レビュー
アメリカとソ連,冷戦下の二大国家の狭間で揺れる島国の大統領となろう
トロピコ3 日本語版
架空の国の大統領となって国家を運営していく,人気シミュレーションゲーム「トロピコ」シリーズのPC版最新作「トロピコ3 日本語版」(以下,トロピコ3)が6月25日にズーから発売された。
時代は東西冷戦下,カリブ海にある架空の島国トロピコがゲームの舞台。プレイヤーはこの島国の独裁者となり,アメリカ・ソ連という二大国家の干渉を受けつつ,国家運営手腕を発揮して,思い描いた国を作り上げていくことになる。
軍や秘密警察の権限を強め,反体制的な住民を始末していく恐怖政治を敷いた独裁国家を作り上げてみたり,豊富な資源(丸太や鉱物)を海外に売り出して儲ける輸出国家にしてみたり,あるいは国内で生産される原料を製品に加工する工業国として国を繁栄に導いてみたりと,プレイヤーの遊び方によって,さまざまな国が出来上がるのが面白い。
2010年5月にはXbox 360版が先行してリリースされているが,今回のレビューではPC版を用いて,基本的なゲーム内容をあらためて紹介するほか,プラットフォームによる違いについても見ていきたい。
それぞれたっぷり遊べる三つのゲームモード
自分だけの濃ゆい大統領も作れる
トロピコ3には,メインとなる3種類のゲームモードがある。まずは決められた条件を期間内に達成できればクリアとなる「キャンペーンモード」から。最初は一つのキャンペーンシナリオしかないが,クリアしていくごとに数が増えていき,最終的には15種類のシナリオを楽しむことができる。
内容は「20年以内に農作物を最低8000ユニット輸出する」「25年以内に旅行者を150人訪れさせる」といった感じで,後半のシナリオほど難度が上がっている仕組みだ。目標を達成したらクリアとなるが,続けたければ,その後も引き続きプレイできる。
続いて「サンドボックスモード」。これはクリア目標が設定されておらず,ランダムマップを含め16のマップを自由に遊んでいいゲームモード。プレイヤーの理想国家を作り上げるのに最適のモードだろう。
ランダムマップを選んだ場合,島の規模や最初からいる住民の数,政治の安定度(これが低いと反逆者が出やすく,クーデターも起こりやすい),世界経済(高くすると高額の援助が得られ,生産物の輸出価格が上昇する)などを自由に設定できるのが特徴。これによってゲームの難度が変化する。さらに「ゴッドモード」を有効にしておけば,最初から莫大な資金を手にした状態でスタートでき,初心者がゲームに馴染むために遊ぶモードとしても使える。
最後に「チャレンジモード」。こちらはいくつものシナリオが収録されており,任期を終えるまでに設定された目標をクリアできれば勝利となるモードだ。内容は「大聖堂を20棟建てる」「パイナップルの缶詰を10万個輸出する」といったものだが,国土の大半が不毛な土地だったり,工場や道路など一部施設の建設ができなかったりと制限も多く,キャンペーンモードと比べて難度は高めな印象だ。
いずれのモードも,まずプレイヤーの分身となる大統領を選ぶところから始まる。用意された複数の大統領キャラクターには,「社会主義を掲げた」「CIAが任命した」「怠惰」「酒への依存」など,それぞれ特性があり,これがアメリカ・ソ連との関係,トロピコ国内にいる住民などに影響を与える。
また,完全にオリジナルの大統領を作ることも可能だ。名前を自由に付け,あらかじめ用意されたパーツを組み合わせて外見のカスタマイズもできる。もちろん政治スキルや素質,欠点などキャラクターの特性も自由に選択できるのだ。
チュートリアルモードも用意されており,遊びながら操作方法や仕組みを学べるので,トロピコ初心者はプレイ前に目を通しておくといいだろう。
なお,トロピコ3はGames for Windowsの対応タイトルで,Xbox 360と同じく実績が設定されている。これらの内容はコンシューマ版と同じようだ。
外貨を獲得して豊かな国を作ろう
国民の不満にもしっかり耳を傾けて
ゲームの流れとしては,農場や伐採所などの職場を作って雇用を生み,そこで住民を働かせ,生産した物(パイナップルやタバコ,丸太など)を輸出して外貨を獲得していく。輸出のほか,観光に力を入れて観光客にお金を落とさせる方法もある。
収穫した物は運送会社の従業員が運び出し,ドックにいる人間が貨物船に積み込む。このように,国の施設には労働者が雇われており,定期的に入港する船には移民が乗っていることもあり,彼らも仕事を求めている。無職の人がいるようなら,何か仕事に就けるよう,仕事場を用意してあげるのだ。
輸出品で得た外貨は「予算」となり,これを使ってアパートや診療所を作ってインフラを整えてみたり,高度な知識を持つ人間を移民として招き入れたりして,さらに国を発展させていく。銀行を作れば,予算をピンハネして大統領のポケットマネーにするという,腐敗した政治家ライフも満喫できる。
着服したお金は何に使えるかというと,ゲームクリア時のスコアに加算されるので,家計を助けるヘソクリのような効果はない。
なお,予算を使い尽くすと「赤字」になってしまうが,国債を発行するという形で,アメリカ・ソ連から借金できる。ただしこれは国の信頼度を下げてしまうので,お金は計画的に使いたい。
国の産業の基幹となるのは,農場や漁港,伐採所などといった第一次産業だ。職場を作る際に注意してほしいのは,その産業に適した場所を選ぶ必要があるということ。マップ上に表示される濃い緑色の部分がベストで,赤い部分は不適切な場所だ。
「オーバーレイ」という機能で土地の状態を確認できるが,マップによっては,パイナップルやパパイヤは豊富に収穫できるが,コーヒーや砂糖はまるでダメというようなこともある。また鉱物や石油に関しては,埋蔵されているポイントが限られており,その上に採掘所,油井を作らなければならない。
このように同じ土地でも,それぞれに適したものがあるため,事前にどんな作物に向いているか,どこに鉱床があるかなどをリサーチするのは,国を発展させていくうえで大事な作業となる。
農場や漁港で生産されたものは輸出され,余った分が国民の食料として消費される。農場ではいくつもの作物を生産できるが,このうちタバコ,砂糖,コーヒーは輸出専用なので,トウモロコシやバナナなど,食べられるものは多めに作っておきたい。
職場ができると,自動的に住民がやってきて働き出す。木を切って丸太を担ぎ運んでいくさまや,船に乗って漁場に向かう姿など,3Dポリゴンで描かれた住民のモーションはコミカルで面白く,これを観察しているだけでも楽しい。
職を持つ住民には給与が支払われるが,増額してやれば労働の質が上がるというメリットがある。ただしコストがかさんでしまうため,余裕ができてから見直せばいいだろう。また住民は職場の近くに勝手に掘っ立て小屋を建てて住み着いてしまうことがある。これは家賃はタダだが,住居の質としては最低なので,しっかりとした住居を用意してやることも大切だ。
産業面で面白いのは,生産された原材料を加工して,商品価値をグッと上げられる点だろう。ゲーム序盤は「農産物・鉱物などを収穫」→「ドックで船に積み込み輸出」→「現金化」という流れになるが,国内に加工工場を作って製品化(例:パイナップルやコーヒーは缶詰,タバコは葉巻,木材は板材や家具になる)すれば,価格は一気に跳ね上がり,獲得できる外貨も比例して多くなる。
ただし第一次産業は教育を受けていない人でも働けるのに対し,工場で働けるのは高卒以上の住民のみ。なお,軍事基地,大聖堂,新聞社などの上級施設ともなると,高卒よりさらに上,大卒の住民でなければ仕事に就けない。ある程度国が豊かになったら,さらなる発展を目指して高校・大学を作り,インテリ層の増大を図ろう。国内に学のある住民が増えれば,高いお金を払って,高学歴の移民を呼ぶ必要がなくなるというメリットもある。
また,原材料が工場に運び込まれ,加工されてからの出荷となるため,現金化されるまで多少待たされることになる。国庫に余裕がない状態で工場を稼動させたら,輸出ペースが落ちて赤字に陥ったということも起こりうる。
国が豊かになってくると住民の数も増えていくが,注目してほしいのはトロピコの住民それぞれに設定された「幸福度」なるパラメータだ。「仕事」「宗教」「食欲」などの項目がバーで表示されているが,時間経過とともにバーがどんどん短くなっていく。こうなると住民は「市場に食料を手に入れに行く」「教会へ行く」などの行動をとろうとするが,それを解消できる手段がないと幸福度は下がってしまう。
幸福度の下がった住民の態度は「抗議デモ」→「反逆」→「武装蜂起」とエスカレートしていき,農場や工場を襲撃するようになる。実力行使される前に,何を望んでいるのかを確認して,欲求を満たし不満を抑えてやるのも大統領の大事な仕事だ。
ちなみに武装蜂起が起こった場合は,軍隊が自動的に出動し鎮圧に向かうが,軍が負けることもあり,また軍そのものがクーデターを起こすこともある。この場合は大統領派とクーデターの実行犯に分かれ戦闘になるが,大統領派が負けてしまうと,宮殿を壊されゲームオーバーだ。せっかく作った国がひっくり返されないよう,とくに軍人たちの待遇には気をつけたいところだ。
布告を出したり現場を視察したりと
大統領にはやることがいっぱい
先にも述べたように,トロピコはアメリカとソ連の影響を受ける立場にあり,これらの国に絡んだイベントも多数用意されている。例えばアメリカの脅威から身を守るため,国内にソ連軍の基地を誘致して守ってもらったり,アメリカ資本の会社の資金提供と引き換えに,農産物の輸出価格を引き下げたりと,現実にもありそうな政治的な駆け引きが多く発生する。
資本主義政策を取り入れてアメリカに傾倒しても,逆に共産に寄ってソ連に接近してもいいし,お互い同じくらいの関係を保ち,両国から定期的な資金援助をキープし続けてもいい。どうするかはプレイヤーの決断次第だ。
国同士で条約を締結する(同盟国になる,開発支援を頼むなど)場合には外務省が必要になるが,大国を利用して自国の開発を加速させられるのは面白い。これらの行為は「布告」というアクションで,外交のほか内政に影響する命令(軍隊の近代化,社会保障の強化など)も出せる。
また,大統領自身が一人のキャラクターとしてトロピコの国内に存在しており,プレイヤーが直接操作できる。大統領が農場を訪問すれば生産量がアップし,建設現場を訪れれば建設速度が上がる。宮殿に行けば大統領が演説を始め,集まった住民の敬意がアップするなど,さまざまな効果がある。積極的に動かして役立たせよう。
そしてトロピコでも,数年に一度「大統領選挙」が行われる。「重要問題」「賞賛する人物」「公約」を,それぞれ複数ある中から選んで演説を行い,民主的に選挙を行えるだけでなく,住民を買収して投票してくれるよう頼むこともでき,側近が得票数への不正を行うことを提案してくることもある。
トロピコは独裁国家なので,究極的には「私は住民の心をつかんでいる」という理由をつけて,選挙そのものを拒むこともできたりする。ただし選挙をしなければ当然反発を招いて,住民の離反をうながすことにもつながる。
そこで出番となるのが秘密警察だ。彼らに命令を出せば,反体制的な人物を逮捕して収監したり,「事故」に見せかけ始末したりできる。この,ほかの国家運営シムにはまずない黒さが味わえるのは,トロピコシリーズの醍醐味だ。
ゲーム中には,爆弾テロを予告して金品を要求する手紙が届いたり,ハリケーンや地震などの自然災害が起こったりなど,さまざまなランダムイベントも用意されている。とくに自然災害は建物が壊れたり,住民が行方不明になったりと被害が大きい。そこからいかに復興させるかでも,大統領としての手腕を問われるわけだ。
コンシューマ版とPC版ではどう違うか?
コンシューマ版とPC版とではどう違うか,ちょっと比べてみよう。
まずは操作方法から。Xbox 360版はコントローラでも快適に操作できるよう工夫されてはいたものの,やはりこの手の箱庭系シミュレーションゲームは当然ながら,マウスとキーボードのほうが気持ちよく操作できる。操作性の面では,PC版に軍配が上がるだろう。
続いてグラフィックス。コンシューマ版でもフルHD(1920×1080ドット)の解像度をサポートしているが,PC版は解像度のほかに,テクスチャの質,影の描写,アンチエイリアスなど,細かい設定ができる。自分のPCスペックに合わせて,最適なクオリティを決められるのは,PCゲームならではだろう。
いろいろ試してみたが,グラフィックスオプションを高めにしておくと,画面を縮小/拡大するときに描写がもたついて一瞬止まることがあったほか,建物や住民が増えてくると処理が重たくなることもあったので,画質は割とシビアに設定する必要があるかもしれない。
ちなみに,人目にさらすのは少々はずかしい筆者のPCスペック(CPU:Phenom X4 9550/2.2GHz,メモリ:4GB,ビデオカード:GeForce GTX 260)では,フルHDでグラフィックスオプションをすべて最高にしてしまうと,フレームレートが常時一桁というレベルで,とてもじゃないがゲームにならなかった。現在は解像度を1280×720ドットまで落とし,グラフィックスオプションも低めに設定してあるが,それでもなかなか美しいゲームを楽しめる。
最後にゲームの内容について。大きな違いはチャレンジモードだろうか。PC版ではシナリオエディタでオリジナルのマップを作成可能で,これをアップロードして,ほかのプレイヤーに遊んでもらったり,ほかのユーザーが作成した豊富なコンテンツをダウンロードして楽しんだりできる。
ほかには,プレイヤーの分身となる大統領だろう。コンシューマ版では「フィララ・カステラ」「マヌエ・ノリガー」など,実在の人物を連想させる名前がつけられていたが,PC版では「フィデル・カストロ」「マヌエル・ノリエガ」というように,実名がつけられている。
大統領達に設定されているキャラクター特性の項目にカーソルを合わせると,PC版はどういった効果があるのかがポップアップして表示される。コンシューマ版でもこの設定自体はあるが,どういった効果があるかまでは確認できなかったので,PC版はより親切な設計になっているといえる。
どんな国ができるかはプレイヤー次第
箱庭SLGファンは買って損なし
トロピコ3は遊び方次第で,国民に敬愛される大統領にもなれるし,公金横領をし,反体制派を粛清するような腐敗しきった独裁者にもなれ,さまざまな国が出来上がるのが面白いところだ。
筆者は,鉱物資源や丸太を加工・輸出する工業国を作ってみたら,これが大当たりして毎年莫大な富が転がり続ける豊かな国になった。利益はしっかり住民の給与に反映させ,仕事の質も高めてやったところ,またまた儲けてしまい笑いが止まらないといったところだ。
ただし,鉱物は埋蔵量が限られているため,いずれこれに代わる産業を作らないとなあ……と考えさせられ,試行錯誤しながら遊んでいたら,いつの間にか夜が明けていた,なんてこともあった。国を作っていくのが面白く,一度熱中すると寝食を惜しんでプレイしてしまう,ちょっと危険なタイトルだ。
コアなシミュレーションファンはもちろん,初心者にもオススメできるタイトルとなっている。ゲーム内で流れている軽快ななラテン音楽に合わせ,独裁者ライフを楽しんでみてはいかがだろうか?
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