レビュー
天使やギャル妖精,マルチプレイは,「ドラクエ」にどのような変化をもたらしたのか
ドラゴンクエストIX 星空の守り人
紆余曲折を経てついに発売された
5年ぶりのナンバリング最新作
「ドラゴンクエスト」といえば,日本におけるゲーム黎明期の1986年にRPGというジャンルを世に広めた開拓者であり,以降ナンバリングタイトルすべてがミリオンヒットという,日本を代表するメガヒットゲームシリーズ。数度の発売延期を経てついに発売された「ドラクエIX」は,リメイクやスピンオフではない正規のナンバリングタイトルとしては,シリーズ初の携帯ゲーム機対応ソフトとして登場した。
大物ソフトとしての宿命か,発売前からネットを中心にさまざまな評判が渦巻き,一体どうなることかと思われていたが,フタを開けてみれば発売2日で230万本超のセールスを記録。7月14日時点で300万本を出荷し,ドラクエの実力があらためてアピールされたわけだ。
ちなみに筆者も,事前に都内の量販店で予約をし,発売当日の昼に受け取りに行ったが,「ドラクエIX」購入者専用のレジに30分も並ばされてしまうというハプニングに見舞われた。前日から並ばなければ買えなかった「IV」や「V」の頃と比べればどうということもないが,まさか予約したのに並ばされるとは……(ちなみに並んでいたのはほとんどが予約者だった)。
「ドラゴンクエストIX」記事一覧
シリーズ初のマルチプレイは
「ドラクエ」に何をもたらしたのか
まず主人公キャラクターには,「天使界に住む守護天使」程度の設定しか存在せず,性別や顔つき,髪型や体型などの容姿をプレイヤー自らの手で作成することとなる。これはマルチプレイ時に,主人公の姿がそのままプレイヤーのアバターとなるからで,シリーズとしては初の試みだ。頭から足まで8か所の部位にそれぞれ装備する武器/防具によって,キャラクターのグラフィックスが細かく変わる「着せ替え」的な要素も含まれている。
共に旅する仲間は,ゲーム序盤から利用できる「ルイーダの酒場」にて,主人公と同様の手順で作成し,最大3人までパーティに加えられる。彼らは基本的にストーリーには干渉せず,イベントシーンでも姿を見せることはない。仲間の存在感はシリーズ初期の「ドラクエIII」のそれに近いが,近年のシリーズの個性あふれる仲間達と比べると,ちょっと淋しい印象もある。
前作「ドラクエVIII」の一部や,スピンオフ作品「ドラゴンクエストモンスターズ ジョーカー」などで見られたスタイルだが,正規シリーズで本格採用されたのは今回が初めて。これは,主にマルチプレイ時において,一緒に遊んでいるプレイヤーや,自分と敵との位置関係を分かりやすく表現するための,オンラインRPGライクな演出として採用されたのかもしれない。
シンボルエンカウント制になったことで,敵を意図的に避けて進んだり,特定の敵を選んで闘ったりできるようになったが,敵が主人公を追いかけてきたり,待ち伏せしていたり,逃げてしまったりすることもある。このあたりは,ゲームバランスを考慮したうえでの仕様だろうがストレスはなく,それなりのスリルを味わいつつプレイできる。
エンカウント後の戦闘は,一見するとアクションゲームのようだが,従来どおりのコマンド入力方式/ターン制が採用されている。仲間とモンスターが入り乱れて戦う「フリーポジションバトル」と名付けられた戦闘シーンは,ニンテンドーDSというハードのスペックを考慮すると,なかなか「頑張っている」賑やかさだ。戦闘のテンポも,ほどよい演出を交えつつもイライラさせない,ギリギリのラインで調整されているように感じられた。
余談ではあるが,初代「ドラクエ」のみの登場だったモンスター「メーダ」が復活,想像以上にキモカワイイ姿で動き回ってくれたのは,オールドファンとしてちょっと嬉しかった。こういった,キャラクター達の姿や動きを見ているだけでも楽しめる点は,フリーポジションバトルの大きな魅力の一つだろう。
天使やギャル妖精が登場しながらも
“堀井節”のおかげで「ドラクエ」らしさは健在?
主人公は天使界に住む天使のひとりとなり,人々を陰で支える「守護天使」として人間界へと降り立っていく……というのがプロローグ。このあと主人公は,とある事件をきっかけに天使としての力のほとんどを失い,人間の旅芸人の姿となって,世界中に散らばってしまった“あるもの”を探す旅に出ることとなる。
主人公が「天使」というのは,シリーズを通して見るとやや唐突な印象も受けるが,「ドラクエ」的にはさほど無理のない設定とも思える。ただ「ドラクエ」をシリーズで振り返ったときに,「ああ,あいつね」という主人公像に対する記憶が,前述の主人公のアバター的概念とも相まって,曖昧になってしまいそうなのが,残念といえば残念か。
本編の目的となる「女神の果実」にまつわるイベントやメッセージは,ゲームデザイナーでシナリオライターでもある堀井雄二氏の手による,いわゆる「堀井節」が効いている。Aボタンで話しかける相手によって音程の違う「プルプルプル……」という効果音に合わせて表示される,簡潔かつ世界観を崩さない,それでいてときにグッとくる(ときにちょっぴりエッチな)メッセージを読んでいると,あぁ「ドラクエ」をやっているんだなぁと実感する。ちなみにメッセージはすべての漢字に読みがながふってある「総ルビ」仕様。CEROレーティング:A区分(全年齢対象)作品はこうあるべきであるという,作り手のこだわり部分なのかもしれない。
何を求めるかによって評価が変わる?
重くも軽くもない適度なマルチプレイ
リッカの宿屋で「呼び込み」をすれば,すれちがい通信で通りすがりのプレイヤーを宿屋に呼んでコミュニケーションできる。どこかで「宝の地図」を手に入れたら,見たこともないモンスターが現れるダンジョンに潜れる。さらに,この発売から約1年にわたって,ニンテンドーWi-Fiコネクションによる追加クエストの配信が行われる点も見逃せない。本編以外にもお楽しみ要素がたっぷりと詰まっているので,しばらくは退屈しないだろう。
マルチプレイでの戦闘は,シングルプレイ時と基本的に変わらないが,シンボルエンカウントしたプレイヤーの近くにいるか,戦っているプレイヤーに接触してAボタンを押すかすれば,仲間と一緒に戦える。
参加したゲストは,ホストがゲームを進めているところまでの範囲を自由に移動でき,ホストはゲストを呼んだ状態でも,通常どおりゲームを進めることができる。「ドラクエ」らしい真面目な遊び方としては,
●強いゲストを呼んで倒せなかったボスを倒す
●自分より先に進んでいるホストの世界で経験値稼ぎ
●条件の厳しいクエストを協力してクリア
●ホストのフィールドでアイテム採掘
●みんなで「宝の地図」の自動生成ダンジョンに挑む
などが考えられるが,何の目的もなく,ぶらっとホストの世界に遊びに行くだけでも結構楽しかったりするのは,リアルな友達とのマルチプレイが前提の,この「ドラクエIX」らしい魅力かもしれない。何を目的に冒険するかはそのときの気分次第。冒険にこだわらずとも,その気になれば「ドラクエ」世界で鬼ごっこやかくれんぼだってできてしまう自由度の高さが,今回のマルチプレイの一番面白いところだと思った。Wi-Fiによるマルチプレイがないのは実に残念だが,出荷300万超のメガヒットソフトなら,しばらくは相手探しは困らないはずだ。
ゲーム全体の印象がマルチプレイを意識したつくりなのが,シリーズをある程度かじっている人ならすぐ分かり,従来の直球の「ドラクエ」に期待してしまうと,肩すかしを食らってしまうかもしれない。さらには,フィールドを歩いているのとあまり変わらないやや練り込み不足とも思えるダンジョンや,マルチプレイのWi-Fi非対応など,発売を早まったのでは? と勘ぐってしまうような,開発における“隙”も見られ,5年という歳月を待ったファンの中には,こういった部分を正しく受け入れられない人も多いだろう。
とにかく,もしあなたのそばにニンテンドーDSユーザーがいるなら,「『ドラクエIX』遊んでる?」と声をかけてみてほしい。旅の仲間は多いほど,この「ドラクエIX」は面白くなるのだ。近くに仲間が見つからなかったら,この夏に開かれる各地のイベントにでも足を運んでみるといい。リッカの宿屋のラヴィエルから「天使のとびら」を開いてみよう。どこかの見知らぬ仲間が,あなたの世界へ足を運んでくれるかもしれない。
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