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[GC 2007#番外編]極私的GC雑感――変貌を遂げる世界「最高」のゲームショウ
もっとも特徴的なのは,完全に商談目的の来場者(trade visitor)が異様なまでに増えたこと。これはGC自らのリリースでも言及されているが,昨年わずか24%だったtrade visitorは,今年になって43%にまで急増している。
そしてそれは,会場構造にもダイレクトに反映されている。昨年はわずか1ホールの1/3程度だった「ビジネスセンター」(商談目的およびプレスのみが入れるエリア)は,今年になってその規模を急拡大,昨年使っていなかったホール1(ほかのホールより広い)を丸々一つ使う形になっていた。単純計算で,3倍以上のスペースになったわけだ。
EUという大きな枠組みで色々なものの発展が促進されている昨今はとくに,ヨーロッパにおける「見本市」(=Expo)の競争率は果てしなく高く,生き残りが難しい。そんな中,完全に新規のExpoがここまで成功したのは,最近では珍しい“大ヒット”だという。
■まずはちょっとGCのおさらい
「GCはECTSの跡を継いで開かれた見本市である」という定説があまりにも普及しているのであまり知られていないことだが,その開催国を考えれば容易に想像がつくように,GCのルーツは「CeBIT」にある。
ハノーバーで開かれている,この世界最大規模のITエキスポ(2007年の出展社数はなんと6059社だ)であるCeBITからゲーム関連を分離し,1998年に「CeBIT Home」を開催したのが,そもそもの発端だ。CESからE3が分離して登場したプロセスにちょっとだけ似ている。しかしさまざまな要因から,CeBIT Homeはわずか2回でその役目を終え,ヨーロッパでのゲームExpoは「ECTS」(Electronic Consumer Trade Show)がその任を担うことになる。しかしそのECTSも,9月という開催時期(トレードショウとしては遅い)だったり,出展社の大半が海を渡らねばならないことが不評で2002年に幕を閉じ,ヨーロッパでのゲームExpoの血が途絶える形になった。
そんな中名乗りを上げたのが,ドイツ・エンターテイメント・ソフトウェア連盟(VUD)だ。新しいExpoの開催に意欲的であったライプチヒメッセと協力し,ゲームExpoを立ち上げることを2002年に決定,これが「Games Convention」である。今では,VUDに代わって設立されたドイツ・インタラクティブ・エンターテイメント・ソフトウェア連盟(BIU)が開催しており,少なくとも2008年までは開催が確定している。この盛況ぶりを見ても,その後途絶えるともちょっと思えないし,BIUには,Microsoft,EA,Activision,Atari,Eidos,Ubiなどを筆頭に,日本からもSCEや任天堂,コナミなどがメンバーとして名を連ねており,「ラインナップ」という意味でもまったく心配がない。そもそも,なぜだかよく分からないが,すでに2010年までの開催予定が発表されているのだ。
おまけに今年からはE3の規模縮小(展示という意味での大幅な規模縮小が行われたのは明白な事実だ)に,2006年時点でCESが開く予定だったゲーム展示会の中止が重なるという追い風も吹き,ますますその規模拡大に拍車がかかっている。ヨーロッパやアメリカの中小デベロッパ,デバイスメーカーなどが勢揃いしたその様子は,かつてのE3――ごった煮のケンティアホール含む――を彷彿とさせる。
北米には「E for ALL」というイベントが秋に用意されているが,こちらは(今のところ)トレードショウとは何ら関係のないショウで,とうていE3に代わるものには成り得ないと思う。「北米年末商戦の最後のプロモーション」的な意味合いしか持たず,まだ見ぬ新作をウロウロと探し回る我々メディアや,将来のメガヒットを探し回るバイヤーにとってはさほど魅力のないショウであることは間違いない(それと同時に,北米の一般ゲームファンにとっては最高のショウになる可能性も十分にあるが)。
■ビジネス色が強くなったGCは,大きく変貌していた
そんな取材に数百万円のコストを投下することはギリギリまで悩んだのだが,“あの”ショウがもう一度見たくて,結局取材チームを組むことにした。結果は,読者のみなさんがご覧のとおりだ。
実際に行ってみたGCは,前述のように大きな変貌を遂げていた。まずもって目についたのは,やはりトレードショウとしての性格付けがより強くなされていたこと。なにしろ,ビジネスセンターと呼ばれる“業界人ゾーン”の規模拡大と混雑具合は半端ない。GC自らのプレスリリースによると1万2300人(昨年比1.4倍)のtrade visitorが訪れたらしいが,なるほど,その混雑も納得だ。
ActivisionやUbiなど,世界に名だたるゲーム会社や,ドイツ国内の大手メーカー,まったく無名なデベロッパなどがごった煮となって存在し,EUらしく,さまざまな言語――ドイツ語,英語,フランス語,ロシア語,スペイン語,イタリア語,韓国語,中国語――が飛び交うこのビジネスゾーンは,なんというか,プチ香港のような様相で,ぜひGCの名物として今後も長く君臨してほしいと思う。
そもそもゲーム業界においては,「北米」と「日本」が最重要視される傾向がある。事実,あまたの名作を世に送り出している2国なのでそれ自体は理解できるのだが,ヨーロッパのゲームマーケットにも見るべきものはとても多い。
4Gamer読者のみなさんに今更言うようなことでもないが,最近のPCゲームで見るだけでも,CrysisやS.T.A.L.K.E.R,Armed Assaultなど,ヨーロッパ開発勢が生み出す名作/注目作は想像よりは多い。過去の作品まで含めれば,相当数の「名作」がヨーロッパから生まれている。停滞気味の北米/日本のマーケットに浸かってうかうかしていると,あっさりと“ゲーム開発の中心”という称号を奪い取られる様が目に浮かぶようだ。
しかしまぁ私なぞがここで声高に言うまでもなく,ゲーム会社はそんなことは承知済みだ。北米市場はやや停滞気味で,日本もなんだかパッとしない。かといって中国/韓国などのアジア圏は「ちょっと様子見」という雰囲気で,買うにせよ売るにせよ,明確にヨーロッパマーケットを重視していることが見てとれる。奇しくも数年前に,NCsoftのTJ Kim氏,スクウェア・エニックスの田中弘道氏などが(オンラインゲーム限定ながらも)言及したように,「次に期待しているのはヨーロッパマーケット」なのだ。EAやUbiなどごく一部の大手ブランドは韓国や中国への進出に成功しているが,多くの会社にとっては「未知の領域」であり「コモンセンスが違いすぎる国」であり,もしかしたら「一度は行ってみたけどもうこりごり」な国なのかもしれない。
違う観点でもう少し述べるならば,MgameやCJ,Ntreevなどの多くの韓国ゲーム会社が,「次はヨーロッパ」と言わんばかりに大挙して押し寄せていたのも,とても興味深い。日本,米国と次々と輸出先を開拓している彼らも,次に目指すはヨーロッパ(と中国)なのだ。
4Gamer編集部として口にするのは非常に悔しいが,日本でのPCゲームのマーケットが,全体から見たら「微々たるもの」であり,インドにはまだまだマーケットが成立しておらず,結果的にアジアマーケットが壊滅となる以上,彼ら――主に北米のゲーム会社を指す――が目指す先は,もはやヨーロッパしか残っていないのだ。PCゲームが真っ当な市民権を得ていて,あらゆるものを受け入れてくれる,理想の土地ヨーロッパ。そこにある無視できない障壁は,国ごとに違う,言語と決済手段の問題くらいなものだ。
その真剣な空気は,ものの見事に会場にも波及していた。昨年までは,適当に放置されて遊び放題撮り放題だった新作群は,E3並の厳重なセキュリティ下に置かれ,そうそうなことでは“裏ブース”には入れてくれなくなった。プレスキットも昨年よりは数が増え(それを一般の人にも配っちゃうあたりが,まだまだGCっぽい),「ごめんなさいね,アポイントがないと入れないの」と優しく微笑まれることも,昨年より段違いにその回数が増えた。
昨年行った記憶のある小さなデベロッパに今年も行ってみようとアポなしで臨んだら,あっさりと「すまん,アポいっぱいでもう空きスロットがない」と言われてがっくり。いやいや,いくらなんでも7日間あるんだから,この規模のデベロッパで空きスロットがないことはないんじゃないかと食い下がったらアポ表を見せてもらえた。……なるほど,見覚えのあるパブリッシャの名前で埋め付くされている。
「Parabellum」の記事でも触れたように,このGCには「本気モードのバイヤー」が数多く訪れているようで,どの会社でアポ依頼を投げても「もうパツパツ」と言われ続けたし,メディアツアーにバイヤーがいたことも数多くあった。NDAベースまで含めればおそらくは相当数の契約が交わされたことは想像に難くないし,PCゲームばかりがこんなに展示されているゲームショウでこれだけの人が動かせるということにもまた,大きな喜びを感じる。
■そして変わらないGC。この魅力的なショウはいつまで続くのだろうか
お父さんに手を引かれた子供達は相変わらず純真無垢で,見るモノ見るモノに興味を引かれて立ち止まり,ゴスな女の子達はたわいもない落ちモノパズルで熱狂的に喜んでいる。まだ歩くことさえおぼつかない子供達は,ライプチヒ大学のボランティア学生が紙で作った帽子をもらってみんな満足そうだ。男の子はもちろん,シューティング系とレースに夢中。ソーセージとパンをほおばりながら,延々と同じゲームを遊び続けている。そして他の男の子が,文句も言わずに彼らが終わるのをジッと待っている。
孫が楽しそうに遊ぶのを嬉しそうに眺める老夫婦や,子供のためにストラップをもらってきてあげるお母さん。子供にゲームの説明をされてからペアプレイで大会に臨む気恥ずかしそうなお父さんや,コジマ(メタルギアソリッドの小島氏)が会場に現れたら熱狂し,全員で「ハッピバースデイ」と歌い出す数百人の来場者達(8月24日は小島氏の誕生日だ)。
カラオケゲームで出場者を求めると,我先に手を挙げて壇上に登りたがり,イベントでTシャツをくれるとなれば,心底それを欲しそうにイベントに参加する。ストラップがもらえる来場者アンケートを,真面目な顔して友達と真剣に相談しながら書き込む男の子や,ご飯を食べながら戦利品をホクホクと並べてお互いに自慢しあう子供達。
すべてがダイレクトで,恥もてらいも気取ったところもなく,心の底から,ピュアに,ゲームとこのGCというショウを楽しんでいる様子を見ることは,筆者にとって最良の喜びだ。その感情の表し方こそ違うが,日本だってアメリカだって同じに違いない。そして,そんな人達に「楽しさ」を与えられるゲーム業界を,心の底から誇らしく思う。
つくづくGCというゲームショウは,何度行っても色々なことを教えられ,色々な「心地良いもの」を見せてくれる。かくも楽しいゲームショウは,筆者が行く世界のゲームショウの中にはほかに一つもないと,自信を持って断言できる。ここに来るたびに,ややもするとちょっと疲れを感じつつある「ゲーム」が好きになって帰れ,またがんばれる。
イベントで登壇した小島氏も,サイン会を開いていた田中氏(スクウェア・エニックス)も,ややはにかみながらもとても嬉しそうだった。彼ら世界に名だたる巨頭を引き合いに出すのもたいがいおこがましい話だが,もしかしたらあの場で,似たような何かを感じていたのかもしれない。なんというか,喜びの表現がとてもダイレクトなのだ。来場者が彼らを心の底から尊敬していることが,来場者が彼らの来訪を心の底から喜んでいることが,言葉なんて一つも分からなくてもヒシヒシと伝わってくる。
なるほど,それは確かに「ゲームExpo」としては大成功だろう。しかし果たして,そもそもGCが目指したものは,それで達成されるのだろうか。
GCには,ほかのゲームショウにはない「素晴らしいもの」がいっぱいある。「なんなら見せてあげましょうか?」などというツンケンした空気を微塵も感じさせない,会場と来場者の一体感と,そこから来るあの異様な盛り上がりは,今年もちゃんと残っていて,とても安心した。たかがゲーム,されどゲーム。ゲームとは,楽しさを与えるものなんだということを,再認識させてくれる。日本から遠く離れたドイツはライプチヒで,また色々と教えてもらって帰ってこれた。この独特の“空気”だけは,なくしてほしくない,と心から願うばかりだ。
前回の記事の最後の文言を借りつつ,本稿の締めとしよう。
垢抜けてなくて野暮ったくてパッとしない,手作り感満載でビジネスの香りがしない,このお祭り騒ぎのGCというゲームショウが,ずっとこのままの姿であり続けて,ドイツっ子達に楽しさを与え続けてくれますように。(Kazuhisa,photo by kiki)
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