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[GDC 2011]ニンテンドー3DSはこうして作られた。開発責任者自らが語った「Development Process of Nintendo 3DS」レポート
ちなみにこのセッション,SCEAによるNext Generation Portableに関する講演と同時に行われていたのだが,開場前の列の長さでは,圧倒的に3DSに人気が集まっていたように見えた。
講演は紺野氏の自己紹介から始まり,会場のスクリーンに3DSのMii Studioで作ったという氏のMii画像が表示された。以降,社内でのやり取りを説明する場合にはすべてMiiが使われ,分かりやすく紹介されていた。3DSの素材を生かした面白い構成である。
講演は,さらに3DS自体の紹介,すれ違い通信,いつの間に通信の紹介と続いていくのだが,3DSの基本的な部分については割愛する。経歴についても以下のスライドを見ていただければ一目瞭然なのでここでは省略しておく。ただ,紺野氏が宮本茂氏のもとで長くゲームを作ってきた人だということだけは覚えておいてほしい。
さて,紺野氏は,今年で入社25年を迎えるというベテランで,上記のようにマリオカートやnintendogsなど多くのヒット作を手がけてきているのだが,今回は3DSのハード/ソフトをともに統括する立場となった。任天堂という会社は,ハード部隊とソフト部隊が同じ建物にいる,比較的珍しいタイプの会社なのだが,ハードとソフトの開発を一緒にやるというのが,任天堂の古くからの開発スタイルでもあるのだ。新ハード開発でソフトとハードを統括するプロデューサーをやってみないかといわれて,比較的軽い気持ちで引き受けたのが始まりとのこと。この時点では,立体視の採用などもまったく決まっていなかったそうだ。
氏が新ハードの開発に際して真っ先にやったことは「引き出しの整理」だという。ここでいう引き出しとは,いわゆる情報の引き出しのことで,ハードのことやOS関係など項目ごとに整理していったそうだ。宮本茂氏が付箋を貼りまくって,並べ替えたり,書き足したり,遠くから眺めたりと,いろいろやりながらアイデアを練っていくのはよく知られているが,長年それを見てきた紺野氏も,同様の手法でアイデアをまとめていったそうである。PCなどでいろんな便利なツールが出てきても,こういったアナログな手法は有効だと紺野氏は語る。
次に紺野氏が挙げた言葉が「Playing is Believing」だ。これは任天堂がWiiを発表したときに使われた言葉だが,3DSの開発においては,その実例がいくつもあったという。まず,立体視の採用がそれである。
立体視に関しては,バーチャルボーイの失敗もあってか,任天堂社内ではちょっと腰が引けたところがあったようで,口で言ってもなかなか分かってもらえなかったという。
そんなときに大きな役割を果たしたのが,WiiFitなどでも大いに活躍した,情報制作部内の小規模なハードウェアチーム。今回は2名のチームが,最新の立体視液晶パネルを調達し,それをWiiに接続,立体視のデモ機を作り上げたのだ。そして,そのデモ機のために特別に改造したマリオカートWiiを立ち上げてみたところ,たちまち多くの人の心をつかんだのだという。そこでの反響の大きさには「これで勝負しよう」と思わせる説得力があり,一気に新機種の方向性が確定したそうだ。
立体視ボリュームの実装についても,先述したデモ機が活躍したという。ソフトでの調整でいいんじゃないかとか,プラスマイナスのボタンでいいんじゃないかという意見もあったそうだが,デモ機のヌンチャクにスライドボリュームを付け,会議の場で実際にデモを行うと,「操作感が新鮮で気持ちいい」と好評だったという。
さらにハードウェアチームからの提案事例として紹介されたのが,操作部のテストデバイスに関する話だ。
任天堂は,宮本氏以下,操作感に非常にこだわる会社としても知られている。
3DSの十字キーやスライドパッドについても,どちらを上に置くか,バネの強さはどうするか,位置はどうするかなど,細かい仕様を決めるために何度も試行錯誤が行われているという。そこでハードウェアチームが作ってきたのが,ブロック式で自由に組み替えられるコントローラだったという。なんとなく,ちょっとずつ仕様を変えたデモ機を作らされるのを嫌っただけじゃないかという気もしないではないが,このアイデアのおかげで納得のいく配置を詰めることができたそうだ。
こうして,ソフトウェアチームとハードウェアチームからどんどんアイデアが出てくるようになると,開発は相応に進んでいったようだが,やはりちゃぶ台返しもあったようだ。仕様をFIXしたあとに,宮本氏がジャイロセンサーにこだわり,結局搭載することになったという。
目は眼球を立体で造形し,光の映り込みなども前作に比べて大幅に強化されており,紺野氏曰く「目力のある」仕上がりになっている。また猫の目の変化なども再現されているという。
毛並みについては,新しいハードでもふもふした表現が可能になったということで,毛のない状態からシェルで作られた産毛の上にフィン(頂点指定を簡素化したポリゴン形式)を使った毛を生やし,さらにライティングや色を調整して,最終的にふさふさした毛並みを表現しているという(シェルとフィンはどちらも羽毛などを表現する際の主要な手法)。
また,3DSの機能を生かして,ARで手乗りの子犬を出したり,すれ違い通信やいつの間に通信にもしっかり対応している。ちなみに,いつの間に通信では子犬を配信予定とのこと。
紺野氏は,3DSの開発を統括したことを振り返り,エキサイティングで楽しい仕事だったが,失敗も多く苦労が絶えなかったと語る。それでも多くの人の力,組織のパワーの凄さも実感し,自身の視野が広がったという。
ハードウェアチームと一緒に仕事をしたことについては,ちょっとしたことで違和感を感じることもあったようだ。ゲーム制作だと「とりあえずなんでもいいのでとにかく動かして」といった会話がよく行われるようなのだが,ハードチーム相手だと「とりあえず」という単語がまったく出てこないのだという。「いつまでに?」と聞くと「いますぐに」と答えが返ってくるとのことで,少し戸惑ったようだ。仕様を決めないと先に進めないというハードチームならではの考え方の違いと納得したようだが,ハードチームもソフトチームとも「お客さんに驚いてもらいたい」という思いは一緒なのだという。
こういった大規模な開発には時間がかかることが多いのだが,これを紺野氏は自転車の長距離レースのようだと表現していた。ペースを考えて自己マネジメントができないと完走は難しく,かといってペースを落としてしまった勝利は望めない。周りからの期待に応えたい,そして期待以上の仕事をしたい,またこの人と一緒に仕事をしたいと言われたいという思いで臨んでいたと語り,セッションを締めくくっていた。
日本で発売されたばかりの3DSだが,今回のGDCを見る限り,海外開発者の注目度も高く,すれ違い通信やいつのまに通信など,これまでにないアイデアを生かせる部分にも注目が集まっていたようだ。このセッションで3DSに興味を持った開発者によって,よりユニークなゲームが出てくることに期待したい。
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(C)2011 Nintendo
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