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Xeon Phi
  • Intel
  • 発表日:2012/06/18
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Intel,スーパーコンピュータ向けアクセラレータ「Xeon Phi 5110P」発表。60基のx86コアを1チップ上に集積
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印刷2012/11/13 11:00

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Intel,スーパーコンピュータ向けアクセラレータ「Xeon Phi 5110P」発表。60基のx86コアを1チップ上に集積

画像集#002のサムネイル/Intel,スーパーコンピュータ向けアクセラレータ「Xeon Phi 5110P」発表。60基のx86コアを1チップ上に集積
Xeon Phi 5110P。6月の時点でIntelは,最初のXeon Phiが「50基以上のx86コアと,容量8GBのGDDR5メモリが組み合わされる」というおおざっぱな情報と,Xeon Phiに集積されたx86コアの技術的な概要しか明らかにしていなかったが,いよいよ全容が明らかになった
画像集#003のサムネイル/Intel,スーパーコンピュータ向けアクセラレータ「Xeon Phi 5110P」発表。60基のx86コアを1チップ上に集積
2013年1月23日以降,国内外の大手メーカーから,Xeon Phi 5110P搭載のサーバーやワークステーションが国内市場向けに登場するという
 日本時間2012年11月13日11:00,Intelは,スーパーコンピュータ(≒HPC,High Performance Computing)向けアクセラレータ「Xeon Phi」(ジーオン・ファイ)の第1弾製品「Xeon Phi Coprocessor 5110P」(国内製品名:Xeon Phi コプロセッサー 5110P,以下 Xeon Phi 5110P)を,2013年1月28日に発売すると発表した。小売市場向け単体販売の予定はなく,OEM向けの価格は1000個ロット時単価で2650ドル(約21万円)だ。
 また,「Xeon Phi Coprocessor 3100」(国内製品名:Xeon Phi コプロセッサー 3100,以下 Xeon Phi 3100)シリーズの2製品を2013年第1半期中に市場投入することも合わせて同時にアナウンスしている。

 Xeon Phiというブランド名やアーキテクチャの概要は6月の時点で明らかになっていたが(関連記事),ようやく,最終製品名や出荷時期などが判明したわけである。

 ちなみにXeon Phi 5110Pは,米ユタ州ソルトレイク市で現地時間10日から開催されているスーパーコンピュータ関連の国際会議「SC12」に合わせて発表されたもの。Xeon Phi 5110Pの登場によってIntelは,同社として初めて,スーパーコンピュータ向けアクセラレータ市場に参入することになる。
 製品の性格上,4Gamer読者とすぐに直接関係してくるものではないが,その開発経緯からして興味をそそられている人は少なくないだろう。また,Xeon Phiで培われた技術が将来のグラフィックス機能統合型CPUに活かされないとは限らない。

 4Gamerでは,国内の報道関係者向け説明会に参加してきたので,それを基にXeon Phiの特徴をまとめつつ,いま何が起こっているのかを考えてみることにしよう。


60基のx86コアを実装し

ピーク倍精度演算性能1 TFLOPS超を達成


2009年のIntel Developer Forum 2009 San Franciscoで動作デモ展示されたLarrabee。8+6ピンの補助電源構成を採用し,2スロット仕様の青い(カバーの)クーラーを採用していた
画像集#004のサムネイル/Intel,スーパーコンピュータ向けアクセラレータ「Xeon Phi 5110P」発表。60基のx86コアを1チップ上に集積
 さて,まずはXeon Phiとは何なのかをおさらいしておきたい。
 Intelはかつて,「Larrabee」(ララビー)という開発コードネームで,x86アーキテクチャに基づくコアを大量に搭載する,独自設計のGPUを開発しようとしていたのだが,さまざまな理由から最終的には製品化を断念した。
 しかし,「x86アーキテクチャのコアを大量に搭載する製品」の開発そのものは継続し,それに「MIC」(Many Integrated Core,マイク)というアーキテクチャ名を与えて,最終的にはスーパーコンピュータに向けて,製品化する方向へと舵を切ったのだ。6月頃まで開発コードネーム「Knights Corner」(ナイツコーナー)と呼ばれていたXeon Phiは,そんなMICアーキテクチャを採用する初の最終製品である。

 Xeon Phi 5110PおよびXeon Phi 3100シリーズは,双方ともPCI Express x16に接続するタイプのカード製品だ。IntelはXeon Phiを,一般的に用いられる「アクセラレータ」という呼び名ではなく,Xeon(=CPU)の補助的に動作する「コプロセッサ」と位置づけているが,「スーパーコンピュータの演算能力を強化するPCI Express拡張カード」という意味では,NVIDIAのTeslaと同じ位置づけの製品という理解で構わない。

Xeon Phi 5110Pと,Xeon Phi 3100シリーズの概要がまとまったスライド。発売日は決まっているが単体販売の予定はない
画像集#005のサムネイル/Intel,スーパーコンピュータ向けアクセラレータ「Xeon Phi 5110P」発表。60基のx86コアを1チップ上に集積

画像集#006のサムネイル/Intel,スーパーコンピュータ向けアクセラレータ「Xeon Phi 5110P」発表。60基のx86コアを1チップ上に集積
 今回スペックの詳細が明らかにされたのは,2012年1月28日に発売されるXeon Phi 5110Pのみでなので,以下は同製品を中心に見ていきたいが,3次元トライゲート(3D Tri-Gate)・トランジスタを用いた22nmプロセス技術を用いて集積されるx86コア数は60基で,コアの動作クロックは1.053GHz。倍精度浮動小数点演算のピーク性能は1.011 TFLOPSに達するという。
 また,搭載されるメモリは合計容量8GBのGDDR5 SDRAMで,これは6月に予告されていたものと変わらず。ピーク帯域幅は320GB/sとされている。説明会で直接的な言及はなかったのだが,Intelから報道関係者に配布されたスペック表によるとメモリの転送速度は5GT/s(=メモリクロック5GHz相当)なので,メモリインタフェース幅は512bitと推定できる。

 下に示した写真は,説明会の会場で展示されていたXeon Phi 5110Pの実機だ。冷却ファンを持たないパッシブ冷却型の製品となっていることから,冷却システムが完備されたサーバーやワークステーション向けの製品であると分かる。

説明会で展示されていたXeon Phi 5110Pの実機。Xeon Phi 5110Pは冷却ファンを搭載しないパッシブ冷却型の製品だ
画像集#007のサムネイル/Intel,スーパーコンピュータ向けアクセラレータ「Xeon Phi 5110P」発表。60基のx86コアを1チップ上に集積

 PCI Express補助電源コネクタは8ピン+6ピン構成。仕様上は最大300Wを供給できる計算になるが,カード全体のTDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)は225Wと,かなり抑えられた印象である。電力効率は悪くなさそうだ。

画像集#008のサムネイル/Intel,スーパーコンピュータ向けアクセラレータ「Xeon Phi 5110P」発表。60基のx86コアを1チップ上に集積
カード後方に設けられたPCI Express補助電源コネクタは8ピン+6ピン
画像集#009のサムネイル/Intel,スーパーコンピュータ向けアクセラレータ「Xeon Phi 5110P」発表。60基のx86コアを1チップ上に集積
ブラケット部には,いわゆる後方排気用の大きな孔が開けられている

Xeon Phi 3100シリーズのアクティブ冷却型モデル(型番未定)
画像集#010のサムネイル/Intel,スーパーコンピュータ向けアクセラレータ「Xeon Phi 5110P」発表。60基のx86コアを1チップ上に集積
 もう1つのXeon Phi 3100シリーズのほうだが,下に示したスペック表によれば,こちらはパッシブ冷却型だけでなく,ファンによるアクティブ冷却型の製品も登場する見込みだ。
 メモリ容量はXeon Phi 5110Pより2GB少ない6GBとなり,メモリの転送速度は5GT/sとXeon Phi 5110Pと同じながらメモリバス帯域幅が240GB/sに縮んでいるので,メモリインタフェースは384bitになっていると思われる。一方,カードレベルのTDPは300Wに引き上げられているので,動作クロックが引き上げられている可能性はありそうだ。

 Xeon Phi 3100シリーズの販売形態は未定だが,Xeon Phi 5110Pと異なるのは,単体販売される可能性が否定されていないこと。Xeon Phi 3100シリーズの1000個ロット時単価は2000ドル以下だそうで,Xeon Phi 5110Pよりは低価格になる見込みだが,それでも店頭で販売されるとすると,価格は20万円を超えるだろうという話だった。気軽に購入できるような製品にはならないようだ。

発表当初のXeon Phiスペック表
画像集#011のサムネイル/Intel,スーパーコンピュータ向けアクセラレータ「Xeon Phi 5110P」発表。60基のx86コアを1チップ上に集積

 ところで,上のスライドで「特別版」(special edition)と書かれた製品「SE10P」「SE10X」が並んでいるのに気づいた人もいると思う。
 詳細は明らかになっていないが,これらはXeon Phi 5110Pと比べて,x86コアの数が1基だけ多く,動作クロックが引き上げられ,カードレベルのTDPも300Wに達しているのが特徴だ。インテルによると,「特定顧客向けの特別版で,一般販売を行う予定はない」とのことだったので,高性能を必要とする顧客向けに出荷される(もしくは出荷された),文字どおりの特別版製品なのだろう。


Xeon Phi 5110Pのスペックを掘り下げてみる

最大の優位性はプログラムのしやすさか


Xeon Phi 5110Pを4枚搭載するサーバーの例。ホストCPUたる「Xeon E5-2690/2.9GHz」×2と合わせて4.4 TFLOPSになるというが,用いられているサーバーケースの冷却機構は4枚のXeon Phi 5110Pにとって十分でない印象だ。あくまで参考展示と見るべきだろう
画像集#012のサムネイル/Intel,スーパーコンピュータ向けアクセラレータ「Xeon Phi 5110P」発表。60基のx86コアを1チップ上に集積
 スペック周りをもう少し掘り下げてみよう。
 Xeon Phi 5110Pに集積される60基のx86基コアは,2本のパイプラインを持った,シンプルなスーパースカラ(Superscalar,スーパースケーラともいう)型だが,ハードウェアで最大4スレッドの実行に対応するとされる。つまりXeon Phi 5110Pは1枚で最大240スレッドを同時に実行できるわけだ。

 NVIDIAからは「20年前のPentiumを束ねた製品」と揶揄されたx86コアで,実際に2本のパイプラインを持つシンプルな構成は20年前のPentiumによく似ている。しかしもちろん,“本物の”20年前のCPUコアを60基束ねたところで意味はなく,Xeon Phiのコアには,当時のPentiumになかった機能が付加されている。
 それが512bitベクトル演算機能である。現在のCore iプロセッサはAVX(Advanced Vector eXtentions)という256bitのベクトル演算機能を持つが,その2倍のベクトル長で演算をサポートするわけだ。Xeon Phiの性能面においては,x86命令セットとの互換性より,むしろベクトル演算器こそがキモになる。

2012年9月開催の高性能LSIに関する国際会議「Hot Chips 2012」で公開された資料より,Xeon Phiのx86コアブロック図。「pipe0」と「pipe1」,2つのパイプを持ち。pipe0では512bitのベクトル演算をサポートする。図中,「VPU 512b SIMD」となっているブロックがそれだ
画像集#025のサムネイル/Intel,スーパーコンピュータ向けアクセラレータ「Xeon Phi 5110P」発表。60基のx86コアを1チップ上に集積

 Xeon Phiのベクトル演算器は1クロックあたり最大2回の演算が――積和演算時だと思われるが――可能とされる。「512bit=64bit倍精度×8」なので,Xeon Phi 5110Pの場合は動作クロック1.053GHz×60(コア数)×2(1クロックあたりの演算回数)×8(64bit倍精度浮動小数点演算の数)=1010.88 GFLOPSがピーク演算性能となるわけだ。32bit単精度ならその2倍に達すると見ていい。

 公開されたダイ写真も興味深い。2012年6月に公開された写真とはやや異なっており,コアと思しき相似形のブロックが合計62個あるのを確認できる。おそらくXeon Phi 5110Pでは歩留まり向上のためにコア2基分の不良が許容されているのだろう。特別版とされるSE10PやSE10Xでは許容される不良が1基ということなのだと思われる。

Xeon Phi 5110Pのダイとされる写真。相似形のブロックが全部で62個ある。Xeon Phi 5110Pでは,コア2基分の不良を許容している(≒62基中2基が無効化されている)はずだ
画像集#013のサムネイル/Intel,スーパーコンピュータ向けアクセラレータ「Xeon Phi 5110P」発表。60基のx86コアを1チップ上に集積


プログラミングモデルの優位性を武器に

市場で先行するNVIDIAへ挑むIntel


岡崎 覚氏(インテル クラウド・コンピューティング事業本部 事業開発本部 本部長)
画像集#014のサムネイル/Intel,スーパーコンピュータ向けアクセラレータ「Xeon Phi 5110P」発表。60基のx86コアを1チップ上に集積
 報道関係者向けの説明会では,Intelの日本法人であるインテルの岡崎 覚氏が,スーパーコンピュータ市場の将来性が高いことを引き合いに出してXeon Phiの重要性を強調しつつ,Xeon Phi 5110Pの性能を代表的なベンチマークで示していた。

 示された各種ベンチマークのスコアは下に示したスライドのとおりで,たとえば代表的なベンチマークテストである「Linpack Benchmark」では722 GFLOPS(0.722 TFLOPS),行列計算を行う「DGEMM」では833 GFLOPS(0.833TFLOPS)というスコアが示されている。

Xeon E5-2670/2.6GHzの2-way構成に対し,Xeon Phi 5110Pがどの程度高速なのかを示したスライド
画像集#015のサムネイル/Intel,スーパーコンピュータ向けアクセラレータ「Xeon Phi 5110P」発表。60基のx86コアを1チップ上に集積

Tesla K20シリーズの発表にあたってNVIDIAが公開した資料より。「Xeon E5-2687w/3.1GHz」の2-wayにTesla K20Xを搭載したシステムで,DGEMMにおいて1.22 TFLOPSを実現できるとされる
画像集#016のサムネイル/Intel,スーパーコンピュータ向けアクセラレータ「Xeon Phi 5110P」発表。60基のx86コアを1チップ上に集積
 この数字が何を意味するかだが,少なくとも,Tesla K20シリーズの上位モデル「Tesla K20X」より低いとは言えそうだ。Tesla K20XではDGEMMで1.22 TFLOPSというスコが示されており,アプリケーションレベルでの実効性能はTesla K20Xに届いていないことが分かる。

 しかし,Xeon Phiが持つウリは,実のところ,性能だけではない。その優れたプログラミングモデルこそが大きなアピールポイントになっているのである。
 具体的にどういうことかというのは,説明会で筆者が「Xeon Phiは単なる60コアのx86プロセッサと考えていいのか」と尋ねたのに対する岡崎氏の回答が「512bitのベクトル演算を除けばそのとおり」というものだった点が示唆的だ。つまり,現行のSandy BridgeやIvy Bridgeなど,従来からあるIntel製CPUとほぼ同じ感覚でプログラムを書けるというのが,Xeon Phiの持つ大きな特徴になる。

デモで使用されたXeon Phi 5110P搭載サーバー。Sandy Bridge-EPコアの「Xeon E5-2690/2.9GHz」が2基にXeon Phi 5110Pカード1枚で,合計1.4 TFLOPSという構成だ
画像集#017のサムネイル/Intel,スーパーコンピュータ向けアクセラレータ「Xeon Phi 5110P」発表。60基のx86コアを1チップ上に集積
 Xeon Phiのプログラミングモデルがどんなものかは,会場で示されたデモを見ると理解できる。少々難しいかもしれないが,一部デモの様子を写真で示しつつ紹介してみよう。
 前述のとおりXeon PhiはPCI Express拡張カードになっているが,内部ではスタンドアロン型のLinuxが動作しており,ホストからはSSHを使ってログインできる。そしてデモでは,ホストOSとしてもLinuxが用いられ,円周率を計算する簡単なサンプルによるXeon Phi上でのコード実行が行われた。

 サンプルプログラムは,Intelのコンパイラでサポートされるマルチプロセッサ向けプログラミング基盤「OpenMP」を使って書かれたもの。Xeonシリーズはもちろん,4Gamer読者のPC上でも実行できる,ごく標準的なマルチコア向けコードである。

デモの流れ。まずIntelのコンパイラ(icc)でコードをコンパイル。iccに「-mmic」というオプションを付けるとXeon Phi向けのバイナリコードを出力するようになっているので,それをSSH経由のファイルコピーコマンドであるscpによりXeon Phi上のLinuxに転送。最後に実行させるというものになる
画像集#018のサムネイル/Intel,スーパーコンピュータ向けアクセラレータ「Xeon Phi 5110P」発表。60基のx86コアを1チップ上に集積

 というわけで,Xeon Phi上で動作しているLinuxに実行コードをコピーし,Xeon Phi上で直接実行する例が下の写真だ。

画像集#019のサムネイル/Intel,スーパーコンピュータ向けアクセラレータ「Xeon Phi 5110P」発表。60基のx86コアを1チップ上に集積
実際にデモ機で操作している様子。コンパイル実行後,ssh mic0というコマンドを実行してXeon Phiにログインしている
画像集#020のサムネイル/Intel,スーパーコンピュータ向けアクセラレータ「Xeon Phi 5110P」発表。60基のx86コアを1チップ上に集積
Xeon Phiにログイン後,プロセスリストを表示させたところ。60コア分のカーネルスレッド(Linuxカーネル内部のスレッド)がずらずらと表示されている。Xeon Phiはスタンドアロンで動く60コアのx86プロセッサのようなものなのだ
画像集#021のサムネイル/Intel,スーパーコンピュータ向けアクセラレータ「Xeon Phi 5110P」発表。60基のx86コアを1チップ上に集積
Xeon Phi上で円周率計算を実行。約0.88秒という結果が表示されている

 UNIX系OSに馴染みがないとちんぷんかんぷんかもしれないが,簡単に説明すると,Xeon Phiを搭載したPCは,独立して動く60コアの別のPCをもう1台持っているように扱える。Xeon Phiにログインしてコマンドを実行したり,コードを実行させたりすることができるわけである。

 このような動作は,独立したOSが動作し得ない(現行の)GPUでは不可能。Xeon Phiならではのメリットだ。もちろん,Xeon Phiではコードの一部をXeon Phiにオフロードさせて実行する,つまりGPGPUと同じ形のオフロード実行もサポートされており,ホストCPUと協力しながら計算を遂行することも可能な仕様である。

Intelが公開している(※クリックするとPDFファイルのダウンロードが始まります)製品カタログには,4種類の「実行モデル」が記されている。図の緑色がXeon Phiを用いる場合で,左からホストCPUのみで実行,一部の並列化されたコードをXeon Phiにオフロードして実行,ホストCPUとXeon Phiで同時に実行,Xeon Phiのみで実行という具合だ。一部のコードをオフロードして実行させることしかできないGPUに対し,その柔軟性の高さが強みとなる
画像集#026のサムネイル/Intel,スーパーコンピュータ向けアクセラレータ「Xeon Phi 5110P」発表。60基のx86コアを1チップ上に集積

 GPUの場合,CUDAやOpenCLといった言語を用いて「GPUにオフロードするコード」を記述し,CPU側のコードを別のコンパイラ向けに書くといった作業が必要で,馴染むにはそれなりのハードルがある。それと比べると。OpenMPを使ってIntel製コンパイラ向けに書かれたコードならXeon Phi上でサクッと実行できるというのは,筆者には非常に魅力的に映る。

画像集#022のサムネイル/Intel,スーパーコンピュータ向けアクセラレータ「Xeon Phi 5110P」発表。60基のx86コアを1チップ上に集積
Intelが提供する開発ツールの1つ「Advisor XE」を用いたデモ。Advisor XEはコードの実行効率を調べ,並列化を行うための方向性を示してくれるツールで,PC向けの開発環境で利用されているものだ。このような,既存のIntel製x86向けツールを使えるのも,Xeon Phiの大きな利点となる
画像集#023のサムネイル/Intel,スーパーコンピュータ向けアクセラレータ「Xeon Phi 5110P」発表。60基のx86コアを1チップ上に集積
上のAdvisor XE以外にも,スライドに示されているようなIntel製ツールがXeon Phi上で利用可能。また,「Xeon Phi専用のモニタリングツールも必要になる」(岡崎氏)とのことで,これもIntelから提供予定になっているそうだ
 もっとも,512bitのベクトル演算を使わなければXeon Phiの真価を発揮させることはできない。そして,その部分も容易にプログラムできるかの判断を行うには,現時点はまだ情報不足だ。NVIDIAは,Xeon Phiのベクトル演算について「まるでアセンブラでコードを書くように難しい。我々のGPUならCUDAで容易に書ける」と指摘していたりもするが,その点を評価するには,もう少し情報を得る必要があるだろう。

 ちなみに,NVIDIAはCUDAやOpenCLに加え,ホストCPUとGPU側を1つのコードで記述できる「OpenACC」というプログラミング言語の――現時点ではC言語とFortranの――拡張仕様を推している。

 OpenACCをIntelがサポートすれば,GPUでもXeon Phiでも同じように実行できるコードが書ける理屈ではあるのだが,岡崎氏は筆者の質問に対して「少なくとも現行バージョンのOpenACCをサポートすることはない」と断言していた。
 その理由は,現在のOpenACCが「あまりにGPUに特化し過ぎているから」(岡崎氏)だそうだ。将来のバージョンのサポートには含みを残していたが,当面はOpenMPで行くということのようである。NVIDIAでTesla製品のゼネラルマネージャを務めるSumit Gupta(スミット・グプタ)氏は以前,筆者の取材に対して,IntelがOpenACCをサポートしてくれることを期待する発言をしていたのだが,少なくとも当面の間,その期待は実現しないようだ。

 いずれにしても,Xeon Phiは60コアのシングルカードコンピュータっぽい製品だったわけで,マニア的には実に面白そうなアイテムといえる。筆者も説明会場で見ていて欲しくなってしまったのだが,単体販売されそうなXeon Phi 3100シリーズでもカード単体の価格が20万円超えというと,搭載製品を遊びで買うのはさすがに少し厳しい感じがする。
 ただ,実物を入手するかどうかはともかく,今後の展開には注視していくつもりだ。

画像集#024のサムネイル/Intel,スーパーコンピュータ向けアクセラレータ「Xeon Phi 5110P」発表。60基のx86コアを1チップ上に集積

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