連載
【ヒャダイン】ただ美しいだけのゲームってのもいいじゃないの
ヒャダイン / 音楽クリエイター
ヒャダインの「あの時俺は若かった」 |
第34回「ただ美しいだけのゲームってのもいいじゃないの」
どもども。みなさーん,すさんでますかー!?
きこえないぞぉ?
すーさーんーでーまーすーかー!!??
理不尽だらけの現代社会,休みもなく馬車馬のように働いたところで,モテるようになるわけでもなく,旅行にも行けず,鬱屈した自らの感情を見て見ぬ振りをして,飲み込んで,そうやって毎日生きているわけですよ。きっとみんな。
「お前に何が分かるんだよ,芸能人の出来損ないがぁ」と思われてもいいです。だってそうなんだもん。心だってすさみますよ。少年少女のようなキラキラとした瞳でいられることは少ないですよ。大人になって,物事を知れば知るほど,体験すればするほど失っていくものが多いんです。それによって引き起こされるものが,“感動の遅漏”ではないかと,僕は思っているんですが。
恥ずかしながら知らなかったんですよ,風ノ旅ビト。原題は「Journey」。ダウンロード販売のみで,正味90分もあればクリアできる。そして価格は1234円(税込)。さーて,どないなもんじゃいと思い,PlayStation 3版をポチっと買ってみました。
というのも,とても評価が高いんですよね。2012年の作品なんですが,世界中で主要なゲームアワードでさまざまな賞を獲得しまくったという。あまりに制作にこだわりすぎて,リリースまでに3年もかかり,開発元のthatgamecompanyが資金難に陥ったという話まであるそうじゃないですか。こりゃあ面白そうだと,攻略サイトなんかを見ることなく,進めてみることにしました。
念のためゲームの内容を説明すると,ローブを纏った主人公が砂や風や嵐に吹かれながら,ただ進んでいく。それだけ。もちろん道中でフラグは立てていくんだけど,文字情報は一切なし。攻撃技という概念もなく,「ファーン」という気みたいなものを放出するのみ。
これが,なかなかどうしてやばかったです。ごめんなさいね,今さらな話をしちゃって。まずグラフィックスの圧倒的な美しさ!!! 砂の質感や夕日にきらきらと輝く世界の美しさ,砂を滑り落ちる感覚とか,もうトリップ状態です。あっちゅう間に異世界へと引き込まれますよ。
PlayStation 3をネットワークに接続した状態だと,時々,世界中のプレイヤーと一緒に冒険することになって,道案内してもらったり,飛翔するパワーを与え合ったり,別れたら別れたでもう二度と会えなかったり……この距離感が,いい!! もちろんチャット機能なんてあるわけもなし,「ファーン」という声みたいなやつだけでコミュニケーション。あと行動ですよね。言葉を使わないのに,なぜか仲間意識が強く芽生えるこの不思議さよ。
ごちゃごちゃと書きましたが,要するにただただ美しいんですよ,このゲーム。PlayStation 4版が出るっていうのにも納得です。PlayStation 4でさらにグラフィックスが美しくなったら,この世界から抜け出せなくなるかも。大型テレビとデカイスピーカーでプレイすると,ちょっとしたトリップ気分が味わえます。
でね。こんなすさんだ心を癒してくれる,ありがたいゲームがあることに気付いたわけです。同時に,ついついゲームに方程式を求めてしまっていたというか,お約束を求めてしまっていたというか,要するに,何かしらの爽快感や達成感を求めていた自分にも気付いてしまったんですよ。それを根底から覆された今,昔のゲームの中にも,もしかしたら“癒やし”が目的だったものが存在していたんじゃないか。それを勘違いして,クソゲーだと思ってしまっていたのではないか。そんなことを思い,自分のゲーム人生を顧みてみました。
思い出した! 「バード・ウィーク」。僕が子供の頃,誕生日プレゼントとして買ってもらったゲームです。親鳥が雛に餌をやって,巣立ちをさせるだけという,小学生の僕にとっては苦行でしかなかったあのゲーム。
大体,このタイトルなんなのさ。「バード・ウィーク」って,愛鳥週間? さっぱり意味が分からないっす。さっきGoogleで「バード・ウィーク」って検索したら,検索候補に「バード・ウィーク クソゲー」って出たよ。やっぱりみんな感じていたことは一緒だったんだね。だけどもーーーー!
風ノ旅ビトをプレイし終えた今,このバード・ウィークを見直したい。雛に餌をやるだけの作業ゲーだと思っていたからクソゲーだと感じていたけど,自分が鳥になって森を自由に飛び回る,ここに軸足を置いたら癒やし系じゃないの?
古くから詩人も文豪もミュージシャンも「鳥のように飛べたなら」って,空を自由に飛び回る鳥に憧れていたではありませんか。空を見上げてため息をついたこと,誰だって一度や二度はあるんじゃないですか?
そう思ってプレイ動画を探してみました。緑豊かな一本の木にひなどり。季節によって彩りが変わる森の中をあなたは鳥になって飛び回るのです。たくさんちょうちょが飛んでいる。ワシやムササビまでいるよ。キツツキもかわいいな。たまにはモグラも顔を出します。そんな森を青空のもと飛び回るのです! ああ。なんて開放感。まるで軽井沢の森に迷い込んだような没入感!!!
まあ,ウソですよ。半分ウソですよ。大げさには書きましたよ。だけどね。当時小学生だった自分,一年に一回の大切な誕生日に自分で欲しいと言ったファミコンカセット,バード・ウィーク。それがただの作業ゲーだった時の絶望感。でも自己弁護するために「これは面白いんだこれは面白いんだ」と言い聞かせながら何度もプレイした小学生時代。
あの頃の苦々しいイメージとは随分違いました。都会のど真ん中で防音室にこもり,時にはTVの収録スタジオにこもり仕事をする毎日。そんなすさんだ僕の心には,バード・ウィークは若干の癒やしがあったんです。あのノペーっとしたドット絵に,僕は癒やしを感じたんです!!!
そうだ。バード・ウィークはクソゲーなんかじゃない。風ノ旅ビトのプロトタイプともいえる癒し系の元祖だったんだぁ!!!!
風ノ旅ビトの癒やし度数を100としたら,バード・ウィークは0.000003くらいですけどね。
■■ヒャダイン(音楽クリエイター)■■ フジテレビ系列で毎週日曜日23:15〜23:45に放送中の「ヨルタモリ」。その番組テーマ曲を,ヒャダイン氏が担当。敬愛するタモリさんの番組に楽曲提供できたことで,ヒャダイン氏はたいそう喜んでいるそう。そんなヒャダイン氏,2014年11月4日19:56〜20:54には,日本テレビ「踊る!さんま御殿!!」に出演予定です。 |
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(C)Sony Computer Entertainment America LLC. Developed by thatgamecompany
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