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2009年旧正月明け特別企画(1):IntelのデスクトップPC向けCPU&チップセットロードマップを整理する
アジアの一部地域で慣例的に採用されている太陰暦(※月の満ち欠けを基準にして作られた暦)。2009年は1月26日にその正月を迎え,台湾や中国の主要PCベンダー&PCパーツベンダーは,それぞれ1週間程度の休暇期間を迎えた。“旧正月明け”となった2月から,各社は動き始めているが,そんなタイミングで,「2009年のPC業界に何が起こりそうか」を,ロードマップから占ってみようというのがこの企画だ。
解説するのは,台湾&中国ベンダー,そして北米半導体メーカーの動向に精通する本間 文氏。PCゲームをプレイするに当たって,2009年中にPCの刷新を考えていたりする人はぜひご一読を。
→2009年旧正月明け特別企画(2):AMDのCPU&チップセットロードマップを整理する
→2009年旧正月明け特別企画(3):グラフィックス&DirectXロードマップを整理する
Core i7は第2四半期に上位モデル登場&価格改定
Lynnfield用にはP55,P57チップセットが順次登場
Core i7では,Lynnfield投入直前となる2009年第2四半期に,「Core i7-965 Extreme Edition/3.20GHz」および「Core i7-940/2.93GHz」の上位モデルが投入され,同時に価格改定が行われる見通し。ただし,大幅な機能強化は,32nmプロセスを採用した新コア「Westmare」(ウェストメア,開発コードネーム)ベースの「Gulftown」(ガルフタウン,同)が投入される,2010年前半まで待つ必要がある。
Gulftownは,Nehalemアーキテクチャの拡張版となり,6つのCPUコアと容量12MBのL3キャッシュを内蔵するCPUだ。プラットフォームはLGA1366から変わらず,現行のIntel X58 Expressマザーボードでそのまま使える予定となっている。
一方,冒頭でも紹介したLynnfieldは,既報のとおり,Core i7と同じクアッドコアCPUとなり,Hyper-Threadingテクノロジによって理論8コアCPUとして動作する。また,CPUコアにメモリコントローラだけでなく,PCI Express 2.0コントローラも内蔵することで,デュアルグラフィックスカード環境にも対応する予定だ。
メモリコントローラは,Core i7のDDR3-1066トリプルチャネル対応から同デュアルチャネル対応へと変更されるものの,Intel Turbo Boostテクノロジがサポートされるなど,基本仕様は変わらないため,パフォーマンスが(Core i7と比べて)大きく落ち込むことはないという。
なお同社は,Lynnfieldの投入に合わせて,P55搭載のハイエンド市場向けマザーボード「Kingsberg」(キングスバーグ,開発コードネーム)を投入する意向。さらに2010年には,P55の機能強化版として,「P57」チップセットの投入も計画している。
P57は,フラッシュメモリを使ったアクセラレーション技術である,Intel Turbo Memoryを進化させた,「Braidwood」(ブレイドウッド,開発コードネーム)テクノロジをサポートする。同技術は,P57内に内蔵される不揮発性メモリコントローラを用いることで,これまでよりも効率的なキャッシュ制御などを可能にするものだ。また,P57では,開発コードネーム「Coral Harbor」と呼ばれる技術もサポートされ,「ボリュームキャッシュの最適化とE-mailなどのイベント告知機能に対応する」とされるが,詳細は明らかになっていない。
グラフィックス機能内蔵のHavendaleは2010年
対応チップセットはH55,H57,Q57に
なお,Nehalemアーキテクチャに基づくもう一つのCPUで,グラフィックス機能を内蔵したデュアルコアモデル,「Havendale」(ヘブンデール,開発コードネーム)は,2010年第1四半期へとその登場時期がズレ込んでいるが,そんなHavendale用チップセットとしては,P55とは別に,「H55」「H57」「Q57」といったチップセットが用意される。
これらがP55(やP57)と異なるのは,Havendale用ディスプレイインタフェースの役割を果たすFDI(Flexible Display Interface)と,ディスプレイ出力,両機能の有無だ。マザーボードベンダー関係者によれば,P55やP57でもHavendaleを利用できるが,その場合,CPU内蔵のグラフィックス機能は,そのままでは利用できない,というわけである。
「そのままでは」と断ったのは,PCI Express x16スロットを使うADD2カードのように,専用のグラフィックスインタフェースカードを利用したソリューションが提供される可能性がゼロではないためだ。
Intelは当初,LynnfieldとHavendaleを同時期に投入する計画を持っていて,その時点でIbex Peakではディスプレイ出力もサポートされる予定だった。しかし,マザーボードベンダーからは,チップセットを集約しすぎることによって,製品ラインナップが乏しくなることに対する不満や,HDCPライセンス費など,ディスプレイ出力対応製品では追加コストがかかることから,複数チップセットの投入を望む声が上がっていた。Havendaleの投入時期が約半年後退したこともあって,Intelは関係ベンダーの要望に応える形で,チップセットラインナップを整備したことになる。
また,これに併せてかどうか,IntelはHavendaleでも,P55やP57との組み合わせでデュアルグラフィックスカード構成をサポートする意向を見せる。これも,同社の当初の計画にはなかったものだ。
付け加えると,IntelはHavendale投入とほぼ同じ時期に,同製品の32nm版となる,開発コードネーム「Clarkdale」(クラークデール)を市場投入する見込みである(※32nmプロセスの状況次第なので,“ほとんど間を置かず”になるのか,“ほぼ同時”か,はたまた“1〜2か月程度ずれて”になるかはまだ分からない)。
Clarkdaleは,Havendaleと同じくデュアルコアCPUとなり,「Intel G45 Express」チップセットと同じ,GMAベースのグラフィックスコアを内蔵する。ただし,OEMとなるPCベンダーの関係者によると,Clarkdaleの動作クロックやキャッシュ容量はHavendaleと同じながら,消費電力はかなり抑えられるため,別のプロセッサナンバーが与えられるという。
Intelは当初,HavendaleのTDPを「89W以下」としていたが,2009年を迎えた現在,同社の説明は「79W前後」に変わっている。これに対してClarkdaleでは,65W前後まで下がるようだ。
やや余談気味にLynnfieldへ話を戻すと,“Lynnfieldの32nmプロセス版”について,Intelは今のところ,これといった言及をしていない。移行は,2011年になる見通しである。
ところでIntelは当初,LynnfieldやHavendaleのCPUパッケージをLGA1160としていたが,2008年後半のロードマップ改定でLGA1156へと変更されている。もっとも実際のところ,主要なOEMベンダーやマザーボードベンダーが検証に利用しているLynnfieldはLGA1160版。CPUソケット自体は1160ピン形状が採用されることになり,将来的にはAMDの「Socket AM2」よろしく,同じCPUソケットに,世代の異なるCPUを搭載できるようにするという。
Intelに近いOEM関係者によれば,「Gulftown以降,デスクトップCPUのCPUソケットは,LGA1160ベースのものに集約される」と説明を受けているとのこと。Intelでは,Lynnfield/Havendale世代のLGA1156パッケージに対応したCPUソケットを,Havendaleの頭文字を取った「Socket H」と呼んでいるが,これをGulftown以降で,Socket H2へ進化させるというのが,OEM関係者の見方である。
間もなく登場する低電圧版Core 2 Quad
価格がネックだが,面白い存在なのは確か
直近に登場する製品で注目されるのは,消費電力の目安となるTDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)が65Wへ引き下げられたCore 2 Quad Q9000s/Q8000sシリーズだ。Intelは近々に,この“s”クラス3モデルを市場投入するが,下に示したとおり,(通常電圧版と同様に)動作クロックだけでなく,L2キャッシュ容量にも違いがあるので,購入する場合には注意が必要となる。
- Core 2 Quad Q9550s/2.83GHz:FSBクロック1333MHz,L2キャッシュ容量6MB×2
- Core 2 Quad Q9400s/2.66GHz:FSBクロック1333MHz,L2キャッシュ容量3MB×2
- Core 2 Quad Q8200s/2.33GHz:FSBクロック1333MHz,L2キャッシュ容量2MB×2
店頭売価が,同スペックの通常電力版と比べて50ドル前後高くなる点も要注意。その価格設定を前に,どれだけのユーザーが価値を見いだせるかに課題は残る。ただ,よりマルチスレッド性能の高いCPUを,より静かに,あるいはより小型のPCケースで運用するうえでは見逃せない存在なのも確かだ。
<※以下,最新情報に基づく15:00追記>
揺れる「グラフィックス機能内蔵CPU」ロードマップ
Havendaleは,「そのコードネームだけ」がキャンセルに
Intelのグラフィックス内蔵CPUロードマップが揺れている。
台湾の旧正月前後に「Havendale消滅」の情報が流れ始めていたのは事実だ。一方,大手OEMベンダー関係者からは「45nmプロセス版のグラフィックス内蔵CPUは存在し続けている」という確度の高い情報も入っていたため,本稿初出時には,上のとおり記載した次第だが,ようやく,そのカラクリが見えてきた。
結論からいうと,Intelの最新CPUロードマップから,開発コードネームHavendaleというプロセッサは消え,グラフィックス機能内蔵CPUは,Clarkdaleに一本化されている。しかしこれは,「Havendaleとして開発されてきた45nmプロセスのグラフィックス内蔵CPUの消滅」を意味しない。45/32nmプロセス版のグラフィックス機能内蔵CPUが,2010年第1四半期に,Clarkdaleとして市場投入される計画に変わっているのだ。
少々ややこしいが,これは「“Havendaleと呼ばれていたコア”を完全にキャンセルしてしまうと,2010年第1四半期中の市場投入が難しくなる可能性が残されているから」だと見られている。逆にいえば,32nmプロセスを採用したClarkdaleの開発・製造が順調に行けば,45nmプロセス版グラフィックス内蔵CPUが完全にキャンセルされる可能性が残されていることになる。
また,Intelは32nmプロセスのClarkdaleをWestmereマイクロアーキテクチャのプロセッサとして投入する意向を固めている。
もとよりWestmereは,Nehalemマイクロアーキテクチャのシュリンク版に当たり,アーキテクチャ面で大きな変更はなされないということになっていた。だが,32nmプロセス世代のフラグシップとなるGulftownで,CPUコア数が増えるなどの強化がなされたため,Havendaleと同等のスペックを持つClarkdaleもWestmere世代とするかどうか,Intel内部でも揺れていたようだ。しかし,最新ロードマップアップデートを見る限り,事実上,「32nmプロセス版Nehalemマイクロアーキテクチャ=Westmere」という形で落ち着いたと見てよさそうである。
では,なぜIntelはHavendaleをロードマップから消したのか。
Intelは2008年半ばに,Havendaleと,そのモバイル版となる開発コードネーム「Auburndale」の市場投入時期を,2010年第1四半期へ延期すると,OEMベンダー関係者に公表したが,その背景には,時間を要するグラフィックス機能の強化(や安定化)があると見られていた。
しかし,今回,IntelのロードマップからHavendale――そして,本稿ではここまでとくに触れてこなかったがAuburndaleも――のコードネームが消滅したのは,グラフィックス機能がらみとは無関係のようだ。
HavendaleもAuburndaleも,グラフィックス機能やメモリコントローラなどは,CPUコアとは別のシリコンをパッケージ上で統合する形を取っており,32nmプロセスで製造されるClarkdaleや,そのモバイル版となる開発コードネーム「Arrandale」(アランデール)も,同様の設計になると見られている。さらにいえば,Clarkdaleもそうだが,Clarkdaleのスケジュール自体に変更がないことからすると,グラフィックス機能部(非CPU部)に問題があるとは考えにくい,というわけである。
興味深いのは,以前,あるノートPCベンダー開発者が,「Nehalem世代のスリムタイプのノートPCでは,グラフィックス機能を内蔵したCPUを使うよりも,外付けGPUを利用するほうが,消費電力を抑えられる可能性がある」と指摘していたことだ。実際,Nehalem世代のノートPC開発に「消費電力の壁」があると指摘するODMベンダー関係者は少なくない。
その意味で,今回のロードマップ変更(※実際には,コードネーム変更)は,デスクトップCPUともコアを共用するモバイル版CPUの消費電力低減を優先させた結果,と見ることもできるだろう。
- 関連タイトル:
Core i7(LGA1366,クアッドコア)
- 関連タイトル:
Core i7&i5(LGA1156,クアッドコア)
- 関連タイトル:
Core i5&i3(LGA1156,デュアルコア)
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Core 2
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