インタビュー
「良いゲームとはなにか」と考え続けた結果,「El Shaddai ASCENSION OF THE METATRON」が生まれた――竹安佐和記氏,木村雅人氏インタビュー
本作は,旧約聖書の世界観を題材とした3Dアクションゲーム。発表当初から,絵画的なグラフィックスや独特のゲームデザイン,そして登場人物達の強烈な個性とセリフ回しが話題になり,インターネット上で大きな注目を集めた。ソフトが発売される前に大ブームが巻き起こったという,色々な意味で異色のタイトルである。
今回4Gamerでは,エルシャダイのディレクター&キャラクターデザインを務める竹安佐和記氏と,プロデューサーの木村雅人氏から直接お話をうかがう機会に恵まれたので,本稿ではその模様をお届けしていこう。
「El Shaddai ASCENSION OF THE METATRON」公式サイト
運命を感じざるを得ない
ドラマティックな経歴
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。最初に,自己紹介を兼ねてお二人の経歴についてお聞かせください。
よろしくお願いします。僕はもともとはカプコンの“第四開発部”と呼ばれていた部署で開発を行っていまして,過去に「デビル メイ クライ」や「鉄騎」,それに続く「鉄騎大戦(オンライン)」などに,キャラクターデザインやアートディレクターとして関わりました。
その後はクローバースタジオに移籍したのですが,色々あって4〜5年ほど前にフリーになり,テクモさんの「零」や,プラチナゲームズさんの「無限航路」といった作品に関わり,現在に至ります。
木村氏:
竹安と同じく,僕も元は第四開発部のデザイナーで,主にスペシャルエフェクトをやっていました。最初に関わった作品は初代「デビル メイ クライ」で,その後リメイク版「バイオハザード」「バイオハザード4」のチームに居ながら「ビューティフルジョー」のチームにも参加したり,色々やりましたね。
「ビューティフルジョー」の頃からは,プロジェクトマネジメントも手がけるようになりまして。そこからプロデューサーを目指し始めたんです。
そして「ビューティフルジョー2」の頃にクローバースタジオへ移籍し,「ビューティフルジョー バトルカーニバル」や「大神」「ゴッドハンド」などに携わり,イグニション・エンタテインメントに入ってからは,ずっとエルシャダイ一色ですね。
4Gamer:
お二人とも,古くから同じ環境で仕事をされていたんですね。
実をいうと,大阪芸大で学生をやっていた時から一緒でした。
4Gamer:
なんと。ちなみに大学時代から,お二人はゲームクリエイターを志していたんですか?
竹安氏:
いや,その頃はまったくそんなことは考えてなかったですね。
木村氏:
当時は,二人で自主制作のアニメを作っていたんですよ。僕は大学時代に,CGの勉強をするためアメリカに渡ったんですが,帰ってきた時には竹安がカプコンに入社してまして。それで,僕がアメリカで作った作品を見せたら,「これおもろいから,会社に持ってくわ!」って(笑)。それがきっかけで,僕もカプコンに入社したんです。
4Gamer:
なんというドラマティックな展開……まさにアメリカンドリーム。
木村氏:
こんな風になるとは,大学時代には想像もしていなかったですよ(笑)。
“良いゲーム”を追求し,
誕生したのがエルシャダイ
それでは,エルシャダイの開発に至るまでの経緯をお聞かせください。
竹安氏:
僕が関わった「大神」の評判を,イグニッション・エンタテインメント ジャパンスタジオの社長さんが耳にしたらしく,「ぜひ会いたい」と言ってくれたのが,そもそものきっかけです。その後,ちょうどクローバースタジオを辞めた木村にも声をかけて,3人でプロジェクトがスタートしました。
……とはいっても,そのころは事務所も何もなく,渋谷の小さなレンタルルームに僕と社長だけが居るような状況だったんですけどね。
4Gamer:
エルシャダイの構想は,どのあたりから出来上がっていたのでしょうか。
竹安氏:
それはかなり早い段階から決まっていました。ただ,紆余曲折は当然ありましたが,最初に決めた構想は現在でもブレていません。
4Gamer:
何から何まで非常に個性的ですが,なぜこのような作品を作ろうと?
竹安氏:
僕自身,ゲーム業界で10年以上やっていますから。経験の中で,もの創りは“積み上げ”だということを,常日ごろから意識して行動しています。
“新しい作品”が常に求められている……とはよく言われますが,現在本当に求められているのは“クオリティの高い作品”だと思うんですよ。でも,それがなかなか出てこないから,奇をてらった物に注目がいくんじゃないかと思っています。
4Gamer:
なるほど……。
竹安氏:
色々な作品を制作する中で,ずっと「良いゲームとはなにか」という考えを積み上げてきまして,エルシャダイはその結果として出来上がったものなんです。経験から「次の時代に必要なもの」を求めてたどり着いたのが,エルシャダイというわけですね。ハードウェアが進化していく中で,なかなか表沙汰にされないものを,今回は追求しました。
4Gamer:
と,いいますと?
竹安氏:
ボタンを押してからのレスポンスや技の感覚といった部分は,ハードの処理能力が上がっている今ならば,よりユーザーライクな形にできるはずですよね。それを追求していけば,最終的には「チュートリアルのない」ゲームが実現します。
説明書を見なくても,少ないボタンで多彩なアクションを楽しめる……というのが,エルシャダイを開発する上での大前提となっています。想像以上に高い技術を要求されますが,挑戦のしがいもあるし,なによりユーザーフレンドリーですからね。
4Gamer:
確かに,エルシャダイのゲーム画面には無駄な情報が全然ないですね。
竹安氏:
そうですね。画面上の情報は極力少なくなるように配慮して,現在ではプレイヤーと敵くらいしか出てこなくなりました。
例えばゲームって,画面上にゲージが一本あるだけで,それについての説明が必要になってきますから。コンセプト的には入れたくないということで,排除していった結果が,エルシャダイのゲーム画面です。これは,実際にプレイしないと理解しづらい部分なので,開発のハードルは高かったですね。ゲージを画面上に表示しないという点に関しても,最初は反対意見ばかりでしたよ。
4Gamer:
完成形が見えてきた現在,その決断をどう思われますか?
木村氏:
ゲームにおける最初のハードルって,“操作(ルール)を覚える”ことなんです。プレイヤーが操作方法を把握してくれてこそ,本来の面白さを発揮できるんです。なので,そのハードルを限界まで低くできたという点については,非常に大きな意味があると思っています。
竹安氏:
ゲームって,数あるエンターテイメントの中でも非常にレベルの高い物だと僕は思っているんですよ。映像や音楽を操作できるって,よくよく考えると凄いことじゃないですか。
4Gamer:
そうですね。もちろん作品の完成度にもよりますが,“視聴者”ではなく“プレイヤー”になれることで,ゲームのエンターテインメントとしての可能性は果てしなく大きくなっていきますよね。
竹安氏:
そんな風に高いチャレンジをしている分野だからこそ,皆が黙認している部分もあるじゃないですか。ロード時間が長いとか,ルールを覚えないといけないとか。
例えば,映画館に行って最初に「この映画の説明書を読んでください」って言われたら,ちょっと嫌ですよね?
4Gamer:
それは勘弁してほしいですね。興が削がれます(笑)。
竹安氏:
ですよね。技術的にやむを得ない部分もありますけど,僕達はそれを「仕方ない」とは言いたくなかったんです。なので,エルシャダイではそういった要素を徹底的に廃しています。ローディング時間ゼロとはいかないまでも,プレイヤーに待ち時間を感じさせないようにさまざまな配慮をしていますので,そういったところにも注目してもらえると嬉しいです。
木村氏:
実際に遊んでみると分かるんですが,エルシャダイではどこの幕間をとっても,必ず次の“予告”を見せるような演出を挿入しています。次に操作がスタートする時,非常にドキドキワクワクしながら始められますよ。
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El Shaddai ASCENSION OF THE METATRON
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