連載
【鈴木謙介】「PlayStation Vita」をどのように持たせるか
鈴木謙介 / 社会学者
鈴木謙介の「そこ見るんですか?」 |
操作デバイスとしてのPlayStation Vita
12月17日に発売にされたPlayStation Vita。画面の発色の良さや,ローンチタイトルのプレイレポートといったものが,既にあちこちで話題になっていますが,僕も実際に触ってみて色々と可能性を感じました。
また,PlayStation Storeから,PS Vita用のタイトルだけでなく,いつの間にかPSP用のコンテンツの新作も数多くダウンロードできるようになっていて,この日に向けて相当な力を入れ,準備を進めてきたのだなと驚かされました。ハードと連携したコンテンツ配信の仕組みは,iPodとiTunes Storeの成功もあって,多くのハードメーカーやコンテンツサプライヤーが関心を持っているところでもあるでしょう。
PS Vita本体とメモリーカードだけを買った状態でも,PS Storeにアクセスし,幅広いラインナップを眺めてみると,きっと何かしら買いたくなるものが見つかりそうです。ただ,一本当たりのデータ容量が1GBを超える作品も多いので,ダウンロードに要する時間などを考えると,ちょっとためらってしまいますが。
ともあれ,そうしたビジネス上の戦略に関係する部分以外では,やはり背面タッチパッドを含めた,多彩な入力手段が注目すべき点でしょう。この連載でも,入力装置と〈ゲーム〉の関係性については何度か言及してきましたし,今回はPS Vitaの操作デバイスとしての側面に焦点を当てて論じてみたいと思います。
PS Vitaを触ってみてまず感じるのは,前面のタッチスクリーンの感度の良さです。iPhoneやiPadと,それ以外の――例えばAndroid端末を触るとまず感じるのは,Apple製品のタッチパネルの完成度です。メーカーや製品によっても差はありますが,Android端末でたまに発生する「画面をフリックしたつもりがタッチしたと認識される」といった現象は,ストレスフルであるだけでなく,ゲームのインタフェースとして考えれば致命的な欠陥になり得ます。この点でいえば,PS Vitaには今のところさほど問題を感じません。
ただ,iPhoneなどにも共通の課題があります。それは,僕達は無意識に「強く叩けば強い入力をしたことになる」と思い込んでタッチパネルを操作しがちですが,現在主流の静電容量方式を採用したタッチパネルで,入力の強さを感知するのは困難であるという点です。
Appleがリリースしている音楽作成ソフト「Garage Band」のiOS版では,モーションセンサーとの組み合わせで,タッチパネルを叩く強さに応じた楽器のボリューム(ベロシティ)調整を行っていますが,ゲームの場合はこういった操作方法を取り入れてもおそらく不十分でしょう。iPhoneであれば,バイブレーションなどのフィードバックを通じて「強くヒットした」という感覚をプレイヤーに持たせることもできそうですが,PS Vitaには振動機能がないため,それも難しそうです。
とくに,後でも述べるように前面のタッチスクリーンの操作が主たる入力になるゲームでは,入力感度と実際のプレイヤーの感覚のズレが,〈ゲーム〉性を生む要素になるので,ここをうまく活かせるかどうかが,デザイン上の勝負になりそうだと感じました。
多彩な入力手段をどう学ばせるか
次に注目する点としては,やはり多様な入力手段の存在でしょう。ボタンだけでも,PSPに存在していた方向キーや○/△/×/□ボタンに加え,左右のアナログスティック(PlayStation 3のDUALSHOCK 3などと異なり,押して操作する機能はありません)が,さらに前面のタッチスクリーンと背面タッチパッドがあるわけです。これらの入力をどのように組み合わせるかによって,そのゲームの〈ゲーム〉性が決まるわけですが,そもそもここまで複雑になると,基本操作を覚えるだけで一苦労です。
操作の基本的な部分については,「ウェルカムパーク」というチュートリアルゲームがPS Vitaに内蔵されています。ただ,ここで学べるのは単純な入力だけであり,〈ゲーム〉としても,その入力速度を競うというシンプルなものになっています。
より複雑な入力という点では,やはり「塊魂 ノ・ビ〜タ」が面白いです。僕は新しいハードを買うたびに,そのハードのクセを学ぶ,一種のベンチマークテスト素材として塊魂を選ぶことが多いのですが,今回もその選択は正しかったようです。
塊魂 ノ・ビ〜タにおいては,主に左右のスティックを用いた,従来作と同様の操作方法に加え,前面および背面をタッチで操作する方法が用意されています。スティックについては割愛して,タッチ操作について説明すると,前面のタッチスクリーンではフリックすることで玉を転がし,二本指でスライドすることで方向転換を行います。この辺は,スマートフォンなどでも似たような操作のゲームが多いので,さほど戸惑うことはありません。
興味深いのは,背面タッチパッドを使った「塊の形状変形」でしょう。今作では,背面タッチパッドを二本の指でピンチアウト/ピンチインすることで,玉の形状を横長にしたり,縦長にしたりできます。巻き込むアイテムにも,縦長に配置されているものや,広範囲に配置されているものがあるわけで,この変形をうまく活用しながら,一気に巻き込んでいくことができるわけです。
塊魂 ノ・ビ〜タでは,おそらく多くの人が「左右のスティック+背面タッチパッドでの変形」というプレイスタイルを選択するのではないかと思います。この部分が,PS Vitaならではの特徴を活かした新要素だといえそうです。
「大きすぎる本体」が難しくするタッチ操作
ただ,PS Vita悩ましい点も多いのです。先ほど述べたような形で塊魂 ノ・ビ〜タをプレイしようとすると,玉の操作に用いる左右のスティックを親指で,ターンやジャンプに使うLRボタンを人差し指で,そして背面タッチパッドを中指で操作することになるはずですが,PS Vitaの大きさやボタン配置では,手の大きさによっては持ち方に少し無理が生じてしまうのです。
スティックの微妙な傾きをコントロールするためには,できればスティックは親指の腹の先の部分で押さえたいところです。僕の場合PSPで遊ぶときなどは,こういった持ち方をしたとき,中指は折り曲げた状態で親指,つまりスティックの裏側に持っていき,本体を安定してホールドしていました。しかし,これでは背面タッチパッドの操作ができません。
そこで中指の先を背面タッチパッドに当てようとすると,本体を折り曲げた薬指の上に置いて安定させる必要があります。この持ち方をすると,僕の場合は親指をスティックの手前で曲げなければならず,慣れるまではなかなかうまいポジションを見つけることができませんでした。
前面のタッチスクリーンにも似たようなところがあります。体験版も含め,数作品プレイしてみた限りでは,ボタンを用いずにタッチスクリーンだけで操作できるゲームも多く,この場合は背面にあるグリップに中指ないし人差し指を置けば,おおむね親指だけで前面のタッチスクリーンの大部分をカバーすることができます。
しかし塊魂 ノ・ビ〜タのように前面,背面両方を用いることができるゲームでは,手が大きくない限り操作内容によってホールドするポジションを変える必要が出てきます。もちろんそれは必ずしも悪いことではなくて,そうした「操作しにくさ」が〈ゲーム〉性を高めることはあり得ますから,設計次第ということになるでしょう。
では,アクションなどの複雑な入力を必要としないゲームではどうでしょうか。「真かまいたちの夜 11人目の訪問者(サスペクト)」のようなゲームであれば,操作といっても基本は画面をタップするだけ。今作の場合は「捜査パート」において,モーションセンサーを用いて現場を見る視点を移動させ,調べるポイントをタップするという手法が取られていますが,それ以外はひたすらメッセージを読み進めていくだけです。
おそらくRPGなどでは,移動したい方向に画面をフリックするとか,そういう入力が用いられることもあるでしょう。しかし,そのようなゲームで,例えば方向キーでの方向入力を受け付けない設定になっていたりすると割と厄介で,持ち方が自然と,後ろから片手で上下に握り込む,いわゆるスマートフォンを横持ちにするときと同じ姿勢になります。
しかし一般的なスマートフォンよりサイズも重量も大きいPS Vitaの場合,この持ち方で長時間遊び続けるのは,手首や握力への負荷もまた大きくなりそうです。
「どう持たせるか」が意外と重要に?
実はこの「大きさ」の問題,PS Vitaの今後を考える上で一番重要になるんじゃないかと思っています。とくに気になったのは,PS Vita自体の基本操作である「右上から左下へのフリック」です。スリープ状態から復帰するときなどにこの操作を行うと,画面上では右上からシールが剥がれるようなアニメーションが示されるのですが,そこは大画面がウリのPS Vita。
「右手親指で勢いよくフリックすれば剥がれる」という声も聞くのですが,手の小さい僕にはちょっと無理でした。良くも悪くも,“子供向けのおもちゃ”ではないということなのでしょう。
またPS Vitaにおいては,PSPやPlayStation 3をはじめ,多くのソニー製品で採用されているXMB(クロスメディアバー)ではなく,スマートフォンのようなホーム画面が基本になっています。この画面から左にフリックしていくと,ゲームも含め起動中のアプリの待機画面になります。
この待機画面で中央のアイコンをクリックするとアプリが立ち上がり,右上から右下にフリックするとアプリが終了されます。また,アプリから待機画面に戻るときは,本体左下に配置されているPSボタンを押す必要があります。
こうした一連の動作も,理解するのに時間はかかりませんが,万人が両手持ちの状態からスムーズに行える操作とは言えないわけです。アプリの終了であれば,そのくらいのハードルは必要かもしれませんが,外出先で細切れの時間にプレイされることも多い携帯ゲーム機では,こうした一連の操作が「めんどくさい」と受け取られる可能性はあります。
さらに,重量や大きさからいっても,スマートフォンのような「前面のタッチスクリーンでの操作がメインのゲーム」を設計しても,おそらくPS Vitaでのプレイアビリティはさほど高くならないでしょう。かといってボタンから前面のタッチスクリーン,背面タッチパッドまでフルに使わせるものは,プレイヤーの手の大きさが操作性に大きな影響を与えてしまいます。
プレイヤーの立場に立ったデザインということでいうなら,PS Vitaに特化したゲームのプレイアビリティを高めるためには,「どのように持ってプレイするのが自然なのか」をうまく誘導できるような設計が必要になります。
PSPにおける,いわゆる「モンハン持ち」は,プレイヤー達が作り上げていったものだと思うのですが,これだけ入力方法が多様で,かつ大きさが文字通り手に余るものになると,内容的に面白くても操作しにくいというだけで敬遠される可能性があります。
一方で,そのハードルの高さに可能性を感じたのも事実です。コントローラーを握り込むか,スマートフォンの画面を叩くかという二極化した発想ではなく,両者を自由に組み合わせながらゲームを設計できるわけですから,今までになかったようなものを作ることだってできるのではないでしょうか。
例えば,ニンテンドーDSきっての名作(だと僕が思っている)「すばらしきこのせかい」。この作品では,バトル中に上画面と下画面で別々に戦闘が行われます。その二つの画面を,右手のタッチペンと左手の十字キーで操作しながら戦うのですが,初め聞いたときは「そんなの無理!」と思った二画面戦闘も,慣れれば上下の画面でコンボを連携しながらプレイできるようになりました。
要するに,プレイしにくいスタイル,複雑に見える操作であっても,それ自体が〈ゲーム〉性を高めることはあるし,ゲームが面白ければプレイヤーは乗ってくる。デバイス全体が入力装置であるとすら言えるPS Vitaの可能性は,その「持ち方」や「プレイスタイル」の可能性を提案するような作品が出てくるかどうかにかかっているでしょう。
■■鈴木謙介(関西学院大学准教授)■■ 社会学者として教鞭を執る傍ら,TBSラジオ「文化系トークラジオ Life」やNHK教育テレビ「青春リアル」に出演中。つい先日,「SQ“かかわり”の知能指数」をディスカヴァー・トゥエンティワンより上梓した。ちなみに鈴木氏は長距離移動時,PSPとPS Vitaのどちらを持って行くかで悩みがちとのこと。そのため,「あのとき,ダウンロード版を買っておけば……」みたいな後悔をすることもあるそうです。 |
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