連載
インディーズゲームの小部屋:Room#680「Before Your Eyes」
最先端の自動運転技術を搭載した車に一度は乗ってみたい筆者がお届けする「インディーズゲームの小部屋」の第680回は,GoodbyeWorld Gamesが開発した「Before Your Eyes」を紹介する。本作は,プレイヤーのまばたきによってストーリーが進行する,一人称視点のアドベンチャーゲームだ。でも,ゾンビの群れに囲まれたときに衝突被害軽減ブレーキが作動したら,逃げ切れないよね……。
本作のストーリーは,死後に魂だけの存在となった主人公が,あの世に旅立つための船に乗ったところから始まる。この船には,主人公のほかにもう一人,擬人化された犬のような姿をした,謎めいた船頭“フェリーマン”が乗っており,“門番”による審判を通過して無事に死後の世界に行くために,代弁者である彼に主人公の人生を話してほしいと語りかけてくる。そして,フェリーマンによって人生の大切な瞬間に送り返された主人公は,それを再び体験することで,少しずつ記憶を取り戻していく……。
基本はストーリー重視のアドベンチャーゲームで,出だしは何も状況が分からないところから始まるが,しばらくすると自分はベニーことベンジャミンという名前の赤ん坊で,父と母の名前はリチャードとエルであることが分かる。プレイヤーはベニー自身の視点で思い出を振り返りながら,その成長と人生の終わりを追体験し,その途中,マウスで視点を操作して,ときおり現れる選択肢を選んでいく。
これだけ聞くと,よくあるアドベンチャーゲームのように思われるかもしれないが,本作最大の特徴は,プレイヤーのまばたきによってストーリーが進行するというゲームシステムにある。PCに接続したWebカメラを使ってプレイヤーのまばたきを検出し,文字どおり,ほんの一瞬だけ目を閉じ,次に目を開けた瞬間には新しいシーンが広がっているという,これまでにない驚くような演出が体験できる。
また,このまばたきによってストーリーが進むというシステムをうまく利用した“間の演出”も巧みで,ゲームにさらなる没入感をもたらしている。父と母が自分について何か話している,まだ目を閉じたくない……と思っても,まばたきを我慢するのにも限界がある。それを最後まで,まばたきせずに聞くことは難しいし,やろうと思ってもなかなかできないだろう。
逆に,ゆっくりと目を閉じることでストーリーが進むシーンや,目を見開いてしっかり見つめることを要求されるシーンもあり,ベニーの人生が本当に自分のものであるかのような一体感を感じられる。ストーリー中に現れる選択肢は目の形をしたアイコンになっており,それをマウスで選択して,まばたきで決定するという仕組み。キーボードとマウスでのプレイも可能だが,その場合はまったく味気ない体験になってしまうので,ぜひWebカメラを用意して遊んでみてほしい。
ストーリーについて多くを語ることはしないが,喜びと悲しみの入り交じった2時間ほどのボリュームで,じんわりと心に残る,良質な物語を味わわせてくれる。そんな本作はSteamにて1010円で発売中なので,ベニーがどんな人生を歩んだのか,彼と同じ目線で振り返ってみたいという人はぜひどうぞ。オススメです。
■「Before Your Eyes」公式サイト
https://www.beforeyoureyesgame.com/- この記事のURL:
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