レビュー
「99ドルのDirectX 10.1対応GPU」が2009年11月中旬時点で持つ価値は?
MSI N240GT-MD512-OC/D5
Galaxy GF PGT240/512D3 HDMI
日本時間2009年11月17日23:00,NVIDIAは,エントリーミドルクラス市場向けGPUの新モデル,「GeForce GT 240」(以下,GT 240)を発表した。
搭載するGPUコアは「GT215」,長らく「G92」コアが幅を利かせてきたNVIDIAのミドルクラスGPUだが,遅ればせながら,ついにGT200系ミドルクラス製品が登場してきたことになる。
4Gamerでは,そんなGT 240の発表に合わせ,MSIの日本法人であるエムエスアイコンピュータージャパンから「N240GT-MD512-OC/D5」,そしてGalaxy Microsystemsの販売代理店であるエムヴィケーから「GF PGT240/512D3 HDMI」の貸し出しをそれぞれ受けることができたので,両製品のテストから,GT200世代初のミドルクラスGPUが持つ特徴を明らかにしてみたいと思う。
GF PGT240/512D3 HDMI メーカー:Galaxy Microsystems 問い合わせ先:info@galaxytech.jp 予想実売価格:1万1000円前後(※2009年11月17日現在) |
SP数1.5倍,メモリI/F&ROP半減。
9600 GT比でクセを増した40nm世代の新製品
搭載グラフィックスカードの想定売価は99ドル。「GeForce 9600 GT」(以下,9600 GT)や「GeForce 9800 GT」(以下,9800 GT)搭載カードの実勢価格が順に8000〜1万2000円,9000〜1万4000円前後(※2009年11月17日現在)ということを踏まえるに,主な置き換え対象は9600 GTだが,実勢価格的に,店頭では9800 GTもライバルになり得る,といったところだろうか。
ただしその一方,メモリインタフェースは,9600 GTの256bitから128bitへと半減。合わせてROP(Rasterize OPeration)ユニット数も半減しており,9600 GTと比べて,全体的にスペックのクセは増した印象だ。ゲームタイトルごとの得手不得手がはっきりしそうなスペック,ともいえるだろう。
公称消費電力は,最大70W,最小9W。PCI Express補助電源コネクタを持たないあたりは,省電力版9600 GTに近いイメージだ。
N240GT-MD512-OC/D5が搭載するメモリチップはSamsung Electronics製のGDDR5,「K4G10325FE-HC05」(0.5ns,1Gbit)だった |
こちらはGF PGT240/512D3 HDMIの搭載するチップ。同じくSamsung Electronics製の「K4J10324KE-HC1A」(1ns,1Gbit)になる |
……といったところも踏まえ,同じく補助電源コネクタを持たない競合の「ATI Radeon HD 4670」(以下,HD 4670)ともども,スペックを並べてみたのが表1になる。
2枚のカードを概観
〜カード長はHD 4670とほぼ同じ
テストに先立って,入手した2枚のカードをチェックしておこう。
まずはGDDR5メモリを搭載したN240GT-MD512-OC/D5から。本製品は,MSIの提唱する品質規格「Military Class」(関連記事)に準拠したカードで,耐久性の高さが謳われている。また,強力なオーバークロックツール「Afterburner」(関連記事)を利用可能なのも大きな特徴だ。
一方,GDDR3メモリを搭載するGF PGT240/512D3 HDMIは,カード全体を覆う,2スロット仕様の大型GPUクーラーが目を引くデザインになっている。
GF PGT240/512D3 HDMIを別の角度から撮影したカット。GPUクーラーのカバーはなかなかユニークな形状だ。外部電源コネクタやNVIDIA SLIブリッジコネクタを持たないのはMSI製品と同じ | ||
カード長は168mm(※突起部除く)で,リファレンスデザインのHD 4670カードとほぼ同じ。クーラーを取り外すと,MSI製カードとはずいぶんと異なるカードデザインになっていることがよく分かる |
カードの動作クロックは,N240GT-MD512-OC/D5がコア550MHz,シェーダ1340MHz,メモリ3.6GHz相当(実クロック900MHz)。GF PGT240/512D3 HDMIがコア550MHz,シェーダ1340MHz,メモリ1.8GHz相当(実クロック900MHz)だ。コア&シェーダクロックはリファレンスどおりとなる一方,メモリクロックだけ,前者がリファレンスより200MHz相当高く,後者は200MHz相当低い設定になっているわけである。
価格帯の近い現行GPUと比較
ドライバやテスト設定に注意
2枚のGT 240カードをチェックするに当たって用意した環境は表2のとおり。表1で紹介したGPUの標準的なモデルを一通り用意した格好になる。Leadtek Researchの9600 GTカードとSapphire TechnologyのHD 4670カードはどちらも4Gamerで独自に用意したリファレンス仕様の製品で,ASUSTeK Computerの9800 GTカード「EN9800GT MATRIX/HTDI/512M」とGIGABYTE TECHNOLOGYのGT 220カード「GV-N220OC-1GI」は,それぞれメーカーから貸し出しを受けた,メーカーレベルのクロックアップがなされたモデルになるが,両製品のクロックは,いずれもリファレンス相当に引き下げている。
注意してほしいのは,GeForceファミリーで,GT 240とそれ以外のドライババージョンが異なる点だ。
当初,NVIDIAはレビュワー向けに,「GT 240対応版の『GeForce Driver 195.39 Beta』には問題がある」として,GT 240対応版「GeForce Driver 191.07」を配布していた。そこで,この191.07でドライババージョンを揃えたのだが,
- 解禁日の直前になって,あらためてレビュワー向けβ版「GeForce Drive 195.50 Beta」が配布された
- GT 240対応版191.07には,GDDR3版でパフォーマンスがまったく上がらないという問題があった
ため,GT 240の2製品だけ,最後にテストし直している。ドライババージョンが揃っていないのはそのためである。
なお,テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション8.3準拠。ただし,いま述べたように,195.50 Betaドライバの提供されたタイミングが遅かったこともあり,今回は,テスト条件を以下のとおり絞る。この点はご了承いただきたい。
- N240GT-MD512-OC/D5のメモリクロックはリファレンスの3.6GHz相当へ下げる
- GF PGT240/512D3 HDMIのメモリクロックをリファレンスどおりの2GHzへオーバークロックするとテストを正常に実行できないため,カードの設定値である1.8GHzのままテストを行う
- 「Crysis Warhead」と「ラスト レムナント」のテストを省略する
また,これはスケジュールとは無関係だが,HD 4670のテストに用いたグラフィックスドライバ,「ATI Catalyst 9.10」では,日本語版「バイオハザード5」でパフォーマンスが上がらない問題を確認できているため,今回は英語版クライアントを用いテストを行うことにし,HD 4670に関してだけは「日本語版でパフォーマンスを正常に発揮できた場合の期待値」を見ることにしたい。
なお以下,とくに断りのない限り,N240GT-MD512-OC/D5は「GT 240 GDDR5」,GF PGT240/512D3 HDMIは「GT 240 GDDR3」と表記する。
EN9800GT MATRIX/HTDI/512M アイドル時にはファンが停止するオリジナルクーラー搭載の9800 GTカード メーカー:ASUSTeK Computer 問い合わせ先:ユニティ(販売代理店) news@unitycorp.co.jp ※販売終了 |
GV-N220OC-1GI クロックアップ仕様のGT 220カード メーカー:GIGABYTE TECHNOLOGY 問い合わせ先:リンクスインターナショナル(販売代理店) 実勢価格:9000〜1万円前後(※2009年11月17日現在) |
得手不得手の波が大きいGT 240
全体としては「9600 GTに一歩届かず」か
ここまで前置きが長くなったが,ベンチマークテスト結果の考察に入ろう。
まずグラフ1,2は,「3DMark06」(Build 1.1.0)のテスト結果である。GT 240 GDDR5は,アンチエイリアシング&テクスチャフィルタリングを適用しない「標準設定」で11〜12%,4xアンチエイリアシング&16x異方性フィルタリングを適用した「高負荷設定」で16〜20%,9600 GTに置いて行かれており,メモリインタフェースの制約により,高負荷環境でのパフォーマンスに影響を受けていることが見て取れる。
GT 240 GDDR5とGT 240 GDDR3のスコア差は,標準設定で10〜12%,高負荷設定で18〜19%。9600 GTとGT 240 GDDR5の関係をそのままスライドさせたような印象だ。
同じ128bitメモリインタフェースのGPUとしてHD 4670と比較すると,GT 240 GDDR5は,標準設定でこそ大差を付けるものの,高負荷設定ではほぼ互角のレベルまで迫られている。
解像度1280×1024ドット,標準設定という3DMark06のデフォルト設定で,「Feature Test」を実行した結果もチェックしてみたい。
グラフ3〜5は,順にFill Rate(フィルレート),Pixel Shader(ピクセルシェーダ),Vertex Shader(頂点シェーダ)のテスト結果をまとめたものだ。GT 240におけるシェーダプロセッサ96基の意義はある印象で,Pixel Shader,Vertex Shaderとも,GT 240 GDDR5&GDDR3のスコアは9600 GTを上回った。
ただし,グラフィックスメモリへの書き込み性能(≒ROP性能)がスコアを大きく左右するFill RateのSingle-Texturingで9600 GTに相当置いて行かれるところからは,GT 240のアンバランスさも垣間見えよう。
続いて,汎用演算性能を見るShader Particles(シェーダパーティクル),シェーダプログラムの実行性能を見るPerlin Noise(パーリンノイズ)のテスト結果がグラフ6,7となる。ピクセルシェーダ性能とメモリ性能がスコアを左右しやすいShader ParticlesでGT 240 GDDR5のスコアが突出している理由はよく分からないが,GT 240 GDDR3のスコアがあまり伸びていないことも踏まえると,GDDR5の高いメモリクロック(=データレート)が効いている可能性はある。
また,純粋なシェーダ性能を見るPerlin Noiseだと,GT 240の2製品が9600 GTのスコアを大きく上回った。ここはGT200世代のメリットといえそうだ。
実際のゲームから,「Left 4 Dead」のテスト結果をまとめたのがグラフ8,9だ。標準設定,高負荷設定とも,GT 240 GDDR5は9600 GTに一歩届かず。また,GT 240 GDDR3は,HD 4670とほぼ同じ平均フレームレートに落ち着いている。
続いてグラフ10,11は,「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)のテスト結果になる。
シェーダユニット数(≒テクスチャユニット性能)がパフォーマンスを大きく左右する本タイトルの標準設定で,GT 240 GDDR5が9600 GTと同程度のスコアを示していることと,GT 240 GDDR3も相当に健闘しているのは注目したいところだ。
ただし,高負荷設定ではメモリインタフェースの制約による影響も見られた。
Call of Duty 4と同等かそれ以上にシェーダユニットの総合的な性能が問われる「バイオハザード5」では,低負荷設定,高負荷設定ともに,GT 240 GDDR5のスコアが9600 GTのそれを上回った(グラフ12,13)。解像度が上がってメモリ周りの負荷が高まると,128bitメモリインタフェースの影響も出てくるが,少なくとも互角以上なのは確かだ。
一方,GT 240 GDDR3だと,メモリ周りの影響が大きすぎて,今一つスコアが上がりきらない印象も受ける。
パフォーマンス検証のラストは「Race Driver: GRID」(以下,GRID)だ。GRIDはATI Radeon有利なスコアが出やすいのだが,グラフ14,15からも分かるように,GT 240 GDDR5は,HD 4670に相当迫られており,高負荷設定では一部逆転も許すほどだ。
GT 240 GDDR3は,高負荷設定だと,1024×768ドットでもレギュレーション8.3で規定する合格ライン,60fpsをクリアできていないのも気になった。
GDDR5版の消費電力は
省電力版9600 GTよりやや高め?
序盤で紹介したように,NVIDIAはGT 240の最大消費電力が70Wであるとする一方,GPU負荷の低い状態では最低で9Wまで下がるともアピールしている。ここのあたり,実際のところはどうなのかを確認すべく,ログの取得が可能なワットチェッカー,「Watts up? PRO」を利用して,システム全体の消費電力を計測してみることにした。
テストに当たっては,OS起動後30分間放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,各タイトルごとの実行時としている。
その結果をまとめたのがグラフ16だ。アイドル時の消費電力は,9600 GT比でマイナス20W。高負荷時も,ややバラつきはあるものの,概ね15W前後は9600 GTよも低い印象を受ける。今回は用意していないが,省電力版9600 GTカードのレビュー記事――用いているLeadtek Research製9600 GTカードはまったく同じ個体だ――と比較する限り,GT 240 GDDR5の消費電力は,省電力版9600 GTと同等か,やや高いくらいと見ることができそうだ。HD 4670よりわずかに高めなのも評価を分けそうである。
一方のGDDR3版は,省電力版9600 GTと同等以下,といったところだろか。
最後に,GPU温度もチェックしておきたい。ストレステストツール「OCCT」(Version 3.1.0)のGPUテストを30分実行した時点を「OCCT時」としつつ,アイドル時ともども,「HWMonitor Pro」(Version 1.06)からGPU温度を計測した結果をまとめたのがグラフ17になる。
スコアは,室温20℃の環境で,PCケースに組み込まず,バラックの状態にシステムを置いた状態でのもの。また,GPUクーラーはすべて異なるので,横並びの比較には適さないが,GT 240 GDDR5,GT 240 GDDR3とも,搭載するクーラーの冷却能力は高いと言っていいだろう。
なお,筆者の主観になることをお断りしてから続けると,クーラーの動作音は「GT 220やHD 4670と比べるとやや大きめだが,9800 GTや9600 GTよりは間違いなく静か」という印象だった。
妥当かつ不満のない性能も
価格とタイミングが……
ただ,AMDがDirectX 11世代のGPUを投入できていない市場を狙う製品として,価格設定と投入タイミングには首をかしげざるを得なかったりもする。
9800 GTや,今回はテスト対象に入れていない「ATI Radeon HD 4770」搭載グラフィックスカードが,ブランドにこだわらなければ1万円程度から購入できるうえ,あと2000〜3000円で「GeForce GTS 250」にも手が届く2009年11月中旬の実情を踏まえるに,99ドルというNVIDIAの想定売価は高すぎるのである。これが,GDDR5版で7000〜8000円程度,もっとはっきり言えば,HD 4670搭載グラフィックスカードと同水準であれば,市場在庫のある上位GPUとの差別化もできたと思うに,本当に惜しい。
幸いにして(?)日本の年末商戦が始まるのはもう少し先。それまでに,現実的な選択肢となり得る価格にまで下がることを,期待したいところだ。
- 関連タイトル:
GeForce GT 200
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