レビュー
ワイヤレスとワイヤードの2製品が用意された小型モデルの実力を見る
ROCCAT Pyra Wireless,Pyra Wired
ワイヤレスモデルとワイヤードモデルで左右対称の筐体を共通して採用し,かつ小型という,なかなかに日本市場向けといえるPyraシリーズ。国内ではROCCATの販売代理店であるサードウェーブが,同社の運営するPCショップ「ドスパラ」の店頭および通販サイトでのみ取り扱っているという,特殊な販売形態だけに,「気にはなっていたのだが,近所にドスパラがないので,実機を見たこともない」という人は少なくないと思う。
果たして使い勝手はどれだけのものなのか。そして,ワイヤードとワイヤレスで使用感に違いはないのか。今回は,実際にドスパラの店頭で購入してきた実機を用いて,テストしてみよう。
Wiredは約70g,Wirelessでも約100gと非常に軽量
素直な形状は「つまみ持ち」しやすい
ボタン構成は,左右メインにセンタークリックボタン機能付きスクロールホイール,左サイド右サイド各1。本体は,右メインボタン部に刻まれた「ROCCAT」のロゴを除けば左右対称デザインになっている。
Pyra Wirelessの電池ボックスは,右メインボタンの下部に設けられているため,重心はどうしても右寄りになってしまうのだが,とくに操作上の問題は感じない。センサーが左メインボタン側にあって,本体を持ち上げてサーフェスの読み取りをカットさせる場合,本体左側が先に持ち上がるというのが,上手い具合に影響しているのかもしれない。
実際に握ってみると,両製品とも全体的に直線的かつ素直な形状で,とくに「つまみ持ち」しやすい印象を受ける。両サイド先端〜中央に埋め込まれたラバーパーツが指の滑りを抑止してくれ,さらに,ラバーパーツの手前側で外に膨らんでいくデザインが,つまみ持ちのしやすさにつながっているのだ。
なら「かぶせ持ち」だとどうか。縦に短い形状のため,本体後方寄りにある山が指の付け根あたりに当たり,いきおい,手のひらと本体カバー部の間にぽっかりと空間が空いたような持ち方にはなってしまうものの,親指がラバーパーツおよび本体後方の膨らみといい感じでフィットしてくれるため,操作性自体は悪くない。マウスが手のひらに密着していないと不安になる人には向かないが,その点が気にならないなら,かぶせ持ちでも十分いけるだろう。
ボタンのクリック感は良好なものの
作りの安さが操作感に負の影響を与えている
まず,メインボタンは,クリックしたとき,マイクロスイッチのカチカチという振動が,本体を覆うカバーを通じて筐体全体に響くのがやや気になった。クリックした指先に感触が強く伝わりすぎるだけでなく,本体を押さえる親指や手のひらなどにも響いてくるのが,シビアな操作をしていると,ときおり神経に障るのである。ボタンのスイッチとカバーが理由というよりは,筐体の作りそのものに原因がある気配を感じる。
メインボタンの重さや硬さ自体に違和感はなく,カバーの頂点付近という,かなり手前側を押しても入力可能。ただ,左右メインボタンの隙間にある青色LEDよりも手前を押してしまうと,押していないほうのメインボタンまで反応してしまう。もちろん,こんなところを押すケースというのはまずないと思われるが,こういうところからも作りの安っぽさが感じられてしまうのは残念だ。
右サイドボタンは,やろうと思えば薬指の第1関節を曲げるだけで簡単に押下できるが,指を立て気味にしておかないと,力んだとき“誤爆”しやすい印象だ。「右サイドボタンをゲーム中に使うのか?」というと,かなり疑問ではあるのだが,念のため指摘しておきたい。
中央部分が尖ったような形になっているラバーコート済みスクロールホイールは,スクロールの刻みがしっかりしているため,センタークリック時に回転が入力されてしまうとか,回したつもりが反応しないったこともないため,「センタークリック派は安心していい」という完成度。ただ,センタークリック時の音がやや甲高いうえに大きいのは,ちょっとどうかと思う。
独自機能「EasyShift[+]」は意義ある機能だが
単一キーの割り当てがソフトウェアマクロ依存なのが難点
Pyra Wireless&Wiredは,専用ドライバとファームウェアで管理する仕様になっており,ドライバソフトウェアをインストールすると,シリーズに共通するユーザーインタフェースの設定ツールが利用できるようになる。
設定ツールからは,DPIの設定や,Windows側の「マウスのプロパティ」と連動したポインタ速度設定,ボタンへの機能割り当て設定,マクロ設定といった機能が利用可能で,設定内容は最大5つのプロファイルとして登録・切り替え可能だ。
これは,割り当てたボタンを[Shift]キーのように使えるというもので,「割り当てたボタンを押している間だけ,それ以外すべてのボタンの割り当て内容が変わる」というもの。厳密には正しくないので,あくまでもイメージだが,言ってみれば「EasyShift[+]に設定したボタンを押している間だけ,別のプロファイルに切り替わる」ようなものだ。
左手用キーパッドの一部で,似たような機能が搭載されていた記憶はあるが,マウス製品では見たことがない。もしかしたら,Pyraシリーズが初めてなのではなかろうか。
ちなみに,デフォルトのプロファイルでは左サイドボタンがEasyShift[+]に割り当てられており,押下中は左右メインボタンが[Button 4][Button 5](戻る,進む),ホイールスクロールがサウンドボリューム調整になっていた。マウスの2ボタンを同時押しするというのは少し特殊な操作なので,慣れるまではとっさに押しづらいが,ボタン数が多いマウスのように,指をあちこち動かさなくて済む分,慣れやすくはある。
で,いろいろと設定を弄ってみたのだが,「微妙」と感じたのは,レポートレートが1000Hz固定で変更できないことと,特定のキーを割り当てようと思ったときに「単一のキー押下を割り当てる」機能がなく,その場合でもいちいちマクロエディタを起動しなければならないこと。また,機能はソフトウェア的な実装によるものなので,「nProtect」などのアンチチートツールが動作している環境では利用できないということだ。
なお,「ソフトウェア的な実装」という表現で察してもらえたとは思うが,Pyraシリーズでは設定保存用の本体内蔵フラッシュメモリを搭載していないため,設定内容はすべてPC側に保存される。出先のPCでも自宅と同じ設定で使いたいと思った場合は,自宅からプロファイルを持っていって読み出すか,再設定し直すかの作業が必要になる。
ワイヤードとワイヤレスで若干異なる追従性
無線接続時の安定性も環境に左右されがち
ここからは,そんな2製品のセンサー性能を見ていきたいのだが,先に結論めいたものを述べておくと,接続インタフェース以外に違いのなさそうな2モデルながら,両者には追従性の違いが生じている。それも単純に「○○のほうが優れている」といった話ではない。
テスト環境は表1のとおりで,テスト方法はその下に列挙してあるが,そこで示したとおり,両製品でファームウェアのバージョンが異なるあたりが,挙動に違いを生んでいる可能性を指摘できそうである(※ファームウェアやドライバは設定ツールから自動更新可能とされているが,テスト時点ではアップデータが提供されていなかった)。
●Pyra Wireless&Pyra Wiredの設定
- Pyra Wirelessのファームウェアバージョン:V1.13
- Pyra Wiredのファームウェアバージョン:V1.24
- ドライババージョン:V1.35
- トラッキング解像度:1600DPI
- 設定ツール側オプション「SENSITIVITY OPTIONS」スライダー:中央
- Windows側設定「マウスのプロパティ」内「速度」スライダー:中央
- Windows側設定:「ポインタの精度を高める」:オフ
●テスト方法
- ゲームを起動し,アイテムや壁の端など,目印となる点に照準を合わせる
- マウスパッドの左端にマウスを置く
- 右方向へ30cmほど,思いっきり腕を振って動かす「高速操作」,軽く一振りする感じである程度速く動かす「中速操作」,2秒程度かけてゆっくり動かす「低速操作」の3パターンでマウスを振る
- 振り切ったら,なるべくゆっくり,2.の位置に戻るようマウスを動かす
- 照準が1.の位置に戻れば正常と判断可能。一方,左にズレたらネガティブアクセル,右にズレたら加速が発生すると判定できる
テストに用いたゲームタイトルは「Warsow 0.5」。本テストにおいて,ゲーム内の「Sensitivity」設定は,「180度ターンするのに,マウスを約30cm移動させる必要がある」という,マウスに厳しい条件になる0.55に設定し,読み取り異常の発生を分かりやすくさせている。
以上の環境で,Pyra WirelessとPyra Wiredのテストを行った結果が表2,3だ。
両製品で共通しているのは,ローセンシプレイヤーを想定した高速操作時に,読み取り異常が出る傾向にあること。高速操作すると,ネガティブアクセルやポインタ飛びが見られやすく,マウスパッドとの組み合わせによっては,高速でマウスを振ったあと,すぐにマウスを止めても,ポインタだけ動き続けるという現象も見られた。布製のマウスパッド上で,メインボタンをクリックしながら動かすと,より高い頻度で異常が発生した。
「そんな速度で操作する人はいない」というレベルまで速く振って,初めて「▲」になったケースもあるので,そこまで神経質になる必要はないかもしれないが,他社のゲーマー向けマウスをローセンシ設定で操作するときと比べて,不安になる挙動が多いのは確かだ。
なお,低〜中速操作で使うなら,ワイヤレス・ワイヤードともまったく問題ないので,この点は明言しておきたい。
ただ,センサーから少し離れると,Pyra Wirelessの場合,USBワイヤレスレシーバーとの距離がシビアな様子。筆者の自宅では,レシーバーとマウスの距離が50cm離れるとポインタの動きがカクつきはじめ,1mを超えるっと頻繁に停止していた。これまで試したゲーマー向けワイヤレスマウスではなかった事態だ。
USB延長ケーブルを別途用意して,ワイヤレスレシーバーとの距離を30〜50cmの範囲に収まるようにするとだいぶ安定したが,筆者の環境では,その距離でも数分に一度は引っかかりが生じるなど,安定性は今ひとつ。念のため,ほかのPCで利用しているワイヤレス接続の周辺機器を全部無効化してみたが,それでも抜本的な改善には至らなかったので,ノートPCよろしく,レシーバーとマウスとの距離をギリギリまで近づけるなど,ユーザー側でいろいろ対策する必要があるかもしれない。
「小型ワイヤレス」の価値は相応にある
Wiredも形が気に入ればアリか
製品ボックス。箱はPyra Wirelessのほうが大きい |
Pyra Wireless,Pyra Wiredとも,製品の台座には「天」と書かれていた。Pyraと聞くと,火を意味する接頭辞「pyro」が浮かぶので,意味は火だと勝手に思っていたのだが,違ったかも |
無線接続の安定感に過度な期待を寄せると痛い目を見るかもしれないうえ,作りの安っぽさ,ローセンシ向けではないことなど,覚悟が必要な部分はあるが,他社製品と明快に差別化できているだけに,いろいろ納得できるならアリだ。
一方のPyra Wiredだが,作りの安さや,高速操作時の追従性が今ひとつという懸念点はあるものの,Abyssusや,DHARMAPOINTの「DHARMA TACTICAL MOUSE(DRTCM02)」より若干安価というメリットはあるので,形状や,EasyShift[+]に魅力を感じるなら,こちらも検討に値するだろう。逆に,いま挙げたポイントに魅力を感じないなら,再考することを勧めたい。
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