーはそれらを購入することで自己表現ができる。

 この「Blankos Block Party」の面白いところは,創作物のデータはすべてNFT(非代替性トークン)として扱われ,ブロックチェーン化されたデジタル台帳上で管理されることだ。そのため,アマチュアが作り出したアイテムが別のユーザーに無断で複製されてもオリジナルを追跡することが容易になっており,クリエイターコンテンツとしてゲーム内でデジタル販売されたアイテムを,別のユーザーが少しだけ変更して再販したとしても,その利益はオリジナルクリエイターやMythical Gamesとレベニューシェアされることになるという点で,非常に公正な仕組みが構築されている。

スタイリッシュなアバターが気になる「Blankos Block Party」。ブロックチェーンによりアセット管理が行われているというのもツウなゲーマーたちには気になるところ
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 また,“ブランコ”は使い込むことによって経験値を得るという,デジタルならではの仕組みになっている。経験値を得ることでアクセサリーをアバターに装着できるようになる。これによって希少性がより高まるわけで,限定販売されたブランコが高額取引されるようなケースもあるという。

 さらに,ここのところ大きな注目を集め始めているのがManticore Gamesが開発した「Core」だ。現在アーリーアクセス版としてEpic Gamesストアにて無料公開されている。「Unreal Engine」を使って開発されているだけあって,ゲームキャラクターなどの見た目は「Roblox」や「Blankos Block Party」よりも高い年齢層をターゲットにしたものとなっている。
 開発元のManticore GamesはEpic Gamesからの出資を受けているなど関係は密接であり,将来的にはEpic Gamesストアの顔役になる“プラットフォーム内プラットフォーム”へと成長していく可能性も秘めている。

現在アルファ版のアーリーアクセスが公開されている「Core」は,Epic Gamesが構想するメタバースの未来の重要な礎を築くゲームにもなり得る
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 2020年12月,「Core」で「Mining Magnate」と「Roll 'Em」という2つのUGCがそれぞれ10万人のアカウント数を獲得しており,さらにその冬には“ホリデー・ジャム”と名付けられた3週間にわたるゲーム開発のコンペも開催されるなど,徐々にコミュニティも形成されているのが感じられる。
 7月15日から26日にかけてはミュージシャンDeadmou5の最新シングル「When the Summer Dies」のミュージックビデオを撮影するためのイベントが開催され,gamescom 2021にて,Deadmau5との新しいコラボ企画となる「Oberhasli」の開発がアナウンスされている。

 この「Oberhasli」は,Deadmou5のファンたちが集うCoreプラットフォーム専用のゲーム世界を,半永久的に持続させていこうという企画である。これまでも「フォートナイト」などではミュージシャンによるコンサートが企画されてきたが,Deadmou5の中の人であるジョエル・ジマーマン(Joel Zimmerman)さんは,「その仕組みだとコンテンツとしての寿命がない。これはファンが一体化するための新しい試みだ」と語り,ゲームと音楽を橋渡しするマルチバースの制作に踏み切ったのだという。

gamescom 2021のオープニング・ナイト・ライブでアナウンスされた「Oberhasli」(外部リンク)。被り物DJミのジョエル・ジマーマンさんは,「こんにちは,デッド・マウ・ファイブです」と登場しつつ,数秒後には「デッドマウスのファンの皆さんが……」と言い換えていたが,真顔でジョークを言う人が一番手強い
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 今に始まったことではないが,こうして現在のゲーム市場のトレンドを見ていくと,ブロードバンドの普及によってゲームはゲーム以上のものに発展し,教育であり自己表現の場であり,そしてもちろんエンターテイメントの場としてのソーシャルハブの形成が感じられる。
 当連載でも,ゲーム業界が目指すメタバースの未来について,「第674回:ゲームが牽引するメタバースという近未来」関連記事)や直近の「第695回:5年で50億ドルに達する「ポケモンGO」のNianticが考えるメタバースの未来」関連記事)で紹介しているが,こうしたゲームに参加する若い世代が急増する様子が,どこか新しい時代の始まりを感じさせるのである。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
  • 関連タイトル:

    Blankos Block Party

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