インタビュー
ダウンロード販売の流れを変えるか? ハイクオリティで何度も遊べる800円タイトル「マリシアス」開発者インタビュー
今回4Gamerでは,マリシアスのディレクターを務める平木是会氏にインタビューを行う機会を得た。本作は,単に低価格で購入しやすいタイトルというだけではなく,現在のゲームからは失われつつある「アクションゲーム本来の面白さ」とは何か,という哲学に基づいて開発された。その結果,よくあるゲームの構造とは異なる,特殊な着地点に辿り着いたようだが,こういったことも含めて,いろいろと話を聞いてみた。
さらにはアルヴィオンという開発会社が,デベロッパからパブリッシャへとステップアップを図る動機や覚悟などについても語られているので,たっぷりとお伝えしていきたい。
「マリシアス」公式サイト
「価格:800円」「ダウンロード専用」と
“ダウンロードっぽさの排除”を両立させたのは?
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
早速ですが,まずは本作の800円という価格設定に驚きました。というか,これでその……ぶっちゃけ儲かるんですか?
平木是会氏(以下,平木氏):
いや,正直なお話をすると,いろいろ大変ですが頑張ってます。
4Gamer:
なぜこの価格に?
平木氏:
一つは,より多くの方にこのゲームを遊んでほしかった,という思いからですね。
弊社アルヴィオンは,長年ずっと下請けの開発を中心にやって来た会社なんですが,「マリシアス」は,私たちが私たちの名前(ブランド)で世に出すタイトルということで,まずはとにかく多くの人に触れてもらって,アルヴィオンという会社を覚えてもらいたいと考えました。
4Gamer:
ゲームを触った感触も,なんというか「ダウンロード専用っぽくない」ですね。アクションの手触りは,それこそフルプライスのパッケージゲームと比べても遜色ないですし。
平木氏:
ありがとうございます。そこは,私どももかなり意識して作っていた部分ですので,そう言って頂けるととても嬉しいです(笑)
ゲームとしてはごくごくシンプルなアクションゲームなのですが,不要な部分をばっさりと割り切って切り捨て,コンパクトにすることで,プレイそのものに対するハードルを下げた仕上がりになっています。
4Gamer:
プレイそのもののハードル?
平木氏:
最近はなかなかゲームの時間が取れない人が増えてきているのに対して,ゲームのほうは逆に,アクションゲームでもクリアに何十時間もかかる大作が多くなってきていますよね。
それが,「なかなかゲームを手に取りにくい」という要因の一つになっていると思ったんですよ。そこでマリシアスでは,まず「手軽に遊べる」「ちゃんと遊びきれる」「それでいて満足感もある」というところを重視しました。
価格や流通についても,「まず手に取って貰うまでのハードル」を下げたいと考えていて,買いやすいようにダウンロード販売を選び,値段についてもよりプレイヤーの方に手に取っていただきやすいようにと考えた結果、800円とさせていただきました。
4Gamer:
最初にこのマリシアスの概要を伺ったときは,「2000円ぐらいかな?」と勝手に思い込んでいました。
平木氏:
会社との交渉も経て,なんとか実現することができました。
ステージはいずれも激ムズの“ボス戦”から始まる
初挑戦時には歯が立たないからこそ面白い
4Gamer:
少し触った感じですと,ゲームの構造も,最近よくあるステージクリア型のアクションゲームとはちょっと違いますよね。ゲームの特徴についても聞かせてください。
平木氏:
そうですね。マリシアスではどのシーン(ステージ)からでも自由に遊べるようになっています。
ゲームとしてはとてもシンプルで,各シーンのボスを倒せばいいという内容です。シーン内には,ボス以外にもザコキャラがいるのですが,それらを倒していくと「オーラ」を溜めていくことができ,そのオーラを使えばゲームをより有利に進めていけます。
例えばオーラを使ってプレイヤーキャラの能力を高めることが可能で,オーラを開放した特殊モードへ移行すれば,文字通りザコをなぎ払うような戦い方もできるようになります。
ちなみにボスはタフなので,オーラを使った攻撃でないと倒すのに非常に時間がかかります。ですので、いかに素早くザコを倒してボスに挑むかという戦略性も,とても重要になっているんです。
4Gamer:
ザコを倒してオーラを溜め,そのオーラを使ってボスにダメージを与える。なくなったらまたザコを倒すと。
平木氏:
ちなみにムービーをご覧いただいた際に,本作をいわゆる「無双系」と思われた方が多いようなのですが,じつはマリシアスは全然違うタイプのゲームです。
ザコ敵は,言ってしまえばボスを倒すための糧みたいなもので,ザコを蹴散らす爽快感とボスと対峙する緊張感の両方を同時に楽しめる……そこが本作の特徴です。
4Gamer:
ゲームのボリューム的にはどんなものなんですか?
平木氏:
ゲームに対する慣れにもよりますが,クリアまでにそれほど長い時間を要するものではありません。いわゆるフルプライスのゲームのように,何かアイテムを集めたり武器を作ったりという要素もありませんが,そのぶん毎日気軽に遊んで気分爽快! みたいな遊び方をしていただければ,と考えてます。
4Gamer:
なんというか,ちょっと昔のアーケードゲームライクというか。
平木氏:
ええ,まさにアーケードゲームライクという表現が近いかもしれません。内容的にも「ファーストプレイでもとりあえずクリアできてしまう」ようなものではなく,あえて適度に尖った難易度にチューニングしています。
4Gamer:
「ゲームのボリューム」という話になると,どうしてもやり込み要素の多さについて語られがちですけど,昔のアーケードゲームのように,何度も遊びたくなるゲームもまた,ある意味でボリュームのあるゲームなんですよね。
平木氏:
ええ。そういう部分を考えると,やはりあまりに簡単にクリアできてしまっても,ゲームとしての面白みが薄れてしまうのかな,と。攻略していくという部分がゲームで一番楽しいところだと思いますし。シーンを自由に選んで攻略できますので,「ここが好きだから,ここで遊んでみよう」と選んでプレイしてもらってもいいですし,ぜひ自分なりの攻略方法を見つけていただきたいです。
4Gamer:
ちなみに難度の設定などはあるのでしょうか?
平木氏:
EASYやHARDといった設定はなく,一つシーンをクリアするごとに難度が上がっていって,あとに回すほど難しくなります。例えば巨人みたいなボス(フィストゴーレム)と戦ってはみたものの,「これ苦手だな」って感じたら,能力を増やしてから挑んでもいいし,強くなる前に頑張って倒すのも手です。
ゲーム性はコンパクトにまとめていますが,前のめりになってプレイしなければ,そう簡単にはクリアできないようになっています。昔ゲームが好きで遊んでいたという方にも,ぜひプレイしてほしいですね。
アクションで一番気を使ったのはとにかく「触り心地」
キャラを動かすだけで“キモチイイ”が大切
4Gamer:
それでは実際にゲームの内容について聞いていきます。アクション,とくにコンボが豊富な印象を受けました。
平木氏:
まず,攻撃のアクションは大きく分けて4種類,「拳」「剣」「槍」そして遠距離攻撃用の「魔弾」があります。
コンボの種類自体は,ものすごく多いというわけではないんですが,拳のコンボの途中から剣のコンボに派生できたり,とにかく“技のつながり”をいろいろ出せるようにしています。
4Gamer:
なるほど,4種類のアクションをコンボの最中にも切り替えられると。
平木氏:
そうですね。コンボがやたらに長いものや数がたくさんありすぎるゲームにしても,一回使ったら「これでもう使わないな」となってしまうと思うので,マリシアスでは使えるものだけ厳選しました。コンボの組み合わせはいろいろできるので,オリジナルコンボとは言わないまでも,自分なりの組み立てを考える楽しみがあると思います。
4Gamer:
要するに,技にキャンセルが利くということですか?
平木氏:
例えば,単純に剣だけ振っているとスキが大きいアクションになるのですが,これをコンボの中に組み込むとモーションが小さくなったりします。このへんを極めていくと,ボスでもあっという間に倒せるようになりますし,そこが楽しさにつながると思うんです。キャラクターの動きがプレイヤーの手に応えてくれるよう,しっかり調整をしています。
4Gamer:
操作に対するレスポンスというか,操作感覚もかなり機敏に感じるチューニングをされてますよね。
平木氏:
はい。このゲームの開発で一番気を使っているのは,とにかく「触り心地」なんです。ゲームをクリアするとか敵を倒すとかだけじゃなくて,「まず動かしていて気持ちいい」ものを目指しました。
4Gamer:
なるほど。確かに本作は,キャラクターを動かしているだけでも爽快感があります。
平木氏:
せっかく箱庭の世界で自由にアクションができるのに,動きがもっさりしていたら気持ち良くないですからね。なので,開発中は「じゃあ気持ちいい動きとは何か?」ということを検討し,ボタン入力のレスポンスやキャンセルのタイミングの調整などを丹念にやっています。実を言うと,普通のアクションゲームではあまりない移動速度とかもところどころでやっちゃっているんですが,「それで気持ちいいなら構わない。楽しくやろう」というノリで調整していました。
4Gamer:
この操作感度は,気持ちの良さ重視の結果なんですね。
平木氏:
いくつかのパターンを試してみて,「気持ちいいのはこの方向だよね」というのを突き詰めつつ,どんどんやっていきました。
ちなみにこれは,発売(配信)後になると思うんですが,弊社で一番うまいスタッフのプレイ動画を公開しようかなとも考えています。皆さん「なんだこれ」と驚かれること請け合いです(笑)。
4Gamer:
ちょっと話は変わりますが,ゲーム開始時にプレイヤーキャラクターを男性と女性のどちらかを選べますよね。
平木氏:
はい。男性と女性のどちらかを選べるんですが,ゲームの設定では,これを「魂の器」と呼んでいて,主人公=プレイヤーと考えてください。
4Gamer:
ゲーム画面にGUIらしきものがあまり見当たりませんが,主人公の体力などは,どこで確認するのでしょうか?
平木氏:
プレイヤーキャラの体力が減ってくると,手や足など,あちこちが壊れてくるんです。壊れたパーツはオーラを使って回復するという仕組みになっていて,回復するとグラフィックスが元に戻ります。ただし,服は復活しません。
4Gamer:
本作では,マントを使って空を飛んだりできますが,転落死などもあるんでしょうか?
平木氏:
エリアの下限は設定してありますが,落ちるという概念はないですね。
壁にぶつかっても,普通に歩くような感じで,すっと上れるような作りになっているんです。最初から3段ジャンプが可能で,とあるボスを倒せば6段ジャンプもできます。平面だけじゃなく縦方向も利用した3次元的なアクションが可能なんです。
4Gamer:
そういえば,タイムアタックとか隠しモードみたいなものはありますか?
平木氏:
特定の条件を満たすと,タイムアタックモードを遊べます。ほかにスコアアタックモードもありますし,気に入って頂いた方向けの遊びは用意してありますね。
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