インタビュー
1万通りの死に方と,1万通りのクリア手段を用意する。「仁王」を手がけた早矢仕洋介氏と安田文彦氏へのインタビュー
本作はコーエー(当時)が2005年にPlayStation 3のローンチタイトルとして発表したが,その後情報が途絶え,2006年のPS3発売時にもラインナップにその名前はなかった。
2010年にコーエーとテクモが合併してコーエーテクモゲームスとなり,Team NINJAが開発に参加。ジャンルをアクションゲームとする仕切り直しを発表した。
しかし,またしても開発がストップ。2015年にもう一度仕切り直されてPS4用アクションRPGとなることが明らかになり,現在に至っている。
アクションRPGとしての「仁王」は,「ダーク戦国アクションRPG」というジャンル名を謳っており,ゼネラルプロデューサーであるシブサワ・コウこと襟川陽一氏は,本作を「戦国死にゲー」と表現している。発表時の“金髪碧眼の侍が戦国時代を舞台に活躍する”という設定はそのままに,トライアンドエラーを繰り返して高難度のステージを突破する作品となったのだ。
そんな本作の開発現場では何があったのか。ディレクターの早矢仕洋介氏と安田文彦氏に話を聞いたので,その模様をお届けしよう。
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。発表から13年を経て,ついに「仁王」が発売されますが,現在の心境はいかがですか。
まだ実感がないですね。やはりゲームは遊んでいただいてナンボですから,プレイヤーさんの声を聞かないことには。
安田文彦氏(以下,安田氏):
1月21日と22日に期間限定で提供した「最終体験版」への反響を見てパッチを作っていますから,僕も実感がないです。
4Gamer:
早矢仕さんは2010年に本作がアクションゲームへと方向転換したときから開発に参加されたと聞いていますが,安田さんはいつごろから開発に関わっているのでしょうか。
2015年にアクションRPGになったときです。なので,2人とも「仁王」のすべてに関わっているわけではありません。
4Gamer:
最初期がどんなゲームだったのかはご存じですか。
早矢仕氏:
4人のキャラクターでパーティを組み,3Dのフィールドを冒険するという,軽いアクション要素を含んだRPGという感じの内容でした。主人公こそ今の「仁王」と同じく金髪碧眼の侍ですが,内容は全く違うので,見たらびっくりされるんじゃないでしょうか。
4Gamer:
そのときから主人公像は一貫していたわけですね。「仁王」というタイトル名も変わっていませんが,ゼネラルプロデューサーの襟川さんに「ジャンルは変えても,世界設定やタイトル名は変えない」といった思いがあったのでしょうか。
早矢仕氏:
ゲームとして面白くなるならば,変えるべきところは変えて構わないというのが襟川のスタンスです。ただ,2004年に一度,金髪碧眼の侍をモチーフとしたキービジュアルを発表しているので,そこは守っていこうという意識が開発チームにはありました。
4Gamer:
なるほど。以前掲載した襟川さんへのインタビューでは,Team NINJAが開発したアクションゲームとしての仁王は,「NINJA GAIDEN」との違いがあまり出なかったことから開発が中断されたと聞きましたが。
早矢仕氏:
はい。実は2010年の発表直後に開発をストップしているんです。
4Gamer:
見切りは早かったんですね。では,現在のアクションRPGとなるきっかけは何だったのでしょうか。
早矢仕氏:
PS4という新しいハードが出るにあたり,襟川が「ローンチにはマシンパワーを使った新規のものを作りたい」と考えたことですね。襟川と鯉沼(コーエーテクモゲームス代表取締役社長の鯉沼久史氏)と私でコンセプトを練り直し,アクションRPGとしての「仁王」が2014年頃に始動しました。襟川の方針通り,ハードの性能をフルに使おうということで,弊社としては初めてのPS4独占タイトルとしています。
4Gamer:
本作は「戦国死にゲー」と謳われていますよね。最近のゲームはどんどん易しくなっていく流れがあるように思うのですが,その中で,こうした高難度のゲームに取り組む狙いを聞かせてください。
早矢仕氏:
ゲームプレイで感情が揺さぶられる体験をしてもらいたいからです。「何のためにゲームを遊ぶのか」という問いに対して,個人的には「心を揺さぶられたいから」だと思っています。
そのためにストーリーを重視しているタイトルもありますが,仁王ではプレイを通して,いろいろな感情を楽しんでほしいんです。
やられて悔しかったり,そこをクリアして嬉しかったりといったことって,誰かに話したくなりますよね。
安田氏:
ハイエンドなゲーム作りを強みとするTeam NINJAがPS4に向けてゲームを作るのですから,しっかりと頭を使ってプレイするものを目指しました。
4Gamer:
確かにシンプルで易しいゲームなら,PS4でマシンパワーをフルに使う必要はあまりないかもしれません。
安田氏:
仕事で疲れて帰ってきたところで,ゲーム機の前に座って電源を入れて……というのはちょっとハードルが高いだろうとは感じます。それでもやはり,ゲーム機にしかない楽しさを表現したいと思いました。
それが実現できるゲーム性は,「何度も死にながら,操作がうまくなったり,頭を使って対処法を編み出したり,レベルを上げたり装備を揃えたりといった感じで難所を乗り越えられる」ではないかと思ったんです。
4Gamer:
ここ数年でリリースされた高難度アクションRPGといえば「DARK SOULS」シリーズや「Bloodborne」が挙げられると思います。お2人も「Bloodborne」のスタッフの方とトークイベントをされたように,近い存在だと感じられているようですが,「仁王」の開発において,そういったタイトルと差別化した部分はどこでしょうか。
一番分かりやすいところは,やはり戦国時代で侍が出てくるという時代設定ですが,システム面での差別化についても,遊んで頂ければ間違いなく違いが分かるはずです。
我々も「DARK SOULS」や「Bloodborne」のようなゲームが大好きだからこそ,「仁王」を「戦国死にゲー」としたところがあります。参考にできる部分は参考にさせていただきつつ,世界観を含めて勝負してみたかった,ということです。
4Gamer:
では,「DARK SOULS」や「Bloodborne」のどういった部分に影響を受けていますか。
早矢仕氏:
敵と対峙したときの緊張感ですね。こうした感覚は侍の戦いにも不可欠なものですが,NINJA GAIDEN風「仁王」ではこれがうまく表現できなかったんです。「DARK SOULS」や「Bloodborne」を見て,「仁王」にうまく取り入れたいと思いました。
4Gamer:
確かに体験版をプレイすると,むやみに武器を振れない,緊張感のある作品になっていると感じました。
特に印象的だったのが,武器を振った直後に[R1]ボタンを押すと気力が回復する「残心」のシステムです。残心というと,剣道などで使われる「技を決めた後も油断しない」ことを表す用語ですが,これがうまくゲームに落とし込まれていますよね。
安田氏:
「残心」システムは「構え」とともに剣道から着想を得たものです。
NINJA GAIDEN風の「仁王」では,敵とのやり取りにオリジナリティがありませんでした。“こちらから攻撃したり,敵の対応を見て避けたり,距離を詰めたりする”という構造が,ほかのアクションゲームと全く同じだったんです。
そこで,侍ならではの戦いを表現するために,その着想をゲームシステムに落とし込みたいと考えました。
4Gamer:
このシステムのおかげで,攻撃を当てて相手が怯んだからひとまず安心……とはならないんですよね。独特の緊張感が表現されています。
本作では攻撃するにも回避するにも気力を消費します。攻め続けたい人は残心を使う必要があるわけですが,常に「残心」ができたのでは気力の存在自体に意味がなくなってしまいますので,バランス調整には注意を払いました。
構えについては,剣道での「八相の構え」を「上段の構え」としているなど,ゲームとしてのアレンジを加えているところもあります。これは兜を被って本来の上段の構えを取ると,刀が兜に当たってしまうといった事情によるものなので,そこはご了承いただければと思います。
4Gamer:
本作では「α体験版」「β体験版」「最終体験版」の3つが配信されました。α体験版の配信後には,日本やアジア,欧米のプレイヤーへのアンケートも行われましたが,印象的な反応があったら教えてください。
早矢仕氏:
欧米では総評における「非常に良い」「良い」の割合が高く,日本とアジアでは欧米に比べると低いという結果でした。ですが,α体験版のクリア率に関しては,日本とアジアの方が高いんです。
4Gamer:
欧米では「クリアはしていないけれど面白い」,日本とアジアでは「クリアしたけれどいまひとつ」と評価されたわけですか。どう受け取っていいか困る結果ですよね。
安田氏:
一見全く違う反応にも思えますが,アンケートの自由記入欄でご指摘いただいたポイントは,カメラの挙動や理不尽な難度になっているところなど,地域にかかわらずほぼ同じでした。つまり,アンケートの選択肢が違っただけで,ゲームを遊んでいる時に感じていることは同じだったというわけです。
4Gamer:
なるほど。そういった反応をもとに作業を進めていったと思うのですが,高難度のゲームを作るにあたって重視した点はどういったところでしょうか。
早矢仕氏:
理不尽さを徹底的に排除しつつ,難度は高めることです。やられたときには悔しさ,クリアできた時には達成感を感じさせるというのが理想です。
4Gamer:
理不尽さと難しさの違いはどういったところにありますか。
安田氏:
「死んだ時に,自分の責任であると思えるかどうか」「もう一度やろうと思えるかどうか」ですね。難しいだけのゲームを作るのは簡単なんです。極端な話をすれば,敵の攻撃力を高くするだけでいいですから。しかし,それではプレイされた方が「調整がへたくそなゲームだ」という感想を抱くだけの,理不尽なものになってしまいます。
4Gamer:
確かに自分のミスで死んだ,と思ったなら「次こそは……」という気になります。
安田氏:
「仁王」を開発するうえでは,考え方が「どうやって難しくするか」から「どうやって乗り越え方に気づいてもらうか」という方向へシフトしていきました。
ただ,“回答”を直接出して,プレイヤーの考える部分をなくしてしまうと,攻略ではなく作業になってしまいます。回答ではなくヒントを出さなければならないわけですが,そこは体験版の反応を見つつ工夫していきましたね。
4Gamer:
具体的にはどういった工夫をされたんでしょうか。
安田氏:
「α体験版」はヒントを出さず「いろいろ試してみて,攻略法を見つけてください」というデザインでしたが,これはあまり良くなかったですね。実際,「さっぱり分からない」というご意見も多かったですし。
そこで「β体験版」では,アクションRPGらしく,プレイヤーの方が探索を経てヒントを発見できるような作りにしました。ボスの弱点属性に有効なアイテムがステージのところどころに置いてあり,探索をした人ならこれに気付くといった感じです。
4Gamer:
ヒントをヒントと分からない形で出すんですね。
安田氏:
そうですね。“おもてなし”をしすぎるものはゲームじゃないだろうと。何度も体験版を出したのは,「いろいろと試せばちゃんと解けるゲームなんだ」と気付いてほしかったというところもありますね。
4Gamer:
高難度というところでは,敵の待ち伏せや地形のトラップなども印象的です。
安田氏:
そういったところでも,理不尽に死なせないことを徹底しました。例えば,「β体験版」では,「いきなり襲いかかってきたコウモリに押されて崖下に落とされる」というシチュエーションを用意しましたが,これだとプレイヤーが工夫しようがなく,面白くありませんでした。
4Gamer:
「初見殺し」になってしまっていたわけですね。
安田氏:
繰り返しになりますが,死なせるだけであればそんなに難しくないんです。なんのヒントも与えなければいいわけですから。そこで製品版では「近くに行くとコウモリの鳴き声がする」「コウモリの糞にまみれた死体を配置する」「あらかじめ,崖ではないところでコウモリに押されるシチュエーションを用意する」といったヒントを配置しています。
早矢仕氏:
当然ながらゲームの目的はプレイヤーを死なせることではなく,死を乗り越えた先にある達成感を味わってもらうことです。開発チームのメンバーには,「死にゲー」という言葉がいい意味で一人歩きするからこそ,勘違いしてはいけないと発信していましたね。
4Gamer:
死にゲーという言葉に引きずられないようにということですね。
ところで,3回体験版を出された中で,プレイヤー側の意識の変化を感じられたことはありましたか?
安田氏:
一番の変化は,プレイ動画など,ゲーム外の情報発信が増えたことですね。自分で攻略法に気づいていただくのが理想ですが,分からないところがあったらプレイ動画などを見たうえで,自分なりに挑戦してほしいです。
「仁王」はアクション性が強いですし,状況も動画とまったく同じにはならないと思いますから,アレンジしたり工夫を加えたりすることになると思います。死にゲーだからこそ,皆さんが自分の攻略を発信したくなるようなゲームになってほしいですね,
4Gamer:
ネタバレとはちょっと違うのでしょうが,攻略情報の共有は開発側としてもOKということですね。
安田氏:
そうですね。「仁王」に難度選択がないのは,頭を使って遊んでほしいということでもあります。プレイ動画の中には,こちらが考えてもいなかったような攻略法もあって,とても面白かったですね。そのプレイヤーさんがゲームを理解し,そのうえで工夫して難所を乗り越えたわけですから。
4Gamer:
では少し話題を変えさせてください。以前別のタイトルのインタビューで,開発が長期間にわたると,作品を発表できないことによってスタッフがプレッシャーや閉塞感を感じがちだ,といった話を聞いたことがありますが,「仁王」の開発ではどうでしたか?
早矢仕氏:
社内的には閉塞感やプレッシャーはなかったですね。社内やプレイヤーさんの間に「仁王」ファンという味方が増えていったことで,スタッフのモチベーションはどんどん上がっていきましたし。
4Gamer:
その過程をもう少し詳しく聞かせてください。
早矢仕氏:
プロデューサーである鯉沼,私,安田ディレクターは「イケる!」と信じていたんですが、最初に「戦国死にゲー」というコンセプトを打ち出したときには,社内からの反応がほとんどなかったんです。その後,社内にプロトタイプを公開すると,好意的なコメントをもらったり,襟川からも評価されたりと,味方が徐々に増えていきました。そして体験版を配信するとプレイヤーさんの中にファンの輪が広がっていき,発売前にして「仁王」ファンが社内外に大勢いるという状態になったんです。
4Gamer:
襟川さんからはどんな反応があったんですか。
早矢仕氏:
「早く次のバージョンをちょうだい」と催促はされるんですが,ROMを渡したらその後の反応がなくなったり……(笑)。
4Gamer:
たぶん夢中で遊ばれていたんでしょう(笑)。東京ゲームショウ2016のステージイベントでもデモプレイされていたくらいですから。
ところで,本作を待ちわびているファンは,DLCにも期待していると思いますが,どんな内容になるのでしょうか。
安田氏:
関ヶ原の戦い後のエピソードを描く,3回の大型DLCを予定しています。配信時期などの詳細はまだお話しできないんですが,PvPを実装する無料アップデートも準備しています。
4Gamer:
主人公を女性にしたい,といった声が多いようですが,こちらの機能はいかがでしょうか。
安田氏:
そうした要望があるのは確かですが,現時点では未定です。
早矢仕氏:
簡単に判断できない部分ですね。「仁王」は,35年にわたって大人の男の生き様を描いてきたシブサワ・コウブランドのタイトルでもありますから。
安田氏:
「仁王」はこれから育っていくタイトルですから,カラーが定まらないうちにいろいろな要素を入れ過ぎないようにしたいと考えています。瞬間最大風速的には女性プレイヤーキャラがいた方がいいんでしょうけれど。
4Gamer:
分かりました。では最後に4Gamer読者へのメッセージをお願いします。
安田氏:
「死にゲー」ということで身構えてしまう方もおられるかもしれませんが,オンラインで助っ人を呼ぶこともできますし,4Gamerのスキル紹介ムービーなど,外部の情報を仕入れる楽しみ方もありますので,ぜひ挑戦してみてください。
一万通りの死に方と,一万通りのクリア手段を準備していますので,頭を使ってプレイしていただきたいと思います。
早矢仕氏:
他社さんのタイトルと比べられる方も多いかもしれませんが,我々としては“死にゲー”という言葉を尊重しつつ,ジャンルに一石を投じられる作品になったと思います。「仁王」は発売日がスタートです。ご意見をいただければDLCやアップデートで対応していきますので,ぜひ末永く遊んでください。
4Gamer:
ありがとうございました。
ジャンルを変えながら開発が進められた「仁王」。シンプルなスマートフォンゲーム全盛の時代に,コンシューマゲームならではの遊び応えを追求した意義は大きいのではないだろうか。
あえて高難度を打ち出した開発陣の姿勢に応えるように,装備無しで戦ったり,ギリギリのアクション披露したりといった,さまざまなプレイ動画が公開されている。こういった開発とプレイヤーのやりとりが,発売後にどう深まっていくのかも,気になるところだ。
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