連載
旬のラノベを紹介する新連載「放課後ライトノベル」がスタート! 第1回は『デュラララ!!×8』で“歪んだ愛”が交錯する池袋を駆け抜ける
ライトノベルという小説の形態をご存じだろうか? ライトノベルの定義については曖昧な点が多いが,ざっくばらんに言えば,SFや恋愛やファンタジーなどさまざまなテーマを取り扱い,主に中高生をターゲットにした“気軽に読める小説”といったところだろう。また最近では,書店のライトノベルコーナーで30代くらいのサラリーマン風の人が新刊を品定めしている姿を見かけることもあり,いまや広く市民権を得た小説ジャンルの一つとなっている。
また,ライトノベルのもう一つの特徴として,さまざまなメディアミックスが展開されていることも挙げられる。人気作品のアニメ化やゲーム化などが活発に行われているのはもちろん,人気ゲームがライトノベル化されるといった逆のパターンもあり,ゲーム好きにとってもなかなか“アツい”分野なのだ。人気ライトノベルを押さえておくことは,アニメやゲームを楽しむうえで,今や欠かせない基礎知識を得ることだといっても過言ではない。
前置きが少々長くなったが,今週から始まったこの新連載は,毎月50点以上が出版されるそんなライトノベルの新刊の中から,今が旬のオススメライトノベルを毎週1冊ずつ紹介していこうというもの。その記念すべき第1回では,愛憎渦巻く池袋を舞台に繰り広げられる,十人十色の“歪んだ愛”を描いた人気シリーズの最新作『デュラララ!!×8』を取り上げる。
『デュラララ!!×8』 著者:成田良悟 イラストレーター:ヤスダスズヒト 出版社/レーベル:アスキー・メディアワークス/電撃文庫 価格:620円(税込) ISBN:978-4-04-868599-3 →この書籍をAmazon.co.jpで購入する |
池袋というと,メディアでも取り上げられることの多い,都内有数の繁華街。もっとも,若者の流行発信基地・渋谷,日本有数の歓楽街にしてビジネス街・新宿,オタクの聖地・秋葉原のように,いざ「ひと言で表せ」と言われると「?」となる人は多い(はず)。それもそのはず,池袋というのは駅の西口側と東口側でガラリと印象が変わる街なのだ。
西口は『池袋ウェストゲートパーク』なんかの影響で,ヤンキーとかチーマーとかアムラーとかアゲ嬢とか,とにかく若くて血に飢えたおっかない兄ちゃんや姉ちゃんがはびこっているイメージ。対する東口は,都内有数の電気ショップの激戦区になっていたり,オタクなお姉さんたちの聖地,「乙女ロード」があったり,若い女性のスカウトをする兄ちゃんのすぐ隣で,メイド姿の女の子が客の呼び込みをしていたりと何だかよくわからない雰囲気。要はごった煮のような街なのだ。
じゃあ,そのごった煮感をそのまんま小説にし,ついでに刺激的なスパイスを振りかけたらどうなるか。その一つの答えが,今回紹介する『デュラララ!!』だ。
●誰もが主役級! 個性的すぎるキャラクター
『デュラララ!!』という作品をひと言で表すなら,「池袋を舞台に,さまざまな人間や組織が入り乱れ暗躍する話」。ごく普通の高校生から,果てはヤクザやロシアの殺し屋まで,年齢も性別も職業も異なる連中がひとところに集い,それぞれの思惑のもとに行動する。
驚くのは,出てくるキャラクターのことごとくが個性的なこと。人間離れした怪力で,道路標識や自動販売機など街中のありとあらゆるものを武器にして闘う「池袋最強の男」。カタコトの日本語で「露西亜寿司」という怪しげな寿司屋の呼び込みをやっている黒人の巨漢。内気で眼鏡で巨乳,ただしピンチのときには日本刀を振り回して戦う女子高生……などなど。ここに挙げたのはほんの一部で,実際はこの10倍以上にもおよぶキャラクターが登場する。にもかかわらず,いわゆる「キャラ被り」が一切なく,「こいつ誰だっけ」的なことはほぼない。そのバリエーションたるや,タイトルの元にもなっている首なし(デュラハン)ライダー・セルティが霞まんばかりの勢いなのだ。
このセルティ(実は女性!)がまた実に可愛い。自身も一種の妖精のくせに,宇宙人や怪談を怖がる。ナイフで刺されても死なないのに,白バイの警察官に追いかけられて涙目(目,ないけど)になる。長年の付き合いである闇医者の岸谷新羅(きしたにしんら)と恋人関係になってからは,種族や首の有無(!)などの壁を越えて,ゆっくりと愛を育んでいく。その純情乙女っぷりは,思わず「顔なんて飾りです」と言いたくなること請け合いだ。
●愛のために生き,愛のために戦う人々(と,人外)
セルティに限らず,シリーズ内ではそれぞれの愛に生きる人々(?)が多数登場する。もっとも,イカれた連中ばかりが登場するシリーズだけあって,求める愛も一般人の感性からかけ離れたものばかり。生首に恋したり,愛する相手が実の弟だったり。果ては人間を愛するあまり,あらゆる人と同化したい=殺したいという欲望を持つようになった人斬りの妖刀なんてものまで登場する。最新第8巻では,人気アイドル・聖辺(ひじりべ)ルリのストーカーが活躍。この男がまたいい感じにキレていて,自分の足首にルリの写真を巻きつけてサンドバッグを蹴りまくり,写真がボロボロになったらモグモグと食べるなど,これでもかというくらいの変態っぷりを見せてくれる。
だが第1巻冒頭に「歪んだ愛の物語」とあるように,そもそもこのシリーズ自体が,愛のために生きる人々の群像劇,という側面を持っている。池袋という混沌とした街には,上辺だけの純愛などではなく,一筋縄ではいかない「歪んだ愛」こそがふさわしい。歪んでいるからこそ美しい,数々の愛の形から,読み手はいつしか目を離せなくなってしまう……かもしれない。
●帝人,正臣,杏里……友情の行方はいかに!?
池袋狭しと暴れ回る,一癖も二癖もある登場人物たち。彼らをつなぐ関係性の糸は,事件の中で複雑に絡み合い,激しく変化していく。味方だと思っていた相手が実は敵だったり,敵対していた組織同士が期せずして共通の敵と抗争したり……。めまぐるしく移り変わる人間関係図を追いかけていくのも,本シリーズの醍醐味の一つだ。
第8巻ではそうした「池袋の住人」たちの勢力図に大きな転機が訪れる。
ネットを通じて,池袋屈指のカラーギャング『ダラーズ』を作り上げた高校生・竜ヶ峰帝人(りゅうがみねみかど)。だが,さまざまな事件を経て巨大化した『ダラーズ』は,彼の望まない方向へと暴走を始める。そんな現状を何とかしたいと考えた帝人は,情報屋・折原臨也(おりはらいざや)にそそのかされる形で,『ダラーズ』の支配,変革のために動き始める。「支配」という考え方自体が,彼の望んでいた『ダラーズ』とは相反すると気づかないままに……。
池袋が徐々に変わりゆく中,友人・帝人の真意を確かめるため,紀田正臣(きだまさおみ)は一時離れていた池袋に帰還し,二人の共通の友人である園原杏里(そのはらあんり)もまた,帝人の身を気遣う。互いに言えない秘密を抱えた3人が,どのように友情を回復するのか。第8巻はそんな,第1巻当初から通奏低音のように流れていたテーマに決着をつけるための,重要なターニングポイントだ。
今年1月から放送され,大ヒットの後押しとなったTVアニメは6月に終了。だが原作はここからがクライマックス。さらに9月には,アスキー・メディアワークスよりPSP用ソフト「デュラララ!! 3way standoff」も発売される。首なしライダーに負けじと池袋を駆け抜ける,恋と友情の物語に,追いつくなら今だ。
■3分ぐらいで分かる,成田良悟作品
『デュラララ!!』の著者である成田良悟は,2002年『バッカーノ!』で第9回電撃ゲーム小説大賞(現・電撃大賞小説部門)金賞を受賞し,デビュー。その後,越佐大橋シリーズ,『デュラララ!!』『ヴぁんぷ!』『世界の中心、針山さん』と次々にシリーズを立ち上げ,2010年7月時点での著作は30冊以上を数える。中でもデビュー作から連なる『バッカーノ!』シリーズは既刊15冊におよぶ著者の最長シリーズであり,2007年には著者初のアニメ化作品ともなった。
『バッカーノ! The Rolling Bootlegs』(著者:成田良悟,イラスト:エナミカツミ/電撃文庫)
→Amazon.co.jpで購入する
成田作品の特徴をひと言で表現するなら,「多数の個性的な登場人物たちによる,スピード感あふれる群像劇」。各シリーズごとに,数十人にもおよぶバラエティ豊かなキャラクターが登場,さらに新刊が出るたびに,尽きぬ泉のように新たなキャラクターが物語に加わってくる。それら個々の登場人物の思惑を複雑に絡ませながら物語を動かし,最後にきっちりまとめあげる構成力には定評がある。
こうした特徴はどのシリーズにも共通するところだが,たとえば『バッカーノ!』では複数の年代にわたって物語を展開したり,『針山さん』では複数の短編が集まって長編をなすような構成をとっていたりと,シリーズごとに見せ方を変えていて飽きさせない。ハマればハマるほどに読むのが楽しくなる,それが成田良悟作品なのだ。
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- 関連タイトル:
デュラララ!! 3way standoff
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