レビュー
TDPの下がったシリーズ最上位モデルを検証する
Phenom II X4 965 Black Edition/3.4GHz(125W)
» TDPが140Wから125Wへと下がり,扱いやすくなったPhenom II X4の最上位モデルを,Jo_Kubota氏が従来モデルと比較する。新リビジョンへの移行で期待される消費電力の低減とオーバークロック耐性の向上に,新モデルはどこまで応えてくれるだろうか。
AMDの日本法人である日本AMDによると,販売は6日の午前0時から始まる予定。メーカー希望小売価格は2万1000円(税込)だ。価格情報に敏感な人だと,TDP 140W版の実勢価格のほうが高いと思うかもしれないが,TDP 125W版の投入に合わせる形でTDP 140W版も価格改定が入っており,実際には同じ価格で販売される(※)という。
4Gamerでは,発表に合わせて新型X4 965を試す機会が得られたので,TDP 140W版から何が変わったのかをチェックしてみることにしたい。
※AMDから全世界のレビュワーに向けられたドキュメントより。原文は「Both the 140W (old) and 125W (new) 965s share the same price.」
リビジョンはC2からC3へ
TDPの低減以外にもアップデートが
同じCPUシリーズであれば,この値が高ければ高いほど消費電力と発熱は高いというイメージ。同じモデルナンバーのまま,従来の140Wから125Wに下がったということは,扱いやすさが10%程度向上した,という理解で差し支えない。
一方,モデルナンバーが変わっていないことからも想像できるとおり,TDP 125W版X4 965の基本スペックは,従来のTDP 140Wと同じだ(表1)。ただし,リビジョンはC2からC3へと刷新されており,それに合わせて,公称動作電圧値などが,既存のTDP 125W版CPUに準ずる形でアップデートされている。2万円台で販売されているCPUのなかで群を抜いて高かったTDPにようやくメスが入ったわけだ。
また,マザーボード側のBIOSによる対応も必要ながら,
- C1Eの改善(パワーステート切り替えの高速化)
- PC3-10600 DDR3 SDRAMの4枚差しに対応
が実現したのも,C3リビジョンにおける重要なトピックといえる。
続いて2.のほうだが,これはおそらく,AMDが公開しているドキュメント「Revision Guide for AMD Family 10h Processors」(Rev 3.60)の379番,「DDR3-1333 Configurations with Two DIMMs per Channel May Experience Unreliable Operation」(一つのメモリチャネルに2枚のPC3-10600メモリモジュールを差すと,システムが不安定になる恐れがある問題)というエラッタに対応するものだろう。
この“PC3-10600モジュールの4枚差し問題”については,マザーボードベンダー側が独自に対応しているケースも少なくないが,今回のリビジョン変更で,PC3-10600モジュールの4枚差し環境へ,より確実に対応できるようになったという理解が正しいはずである。
オーバークロック耐性が向上
試用した個体では空冷4.1GHz動作を実現
以上が公式な情報になるが,もう一つ,AMDは非公式ながら,TDP 125W版のC3リビジョンで,オーバークロック耐性が向上したとアピールしている。そこで今回は,具体的に何がどう変わったのか,TDP 125W版(C3リビジョン)とTDP 140W版(C2リビジョン)を比較してみたいと思う。
テストに当たっては,表2に示したシステムを用意したうえで,Arctic Cooling製のCPUクーラー,「Freezer XTREME Rev.2」を取り付け,マザーボードの「ACC」(Advanced Clock Calibration)を有効にした状態において,BIOSから倍率を引き上げる形で動作クロックを引き上げることにした。
そして,引き上げた動作クロックにおいて,4Gamerのベンチマークレギュレーション8.2で採用するテストがすべて問題なく完走したことをもって「安定動作した」と認定することにしている。
まずはC2リビジョンにおける結果から見ていくことにすると,テストした個体における安定動作の限界は3.8GHz(200MHz×19)だった。TDP 140W版のレビュー記事で,筆者はCooler Master製のCPUクーラー「V8」を組み合わせてC2リビジョンのオーバークロックを試み,3.8GHzでの安定動作を確認していたが,あのときと別の個体,別のCPUクーラーを用いた今回も,結果は同じだったことになる。
21倍設定の4.2GHzだと,CPUコア電圧を1.5Vまで引き上げても,何かアプリケーションを起動するとすぐにブルースクリーンで落ちてしまう状態だったが,20.5倍設定だと,CPUコア電圧設定を「AUTO」のまま(※CPU-Zの表示は1.375V)でも問題なし。入手した個体の“空冷限界”はこのあたりにあると見てよさそうだ。AMDの主張には,十分な根拠があると見ていいだろう。
※注意
CPUのオーバークロック動作は,CPUやマザーボードメーカーの保証外となる行為です。最悪の場合,CPUやメモリモジュール,マザーボードなど構成部品の“寿命”を著しく縮めたり,壊してしまったりする危険がありますので,本稿の記載内容を試してみる場合には,あくまで読者自身の責任で行ってください。本稿を参考にしてオーバークロック動作を試みた結果,何か問題が発生したとしても,メーカー各社や販売代理店,販売店はもちろん,筆者,4Gamer 編集部も一切の責任を負いません。
TDP低減の恩恵は
オーバークロック設定時に大きい
以下,スペースの都合で,グラフ中に限り,TDP 125W版X4 965とTDP 140W版X4 965は順に「X4 965 125W」「X4 965 140W」と表記し,さらにオーバークロック状態についてはCPU名の後ろに「@動作クロック」を付記するので,この点はあらかじめお断りしておきたい。
さてここでは,OSの起動後,30分放置した状態を「アイドル時」,ストレステストツール「OCCT」(Version 3.1.0)のデフォルト設定におけるCPU負荷テスト30分経過時を「高負荷時」として,ログの取得が可能なワットチェッカー,「Watts up? PRO」から,システム全体の消費電力を計測することにした。その結果をまとめたものがグラフ1になる。
アイドル時に関しては,省電力機能「Cool’n’Quiet」の有効/無効を切り替えて,両方のスコアを取得しているが,グラフを見る限り,TDP 125W版のC3リビジョンと,TDP 140WのC2リビジョンに,それほど大きな違いはないように見える。「全テスト項目で下がっている以上,測定誤差ではなく,多少は下がっているはず」といったところか。
ただ,電圧設定を「Auto」に指定してのオーバークロック状態で,4.1GHz動作しているC3リビジョンのほうが,3.8GHz動作のC2リビジョンより10W低いというのは,なかなかインパクトがある。リビジョン引き上げに当たって,消費電力を左右する内部ロジックのブラッシュアップが進んだのはまず間違いない。
続いてグラフ2は,CPUクーラーをFreezer XTREME Rev.2で統一し,ファン回転数はPWM制御としたうえで,グラフ1の時点におけるCPU温度を比較したものになる。
ここでは,バラック状態のシステムを室温17℃の環境に置き,モニタリングソフト「HWMonitor Pro」(Version 1.06)から計測した4コアの平均値をスコアとしているが,定格動作時はおおむね,消費電力のスコアを踏襲した結果になった。
オーバークロック設定時だと,さすがに4GHzオーバーが効いたのか,TDP 125W版のほうがTDP 140W版よりも高い温度を示しているが,Freezer XTREME Rev.2を使う限り,問題のない温度なのも確かである。
定格動作時のパフォーマンスに変化なし
“4GHzオーバー”のメリットは多少ある
先ほど軽く触れたが,テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション8.2準拠。ただし,CPUの検証ということで,グラフィックス描画負荷の高い「高負荷設定」は省略し,アンチエイリアシング,テクスチャフィルタリングとも適用しない「標準設定」のみとした。また,同じ理由で,解像度は1024×768/1280×1024/1680×1050ドットの3パターンに絞っている。
順に見ていこう。
グラフ3は,「3DMark06」(Build 1.1.0)の総合スコアをまとめたもの。グラフ4は同じく3DMark06から,デフォルト解像度である1280×1024ドットにおけるCPUスコアを抽出したものになる。
ご覧のとおり,定格動作させる限りにおいて,TDP 125WのC3リビジョンと,TDP 140WのC2リビジョンとの間に,パフォーマンスの違いはまったくない。これ以上ないほどにモデルナンバーどおりの結果となったわけだ。
一方,4.1GHz動作するC3リビジョンは,3.8GHz動作のC2リビジョンに対し,総合スコアにおいて最大で5%の差を付けている。
実際のゲームタイトルから,極めてグラフィックス描画負荷の高いテスト条件になっている「Crysis Warhead」,軽度のマルチスレッド最適化が行われている「Left 4 Dead」,比較的負荷の低いタイトルで,多くのオンラインゲームにおける傾向を推測するのにも利用できる「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4),3種類のfpsにおけるテスト結果をまとめたのがグラフ5〜7だ。
描画負荷の高いCrysis Warheadと,全般に負荷の低いCall of Duty 4において,オーバークロックの効果はまったく出ていない。
Left 4 Deadだと,オーバークロックによってフレームレートは間違いなく上がるが,そもそも1680×1050ドット解像度でも,定格動作で平均150fps超え。リスクを取ってオーバークロックに踏み切る価値があるかというと微妙なスコアである。
ゲーム機とのマルチプラットフォームタイトルで,いずれもCPU負荷が比較的高い「バイオハザード5」「ラスト レムナント」「Race Driver: GRID」(以下,GRID)のテスト結果がグラフ8〜10になる。
ラスト レムナントとGRIDの結果はLeft 4 Deadとほぼ同じ印象。ただ,バイオハザード5は,定格動作時のスコアが,ハイエンド環境の合格ラインを多少上回る値なので,オーバークロックによって,特定のシーンにおける体感速度向上に寄与する可能性はあるだろう。
4GHzオーバーを狙えるという事実をどう見るか
むしろ2万円強という価格が最大の魅力
だが,オーバークロックを前提にすると,空冷におけるカジュアルな取り組みでもあっさり4GHzを超えてきたあたりは注目に値する。常用を前提としないオーバークロックは4Gamerの守備範囲外なので,これ以上は踏み込まないが,グラフ1を見る限り,TDP 125W版のほうが,より“高み”を目指せそうだ。
もっとも,ゲーマー目線で冷静になって見てみると,4.1GHzへのオーバークロックを行っても,得られるメリットはそれほど大きくなかったりする。むしろ注目すべきは,トップモデルであるにも関わらず,メーカー希望小売価格が2万円強であるという,コストパフォーマンスのほうだろう。
TDP 125W版と同140W版の価格差がどうなるかは,6日を迎えるまでなんともいえないが,いずれにせよ,X4 965が相当にお買い得なCPUになった(なる)ことだけは確かだ。Intel製CPUとの力関係については,8月13日に掲載したレビュー記事も併せて参照してほしいと思うが,AMD派のアップグレードパスとして,新価格となったX4 965は要注目の存在といえる。
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