インタビュー
ゲーム向け小型PC「Steam Deck」開発者インタビュー。オープンプラットフォームであることが,Valveの経済活動の原点
欧米などで2022年2月25日に発売された「Steam Deck」は,Arch Linuxをベースとした携帯できる小型のゲームPCだ。同社の最新OS「SteamOS 3.0」と,移植の手間を省くための互換レイヤー「Proton」により,Steamライブラリに所持しているゲームをいつでもどこでも遊ぶことができる。
もともと「Steam Deck」は,2021年7月に正式アナウンスされ,その年のうちに発売する予定になっていたものの,長引く半導体の供給不足の煽りを受けて製造が順当に進まず,3か月ほどのローンチ遅延となった。もっとも,Valveは先週,サプライチェーンの問題が解消しつつあることを公式ニュースで報告しており,これまでよりも早いペースでプレオーダーを処理できるようになったという。現在欧米で新たにオーダーすれば,年末には届けられるといったスピード感であるようだ。
今回,日本のほかに韓国,台湾,香港で発売すると発表したKomodoは,Steamの日本国内の決済サービスではお馴染みのデジカから分社される形で興された企業だ。デジカの実績を含めれば,これまで500作以上のゲームをSteamでリリースしており,さらに「Valve Index」の流通にも関わってきた。Komodo現CEOのリッキー・ウイ(Ricky Uy)氏も,Valveに8年ほど勤務していた経験があるなど,Valveとは切っても切れない縁にある。
今回の単独インタビューは,そんなKomodoの招待によって実現したもので,ValveのコーダーとしてProtonの開発からハードウェアの開発までを行うエンジニアのピエール=ルー・グリフェ(Pierre-Loup Griffais)氏と,デザイナーのローレンス・ヤン(Lawrence Yang)氏のお二人に話を聞かせてもらった。
KOMODOのSteam Deck販売ページ
ValveのSteam Deck製品情報ページ
「Steam Deck」は少数精鋭で4年ほど前から開発が進められてきた
4Gamer:
よろしくお願いします。そもそもの話になりますが,「Steam Deck」を開発するというアイデアはどこから生まれたものなのでしょうか。
ピエール=ルー・グリフェ(以下,グリフェ)氏:
PCゲームを体験できる異なるデバイスやフォームファクタを追求していくことが,ここ10年ほどの我々の課題でした。ゲームコントローラの「Steam Controller」,ストリーミングデバイスである「Steam Machine」,そしてVRヘッドマウントディスプレイの「Steam Index」と,PCゲーム市場に対応できるさまざまな機器を提供してきたのはその一環で,PCを置いた自室からリビングルームへと体験できるスペースを広げてきました。
もちろん,その流れで携帯型ゲーム機も常に意識していたんですが,数年前まではPCゲームを十分に楽しめるような技術には到達していませんでした。その分岐点となったのがちょうど4年ほど前で,ハードウェアの進化の行き着く場所が予測でき,Steamを携帯機でも使えるようになるだろうと確信したのです。それからプロトタイプを作り始め,何度もアイデアの練り直しや熟考を重ね,サプライチェーンなどを整備したうえで「Steam Deck」を正式アナウンスしたのが昨年,つまり2021年7月のことでした。
ローレンス・ヤン (以下,ヤン)氏:
正確に言いますと,4年前でも「Steam Deck」は作れましたが,デバイスはさらに大きなものになっていた可能性が高く,バッテリーもすぐに切れるようなものになったと思います。今日まで,PCハードウェアの進化は我々が実感するより早いスピードで進んできましたが,それはソフトウェアでも同じことで,Steam OSやProtonなどの開発も同時進行で行われてきました。また,製造プロセスへの関与やゲームデバイスのユーザービリティなど,さまざまな知識を蓄える必要があったのです。
ピエール=ルー・グリフェ氏。Valveのソフトウェアエンジニアとして,これまでに「Half-Life: Alyx」やProtonの開発にも関わってきた |
ローレンス・ヤン氏は,Valveではユーザー・エクスペリアエンス関連のデザイナーとして知られるが,ほかのメンバー同様できることはなんでもするとのこと |
4Gamer:
過去のコントローラやVRデバイス開発などは,「Steam Deck」を生み出すにあたっての経験値となっていたのでしょうか。
グリフェ氏:
すべての開発で学ぶことは多くありました。例えば「Steam Index」では製造やディスプレイ,レイテンシなどを大いに学びました。製造については,エンジニアとして知る由もない,特定のベンダー(製造元)との関係を築くための特殊な知識やスキルセットが必要で,それが「Steam Deck」という形で結実しているのです。
4Gamer:
「Steam Deck」は,なかなかな大きさのように感じます。構想当初から今の形になることは想定していましたか。
ヤン氏:
こういったデバイス開発では,想定されるすべてのファクタを中に詰め込まなければなりません。デスクトップPCであれば十分なスペースがある大きな箱を用意しておけば,どんなに高性能なものでも詰め込めますが,ハンドヘルド(小型の端末)ではいろいろと吟味する必要が出てきます。スクリーンはどれだけの大きさにできるか,バッテリーはどれだけの容量になるか,欲張り過ぎると内部のエアーフローが悪くなってしまうのではないかといった具合です。
グリフェ氏:
携帯型のゲーム機としては大きいかもしれませんが,PCとして考えると,一般的な人の肩幅に合わせたエルゴノミックな形状を追求していると言えます。とにかくゲーム用PCとして妥協しないために,プロトタイプを何度も作りました。とくに遊んでいて体に負担がないことが大事だと考え,グリップしやすい形状を採用しました。
また,Steamに存在する幅広いゲームジャンルに対応できなければいけませんので,十分な数のボタンと入力装置をそろえておかなければなりませんでした。Steamのすべてのゲームをカバーできることが我々にとって必要不可欠な要素なのです。
4Gamer:
Valveは,それぞれの部門やプロジェクトにリーダーを置かない「フラット組織」で運営されていることで知られています。ハードウェアのデザインにおいて特定の個人が暴走してしまい,とんでもないものを生み出してしまうような不安はありませんでしたか。
ヤン氏:
フラットであるからこそ,お互いが良識ある活動をしていることを常に意識し合っているので,その点は大丈夫でした。オフィススペースも常に動かしやすく皆が集まったり発言したりしやすい環境にしています。ただ,その分一人ひとりの従業員に多くのことが求められますし,専門知識や新しい知識を獲得する努力も必要です。Valveで働くには特殊な才能が必要なのかも知れませんね(笑)。
グリフェ氏:
「Steam Deck」の開発に関わった人数は200人程度と規模としては大きくはありませんでした。最初は我々とほんの数人で企画を練り込み,人手が必要になった時点で必要に応じてチーム内で,活用できそうな誰かを引っ張ってくるといった流れです。声を掛けられてプロジェクトに興味があれば参加するという,能動的なやり方なのですが,99%はこのやり方で解決できてしまうんです。もちろん,ハードウェアでは製造などを他社に委ねる必要もありますが,今回は最終段階で製造元に提出するためのCADデータ制作をサードパーティに委託する程度でした。
4Gamer:
サードパーティとの関わりも少なかったためか,わりと極秘で開発が進められてきた印象です。
グリフェ氏:
発表する数か月前に,「Valveが携帯型のPCデバイスを開発している」という情報は洩れてしまいましたが,秘密保持に関してあまり良い過去がない我々にしては,うまくベールに包み込むことができたと思っています。
4Gamer:
「Steam Deck」という名前には,どういった意味や意図が込められていますか。
グリフェ氏:
欧米側のニュアンスにおいて「デック」というのはサイエンスフィクション的な響きがあります。映画や小説などにおいて,「PCデック」とか「サイバーデック」と呼ばれる多機能デバイスがよく登場しますよね。我々は「Steam Deck」をオープンなものと位置付けていますから,名称においても特定のイメージに縛り付けられないものを理想にしました。
PCゲームを楽しむうえでのエントリーポイントになれる携帯型PC
4Gamer:
ここ数年,世界的な半導体不足がありましたが,リリースに影響はありましたか。また,現在の製造状況はどのようになっていますか。
グリフェ氏:
ご存知の通り,当初の予定から3か月ほどリリースが遅れましたし,少なからず影響はありました。そして現在は大きく改善されているとはいえ,まだ多少の影響は受けていると言えます。供給を安定させるために我々は努力しており,現状を踏まえるといい成果を上げていますが,そのために当初想定していたよりも3〜4倍の労力を費やしているように感じています。売り手市場なので多くのベンダーが先払いを求めてきますし,パーツによっては1年も前から製品を発注しなければなりません。しかし,供給元の窓口も増やしまして,より多くの「Steam Deck」を皆さんのもとにお届けできるよう努力を続けています。
ヤン氏:
才能のある担当者たちががんばってくれたので,それほどダメージを受けることなく配送できたとも言えますね。お話したように,まだ影響を受けている状況ですが,ローンチ後もサプライチェーンの安定と製造は徐々に改善しており,この年末までには非常にいい状況になっていると思われます。すでに欧米で予約している人は年内にはお届けできるでしょうし,その余裕から日本を含むアジア地域でもようやくリリースできる手はずが整ったわけです。
4Gamer:
これまでにどれくらいの台数を配送できましたか。
グリフェ氏:
数字については公表していないのですが,これまでにHundreds of Thousands (感覚的には20万以上100万以下あたりを表すあいまいな表現)と言っておきましょう。
4Gamer:
「Steam Deck」で遊ばれている人気タイトルの傾向は何かありますか。
グリフェ氏:
特定のゲームやジャンルに偏っている感じはないんですが,軽いところですと,「Vampire Survivors」はかなり好まれてプレイされていますね。ほかにも「Hades」のようなインディゲームが楽しまれているほか,「Elden Ring」や「ファイナルファンタジーXIV」といった正反対のヘビーなゲームも人気があります。
4Gamer:
Steamのトップチャートの傾向とは異なっている気がします。
ヤン氏:
携帯型のゲーム機にうまくマッチするような,ビッグヒット作品に興味が引き立てられているのかも知れません。ただ,本来ならキーボードとマウスで楽しまれるようなデスクトップ型のゲームであっても,「Steam Deck」のような小さなディスプレイやコントローラでプレイできるのか,ゲーム体験として変化するのかということを見極めようとプレイしているゲーマーも少なくないようで,ここからどのように発展していくのかとても気になっています。
4Gamer:
そういったコアゲーマーの「Steam Deck」の使い方に,驚かされたようなことはありますか。
ヤン氏:
実は内部でテストしていた段階と,「Steam Deck」が販売されて以降の行動パターンで大きく変わっていることはそれほどありませんでした。
グリフェ氏:
ユーザーの皆さんがサードパーティのソフトウェアを使ったり,デスクトップモードを使ったりといったアドバンス機能をどれだけ操ってくれるのかといったことはリリース前にかなり議論されていました。結果としてほとんど,とは言わないまでも多くのゲーマーが使っておられて,携帯型のSteam用ゲーム機という枠を越えたさまざまな使い方をされていることをうれしく思います。
4Gamer:
「Steam Deck」は直接的に「Nintendo Switch」のような携帯型ゲーム機と競合すると考えていますか。
ヤン氏:
もちろん避けては通れません。Valveの中にもSwitchを日常的にプレイしている人は多くいます。ただ,「Steam Deck」は皆さんが自室を離れても,自分の手持ちのゲームをいろいろな場所で自由に楽しんでいただくためにデザインされたもので,コンセプトは大きく異なります。「Steam Deck」は,Steamライブラリの価値をさらに高めるためのものなのです。
グリフェ氏:
「Steam Deck」はPCゲーム体験を拡張するためのデバイスになります。ただ手軽にPCゲームを遊ぶためのものでなく,もしかしたらゲームプレイの中心になっていくかもしれません。「Steamラボ」を利用するゲーマーも増えていますし,ゲーム以外のことで使う人もいるでしょう。「Steam Deck」をゲーム開発用に利用するインディデベロッパも現れています。いずれは,PCゲームを楽しむうえでのエントリーポイントとしての位置づけになっていくことも予想でき,これまでPCゲームに触れてこなかった人にもアピールできると考えています。
4Gamer:
携帯型のゲーム機に関わらず,これまでのゲームプラットフォームのハードウェアというのは,エクスクルーシブ(独占)タイトルを呼び水にしてハードウェアを売るというビジネスモデルでした。「Steam Deck」はそもそもPCで遊べてしまうわけですが,これが吉と出るか凶と出るか,どのように考えていますか。
ヤン氏:
その点について我々は,PCゲームが遊べることの非常に大きな利点であると考えています。「Steam Deck」を購入してログインすると,もうそこに自分で揃えた多くのゲームがライブラリに並んでいるわけで,ハードウェアのために新しいエクスクルーシブタイトルに投資する心配はありません。
そもそも「Steam」というプラットフォームを持っているのなら,新しいデスクトップPCや「次世代Steam Deck」を購入した際にも,すべての手持ちタイトルをそのままプレイできるわけです。つまり,ハードウェアが更新されてもお気に入りのゲームはずっとプレイできるという,これまでになかったコンセプトが「Steam Deck」と言えるでしょう。
グリフェ氏:
そのために,Valveでは能動的に古いゲームの互換性を維持できるように努めています。ゲーマーが手に入れたゲームが,そのハードウェアのライフサイクルが終わった途端にプレイできなくなるというのは消費者としての観点ではよくないことです。我々は少しでも長くお気に入りのゲームを遊んでいただきたいのです。
Steamライブラリにあるゲームは“ほぼ”なんでもプレイ可能
4Gamer:
互換性については,グリフェさんが担当されていたProtonが非常に有効に活用されていますが,2006年にリリースされた「The Elder Scrolls IV: Oblivion」は「Steam Deck」向けに認証済みだったのに,最新作である2011年の「The Elder Scrolls V: Skyrim」は認証されていないということがありました。
グリフェ氏:
認証プロセスは人気のゲームから取り掛かるケースが多いのですが,古いゲームであるとAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)がアップデートされていないものだったり,逆に新しいゲームでもボリュームが大きいと認証プロセスに時間がかかってしまうことがあります。この2作についてもまさにそれで,「Oblivion」は「Skyrim」に比べてキーマッピングが単純で,かなり早い段階で「Steam Deck」でも遊べることは確認できていました。「Skyrim」はオンスクリーンキーボードを引き出すことが必要ですが,「Steam Deck」では実際にキーボードをつなぐことでしか現状は対応できません。
4Gamer:
新しいゲームではデベロッパに働きかけるなどして,そういった問題に対処されているのでしょうか。
ヤン氏:
はい。オンスクリーンキーボードを含めて,どのAPIに対応させるか明確に指定されているので,最近のゲームではそういった問題は起こらないと思います。こうしたコミュニケーションは,「Steam Deckにとって良い」という判断だけでなく,ほかのプラットフォームや例えばコントローラでしかプレイされないデスクトップPCユーザーなどに有効な部分は多く,同じ機能でプレイできるゲーム開発を奨励しています。
グリフェ氏:
この部分については,ゲーム開発者の皆さんにとっても非常に価値の高い奨励であるということを念を押すため,もう少し詳しく話させてください。ガイドラインに則ったデスクトップPCを開発していただければ,Protonを活用することで開発や移植作業などの負担をかけることなく「Steam Deck」対応のゲームになります。皆さんのゲームがしっかりと可動し,それを認証するのは我々の仕事です。また,UIやテキストのスケールオプションを増やしたり,コントロールスキームに多様性をもたせたり,パフォーマンス関連のプレセットを用意したりしていただければ,ゲーム体験もより良いものになります。こういったちょっとした作業の追加で,アクセシビリティがさらに高くなるわけです。
4Gamer:
今後,「Steam Deck」への認証を開発者に委ねるという計画はありますか。認証されていないゲームでも,一部の開発者は実際に動くかどうかを自分たちのSNSで報告しているケースも多いですが。
グリフェ氏:
それについては,すでに我々が用意した数々のチェックボックスやタグなどがあり,デベロッパの皆さんがこれを利用して独自に認証を行い,特定の(外付け)コントローラデバイスでは操作しないといったことを報告してもらっています。
「Steam Deck」の認証システムは,我々がデベロッパの負担を軽減するために提供しているサービスの一環でもあるのです。これまで,特定のデバイスとの互換性はゲームパブリッシャやデベロッパが直接ユーザーとのコミュニケーションでチェックしていました。今回の認証システム構築が我々にとっても新しい取り組みで,いずれは丸投げしてしまう可能性も否定はしません。ただ,現状とくに大きな変更を加えなければならない状況ではないと考えています。
ヤン氏:
「Steam Deck」認証システムの究極的な目的は,SteamやPCゲームに明るくない地域の人でも,安心して「Steam Deck」でゲームを遊んでもらえる環境作りなのです。一般的には,消費者がショップにゲームを買いに行き,そこで自分の持つ家庭用ゲーム機でゲームが作動するのかどうかなんて考える必要はありません。この認証システムは,新たにダウンロードしたゲームが「Steam Deck」で作動しないという,我々にとってのバッドシナリオを避けるためのものでもあります。消費者の皆さんに不満のないソフト購入を行ってもらうために,我々が明快な認証システムを提供しているというわけです。
4Gamer:
「Steam Deck」は,これまでコンシューマタイトル,そしてモバイルタイトルに傾倒してきた日本の消費者に,PCでのゲームプレイへ目を向けてもらう大きなチャンスのように感じます。ただ,VRがサポートされていないのは少し残念に思います。「Steam Index」との相乗効果もあったと思うのですが。
グリフェ氏:
実は4年前の企画段階では,VRサポートも行えるだろうと考えていました。私も含め,「Steam Deck」に関わったメンバーの多くが「Steam Index」の開発から移行してきましたからね。もちろん,プロセッサのパフォーマンスを上げたり冷却システムをアップグレードするなどして対応させることは可能でしたが,価格にも関わってくるので難しかったのです。携帯型デバイスという位置付け上,重量面でも妥協はできませんし,何を優先するかは我々にとっても大きな決断でした。もちろん,いずれ原点に戻ってデザインしなおし,我々の心の片隅に常にあるVRゲームのサポートを行うことになるかも知れません。
4Gamer:
それはつまり,いずれ「Steam Deck 2」が登場する可能性もあるということでしょうか。
ヤン氏:
次期バージョンかも知れませんし,異なるタイプのVRデバイスかも知れません。そこは分かりません(笑)。テクノロジーは日々進化していて,現状ではAAA級のVRゲームをプレイするためにハイエンドのグラフィックスが必要ですが,やがては「Steam Deck」に搭載できるサイズや電力使用量が抑えられた統合型プロセッサが登場してくる可能性もあります。そうした十分な予想が立った時点で,また新たに計画を進めていくという流れになりますが,現在はその段階ではありません。
4Gamer:
外部出力したときに解像度が1280x800に固定されている理由を教えてください。
グリフェ氏:
実はその部分はアップデートですでに対処しているんですよ。気付かれていない人が多いので,これは我々の広報不足かも知れません。最新のAAAゲームはともかく,「Steam Deck」でも1080pや4Kでプレイ可能なタイトルはあり,ゲームのプロパティから多くの場合において,それぞれが許容する範囲で変更できるようになっています。16:10のアスペクト比やユーザーインタフェースのスケーリングオプションも合わせて加えました。
現在もこういったソフトウェア面での変更は続けていまして,「Steam Deck」の説明書もいまだ完成していません。同じく発売が遅れている「Steam Deckドッキングステーション」と合わせて,アジア地域でリリースされるころまでには,すべて揃える予定ではあります。
4Gamer:
「Steam Deck」ではゲームをインストールする際にフルサイズのファイルをダウンロードしています。ファイルサイズを軽量化してほしいという声も聞こえていますが,何か施策は考えていますでしょうか。
ヤン氏:
おっしゃる通り,多くのユーザーからファイルサイズを軽量化してほしいという要望は集まっています。これに関してもデベロッパにガイドラインを送っていて,「Steam Deck」向けの解像度に合わせたバージョンを用意してもらうことを奨励しています。ただ,これはある意味トリッキーなトレードオフで,デスクトップモードを使って大画面でプレイしようという人は,上記のようなロックされた解像度でしか遊べなくなってしまいます。どのように提供するのがベストなのか,現状は判断が難しくなっています。
4Gamer:
現状はWi-Fiでの運用だけですが,いずれキャリアとの提携などで,移動中でもオンラインゲームも楽しめるというようなオプションは想定されていますか。
ヤン氏:
それについては,コスト高になってしまうことからプロトタイプの初期段階で諦めました。多くのユーザーは家庭やホットスポットでオンラインゲームを遊ばれていますが,モバイルホットスポットを利用されている人もおられます。
4Gamer:
ベータ版ではありますがMicrosoft Edgeを使えるのがとてもユニークでした。Xbox Cloudを利用できますからね。これは提携によって生まれたものなのでしょうか。
グリフェ氏:
我々が掲げるオープンなプラットフォームという「Steam Deck」の位置づけにおいて,いかなるサードパーティであってもSteamにソフトを提供することは重要であり,それはブラウザでも同じことです。Protonによってなかば自動的にサポートされている機能の1つでもあります。ですから,Edgeが使えることは以前から想定していましたし,その需要が高いことも判断できていましたので,Microsoftとはかなり早い段階だから蜜に連絡を取り,「Steam Deck」のパッドでもEdge,それからXbox Cloudのゲームをスムーズにプレイできるよう調整してきました。今のところ,まだマニュアルでXbox Cloudのセットアップを行わなけれなりませんが,簡略化できるよう務めているところです。
Valveの哲学「オープンプラットフォーム」を貫く小さな巨人
4Gamer:
オープンな姿勢はサードパーティソフトの「Hero Launcher」からも感じ取れました。Battle.netやEpic Games Storeにあるゲームさえも遊べてしまうのが驚きで,小さいゲームPCをただ携帯しているような感覚です。
ヤン氏:
我々にとって,そういったソフトをブロックするメリットはありません。オープンで自由なゲーム環境を維持するというのが,我々Valveにとっての哲学であり,皆さんがPCを自由にカスタマイズするように,「Steam Deck」もユーザーの所有物として自由にしていただきたいという思いがあります。おそらく,「Steam Deck」を利用する大半のゲーマーが,Steamモードだけでゲームを楽しむ層になると思いますが,一部のゲーマーはデスクトップモードを活用して,自分の好きなデバイスに育てていくような使い方もするはずです。
4Gamer:
Valveの創業者でもあるフロントパーソンのゲーブ・ニューウェル(Gabe Newell)さんは,以前からWindowsがクローズドなものであると批判したり,PlayStation向けのSteamを作れないことに不満をこぼしていましたが,そのオープンな姿勢を実践しているわけですね。
グリフェ氏:
我々はオープンプラットフォームであることが,Valveの経済活動の原点であると強く信じており,それがValveが誕生し,Steamが運営されている理由でもあります。PCゲームにおけるイノベーションも,バーチャル・リアリティやMMOゲームの誕生から,MODや奇抜な周辺機器,「マインクラフト」のようなゲームが生み出されるきっかけまで,その多くが誰かに制約された環境ではなかったから起こり得たものなのです。1つの絶対的な存在から,ゲームの価値が供給され続けるだけでなく,良いアイデアを持った開発者やユーザーがそれを実行できる場所を提供することによって,ゲームという文化が発展していくのです。その点で「Steam Deck」もオープンプラットフォームであることを維持できるよう努めます。
4Gamer:
ただ,ハードウェアMODに関しては,発売前に分解映像を公開しながらも,最近では自分で分解しないよう警告メッセージを発信していました。やはりあれは保証の問題などもあってのことなのでしょうか。
ヤン氏:
少し複雑ですよね。あの分解映像の最大の目的は,「自己責任で分解するのなら,こうするべき」ということを明確にするためのものでした。実際,ストレージを変更することを含め,自分でハードウェアをカスタマイズする人もPC市場の流れからかならず出てきますが,PC同様に「自分の責任下において」という但し書きが付いてきます。我々は「Steam Deck」に不具合が生じた際に修理ができるようハードウェアをデザインしましたが,もしユーザー自身が安易に分解して壊してしまったら,その責任は取れません。
4Gamer:
故障の話が出ましたが,日本で販売された「Steam Deck」に問題が生じたとき,所有者はどちらのサポートを受ければいいんでしょうか。
ヤン氏:
それこそがKomodoと提携した理由であり,現地販売分は現地でサポートできるよう準備を進めてもらっています。ソフトウェアのサポートなどで我々が関与する部分もありますが,消費者の皆さんに負担がないよう計画しています。さらに詳しいことは後々お伝えできるでしょう。
4Gamer:
アジア地域での販売価格も,現在の不安定な為替市場ではなかなかロックしにくいところではあるのでしょうか。
ヤン氏:
価格につきましてもKomodoからの発表をお待ちください。
※価格については,本日(2022年8月4日)発表済。64GBモデルが5万9800円,256GBモデルが7万9800円,512GBモデルが9万9800円。すべて税込価格
4Gamer:
欧米ではかなりアグレッシブな価格帯で,ゲームPCとしても携帯デバイスとしてもお得感が高かったです。ゲーム業界では,ローンチ時のハードウェアは売るほどに損をするとはよく言われますが。
グリフェ氏:
価格については,当初から入念に考慮してきたことの1つで,常にコスト面は気を配っていました。「Steam Deck」は決して低品質にならないよう,そしてより多くのゲーマーに利用していただけるようにデバイスをデザインしました。ですから,パーツの選択からサプライチェーン,製造,それからシステムアーキテクチャまで,「価格を抑えてまともな小型ゲームPCを作る」ことをモットーに作業してきました。16GBメモリもここ数年で価格上昇したのは厳しかったですが,価格を抑えることでより多くのゲーマーにアピールし,それがSteamでのセールスにつながっていくと確信しています。
4Gamer:
私も「Stray」の2週目を「Steam Deck」でプレイしているところですが,もはやデスクトップと携帯型PCに差はないというか,同じプラットフォーム間でプレイを続けているという感覚を覚えます。最後になりますが,「Steam Deck」はアジア地域でどのように評価されると思いますか。
ヤン氏:
良く評価されることを願っています。今のところ,欧米で「Steam Deck」を購入されたユーザーの評価やフィードバックは素晴らしいものですし,欧米でのローンチからアジアでのローンチまでにシステム部分での改善が進められ,アジアにお住まいのゲーマーの皆さんはさらに洗練されて安定したゲームデバイスを楽しんでいただけるはずです。すでにSteamのアカウントを持っている方は,継続してそのまま楽しんでいただける機器になるでしょうし,これまでPCゲームで遊んだことがない方にとっては,新しいプラットフォームに入ってきやすい場を提供できると考えています。
グリフェ氏:
日本のPCゲーム市場は大きくないにせよ,常にSteamを含めたPCゲームの動向はしっかりチェックされているという印象を受けます。とくにこの5年間で大きく変化してきましたよね。SteamやPCでのゲームプレイに興味があったが,これまでタイミングがなかった方も多くいると思います。「Steam Deck」の登場を機に,より多くの日本のゲーマーの皆さんが,PCゲームを楽しんでくれることを願っております。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
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