レビュー
西遊記をSF風にアレンジした痛快アクション「ENSLAVED ODYSSEY TO THE WEST」レビュー
本作の開発はPlayStation 3用ソフト「Heavenly Sword 〜ヘブンリーソード〜」で知られる英国のデベロッパ,NINJA THEORYが担当。パブリッシャは日本のメーカーだが,開発元が海外のメーカーということで,本作はいわゆる「洋ゲー」だ。
音声はすべて英語で,日本語字幕が付いてくる。デフォルトでは字幕がオフになっているので,筆者のように「英語が苦手だ」という人は,オプションメニューで変更しておくのを忘れずに。
近未来の世界を舞台に,新たな解釈で西遊記の物語を蘇らせた本作。どのような世界観を持ち,ゲームとしてはどうなのか? 本稿ではその魅力に迫っていきたい。なお,今回のレビューではPlayStation 3版を使用している。
「ENSLAVED ODYSSEY TO THE WEST」公式サイト
エンスレイブドの舞台は,今から150年後という未来の世界。この時代,世界中を巻き込んだ戦争が起こったことで文明社会が崩壊しており,大自然が世界を包み込んでいる。わずかに生き残った人類は集落を作り,ひっそりと暮らしているものの,人類の代わりに「ボット」と呼ばれる機械達が地上を支配しており,その脅威がつきまとう。彼らは生き残った人間を襲撃し,捕まえては奴隷船に乗せ,はるか西へ輸送しているのだが,目的地を知る者はおらず,捕まって戻ってきた人間もいない。
主人公となる“モンキー”と“トリップ”も,ボットに捕まり奴隷船に乗せられていたが,トリップが脱走を試み,その騒ぎに乗じてモンキーも脱出しようと行動を開始する。
以上のようなストーリーでゲームは始まる。登場するキャラクターは3名。モンキーは孫悟空,トリップは三蔵法師,ピグシーは猪八戒がそれぞれモチーフとなるキャラクターで,プレイヤーはモンキーを操作し,ほかの2人はAIが担当するNPCとなる。ちなみに沙悟浄は,残念ながらゲーム内に登場しないようだ。
チャプター開始時やゲーム中,CGムービーでキャラクター同士のやり取りが発生するシーンがあるが,洋ゲーにしては日本人にも親しみやすい顔立ちなのが嬉しいところ。キャラクターのモデリングはCG映画的な印象を受けるが,とくにピグシーの肌の質感はかなりクオリティが高い。
メインキャラクターの3人には,それぞれ得意とする役割りが用意されている。モンキーは抜群の身体能力と人並みはずれた怪力を持ち,すさまじい攻撃でボットを次々と倒していけるし,トリップはプログラミングが得意で,ボットの弱点をスキャンしたり,コンピュータをハッキングし,ドアのロックを解除したりできる。しかし戦闘能力は皆無で,EMPパルスで一時的にボットの動きを止められるが,基本的にはモンキーが手助けしてやらないと,すぐに倒されてしまうか弱い女性だ。ピグシーは物語の途中から登場し,銃や爆薬,機械の扱いに長けているというスキルを持つ。人間なのだが豚の耳のようなアクセサリをつけているほか,体のいろいろな部分に女性のタトゥーを入れて,女好きな一面も覗かせている。
西遊記の設定をアレンジしたアクション
モンキー達はどういったことが行えるのか
エンスレイブドは西遊記をベースにした作品ということもあり,原作での設定が形を変えて取り入れられている。例えば,孫悟空を戒めるため頭に取り付けられた「緊箍児」(きんこじ)という輪は,本作では「スレイブ・ヘッドバンド」というハイテク機器となって登場。脱走の際に船内でモンキーが見せた人並みはずれた怪力を目撃したトリップは,自分の目的のために利用しようと考え,とある事故で気絶したモンキーにこれを装着したのだ。
スレイブ・ヘッドハンドは,モンキーがトリップを無視して先に進んだときに作動するほか,トリップが敵に倒されるなどした場合は,モンキーに致死量の毒を注入する仕組みになっている。当然モンキーは外すよう迫るのだが,トリップは拒否し,機器を作動。身を持ってその威力を体感したモンキーは,トリップの「はるか西にある故郷にたどり着く」という目的のため,否応なしに護衛を務めさせられるのであった。
代表的な西遊記の要素はほかにもある。原作で孫悟空が使っていた「如意棒」にあたるものとして,「スタッフ」という棒状の武器があり,モンキーはこれを打撃武器として使えるほか,銃のようにプラズマ弾/スタン弾を発射する射撃武器として利用できる。スタッフは□ボタンで弱攻撃,△ボタンで強攻撃となっており,□→□→△といった具合にコンボも発動でき,手軽な操作で爽快なアクションが楽しめる。
ほかに「クラウド」という円盤状の乗り物があり,これはいわば,超ハイテクな「筋斗雲」だ。クラウドは使える場所が限られるがスピード感は抜群で,とくに海を思いのまま滑るのは開放的で,かなり気持ちいい。クラウドに乗れるエリアには,通過すると一時的にスピードを上げる装置もあり,これで急加速したのち,スケートボードのようにジャンプして向こう岸に渡ってみたりと,派手なアクションが楽しめる。
美しいフィールドを舞台に旅は始まる
難関の突破には2人の協力が必要不可欠だ
ストーリーモードは全部で14チャプターあり,新たな要素が登場するとチュートリアルが発生して,どんなことができるようになるかが教示される。ゲームの主な流れとしては,フィールドの探索パートと,ボットとの戦闘を行うバトルパートを交互に繰り返し,先に進んでいくという形だ。
戦争によって文明社会が崩壊し,自然に覆われていることもあり,とくにオープンフィールドは色彩豊かで,とても美しい描写を見せる。ただ,場所によってはフレームレートが低下したり,移動時にカメラが横に引っ張られるかのようにガタガタ動いたりするため,人によっては3D酔いを起こしやすいようにも感じられた。
モンキーとトリップの旅は,かつて「アメリカ」と呼ばれた土地から始まるが,劣化の進む高層ビル群や,かろうじて骨組みだけを残し建っている家などがあり,人類の繁栄の痕跡が見受けられる。このように,ステージには廃墟が多く,さまざまな部分が瓦礫などで埋まっているため,回り道をしなければならない。
そこで出番となるのが,モンキーの身体能力だ。「パイプによじ登る」→「そこから鉄骨に飛び移る」→「スイッチを押す」といった具合に,道なき道を縦横無尽に駆け回って,先に進むための手がかりを見つけるのだ。これら一連のアクションは難しそうに見えるが,実は×ボタンを押しながら,進みたい方向にスティックを倒すだけというシンプルな操作でOK。
ちなみにモンキーが掴んだり飛び乗ったりできる場所に関しては,ピカピカ光って示されているので,「先に進めなくなった」というときでも周囲を見渡してみると,意外なところに答えが見つかったりする。なお,場所によっては,ぶら下がったり掴まったりすると崩落するところもあるので注意が必要だ。
そしてマップの探索中には,ボットとの戦闘が数多く発生する。モンキー達の前に立ちはだかるボットは,大きく分けて“接近戦タイプ”と“遠距離攻撃タイプ”の2種類。最初はガードもせずにまっすぐ突っ込んで来るような敵ばかりだが,先に進むとシールドを装備していたり,こちらの動きを一定時間止める「エネルギーボルト」という攻撃をしてきたりするボットも出てくるため,状況に応じてスタン攻撃(溜め動作を行ってから殴りつける)で防御を崩してみたり,銃形態に切り替えプラズマ弾を撃ち,遠距離の敵を仕留めたりと,テクニカルな攻撃が必要になってくる。
スタッフでボットを叩き壊したときに,スローモーションで破壊のシーンを見られたり,特定の敵はテイクダウンし,マウントポジションから拳を打ち込んだり,ボットの部品を引っこ抜いて破壊したりと,攻撃時の演出は豊富で,プレイヤーを飽きさせない。
一部のチャプターでは,ボスキャラ的なボットも出現する。これらは一様に巨大で,通常の攻撃が効かない場合もあり,かなりの強敵となるはずだ。どう対処すればいいかはトリップから指示が入るため,それを参考に行動すればいい。たいていの場合は,そのフィールド内にある仕掛けを利用してダメージを与えるなど,頭を使った攻略が必要になる。
残念な点としては,敵のバリエーションがあまり豊富ではないことが挙げられる。チャプターを進めると出現する敵が強くなるが,毎回同じような相手を倒すのは,ちょっと物足りないように思えた。
難度はEASY,NORMAL,HARDの3段階があり,最初からすべて選べるが,難度を上げるほど敵から受けるダメージが増加していくようで,ガードや回避動作をしっかり行わないと,生き残るのは難しくなる。また,ボスの動作スピードもアップしているようで,全体的に歯ごたえが増す印象だ。
ステージの攻略には,トリップとの連携が必要になる場合もある。L1ボタンを押し続けることでトリップに指示を出すことができるのだが,例えばトリップに「機械を動かす/止める」のどちらかの命令を出して,先に進むための仕掛けを解いたり,離れた場所からスイッチを入れてくれるよう命令し,道を作ってもらったりと,お互い協力しないと突破できないパズル的なシーンが多く用意されている。パズルと聞くと「面倒そうだな」と感じる人もいるかもしれないが,謎解きはものすごく難しいというものはなく,適度なものなので,それほど苦労せずに進めるだろう。
ほかにも,トリップを背負って移動したり,向こう岸に投げたりといったアクションも可能だ。最初はトリップに利用され怒っていたモンキーも,協力し合うことで次第に打ち解けて心を開いていくといった,キャラクターの心情もゲーム内でしっかり描かれており,2人がどうなっていくのかを追っていくのも,本作の楽しみの一つに挙げられるだろう。
モンキーがトリップに出せる指示は,「移動」「回復」などあるが,戦闘で重宝するのは「おとり」だろう。ステージによってはタレットが設置されていて,ちょっと動くとセンサーに引っかかり,蜂の巣にされてしまうようなところがある。
そこで「おとり」の指示を出すと,トリップは上空に映像を映してタレットの注意をひきつけ,そのスキにモンキーが安全に進めるようになるのだ。おとりは一度使うとエネルギーが回復するまで一定時間使えなくなるという欠点もあるので,画面左下に表示されているエネルギー残量バーの長さにも注意を払っておきたい。
おとりはモンキー自身も使うことができ,これでトリップの移動をサポートするなど,使用頻度の高いアクションとなっている。
テック・オーブを集めてモンキーをアップグレード
コレクション要素もあり,やり込める
フィールド内を探検していると,赤く光る物がいたるところに確認できる。これらは「テック・オーブ」と呼ばれるアイテムで,あちこちに落ちているほか,ボットを倒したときにも入手できる。これはいわばお金のようなもので,主にモンキーの強化に使用する。
ある程度ゲームを進めると,L1ボタンから「トリップショップ」と呼ばれるメニューにアクセスできるようになる。ここでモンキーの体力の上限を伸ばしたり,スタッフで行えるアクションを増やしたり,シールドの耐久度を上げたりと,さまざまなアップグレードが,テック・オーブと引き換えに行えるのだ。
中盤以降はシールドを装備したボットが同時に出現するなど,戦闘の難度が上がっていくため,テック・オーブをどんどん使って,能力を拡張していくといい。
ほかにもフィールド内には「マスク」が置かれている。これを入手すると,まだ平和だった頃の世界の映像を見てしまうというフラッシュバックを起こす。モンキーがなぜこんな体験をするのか,その謎はラストで解けるので,ぜひ最後まで遊んでみよう。
ちなみにマスクとテック・オーブはトロフィー(実績)にも関わる要素だ。マスクはともかく,テック・オーブは相当な数があるため,コンプリートするのは,かなり骨の折れる作業となるだろう。一度クリアしたチャプターは,「チャプターセレクト」から選んで再プレイ可能なので,取りこぼした分を補完していこう。
いくつか不満はあるが
洋ゲー入門用タイトルとしてもオススメ
プレイ時間は筆者の場合,EASYで10時間程度というところで,アクションゲームとしては標準的なものだろう。フィールドの描写はとても美しく,西遊記とSF要素をミックスしたような,独特の世界観がユニークだ。NPCに指示を出すという部分は正直,不安な部分もあったが,どこかにひっかかって動けなくなったとか,言うことを聞かないなどのトラブルはなく,スムースに動いてくれて,気持ちよくプレイできた。
謎解きの部分も適度な難しさで,詰まることもなく進める。テック・オーブを集めて,どういうスキルを身につけさせるかを考えたり,収集系アイテムの探索をしてみたりと,クリア後も遊べるリプレイアビリティの高いタイトルになっているといえるだろう。
注意点は,やはりカメラ。一部チャプターで見にくい部分があったり,揺れが激しかったりすることがあるので,ここの調整がもっとできていれば良かったのだが。
また,テック・オーブの数が膨大にあるが,ゲームプレイ中に全体の何%を集めたかは,チャプターをクリアするまで分からないのが正直きつい。必死に集めてクリアしてみたら,まだ回収率が90%だった。なんてこともあり,ここで心が折れてしまう人もいそうである。
とはいえ,全体的に親切に作られたアクションゲームという印象で,洋ゲーの入門用タイトルとしてオススメできる一本だ。現在Xbox LIVE マーケットプレースで,エンスレイブドのデモが配信されているので(PlayStation Networkでは10月11日に配信終了),気になる人は,まずこちらを遊んでみるといいだろう。
ちなみに,初回生産版の特典として,モンキーとトリップのコスチューム(装備すると能力がアップする)をダウンロードできるコードが封入されているので,購入するときにはパッケージを確認してみよう。
「ENSLAVED ODYSSEY TO THE WEST」公式サイト
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ENSLAVED ODYSSEY TO THE WEST
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(C) 2010 NBGA. Created by Ninja Theory Ltd.
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