レビュー
久方ぶりに再販された,WWII西部戦線ストラテジーの名作
コンバットミッション ビヨンド・オーバーロード
» ターゲットの問題なのか,むしろボードゲームよりもシンプルなストラテジーゲームが多い,PCゲーム業界。そんななかで,ボードゲームの歴史を通じて望ましいシステムと分かっているが,煩雑だとして多用されなかったプロット&同時適用制を,PCの処理能力で実現したのが「コンバットミッション」シリーズだ。豊富なボードゲーム歴というか,現役ボードゲーマーでもあるアトリエサード 徳岡正肇氏が,その真価を語る。
絶版となっていた名作をドライブが再リリース
CMBOはもともとBattlefront.comが開発したタイトルで,ノルマンディ上陸作戦以後の西部戦線を扱った本作のほか,東部戦線を題材とした「Combat Missions: Barbalossa to Berlin」(邦題 コンバットミッション2 東部戦線・ベルリンへの道)アフリカ戦線が舞台の「Combat Missions: Afrika Korps」(邦題 コンバットミッション3 アフリカ軍団)がある。
また最新作として現代戦を扱った「コンバットミッション ショックフォース」(原題 Combat Missions: Shock Force)があり,こちらはサイバーフロントから日本語マニュアル版が発売されている。
Battlefront.comは,非常に硬派な作品を作り続けているデベロッパである。この会社の筋金入りっぷりは相当なもので,アナログ時代のシミュレーションゲームを下敷きにした作品や,軍用作戦シミュレータの商用版,T-72運転シミュレータなど,実にストイックな作品展開を続けている。
事前入力&同時適用ターン制で
思い通りの作戦構想を実現
本作は,第二次世界大戦の西部戦線(ノルマンディ上陸作戦以降)における,おおむね小隊から中隊規模での戦闘を扱っている。車両は1両単位,歩兵は4人〜10人前後が1ユニットで,例えば小規模なシナリオを選ぶと,各陣営に車両2〜3台(場合によってはゼロ)と,兵士6〜10部隊程度が与えられる。
選択できる陣営としては,基本的に英軍・米軍かドイツ軍となるが,カナダ軍,ポーランド軍,フランス軍といった陣営をはじめ,英米の空挺部隊,ドイツの空挺部隊,武装SSなども「陣営」として選択できる。
連合軍空挺部隊の精鋭達。霧の向こうでは国民擲弾兵が待ち伏せしている。実に末期な状況だ |
ずらりと並んだM10。米軍の白い星がまぶしいものの,実は自由フランス軍の機甲部隊である |
ゲーム内時間1分が便宜上1ターンとされ,1シナリオはだいたい15ターンから40ターン,長くて80ターン程度で終わる。
だがここで「ターン制」と聞いて,かつての「大戦略」シリーズ(IIまで)のように「自分の手番が来たら自分のユニットを動かして攻撃し,相手に手番を渡す」という,交互ターン型のゲームを想像したならば,その予想は大幅に間違っている。
指示を出すのは非常に簡単で,ユニットをクリックしてポップアップウィンドウから行動を選択,目標を伴う行動なら目標をマウスでクリックするというもの。RTSのように範囲選択で複数のユニットを対象とし,同じ命令を発行することも可能だ。また,1ターンで実行しきれない命令(長距離の移動など)は,自動的に次ターンへと持ち越されるので,敵が十分に遠いことが確認(あるいは確信)できているなら,そうした命令を与えてもかまわない。ちなみに長距離の移動の場合,ウェイポイント(経由地点)も設定可能だし,進入不能な地形にかかった場合は,自動でパスファインディングもしてくれる。
初めてプレイすると,なんだか手間のかかるRTSのような印象を受けるかもしれないが,この方式にはRTSにない魅力がある。RTSでは,えてして時間あたりの操作回数が,そのままプレイの巧拙に直結する。どんなに優れた戦略眼を持っていても,操作に手が回らなければそこまでであり,裏を返せばそれがRTSの面白さでもある。それに対してCMBOでは,リアルタイム操作が介在しないため,プレイヤーの戦術センスがより強く問われる。
思い通りに動かない兵士
戦場の不測事態を再現
コンピュータゲームというものは,プレイヤーの操作がゲームの進行に100%反映されるのが一つの原則である。不可能な行動は,そもそも選択肢として提示されないか,あるいは選択できない。ゲームのインタフェースはそのように進化してきた。
CMBOでも,プレイヤーは各ユニットに指令を発行する。だがその指令は,必ずしも守られるとは限らない。自陣営の行動タイミングは,敵陣営の行動タイミングでもあるからだ。移動の途中で敵に銃撃されればその場に伏せるし,仲間が手ひどく傷ついたり死んだりすれば足も竦む。また敵兵を見つければ,たとえ攻撃命令が出ていなくても,その敵兵に向かってとりあえず射撃する。
つまり,本作におけるプレイヤーの立ち位置はあくまでも指揮官であり,兵士の一挙一動には立ち入れないのだ。実際,パニックに陥った部隊や潰走を始めた部隊には,命令の発行すらできない。
これがもし普通のRTSにそのまま導入されたら,おそらくプレイヤーは苛立つだけであろう。ただでさえ忙しいRTSの進行のなかで,ユニットそれぞれが勝手にさまざまな行動をとるのでは,プレイヤーの負担が大きすぎる。一方CMBOでは,命令を発行したあとのプレイヤーが,それから1分間にできることは,ただ状況を見守るだけである。この「ままならない」感覚が非常に面白い。
また,いっさい手出しができないということはつまり,待ち伏せや挟撃が決まってしまったら,もうそのときにはすべて手遅れであるということだ。それでいて,完璧にセットされたはずの挟撃が,ちょっとした不運から突如泥沼の乱戦に落ち込んでいったりするありさまに遭遇すると,あらためて戦場とは難しい場所なのだなと思わざるを得ない。
車体設計上の欠陥までデータ再現
しかし,運は重要
これもまた実にこの会社の作品らしく,異常なまでに熱の入った作り込みがなされている。とくに車両関係のデータは凄まじく,それぞれの車両には各部位の装甲圧や装甲の質といったものが設定されているほか,設計上の問題までもがデータとして反映されている。車両が攻撃を受けた場合には,20を超えるパラメータを用いて計算したうえで,その攻撃によってどのような被害が発生したか(あるいはしなかったか)が決められる。
もちろん,実際のプレイでプレイヤーがやることは,「あの戦車を撃て」とか,「あの自走砲を砲撃しろ」というだけだし,実際問題としてそこまで細かく設定されたデータがどれくらいプレイに影響を与えているのかは知る術もない(し,知る必要もない)わけだが,ともあれさまざまな意味で最大限の努力がなされているのは間違いない。
そして,これまた間違いなくいえるのは,そういった緻密なデータの積み重ねの先に生まれた架空の戦場において,プレイヤーが戦争のハードウェア的な側面について感じることといえば,結局のところ「意外と運の要素が強い」ということだ。
歩兵が撃つ重機関銃の弾が戦車の行動になんらかの影響を与えることは,普通あり得ない。そしていわゆるリアル系のFPSですら,この常識をもとにゲームがデザインされている。
ところが本作を遊び込んでいると,重機関銃手が半ば反射的に行った一連の射撃が,突如として戦車の行動を(数ターンとはいえ)封じ込めるといった結果に遭遇することがある。そして車長がハッチを開けていた場合は,結構な頻度でこれが生じる――機関銃手はハッチから頭を出していた車長を狙って攻撃し,車長は慌ててハッチを閉めて隠れたものの,一時的なパニックに陥ったり,ひどいときはそのうちの一発が車長の命を奪ったりするのだ。いずれにしても,しばらくの間,戦車は機能不全を起こす。
では戦車に対する機銃掃射がそれほど有効かといえば,全然そんなことはない。普通,対戦車装備のない機銃巣であれば,戦車は単純にそこを蹂躙していくか,砲撃で黙らせる。しかしごくわずかな確率でその「普通」は覆り,そこで生じた異常事態が戦闘の様相自体を一変させる。意外と運の要素が強いとはそういうことだ。
なお,当然だが車両以外の戦闘ユニット,つまり歩兵に関しても,詳細なデータが用意されている。兵士に最も大きな影響を与えるパラメータが心理状況であるのは変わらないが,同じくらい重要な要素として武装の種類であるとか,熟練度であるとか,疲労度であるとか,そして何より残弾数であるとかいったものが挙げられる。また迫撃砲,対戦車装備,マシンガンといった武装も,戦場に大きなインパクトを与える――というか,部隊で唯一の対戦車装備持ちがゲーム開始早々に迫撃砲のまぐれ当たりで壊走したりすると……。いやはや,運は大事である。
航空/砲撃支援も含めて
地形の有効な利用が重要
命令を発行する場合も,このことは充分に配慮する必要がある。ちょっとした茂みや疎林であっても,攻撃を妨げる効果は大きい。戦場をよく見て,どの位置からなら遮蔽を活かした攻撃が可能かを,よく考えておくとよいだろう。
また本作では,歩兵が建物の中に入って戦闘をすることもある。建物にもそれぞれデータが用意されており,高所からの攻撃や,窓を使った銃座といった戦術も有効だ。もっとも,狭い部屋のなかでバックブラストのある武器を使えば大変なことになるので,「戦車の上面装甲は脆い,上から狙え!」と思うその意図は素晴らしいが,撃つ前にはほんの少しいろんなことを考えたほうがよい。ちなみにイギリス軍の対戦車兵器PIATはバックブラストがない(信じられないかもしれないがバネで弾体を射出する)ので,狭い部屋でも安心だ。
なお,当然だが本作には砲兵支援や空軍支援も登場する。戦場におけるキルの大多数は砲兵が稼ぎ出しているわけで,もしこれらが登場しないなら片手落ちである。だが,これらの支援は非常に強力である半面,有効に利用するにはそれなりの工夫が必要だ。砲兵の場合,あらかじめ砲撃地点を設定しておけるが,その場合はきちんと地形を読んで,最も有効と思われる場所を設定しておかねばならない。また砲兵観測員による目視を絡めた砲撃の場合,砲兵観測員をどうやって安全かつ視界の広い場所に配置できるかが,問題になる。
空軍支援の場合,話はもう少し簡単になるが,乱戦になったところに空軍支援がやってくると,非常に高い確率で大惨事が引き起こされる。まあ,もちろん敵も痛いんですけどね。きちんとキルゾーンを作れないと,本当に地獄としかいいようのない光景になるだろう。とくに地雷原や有刺鉄線といったものが利用できる場合,こういった「地図の読み」は一層重要になっていく。
キャンペーンシナリオと
スカーミッシュバトルも備える
いわゆるスカーミッシュバトルを設定するところ。条件をいくつか決めるだけで,地形などがランダムに生成される |
こちらはオペレーション,つまりキャンペーンの選択画面。これもまた相当のボリュームがある |
この場合,部隊はシナリオ間で持ち越しとなり,部隊が得た経験もまた継承される。初めは初々しい二等兵だったのが,ゲームが進むにつれて歴戦の兵士へと磨き上げられていくこともあるというわけだ。まあ,ほとんどはそうなる前に戦死か負傷後送なんですが。
シナリオには詳細な解説が添付されており,オフィシャルシナリオの場合,戦闘の発生した状況だけでなく,その周辺の歴史的事実などが記されているものもある。本作はあくまで「日本語マニュアル付き英語版」なので,こういった英語長文は原文のまま残されているが,日本語版マニュアルには各シナリオの和訳が掲載されているので,事前に印刷しておけば困ることはほとんどないだろう。また,ゲーム自体動作が軽いので,タスクを切り替えて閲覧してもほとんどストレスはない。
ブリーフィングの長文を読んだり,自分でシナリオを作ったりする手間ヒマをかけずに,さっくりと短時間で遊びたいといった場合,いわゆる「スカーミッシュ」も設定可能だ。戦場の広さ,ユニットの規模,登場するユニットが所属する部隊の大まかな種類(機械化,装甲集団など),勝利条件などを選択することで,簡単にインスタンスシナリオを楽しめる。
シナリオ全体の状況解説。日本語訳がPDFのマニュアルに付いているので,英語が苦手でも大丈夫 |
シナリオで選択した陣営の勝利条件や戦力などの解説。これも和訳がある。ここ以外に長い英文はなく,英語が苦手でもプレイには不自由しない |
E-mailやホットシートでの対戦もサポート
一つめは,ネットワークを使った対戦。RTSなどと同様,インターネットを利用しての対戦が可能だ。この場合,プレイヤーは同時に命令を発行し,双方の命令が揃ったところで次のターンということになる。分かりやすい形式といえよう。
次がHotSeat。要するに1台のPCを交互に使用して対戦するという形式である。古い話で恐縮だが,筆者はコーエーの「三國志」においてこの方式で対戦した記憶がある。友人の曹操が私の孫権配下の武将を引き抜こうとして捕らえられたので首を切ろうとしたら,凄い勢いでキーボードを奪い取られたのは懐かしい記憶だ。
最後にPlay by E-mail。命令を発行したら,それをメールとして出力,これをやりとりしてゲームを進めるという,気の長いプレイ方式である。一見するとこれはあまりに非現実的で不便な遊び方に思われるかもしれないが,実際のところプレイ時間こそ長くなるものの,プレイヤー同士が時間帯を拘束しあわないという利点がある。プレイヤーが時差のある地域に住んでいたり,生活時間帯が合わなかったり,ゲームをプレイするまとまった時間がとれなかったりという場合でも,この方式ならゆっくりとプレイを進められる。
一緒にゲームをプレイするなら,互いの時間を拘束するのは当たり前だろうと言い切ってしまうのは簡単だが,現実には非共時型のMMOタイトルが,とくに携帯電話分野において増加しつつある。本作のPlay by E-mailがエキサイティングでイノベーティブな解決だと主張するつもりはこれっぽっちもないし,実際古い手法だが,そこから得られるものがないとは限らない。
夕焼けのなか,集結したドイツ機甲部隊。ここが有名な「地獄のハイウェイ」だ |
霧の中をアーヘンに向かうパイパー指揮下の武装SS部隊。目指せアントワープ |
日本語マニュアルともども蘇った名作
続編の復活にも期待したい
いろいろ書いたが,要するにゲームシステム的にはアナログのシミュレーションゲームで定評のある(だけど煩雑なので実装する作品は少ない)プロット方式であり,プロットやブラインドサーチ,各種損害判定という構成要素をきちんと盛り込みつつ,その煩雑さをすべてPCが受け持ってくれる本作は,クラシックなウォーゲーマーにも無理なくお勧めできる。
輸入代理店だったマイクロマウスの倒産とともに入手が難しくなった本作だが,こうしてまた簡単に購入できるようになったのは嬉しい。英語版を厭わないならダウンロード購入はずっと可能だったものの,ともあれ日本の流通にこの作品が乗っているということは良い話だ。
またシナリオエディタが付属していることもあって,シナリオMODも非常に豊富だ。なかには第一次大戦の塹壕戦を本作で再現してみたという大胆な実験もあり,ゲームとして成立しているかどうかはともかく,その心意気は楽しめる。幸いといっていいのか,本作はプログラムとしては英語版そのままなので,よくある「英語版で使えるMODが日本語版では使えない」という問題も発生しない。
でまあ,西部戦線を遊んでいると,やはり東部戦線も遊びたくなるのがゲーマーの性(さが)というものだ。できればこのまま続く2作も再販してもらえると非常に嬉しいのだが,そこは今後に期待したい。
- 関連タイトル:
コンバットミッション ビヨンド・オーバーロード
- 関連タイトル:
コンバットミッション
- この記事のURL:
キーワード
Combat Mission: Beyond Overload copyright (c) 1997-2004 Battlefront.com, Inc., All Rights Reserved.
(C)2000 Big Time Software, Inc. All rights reserved.