レビュー
マルチな展開と結末。何度も楽しめる大人のシングルRPG
ウィッチャー2 王の暗殺者
【完全日本語版】
2011年7月28日,サイバーフロントより,シングルプレイ専用RPG「ウィッチャー2 王の暗殺者【完全日本語版】」(以下,ウィッチャー2)が発売された。価格は通常版が7140円,数量限定でメイキングDVDやオリジナルサウンドトラック,攻略ガイドブックを同梱したプレミアムエディション版が9240円(いずれも税込)だ。
「ウィッチャー2 王の暗殺者【完全日本語版】」公式サイト
4年ぶりのシリーズ最新作となるウィッチャー2だが,プレイヤーを引き込むストーリーや,重厚かつアダルトな世界観は健在だ。開発は前作に引き続きポーランドのCD Projektが担当している。本作では同社が独自に開発した「RED Engine」というゲームエンジンが採用され,非常に美しいグラフィックスが実現されている。
時間や天候が変化する仕組みで,それに合わせてNPCは,日中決められた場所で活動し,日が落ちると家に帰っていくというような,リアリティのある動作を見せる。特定の時間帯でなければ発生しないイベントなどもあり,システムがしっかりゲームに生かされてる印象だ。
前作は日本でも英語版パッケージのみが発売され,メーカー公認のユーザー制作MODという非常に珍しい形でようやく日本語化が実現したが,今回,最初からオフィシャルの日本語版が発売されたのは喜ばしいことだ。
何せウィッチャー2は膨大なテキスト量を誇り,英語が苦手な人がこれらを読み解きながらストーリーを進めていくのは,かなりしんどい。ローカライズは英語音声に日本語字幕という一般的なスタイルが取られており,会話シーンのほか,ゲーム内のUIなどもすべて日本語訳されている。
本作は「The Witcher」の続編となるタイトルで,前作の主人公ゲラルトや,彼のパートナーである魔女のトリス,反乱軍に命を狙われていたが,ゲラルトによって助けられたテメリア国のフォルテスト王といった前作のキャラクターが,2で引き続き登場する。もちろん,物語も前作の続きとなる。
ウィッチャー2では,ゲラルトはフォルテスト王の警護役という任務についていた。ところが,謎の大男により王が暗殺されてしまい,現場に居合わせたゲラルトに濡れ衣がかけられることになった。
投獄されて死刑を待つ身となったゲラルトは,数々の協力者の力を借りて脱獄し,自身の潔白を証明するために行動を開始する。これが本作のおおまかなプロローグだ。
ゲラルト |
トリス・メリゴールド |
ゲームの難度は「低」「中」「高」「最高」の4段階があり,戦闘が苦手という人や,主にストーリーを楽しみながらゲームをプレイしたいという人なら,難度は「低」でいいだろう。それでも戦闘はなかなかハードで,慣れないうちは結構大変かもしれない。
ちなみに「最高」は,死亡してしまうとセーブデータをロードできなくなるという,ハードコアな仕様になっている。
ゲームのタイトルにもなっている「ウィッチャー」なる人々について,簡単に紹介しよう。彼らは数々の厳しい試練を乗り越え,人並み外れた戦闘技術や,魔法の知識などを手に入れることに成功したモンスタースレイヤーのことだ。ゲラルトは修行の過程で白髪になってしまったが,その風貌から「伝説の白狼」の異名を持ち,数少ないウィッチャーの中でも伝説級の人物として,吟遊詩人の詩に登場したりするほどだ。
その能力ゆえに,力を利用しようと近づいてくる者がいたり,人間の外見をしているのに「非人間族」(エルフやドワーフなど)として扱われ,迫害の対象になったりもする。
操作はキーボードとマウスのほか,Xbox 360のゲームコントローラ用のプロファイルも用意されており,PCゲームに慣れていない人でも意外と遊びやすいかもしれない。
ちなみにゲーム起動時にランチャーから,解像度やグラフィックスの描画オプションを設定できるのだが,筆者のPC(Core i7 2600K,GeForce GTX 560 Ti,DDR3 8GB)で,すべてのオプションをMAXにした場合,フレームレートが常時20を切っているような有様で,かなり重かった。「最適な設定を自動検出」という項目をクリックしてみると,「低スペック」に設定されてしまったのだが……。
それでは,前置きはこのくらいにしておいて,本作の魅力を紹介していこう。
さまざまなキャラクターが絡む重厚なストーリー
次にどんな展開が待っているのか,それはプレイヤー次第
ウィッチャー2のメインクエストは先にも書いたように,ゲラルトが王殺しの真相を突き止め,自身の潔白を証明することだ。
……だがその前に,ゲームが始まると,上半身裸のゲラルトが何かから逃げたあと,牢屋で身を拘束されているというムービーが流される。ムービーは基本的に見ているだけだが,ときどきその最中に選択肢が発生するというのが特徴だ。
そしてテメリアの特務隊の隊長であるヴァーノン・ロッシュが登場し,ゲラルトは彼の尋問を受けることとなる。展開が急なため,初めて遊ぶ人には,正直何が起こっているのか分かりにくいのだが,この尋問を通じて過去を振り返り,そこで何が起こったのかを追体験することで,次第に状況が判明してくるという流れだ。
尋問ではフォルテスト王に関連する質問をされるが,ここでの選択肢はどれを選んでもいい。例えば「俺たちは修道院で別れた」を選べば,ゲラルトが敵の城に入るための道を探すこととなり,「あの朝 俺は王に呼ばれた」を選べば,ゲラルトとトリスの濡れ場(!)のあと,フォルテスト王の招集を受け,彼のもとに向かうこととなる。
プロローグということもあり,このあたりはチュートリアル的な色が強い。ヘルプメッセージがポップアップするので,それを見ながら操作方法などを学んでいこう。
ウィッチャー2において,キャラクター同士の会話は非常に重要な要素となっており,選択肢の選び方によってクエストの展開に変化が現われる。なかには即断を求められる時限式の選択肢などもあり,なかなか気を抜けない。
ストーリーは,王殺しを追いかけるという展開になっていくが,そのなかでエルフを中心としたゲリラ「スコイア=テル」や,ヴァーノン・ロッシュに手を貸したりと,どの勢力に加担するかでストーリー展開は変化する。
ウィッチャー2ではマルチエンディングシステムが採用されているので,ストーリー展開によっ複数回プレイを楽しめるだろう。
なお,会話中に出る選択肢の横に,さまざまなアイコンが表示されることがある。これは相手を脅迫したり,魔法の力によって相手の心を惑わして情報を得たりといったアクションを利用できるというもので,ゲラルト特有の能力といえるものだ。
すべての会話でこれらの能力を使えるわけではないが,アイコンが表示された場合は,どんな効果があるのか試してみるといいだろう。
このほか,街や集落でNPCに話しかけたり,掲示板に貼りだされたモンスター退治などの依頼をチェックしたりすると,サブクエストが発生することがある。メインクエストとサブクエストはアイコンの有無で確認でき,クエストをダブルクリックするとアクティブにできる。
クエストを開始すると,目的地がマップに表示され,どの方向に行けばいいかを示すカーソルも表示されるため,基本的にはそれに従えばいい。しかしなかには目的地が表示されないものもあり,その場合はクエストログなどをチェックし,ヒントを探していく必要がある。
無事クエストをクリアできれば,経験値や報酬を得られる。困難な依頼なら,依頼主を脅迫して報酬を吊り上げるといったこともできるようだ。
掲示板に貼り出された依頼を確認し,受ける場合はその依頼書ごと持っていく。なお,サブクエストという扱いになるため,必ずしもクリアする必要はないが,報酬は悪くない |
画面右上に,現在アクティブになっているクエストと,その目標が表示される。オレンジ色のカーソルが出ている方向に目的地があるので,それを目印に進むと迷いにくい |
戦闘を繰り返してゲラルトは成長
「能力」によりプレイヤーの個性も出せる
戦闘では基本的に,剣や斧といった武器を使って戦う。左クリックは「素早い一撃」,右クリックは「強力な一撃」となっており,組み合わせで連続攻撃によるダメージも与えられる。このほか「印」と呼ばれる6種類の魔法を使ったり,「罠」を仕掛けて敵を倒したりといったことも可能だ。
画面右下に戦闘ログが表示され,これによって「どれくらいダメージを与えたか」「敵の攻撃でいくつダメージを受けたか」などを確認できる |
敵の種類は,大きく分けて人間タイプとモンスタータイプの2種類おり,人間タイプには一般的な武器で普通にダメージを与えられるが,銀の剣などで攻撃しても効果が薄い。逆にモンスターは銀の武器でないと倒すのに時間がかかる。
武器は2つ装備可能なので,状況に応じて切り替えるということが必須となる。ガード体勢をとったり,緊急回避動作を使ったりして,敵の攻撃を回避するのも重要だ。
クエストによっては巨大なボスモンスターとの戦いも発生するが,ボスにはマウスをクリック連打しているだけではまず勝てない。罠や印を使って動きを封じてみるなど,戦略性の高い戦闘も必要になるはずだ。
クエストによっては巨大なボスが登場することもあり,その力強さと迫力は相当なものだ。強敵をどうやってねじ伏せるか,その戦略を考えるのも楽しい |
忍び足でこっそり移動するクエストもある。騒ぎを起こすと警備兵に捕まってしまうので,見つからないよう行動するか,背後から近づいて右クリックでダウンさせ,無力化して進むといい |
「印」(魔法)には,衝撃波によって敵をもうろうとさせたり,一部の障害物を吹き飛ばせたりする「アード」,炎の弾をぶつける「イグニ」,敵の動きを封じる「イャーデン」などがあり,最初から5つが使える。最後の1つは,後述するが,成長ルートの「魔術師」に用意されている。
印は気力がないと使用できないため,連発するような使い方はできない。気力は敵の攻撃をガードする際にも消費するため,気力の残量には常に気を配っておく必要がある。
印の1つである「アード」や,特定の武器で攻撃すると,ときどき相手をもうろう状態にできる。ここに追い討ちをかけると自動的に必殺技が発動し,華麗な一撃で相手を倒せる |
敵を倒したりクエストをクリアしたりすることで経験値を獲得し,ゲラルトはレベルアップしていく。このとき通常のパラメータ上昇のほか,「才能ポイント」が手に入り,これを使って「能力」(スキル)を入手できる。それぞれの能力にはレベル1とレベル2があり,当然,レベル2のほうが効果は増す。
「能力」はツリー状に管理されており,最初から高度なものは習得できず,土台となる能力を先に習得していく必要がある。そのスキルツリーとなっているのが,4種類の「成長ルート」だ。
これがゲラルトの成長ルートになる。レベルが1つ上がるたびに能力習得用のポイントを得られ,これによってプレイヤーごとに異なるキャラクターを作れる |
成長ルートはすべての基礎となる「訓練」のほか,武器による戦いを得意とする「剣士」,テクニカルなプレイとなる「錬金術師」,印による攻撃が充実する「魔術師」の計4つがあり,まずは訓練ルートに6ポイント以上投資することで,他のルートに進むことができるようになっている。
レベルキャップは35であり,全ルートを制覇するにはポイントが足りず,一度習得した能力のリセットもできない。どういったキャラクターを作りたいか,最初によく考える必要があるが,器用貧乏なキャラより,1つのルートを極めるほうが良さそうだ。
では,能力の一部を紹介してみよう。剣士は「カウンター」を習得すると,敵の攻撃を避けてからのカウンター攻撃が可能になる。錬金術師は後ほど詳しく説明するが,「霊薬」「オイル」といったアイテムの持続時間を伸ばす能力があり,魔術師なら印の効果を増大させる能力がある。
なお,「戦士の直感」「変異」「魔法感覚」などの能力を習得すると,気力バーの下に「アドレナリンバー」が表示されるようになる。このバーが満タンになったときに「X」キー(デフォルト)を押すと特殊能力を発動できるのだが,いずれも効果は絶大なので,厳しい冒険に備えて習得しておきたい。
カウンターを習得してガードすると,剣のアイコンが表示される。このときマウスのボタンをクリックするとカウンターが発動し,相手に大ダメージを与えられる |
錬金術やクラフティングで
新たなアイテムを作成できる
本作には「瞑想」というコマンドがあり,瞑想中のゲラルトは時間を早送りにしたり,錬金術でさまざまな能力を得られる「霊薬」を製作/消費したりといったことが可能だ。
霊薬には,暗いダンジョンの中で敵を強調表示し,さらに壁の向こうを透視できるようになる「猫の目」,体力回復速度を早める「春ツバメ」などといったものがある。
なお,霊薬は一度に3種類まで服用できるが,同時に使う量が増えるほど,「中毒度」というパラメータが上昇していく。薬の効果が切れれば中毒度も治るが,中毒度が高い状態では,霊薬がそれ以上使えなくなるなどのペナルティが発生する。
霊薬を作成するためには「製法」というアイテムが必要になる。これはお店で買うか,クエストのクリア報酬として入手したり,敵の遺体からルートして獲得したりできる。
そして製法以外に,さまざまな材料が必要になる。フィールドを歩いているときに見つけるさまざまな薬草や,敵の遺体(爪など)といったものだ。
錬金術では,霊薬以外に「オイル」「爆薬」の作成も可能だ。オイルは戦闘が始まる前に剣に塗布しておくことでダメージをアップさせたり,クリティカル効果の発生確率をアップさせたりできる。爆薬は直接ダメージを与えるものや,敵の視力を奪ったり,意識をもうろうとさせて行動を封じたりするものがある。
低いゲーム難度でプレイする場合,これらのアイテムに頼ることはそれほどないが,高難度でのプレイでは,こういった補助アイテムをうまく使って,戦況を少しでも有利にしていく必要がある。
錬金術以外では,アイテムの設計図と素材(木材,革,糸など)を職人に渡すことで,新たな装備品を作ってもらえる「クラフティング」というシステムがある。
ほかにも,特定の装備品にはスロットが設定されており,そこに強化アイテムを装着して,能力を増大させる「アップグレード」というシステムもある。アップグレードは一度実行すると元には戻せないので,よく考えて行おう。
日本やアメリカの作品とは一味違ったRPG
ストーリーは一見の価値あり
実際にウィッチャー2で遊んでみてまず驚いたのは,開始5分ほどで,いきなりゲラルトとトリスの濡れ場が始まったことだろうか。また,脱獄を手伝ってくれた人物を裏切るといったような,汚い行動も可能だ。思わず面食らってしまったが,本作を「アダルトな世界観」と表現したのは,こういう場面がいくつもあるためだ。
ゲームのストーリーを追っていくと,キャラクター同士の思惑が複雑に絡んでいき,まるで優れた海外ドラマや映画を見ているような印象を受けた。固有名詞が多いため少々分かりにくい部分もあるが,「このあとどうなっていくのだろう?」と感じることも多々あり,毎晩のように「やめ時」を見失ったものだ。
本シリーズは,アンドレイ・サブコフスキ氏のファンタジー小説「The Witcher」の世界観をモチーフにした作品になっている。
ゲームシステムは,覚えることが多くあり,少々とっつきにくさを感じた部分もある。初心者が遊ぶのも不可能ではないが,ある程度は海外のRPGに慣れたプレイヤーに適したタイトルだろう。
戦闘に関しても,鋼の剣,銀の剣という2つの武器があり,これらを状況によって使い分けていく必要があり,場合によっては霊薬やオイルを使って補助しなければならないこともある。ただマウスをクリックしていれば勝てるというゲームバランスにはなっておらず,いろいろ頭を使わなければならない。
プレイしていくうちに「俺,戦闘うまくなったな」といった具合に上達を実感できるようになっており,やり込みプレイヤーには嬉しい玄人好みの仕様だ。
勧善懲悪ではないストーリーや,ガチャプレイでは勝てない戦闘システムに魅力を感じる人なら,間違いなく本作は楽しめるはずだ。要求するPCスペックが少々高めだが,完成度は高く,非常に優れた作品である。
「ウィッチャー2 王の暗殺者【完全日本語版】」公式サイト
- 関連タイトル:
The Witcher 2: Assassins of Kings
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