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異世界暮らしも楽じゃない? 「放課後ライトノベル」第113回は『理想のヒモ生活』でグータラ生活を始めよう
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印刷2012/10/13 10:00

連載

異世界暮らしも楽じゃない? 「放課後ライトノベル」第113回は『理想のヒモ生活』でグータラ生活を始めよう



 祝! 「地球防衛軍3 PORTABLE」発売! いやー,Xbox 360を持っていない身としては,この日をどんなに心待ちにしていたことか。思わずこのためにPS Vitaごと買っちゃいましたよ。

 基本的なところは1や2と大きく変わらないが,嬉しいのは友軍(NPC)の存在。3は今回が初プレイだったので,遊ぶ前は「一人きりだからこその地球防衛軍だろ」とか思っていたのに,いやはや,これがずいぶん心強い。友軍同士の通信も臨場感があり,「 弾が!」とか「怖いのか?」「そうじゃない!」とか言い合ってるあたりは,そこはかとなく┌(┌^o^)┐ホモォ…

 一方の敵は大半が新規登場orビジュアル変更されていて,最初に見たときは面食らったものだ。そのせいか,過去作から続投の巨大生物を見ると不思議と安心する。安定のアリ,そして相変わらず凶悪な強さを誇る┌(┌^o^)┐クモォ…

 こうなったら,地球防衛軍3 PORTABLEで特別出演を果たしたペイルウイング隊に力を借りるしかない。これまで2度も地球を救ってるんだし,ちょっとくらい休んでもいいよね? 戦いは女性隊員に任せて自身は何もしない姿はまさに┌(┌^o^)┐ヒモォ…

 というわけで今回の「放課後ライトノベル」では,創刊されたばかりのヒーロー文庫から『理想のヒモ生活』を紹介する。異世界に召喚されて勇者に,というパターンの話はよくあるが,ついにヒモになるところまで来ちゃったんですなあ。

画像集#001のサムネイル/異世界暮らしも楽じゃない? 「放課後ライトノベル」第113回は『理想のヒモ生活』でグータラ生活を始めよう
『理想のヒモ生活 1』

著者:渡辺恒彦
イラストレーター:文倉十
出版社/レーベル:主婦の友社/ヒーロー文庫
価格:609円(税込)
ISBN:978-4-07-284078-8

→この書籍をAmazon.co.jpで購入する


●ブラック企業のサラリーマンから,女王陛下のヒモへ!?


 気がつくと,山井善治郎(やまいぜんじろう)は見知らぬ場所にいた。コンビニ帰りに自転車を走らせていたはずなのに,気がつくと場所は屋内。周囲には物々しく武装した兵たち。そして,目の前には抜群のプロポーションに,赤い髪と褐色の肌を持つ美女。その美女は善治郎に向かって,開口一番こう言った。

ようこそ、婿殿

 美女の正体はカープァ王国の女王,アウラ・カープァ。カープァ王国の王族には代々,血統によって「時空魔法」が継承されているのだが,戦乱によってアウラ以外の王族が命を落としてしまった。王位に就いたアウラも,早急に世継ぎを残さなくてはならない。そこで白羽の矢が立ったのが善治郎だ。善治郎の先祖はかつてカープァ王国から異世界に駆け落ちした王族であり,善治郎自身も「時空魔法」を子に伝えられるだけの血の濃さを持っている。そこでアウラは「時空魔法」を使い,異世界から善治郎を召喚したというわけなのだ。

 アウラの婿,つまりは王族になると何かと大変なのでは? と尋ねる善治郎に,アウラは「子作り以外はなにひとつしなくていい」という。男性優位のカープァ王国では,善治郎がへたに何かするとアウラ以上の影響力を持ってしまい,国を混乱させてしまう。つまり,善治郎が要求されているのは,こういうことなのだ。
「異世界の女王のヒモになれ」と。


●実は大変! 異世界の王宮生活


 勤め先はブラック企業,残業は月平均150時間。土曜は基本的に出勤で,連休などほとんどない。対して提示された新たな“仕事”は,女王陛下のヒモ。どちらがいいかは言うまでもなく,実際,善治郎は一も二もなく承諾する。だが面白いのは,善治郎がそこですぐに「うひょー! バラ色生活の幕開けだー!」とならないところだ。

 日本よりも平均気温が高く,文明も遅れているカープァ王国は,善治郎にとって決して住みやすい場所ではない。そこで善治郎は,元の世界の知人に別れを告げるため,という名目で与えられた,婿入り前の1か月の準備期間に,異世界でも現代日本に近い生活を送るための方法を考え,準備を進める。その甲斐あって異世界に戻っても比較的快適に過ごすことができ,逆にアウラのほうが,地球の酒やかき氷に夢中になるほど。

 単に「ヒモになれる」と書けば,さも楽な生活のように思えるかもしれないが,それを打ち消しかねない文化のギャップというものが,日本とカープァ王国の間にはある。このように,異世界を単なるユートピアとして描いていないのが本作の特徴だ。単なる言葉遣い一つにも難儀する善治郎の姿が,このうえない臨場感を伝えてくる。
 あ,そうそう,結婚,子作りといえば……というわけで,ライトノベルには珍しい「ゆうべは おたのしみでしたね」的な描写も(ごくさわりだけだが)登場する。クール,爆乳,褐色,赤髪といったあたりにチーン! と来た人はどうぞ。


●いつか,異世界に召喚されたときのための必読書!?


 本連載の第6回で紹介した『ゼロの使い魔』を筆頭に,根強い人気を誇る「平凡な人間が,異世界に召喚されてヒーローに」系の作品。ヒーローではなくヒモになる本作では,いわゆる「俺TUEEEE」的な楽しみは(少なくとも今のところは)ない。代わりにあるのが「異世界に召喚されたときのシミュレーション」としての楽しみ方だ。

 たとえば善治郎は,異世界には存在しないが,現代日本的生活を送るには欠かせない電気を使うため,小型の水力発電機を購入する。異世界というワードのトキメキ感を,たったひと言で打ち消す「水力発電機」という単語の破壊力たるや。購入に至るまでの経緯も,太陽光発電はどうか,風力は,買ったとしてメンテナンスは,などなどが事細かに描かれ,仮に異世界に永住するとなったら,これをマニュアルにしてもいいのではないかと思えてくるほどだ。

 こうしたディテールの細かさは,この作品の全編に共通する。現実の我々が異世界に召喚されることは絶対に……いやたぶん……恐らくは……あり得ないが,それだけに「もし万が一そんなことになったら?」という想像をかき立ててくれるのだ。
 ストーリー展開は控えめに,土台作りに専念した感のある1巻。そのぶん,今後の展開はいろいろと考えられそうだ。この土壌から今後,どのような物語が紡がれるのかに注目していきたい。

■異世界に召喚されなくても分かる,ヒーロー文庫の創刊ラインナップ

『竜殺しの過ごす日々 1』(著者:赤雪トナ,イラスト:碧風羽/ヒーロー文庫)
→Amazon.co.jpで購入する
画像集#002のサムネイル/異世界暮らしも楽じゃない? 「放課後ライトノベル」第113回は『理想のヒモ生活』でグータラ生活を始めよう
 『理想のヒモ生活』は2012年9月に主婦の友社から創刊された,ヒーロー文庫の創刊ラインナップ2冊のうちの1冊。レーベル名は「平凡な男もヒーローになれる! 男の夢を見せる」というところから来ている。平凡なサラリーマンから一転,一国の女王様のヒモに……という筋書きは,確かに男の夢かもなあ,と思わされる。
 もう1冊の『竜殺しの過ごす日々』では,「平凡な男もヒーローになれる!」のほうをフィーチャー。異世界に飛ばされた渡瀬幸助は,空から落ちた衝撃で,人々に恐怖を振りまいていた竜を倒してしまう。彼はそれによって「竜殺し」の称号を得,おまけにとんでもない強さを手に入れる。ここまではありがちなパターンだが,違うのはここから。竜殺しとなった彼は,その強さを存分に発揮して大冒険を繰り広げる……かと思いきや,実際にやるのは冒険者ギルドから雑事系の依頼を受けてはこなすこと。「竜殺しだと知られるといろいろ厄介」「心情的に魔物とあまり戦いたくない」といった理由はあるにはあるが,竜殺しとなってまでやることが日雇いバイト(のようなもの)というのが,今の世相を反映しているようで世知辛くも興味深い。
 なお,この2作はどちらも小説投稿サイト「小説家になろう」に投稿された作品を書籍化したものになる。Web発のヒット作が続々と現れている今日,トレンドの最先端としても注目の作品たちだ。

■■宇佐見尚也(ライター/理想はヒモ生活)■■
『このライトノベルがすごい!』(宝島社)などで活動中のライター。アイドル(のカード)に時間やお金を吸い取られつつも充実しているように見える友人達を見るにつけ,「ヒモになるより,なってもらうほうが幸せなのかもしれないなあ」と日々実感しているという宇佐見氏。近頃では料理ができないとダメとか,ヒモになるのも実際はいろいろ大変らしいですよ。
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