レビュー
「イン・ノミネ」で完成したEU3が,さらなる進化を遂げる拡張パック第3弾「ヨーロッパ・ユニバーサリスIII エア トゥ ザ スローン」レビュー
EU3は,1399年から1821年の世界を舞台に国家を経営する,歴史ストラテジーゲームである(年限はイン・ノミネまで拡張済みの場合)。プレイヤーは国家の絶対的な支配者となって,歴史という無理難題と格闘することになる。
プレイヤーは文化や宗教の対立,複雑な外交関係などを睨みながら,まずは歴史の荒波を生き延びていくことが最大の目標となるだろう。
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さらに進化したEU3
この印象そのものは,さほど間違ってはいないように思う。HttTの画面写真を見て,ちょっとゲームを触った程度だと,「イン・ノミネ」からひどく離れてはいない印象を受ける。少なくとも,「ナポレオンの野望」に「イン・ノミネ」が追加されたときのような衝撃はないかもしれない。
だがHttTを一度でもプレイすると,もう「イン・ノミネ」以前には戻れない! それほど,HttTのインパクトは大きいのだ。以下,HttTの追加・変更部分を簡単に紹介するとともに,その魅力を分析してみたい。
新要素がてんこ盛り
まずは追加された要素のうち,大きなものをざっと箇条書きしてみよう。
・新国家の追加
ハンザ同盟とスモレンスクが追加。これ以外にも独立や解放によって誕生する国家がいくつか存在する(エルサレム王国が作れたりする)。
・大義名分の細分化
他国に戦争を仕掛けるには大義名分が必要(なくても可能だがペナルティが大きい)だが,その大義名分に種類ができ,その種類に応じて講和の内容も影響を受けるようになった。例えば,経済制裁を理由に宣戦して始めた戦争で,領地を奪おうとすると国際的な悪評が立つ。
・王朝および後継者の概念
王国(=君主制の国家)が無条件で代替わりするとは限らなくなった。後継者がいないまま国王が死ぬと,いろいろと厄介なことになる。また後継者には正統性というパラメータが存在し,これが低くても厄介なことになる。これまでになく姻戚関係が重要になった。
軍事の才能にあふれた王が出現。指揮官を兼任させ,いざスコットランドとの戦争 |
枢機卿が暗殺される確率は半端なく高い。大変なお仕事です |
・神聖ローマ帝国/教皇庁の強化
神聖ローマ帝国が政治的に統一しうるようになった。また,枢機卿の買収レースがなくなり,教皇庁の歓心を買うには教皇庁寄りの政治を行う必要が生じる(さもなくば枢機卿を暗殺することになる)。
・通商同盟
ハンザ同盟などに代表される,通商同盟が登場。通商同盟内部ですべての取引を行う傾向にあり,かつ通商同盟外部からの市場介入は難しい。
・政務官の追加
外交官や植民者のような存在として,政務官が追加された。各種文化政策を行うには,一定数の政務官を消費する。
施政方針の決定には「政務官」を消費する。一覧から指定することもできるし,各プロヴィンスをクリックして指定してもいい |
政務官(とお金)を消費し,文化的施政方針を定めることで,文化的伝統を向上させられる |
・文化的伝統の追加
陸軍・海軍と同じく,文化にも伝統値が設定された。文化伝統値を消費することで,望みの政治顧問を雇うことが可能になる。
・インタフェースの改善
「しょせんパラドゲー,インタフェースなんて」と思うなかれ。各種アラートはより親切になり,そのアラートをクリックすると問題を解消するための一覧ページに飛び,その一覧から解決のための決定が可能になっているなど,操作性はかなり洗練された。問題が発生しているプロヴィンスの名前をメモって,プロヴィンス検索窓に入力する生活からはおさらばである。
これ以外にも細かな修正は多数存在し,バランス調整,AIの強化なども行われているようだ。
絡み合うゲーム・ギミック
さて,これらの追加要素は,それ単体でも十分に興味深い。
とくに目を惹くのは,「大義名分の細分化」だ。従来,大義名分は抽象的なものであり,それさえあれば敵国に何をしようが国際世論は許してくれた。たとえでっちあげの大義名分を元に大戦争をふっかけ,参戦してきた同盟国を片っ端から血祭りにあげて併合し,巨大な帝国の礎としても,大義名分がある以上は許されたのである(併合によって悪評は上昇するが)。
HttTでは,そういった無体な大暴れは,非常に難しくなった。大義名分が発生する件数はぐっと増えていて,それこそ同盟したにも関わらず援軍要請を履行しなかったといった些細なことでも大義名分は発生する(考えてみれば当たり前だ)が,頻発する大義名分をもとに踏み込める範囲には,自ずから限界がある。
そして,それゆえに宗教的情熱を基盤とした大義名分の爆発力は,実に凄まじい。普段であれば苦心惨憺して手に入れる「かなり踏み込んだ大義名分」が,「信じる宗教が違う」というだけで手に入るのだ。
一方で,地味ながらもゲームを面白くしている変化もある。ゲーム全体として,各種パラメータが相互依存するようになっているのだ。
例えば,「国威」というパラメータは,従来はさほど決定的な意味を持っていなかった。もちろん低いよりは高いほうがいいに決まっているし,高い国威はさまざまなメリットをもたらしてはくれたが,「どうしても!」というほどではなかった。
ところが,HttTにおいては国威が低いことによって,さまざまな問題が発生しやすい。とくに継承者関係については,低い国威はトラブルの元になる。このため国威はなるべく高く保っておきたいのだが,そもそも国威を得る手段は限られている(失う手段なら豊富にあるが)。
そう――国威を得る手段,その最もシンプルなものが,戦争をして勝つことだ! HttTの和平条項には「敗北を認めさせる」というものがあり,これは経済的には「痛み分け」だが,勝った国の国威が上昇し,負けた国の国威が低下するという効果を持つ。戦争は,実利以外のところでも起こりうるのだ。
また,ミッションの達成によって国威が稼げるというのも,大きい。そしてミッションはしばしば戦争を指示するため,ここでも戦争は起こりやすくなっている(少なくともプレイヤーにとって)。
ミッションは,大義名分とのワンセット。国威といい資金といい,実においしい |
国威を支払うとミッションの変更もできる。アイルランドの征服くらい,お安い御用ですよ |
ミッションは,大義名分ともリンクする。従来,ミッションを与えられても,それを達成するメリットとなると,いささか微妙なところがあった。ミッションを達成するために軍隊を整え,大義名分を確保し,そこまでやって得られるのが「たかが国威」ということになると,無視することもしばしばだったのだ。
だがHttTでは,国威の意味が重くなっただけでなく,ミッションが自動的に大義名分まで確保してくれるようになったことで,ミッションが示す方向に国家の舵を取るメリットが極めて大きくなった。だってノーペナルティで戦いたい放題ですよ。そりゃ戦争するでしょう。
スコットランドを属国化(うっかり1プロヴィンス取ってしまって悪評が……)。これによってミッションは達成される |
ノルマンディーを奪還ってあなた,いくらミッションだからって,フランスと全面戦争ですか……? |
……とはいっても,じゃあイングランドで「フランスからノルマンディーを奪還せよ」と言われて,これでフランスに対する大義名分と,ノルマンディー接取時の悪評増加を抑える効果が得られたとして,それでフランスと戦争を本当にするのかと言われると,実に悩ましい。いや,普通はしないんじゃないだろうか。それくらいなら新大陸を目指したほうがいいのでは?
これはまったくもって正しい判断だと思う。しかし,それでもなおフランスとの戦争を漠然と視野に入れたくなるくらい,ミッションは「美味しい」のだ。
「政治のいち手段としての戦争」
総合的に,HttTはEU3を非常にユニークなゲームにしたと言えるだろう。反乱の発生率や規模などについては「イン・ノミネ」同様なので,下手な征服戦争は長期的に見てマイナスになる可能性がある――経済的にプラスを取れる可能性があるとしても,一定期間治安維持に軍隊を張り付けにしなくてはならないのは,よほどの大国でない限り,文字通り「時期を失する」危険性を孕んだ行為だ。
ゲーム終了時に「歴史」が編纂されるのは従来通り |
30年戦争期のプファルツとかでもプレイ可能。あいかわらず,いい感じにマゾい。でも楽しい |
一方,これまでのEU3は,「だからといって,戦争したのに領土の一つも獲得しないなんてあり得ない」という問題があった。結局,やるなら領土割譲か属国化,それしか目的になり得なかったのだ(さまざまな主張を引っ込めさせるとか,賠償金を得るとかいう選択肢は,ないわけではなかったが)。
HttTでは,戦争の帰結は実にさまざまかつ,政治的・経済的効果を期待できるものが多い。最悪,国威の向上を目的とするのも悪くはない。
ここにおいて,HttTは「政治手段としての戦争」が,本当の意味で成立するようになった。殲滅と虐殺だけが,戦争ではないのだ。もちろん,それが目的の戦争も,世界のあちこちで発生するけれど。
国威が低いと,こういうところで困ることに。高いと得られるメリットもかなり大きい |
ええと,同盟を組んでいる双方で喧嘩を開始? 我が国はどちらにつくべきか? ここで両方とも拒否すると,両国に大義名分を与えてしまうことに…… |
君主制というシステムにおいて,国家が維持するためにコストを要求するという視点をとったのも,面白いところだ。正統性が低い君主は他国に付け入られる隙が大きくなるが,正統性を高めるには他国と婚姻を結んだり,さもなくば顧問を雇ったりするほかない。だがこの正統性という空気のようなものを高めようとする行為は,一切の経済的・産業的利益を産まない。つまるところ,それは君主制という国家のコストでしかないというわけだ。
加えるに,比較の対象が非常によろしくないが,「ハーツ オブ アイアンIII」と比べると,圧倒的に動作が軽い。ハイエンド機でも一定の覚悟(と画面スクロールのカクツキ)なしにはプレイできないHoI3だが,HttTはウィンドウモードでもストレスなくプレイ可能だ。むしろ最高速だと速すぎるくらいである。このあたりの感覚は環境によって違うとはいえ,プレイを始める前の気構えには,やはり微妙に差が出る。
継承者が出現してほっとするというのは,どことなく「クルセイダーキングズ」を思い出させる |
道路は勝手に延長されることも。このあたりも「クルセイダーキングズ」を彷彿 |
もしHttTでEU3デビューをしたいという方であれば,まずはイングランドからプレイしてみるといいだろう。その次はカスティーリャだろうか。いずれも,本作の基礎を掴むには最適の国家だ。
本体プラス三つの拡張パックと,トータルの金額的に見ると実に厳しい商品ではあるが,EU3を追いかけてきたプレイヤーであればぜひ手にとっていただきたい作品だ。HttTにはそれに見合うだけの内容があるし,またPC戦略級ストラテジーゲームにおける「戦争」の新しいあり方として,ユニークな体験ができるのも間違いないのだから。
- 関連タイトル:
ヨーロッパ・ユニバーサリスIII エア トゥ ザ スローン【完全日本語版】
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