連載
少女を護るため少年は戦う。「放課後ライトノベル」第115回は『落ちこぼれの竜殺し』を紹介
今回の「放課後ライトノベル」第115回では,先日までTVアニメが放映されていた『だから僕は、Hができない。』の原作者・橘ぱんの新作『落ちこぼれの竜殺し』を紹介する。前々回のコラムもそうだったが,なんか最近竜殺しが流行してるんですかね。ジョジョみたいに。
そういえば,本作の刊行元である富士見ファンタジア文庫には「ドラゴンマガジン」という雑誌がある。さらに,同レーベルの作品を多数コミカライズしている「ドラゴンエイジ」なんていう雑誌もあるあたり,ドラゴンは富士見ファンタジア文庫において重要なモチーフとなっている模様。そんなレーベルでこのタイトルは大丈夫なのか!? 会議で偉い人に「このタイトルは不吉じゃないのかねチミィ」などと言われたりはしなかったのか!? 社内の権力闘争に根を置く陰湿ないびりに夜,ひとけのない編集部で人知れず涙を流したりする人がいたりはしなかったのか!?
と,思わず余計な
そんなわけでレビュー本編,行ってみよう。
『落ちこぼれの竜殺し 1』 著者:橘ぱん イラストレーター:呉マサヒロ 出版社/レーベル:富士見書房/富士見ファンタジア文庫 価格:609円(税込) ISBN:978-4-8291-3814-4 →この書籍をAmazon.co.jpで購入する |
●物語の舞台は,竜殺しを育てるための学園
――かつてこの世界は一度,滅亡の縁から救われた。
11年前,2030年9月12日。突如として世界中に出現した竜たちは,人間を「簒奪者」と呼称。自分たちこそがこの世界の所有者だとして,人間たちに一方的に攻撃を開始した。古の竜の名を持つ6頭が率いる竜たちの力はすさまじく,人々は儚くその命を散らしていった。
だが,人類には希望があった。クシナダ機関――竜が出現するはるか以前から,それを予測していた彼らは,すぐさま対竜同盟機関「ベイオウルフ」を結成。竜たちに対して徹底抗戦を開始したのだ。
5か月にも及ぶ《屠竜戦争》は,人類の勝利で終わった。竜たちを率いる6頭はすべて,竜討五将と呼ばれる5人の戦士の手で倒され,地上に平和が戻った。
そして,2041年。私立建速学園――クシナダ機関の系譜を継ぐクシナダ財団によって設立された,竜と戦う戦士を育成するための学園に,叶零士(かのうれいじ)は入学した。自分の記憶を揺さぶる,ある少女を護るために――。
●過酷な訓練や逆境を,煩悩で乗り切れ!?
新入生160人中159位という低成績で入学した零士だが,入学早々,とある少女の指名によって,彼女が率いるチームの一員となる。少女の名前は,杵築弓美香(きづきゆみか)。開校以来の才媛とうたわれる天才にして,クシナダ財団の関係者であり――そして何より,零士の記憶を強く揺り動かす,まさにその相手だった。彼女のもと,零士は3人の同級生と共に,竜鱗機(プラウダー)と呼ばれるパワードスーツをまとい,竜と戦う力を身につけるための訓練に明け暮れる。
零士とチームを組む,弓美香以外の3人――男装の少女レティシア・ベラスケス,レティシアの妹にして飛び級で入学した秀才リタ・ベラスケス,零士を又従兄弟と呼ぶお調子者・竜崎忍(りゅうざきしのぶ)は,いずれも成績優秀,あるいは一芸を持った連中ばかり。その中にあって真の落ちこぼれである零士は竜鱗機の扱いにも四苦八苦する。そうした中,入試主席のエミリー・グラントを始めとする,成績上位者で構成されたチームとの因縁が生まれてしまい……。
早くも前途多難といった様子の零士の学園生活だが,意外に本人に悲壮感は少ない。巨乳の弓美香を筆頭に,美少女に囲まれた環境で年相応の劣情を隠さないのは,いかにも年頃の少年といった趣でかえって好感が持てる。しかも竜鱗機はISや,聖闘士聖衣(セイントクロス)のような外装に,「マブラヴ」の衛士強化装備のようなインナーという,お子様には目の毒仕様。もちろんラッキースケベもあるよ! やったね零士!
●死と隣り合わせの青春。少年たちの向かう先は
そんなこんなで,何やかやと学園生活をエンジョイしている零士だが,のほほんと過ごしてばかりもいられない。そもそも学園の目的は「竜と戦う戦士を育てる」こと。生半可な覚悟では,人間が到底及ばないほどの強さを誇る竜には対抗できないのだ。
それを象徴するのが,学園内では兵器の運用と生徒の殉職が認められていることだ。竜と戦うには,訓練相手を殺し,自身も殺されるくらいの覚悟がなくてはならない。まだ幼い少年少女たちが向き合うには重すぎるその決意を,学園生活の中で零士は否応なく試されることになる。
そして,そんな零士たちが実戦の場に飛び出していくのは,決して遠い日のことではない。竜との戦いが終わった現在,世界では竜槍師団と呼ばれる,竜を信奉するカルト集団が暗躍しており,人々の生活を脅かしている。それは決して誇張ではなく,現実に零士たちの目の前にある脅威として登場してくるのだ。
メカにバトルに美少女にと,男(の子)の好きなものを集めてぎゅぎゅっと凝縮したような本作だが,零士の過去や学園長たちの思惑など,いろいろと秘密が隠されている模様。それらが少しずつ明らかにされていくことを期待しつつ,続巻を楽しみに待とう。
■落ちこぼれでも分かる,橘ぱん作品
ここ数年,ライトノベルではヤマグチノボル,田中ロミオ,弓弦イズルといった美少女ゲームシナリオ出身の書き手の活躍が目覚ましいが,『落ちこぼれの竜殺し』の著者,橘ぱんもその一人。共作のものも含め,これまでに10を超える美少女ゲームのシナリオを手掛けている。代表作は,シリーズ5本を数える人気作「魔界天使ジブリール」(フロントウイング)。作品によって共同執筆するライターが変わる中,これまで唯一,シリーズすべてに関わり続けている。
『だから僕は、Hができない。 死神と人生保障』(著者:橘ぱん,イラスト:桂井よしあき/富士見ファンタジア文庫)
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ライトノベルにおける代表作は,2012年7月からTVアニメが放映された『だから僕は、Hができない。』。これがライトノベルでのデビュー作でもある。死神と契約することで,さまざまな便宜を図ってもらえる世界。ふとしたことから死神リサラと契約することになった良介が代償に奪われたのは,よりにもよって“性欲”だった! エロには人一倍執着の強い良介にとっては死活問題。かくして良介はエロの魂を取り戻すために,あれやこれやの奮戦を――という,いかにも美少女ゲームシナリオ出身と思わせる一作だ。
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