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[AGDC 08#03]ゲーム内アイテムは誰のもの? デジタルコンテンツの所有権に対する開発者達の姿勢とは
S. Gregory Boyd氏 |
今回のAustin Game Developers Conference(AGDC)では,そんな問題に切り込むレクチャーが,S. Gregory Boyd(S.グレゴリー・ボイド)氏によって行われた。ボイド氏は,ITビジネスの法的問題を専門に扱うニューヨークの法律事務所,Davis & Gilbert Lawに所属する弁護士の一人である。Boyd氏は2年ほど前に,ゲーム業界のクライアントへの説明を省く目的で「Business & Legal Primer for Game Development」という本を執筆。そのせいか,ゲーム業界では引っ張りダコの弁護士となり,さらに忙しくなってしまったという。
ボイド氏の行ったレクチャー,「Comparing Virtual Property Models - A Business and Legal Perspective」(バーチャル所有権のモデル比較 − ビジネスと法的見地から)では,デジタル所有物は,現在確認できるだけで20億ドル(約2100億円)程度になるという試算が紹介された。これは表に上がっているだけの数字であり,最大で70億ドル(7200億円)程度になるだろうとボイド氏は話す。
なお,一口にデジタルコンテンツといっても,武器・防具といったアイテムや土地,ゲーム内通貨といったオンラインゲームに関連したものだけでなく,iTunesの音楽ファイルなどまでもが含まれるというのが彼の見方である。
ボイド氏によると,IRS(The Internal Revenue Service。国税庁に当たる機関)が動き出す気配はなく,法的規制はギャンブルや宝くじ以下だという。今のところは「Second Life」における,RMT業者に対する消費者団体訴訟程度に留まっているというが,ボイド氏は,RMTがマネーロンダリングのような国際的犯罪に結び付く可能性も否定できないとする。
「1000万人のプレイヤーを持つWorld of Warcraft規模のMMORPGが,本格的にRMTに乗り出すほどでなければ,法規制への準備は行われないだろう」とボイド氏は語っており,それまではしばらくは野放し状態が続いていくと予想しているようだ。
右から,Erik Bethke氏(GoPets),Erin Hoffman氏(Philomath Games), S. Gregory Boyd氏(Davis & Gilbert), Scott Hartsman氏(Sony Online Entertainment), Raph Koster氏(Areae)。開発者会議では雄弁を振るい話題となるKoster氏だが,今回はこのレクチャーだけの出席となった |
その一環として進められているのが,End-User License Agreement(EULA,使用許諾契約)の整備である。AreaeのRaph Koster(ラフ・コスター)氏やGoPetsのErik Bethke(エリック・ベースケ)氏らが,The Better EULA Projectという委員会を開き準備を進めているのだ。これまでオンラインゲームのEULAといえば,「Ultima Online」時代から変わらない,簡単な承諾書のようなものだったが,それを実際の法律に照らし合わせておき,いつ実施されるか分からない法規制などに備えようという試みである。
Boyd氏が挙げたデジタルアイテムの一例がiPhone向けアプリケーション「I am Rich」。ルビーのアイコンというだけなのに価格は999.99ドル(約10万3000円)で,Appleが削除するまでに8人が購入したという |
とはいえ,お金を払って遊んでいるプレイヤーがあまりにも不利になる条件を飲まされる状況は好ましくない。The Better EULA Projectで進めるEULAが業界標準になる可能性があるだけに,今後の動きに注目しておきたい。
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