レビュー
ソニー初のゲーマー向けヘッドセットシステムが持つ尖った個性に迫る
DR-GA500
「なぜPlayStation 3用ではなくPC用なのか」など,気になる部分については,開発陣に話を聞いたインタビュー記事を併せてチェックしてほしい。
4Gamerでは,ソニーからDR-GA500の貸し出しを受けることができたので,“あの”ソニーが投入してきたPCゲーマー向けヘッドセットの実力にフォーカスして,例によってねちねち掘り下げてみたいと思う。
なぜソニーはPCゲーマー向けのヘッドセットを始めたのか。開発者に聞く,「DR-GA500」「DR-GA200」発売直前インタビュー
ちなみに,DR-GA500の製品ボックスに含まれているヘッドセットとプロセッサボックスの型番は順に「DR-GA210」「DP-GA500」。ヘッドセットはDR-GA200をベースとした派生品だが,インタビュー記事中でソニーの山崎暁史氏が「DR-GA200は2.5m,DR-GA210は1.5mという,ケーブル長以外に大きな違いはない」と述べているため,今回はDR-GA210を仮想的にDR-GA200として扱い,DR-GA200の評価も行うことにした。
快適性と実用性を両立させた
高いレベルの仕上がり
というわけで,下に示したのが,DR-GA500の製品ボックスに含まれるハードウェア一式である。DR-GA210とDP-GA500のほかには,DP-GA500用のACアダプタと入出力ケーブルが付属する。
まずはヘッドセット部分となるDR-GA210から見ていこう。
全体的に黒基調で,面積的には光沢加工された部分が多いのだが,「とりあえず光沢加工してみました」的な安っぽさはまったくない。「SONY」のロゴが誇らしげに刻まれるスピーカーエンクロージャは,まるで浮いたようなデザインになっており,それを3分割されたイヤーパッド部が覆うという,近未来的なデザインと,光沢処理が見事にマッチしている。光沢加工を上品に見せるお手本のような設計だ。
- 密閉型で生じやすい蒸れを回避すべく通気性を確保し,
- ヘッドバンドからの側圧(≒ヘッドバンドが締め付ける圧力)を分散させ
- 触れると不快に感じやすい,耳の後方下側部分にイヤーパッドが触れないよう配慮した
結果を,そのままデザインにしたものとのこと。
ソニーはこれを「サポートパッド」と呼んでいるが,サポートパッドを構成する3つのイヤーパッドはそれぞれ削り出したような形状になっており,よく見ると形状も大きさも,“削られ方”も違う。また,エンクロージャの内側,スピーカードライバーを覆う部分が円錐台状になっていたり,ヘッドバンドの内側,頭と触れる部分も2ブロックに分割されて側圧を分散するようになっていたりと,「とりあえずクッションを置いてみました」という部分が1か所としてないのも目を引くところだ。
最初持ったとき,ヘッドバンド自体が若干柔らかく,かつ段階的な調整が可能なバンド長のクリック感も多少甘めに感じられたので,「側圧分散はいいとして,ヘッドバンド部自体がしっかりしていなければ,頭を振ったときにズレたりするのではないか」と不安を覚えたのは事実だ。しかし実際には,開放感がありながら,「ほどほどの」締め付け感もしっかりあるため,バンド長の調整を完全に間違えているとか,ヘッドバンギング(head banging,頭を激しく上下などに揺らすこと)よろしく頭を振るとかいった極端な状況でもない限り,ズレたりすっぽ抜けたりすることを心配する必要はない。
また,本体の公称重量はケーブル抜きで約238gで,数値上は「軽量級ではあるけれども,驚くほど軽いわけではない」といったレベルなのだが,実際に装着してみると,重量データよりはるかに軽く感じられる。要するに側圧分散が“効いて”いるわけで,ソニーの「快適性を求めると同時にPCゲーム用らしいクールなデザインを押し出す」方向性は,相当なレベルで上手くいっているといえる。
左エンクロージャといえば,ここからアナログケーブルが伸びているのだが,これはきしめんのような扁平さが目を引くタイプだ。通常のケーブルより丈夫に仕上がっているとのことだが,その割に柔らかめで,取り回しはしやすい。
ケーブルにはインラインのリモコンが用意されていて,出力ボリュームとマイクのオン/オフが可能だ。気になったのは,マイクのオン/オフ切り替えを「マイクミュートのオン/オフ」で指定するようになっており,スライダーを[ON]のほうに設定するとマイクがミュートされるという,一般的なゲーマー向けヘッドセットとは逆の仕様になっていることと,インラインリモコンを固定するためのクリップがないこと。前者は慣れればそれまでだが,後者はゲーム中,とっさの操作をしたいとき,リモコンを探す手間が生じるので少々不便だ。
きしめんのような平べったいケーブル。2chアナログ接続で,ヘッドフォン出力とマイク入力のミニピン端子が用意されている |
インラインのリモコンはボリューム調整とマイクミュートを提供するシンプルなもの。ミュートの仕様とクリップなしの設計は少々気になった |
アナログ7.1chとUSB 2ch入力に特化した
外付けプロセッサボックス
前面スライドスイッチの「INPUT」はUSB(2ch),アナログ2ch,アナログ5.1ch,アナログ7.1chを選択する項目。「EFFECT」は,バーチャルサラウンドの動作モードを選択する項目で,選択肢は「OFF」「SURROUND」「FPS」の3つだ。もう1つの「COMPRESSION」は,ダイナミックレンジを圧縮して,「大きい音が小さく,小さい音が大きく」,もっといえば聞き逃しやすい音を聞こえやすくする,いわゆるダイナミクスプロセッサのオン/オフ切り替えスイッチである。
背面はUSB Mini-Bやミニピンのアナログ7.1ch入力ミニピン端子,DR-GA210と接続するためのヘッドフォン出力&マイク入力端子などが用意されている。これだけのインタフェースを用意することもあって,本体サイズは190(W)×117(D)×30(H)mmと,やや大きめ。机の上に置いて使う場合は,いろいろ片付ける必要が出てくるかもしれない。
以上,さらっと書いてきたが,ここで,DP-GA500というプロセッサボックスが何をするものなのかについて説明したいと思う。
DP-GA500では,Dolby Laboratoriesのステレオ・トゥ・サラウンド機能である「Dolby Pro Logic IIx」(以下,DPLIIx)と,ソニー独自のバーチャルヘッドフォン技術で,バーチャルサラウンドヘッドフォンアルゴリズムと音響補正アルゴリズムとを組み合わせてDR-GA210に最適化したバーチャルサラウンド環境を実現する「VPT」(Virtual Phones Technology),2つの処理を行えるようになっている。
アナログ最大7.1ch入力が可能なDP-GA500だが,注意したいのは,決して“7.1ch専用”ではなく,5.1chや2chのアナログ入力にも対応していること。また,それとは別に2chのUSBサウンドデバイス機能も搭載しているため,マザーボードやノートPC側のアナログ出力品質がよくない場合は,USB接続を利用することも可能なのである。
ただこのとき,アナログ5.1chやアナログ2ch,USB 2chのままでは,VPTを通せないため,7.1chへアップミックスしてやらなければならない。そこでDPLIIxの処理系を用意しているというわけだ。アナログ7.1ch入力時はピュアなVPT処理,それ以外で入力したときはDPLIIxを通してからVPT処理が行われるので,この点は押さえておきたい。
いずれにせよ,DP-GA500がメインのターゲットにしているのは,マザーボードに標準で用意された,いわゆる“オンボード”のサウンド出力や,アナログマルチチャネル出力に対応したサウンドカードである。AVアンプ的なマルチチャネルストリームのデコード機能は搭載していない。
単体で4桁円台後半の価格設定がなされたヘッドセットも付属しながら実勢価格が1万円台中後半という現実(※2010年10月16日現在)を考えると,やむを得ない部分ではあるのだろう。ただそれでも,最近のハイエンドサウンドカードがせっかく「Dolby Digital Live」や「DTS Connect」といったマルチチャネルストリームに対応してきたことを考えると,惜しい仕様だと述べざるを得まい。
VPT込みで完成する,タイトでバランスのいい音質
ヘッドセット単体では正直,けっこうキツい
いよいよテストに入っていこう。筆者のヘッドセットレビューでは,ヘッドフォン部を試聴で,マイク入力は波形測定と入力した音声の試聴で評価を行っている。
ヘッドフォン出力品質のテストは,「iTunes」によるステレオ音楽ファイルの再生と,「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)マルチプレイのリプレイ再生を主に行う。
一方,マイク入力に関しては,とくに波形測定方法の説明が長くなるため,本稿の最後に別途まとめてある。基本的には本文を読み進めるだけで理解できるよう配慮しているつもりだが,興味のある人は合わせて参考にしてもらえれば幸いだ。
テスト環境は表のとおり。アナログ出力には,7.1ch出力に対応した「PCI Express Sound Blaster X-Fi Titanium」(以下,X-Fi Titanium)を利用。USB接続時は,マザーボードのUSB端子と直接接続する。
まずはキモのアナログ接続時からチェックしてみよう。いつものように音楽ソースの試聴から始めるが,音楽ソースは2chなので,VPTを利用する場合には,DPLIIxを通すことになる(※言うまでもないが,明示している場合を除き,サウンドカード側のバーチャルサラウンド機能は無効にしてある)。
先ほど紹介したとおり,VPTは動作モードとして「FPS」「SURROUND」を持ち,それらを無効化する(=VPTをバイパスする)「EFFECT OFF」モードがある。また,「COMPRESSION」のスライドスイッチもあるので,ひとまず「COMPRESSION」を[OFF]にした状態で,VPTの動作モードを聞いてみることにしよう。
そもそもが珍しいオープンエアタイプなので,当然といえば当然なのだが,密閉式エンクロージャと比べた場合,低域の再生能力で一段落ちるのは論を待たない。ただ,インタビューで明らかになった「スピーカードライバー周辺に設けられた音漏れ防止クッション」は予想以上の効果をもたらしているようで,かなり低い周波数まで,やや抑えめながらも低域はしっかり出ているのだ。
重低域が極端に前へは出てこないためか,相対的にハイ上がりで,高周波は強め。音楽だとそれがとくに強く感じられるものの,しかし低域がタイトで中域もカチっとしているため,粗っぽくなく,バランスのいい音質傾向にまとまっているのである。
続けてSURROUNDモードに設定してみると,周波数特性そのものに大きく変わった印象はないものの,サラウンドの残響感が一気に増してくる。リバーブ感(≒エコー感)が出るようになるわけだ。ドライな音でもすべて残響が付くので,ぱっと聞いてリッチっぽいサウンドにはなるのだろうが,サラウンドリバーブにありがちな変調感は強く,やり過ぎではないかという思いも強くなる。
そしてEFFECT OFF,つまり音響処理をバイパスした状態だが,端的に述べて,これはお勧めできない。サラウンド感がなくなるだけなら,音楽を聴くという目的からすると別にそれでいいのだが,同時に低域も高域もなくなり,しかも音のアタックが極端に強くなって,FPSモード時にあったバランスのよさが嘘のように消え失せてしまう。絶妙の距離感も,完全に消え,悪い意味での「よくあるオープンエアヘッドフォンの音質傾向」だけが残ることになる。
「VPTを無効化すると,音はこんなに悪くなりますよ」の見本以外に,このEFFECT OFFモードを使う理由は見当たらない印象だ。VPTによる補正が音質決定においてどれほど重要な役割を担っているかがよく分かる。
最後に,DP-GA500を利用せず,X-Fi Titaniumと直接2chアナログ接続した疑似DR-GA200モードは,当然のことながら音質傾向はEFFECT OFF設定時と同じ。したがって,DR-GA200というオープンエアヘッドフォン単体製品はお勧めできないことになる。
というか,DR-GA210アナログ接続ヘッドセットとDP-GA500プロセッサボックスを組み合わせたDP-GA500でVPTをFPSモードに設定したときの音質と,疑似DR-GA200単体の音質は,まったく比較にならない。比較したらDP-GA500に失礼なほどで,出力音質評価の観点だけで述べるなら,なぜDR-GA200を併売するのか理解に苦しむ。「4桁円台で買えるモデルもないと,販売戦略的に厳しい」という事情でDR-GA200が用意されたのかもしれないが,むしろDR-GA500の評価に悪影響を及ぼすのではないかと心配になるほどである。
なお,ここまで先送りにしてきたCOMPRESSIONモードだが,[ON]にしてみると,確かに楽曲中,音圧レベルの高いパートで少しボリュームが下がり,低いパートでは少し上がる。ただ,ずいぶんと繊細な効果だなというのが正直な印象だ。
DP-GA500をPCとUSB接続した状態でデバイスマネージャを開いてみると,C-Media製のコントローラを搭載していると分かる |
本体背面に用意された「GAIN CONTROL」ボリュームコントローラ。USB接続時はここを使ってボリュームを調整することになるようだ |
気になる音質傾向は,デジタル入力ということもあるのかどうか,アナログ入力時と比べて低域と中高域の持ち上がった印象がより強くなった。X-Fi Titaniumと接続したときと比べると,ドンシャリ感が多少増して聞こえる。個人的な好みでいえば,X-Fi Titaniumと組み合わせたアナログ接続のほうが,いい具合に丸まっていて好みだ。
ちなみに平均音圧レベルはアナログ入力時より若干高め。筆者がテストした限り,USB接続時はWindowsからのボリューム制御やミュートが効かず,DP-GR500の背面に「GAIN CONTROL」として用意されたボリュームコントローラを利用する必要があった。
VPTを利用したサラウンド定位感は抜群
現在考え得る最高のバーチャルサラウンド環境
まずはX-Fi TitaniumからDP-GA500プロセッサボックスにアナログ7.1ch入力して,VPTをFPSモードから。COMPRESSIONは[OFF]としている。
で,その結果だが,これは驚くべき完成度である。「効果音が今どこで鳴ったのか」が,ピンポイントでよく分かる。とくに,後方の定位(≒音がどの方向で鳴っているのか)が圧倒的に優れている。
CMSS-3DheadphoneやDolby Virtual Headphoneでも,もちろん定位は分かるが,DR-GA500と比べると,“もっと広い範囲”。「ああ,今のは左後方だな」くらいの感じ方となるのに対し,DR-GA500では,効果音が「点」で定位しているため,「左後方の,どこにいるか」まで分かってしまう。ソニーの西野康司氏は,「バーチャルサラウンドでは,単に機能を有効にするだけでは不十分で,ヘッドセットに最適化した調整を行わなければならない」といった旨の発言をしていたが,まさにこれこそが,「最適化」のもたらす効果なのだろう。
低域がタイトな分,大迫力とはいかないが,よほどの低音ジャンキーでもない限り「バランスがいい」と感じられるレベルの高さも感じる。音楽試聴時に気になった,高域がやや強い点も,ゲームではまったく気にならない。
次にアナログ5.1ch入力して,DPLIIxによる7.1chアップミックスを挟んでみたが,これでも定位感はそれほど変わらない。あえていえば,低域が少し弱くなったようにも感じられたが,致命的なものではまったくないので,ピュア7.1chにこだわらずとも,5.1ch入力できれば,十分なサラウンド感は得られると述べていいだろう。
7.1ch入力に戻して,VPTをSURROUNDモードに変更すると,やはり変調感が表に出てきて,コーラス効果(※音がダブって聞こえる効果)が銃声などの効果音にかかってしまう。映画的な残響感が好きで、情報としての音を厳密には求めないのであればアリだろうが,開発者の推奨するとおり,FPSはFPSモードでプレイすべきだろう。個人的には,SURROUNDモードは好きではない。
以上の3パターンについてはCOMPRESSIONを[ON]にもしてみたが,それほど劇的なダイナミックレンジ圧縮効果が出たとは言いづらい。確かに足音など,重要な音が多少大きくなるので,普段いろいろ聞き逃しがちという人は[ON]にしておいたほうがいいかもしれないが,「強力な機能か?」と問われると,少なくとも積極的には同意しづらい感じだ。
なお,VPTを無効化したテストも行ってみたが,X-Fi TitaniumのCMSS-3Dheadphoneも無効化した,ピュアな2chヘッドセットとして使ってみると,音楽を試聴したときと同様,低域と高域がいっぺんになくなり,アタックのケバケバした,キツい音になってしまう。CMSS-3Dheadphoneを有効化すると,定位感はFPSモードとSURROUNDモードの間くらいになってくれるのだが,音質傾向は(当たり前ながら)変わらずだ。どちらにしても勧められるようなものではない。
アナログケーブルを外して,USB接続からDPLIIx→FPSモードのVPTという設定からテストしてみると,この場合,そもそもが2ch入力なので,DPLIIxでは単なるステレオ・トゥ・サラウンドが行われるだけ。DP-GR500はサラウンドの定位を認識できないため,「とくに効果音で,左右の音のつながりが純粋なステレオ再生よりよくなる」程度に落ち着くこととなる。なおこれは,出力元のサウンドデバイスでバーチャルサラウンド処理などを行わずに入力したアナログ2ch接続からのVPT利用時も同じだ。
マイクは高域が落ち込み
籠もった音質傾向に
さて,DR-GA210のマイクは全指向性のシングル仕様で,ノイズキャンセルなどは一切行っていないとのこと。つまり,マイク入力はいったんDP-GA500に入るものの,そのままスルーされてサウンドカードやマザーボードに接続されるという信号経路になるわけである。
というわけでアナログ接続時の特性は下にグラフで示したとおりだが,まずシングルマイク(≒モノラルマイク)なので,位相は当然正常。一方の周波数特性は,通常あまりお目にかからない形状となった。125Hz付近と7kHz付近にピークのある,いわゆるドンシャリ型――低域と高域の強い,一般に北米ユーザーが好む周波数特性だ。
1.4kHz付近の急激な谷は,テストに用いているモニタースピーカーのクロスオーバーポイントなので無視してもらうとして,むしろ気になるのは,7kHz以上で,20kHz付近に向けて40dB近く落ち込んでいること。実際にスピーチを録音して聞いてみると,低音が響き,一方で高音がなくなった,籠もった音に聞こえてしまう。決して不快な音ではないので,その点はまったく問題ないのだが,戦場のど真ん中では声が埋もれてしまう可能性が高い。
USB接続時もチェックしてみると,傾向そのものはアナログ接続時と変わらないことが分かるのだが,しかし7kHzのピークが小さくなり,さらにそれ以上帯域での落ち込みが大きくなっていることもあって,(グラフで見られるほど大きな違いはなかったものの)より籠もった印象になる。
なお,気になるレイテンシは,ソニーが「問題ない」と述べていたとおりの結果だった。アナログ接続,USB接続とも,いい意味で「遅くも早くもなく,何も言うことはない」といったところだ。
課題も多いが驚きも多い尖った製品
選ぶならDR-GA500しかない
長くなったが,そろそろまとめよう。秀逸なメカデザイン,ヘッドセット込みでバーチャルサラウンド処理の最適化を行ってきた作り込みの“深さ”,そこから得られるFPSモードのバランスに優れた音質傾向と,ピンポイントの定位感が得られるDR-GA500は,まさに「圧倒的」という言葉がふさわしい。
「うん。なるほど他社にこれは無理だね」という凄み,具体的には,デザインと機構,音質の緊密な統一感が,DR-GA500にはある。
本気のソニー,かっこいいぞ。
……もちろん,第1弾製品ということもあり,気になる部分は散見される。最大のマーケットはマザーボードのオンボードサウンドなので,デジタルビットストリーム入力をサポートしていない部分はやむを得ないとしても,マイク入力はなぜこのように籠もった音になってしまったのかは,やはり疑問だ。リモコンの使い勝手も、少なくとも褒められるレベルではないだろう。
そして何より,DR-GA200というアナログ接続ヘッドセットを単体販売“してしまった”ことは,どうしても引っかかると言わざるを得ない。
厳しいことをいえば,DR-GA200という単体のアナログ接続ヘッドセットは「未完成品」だ。今回の新製品は,DP-GA500という外付けのプロセッサボックスによるVPT処理の入った状態こそが完成形。デジタル音響調整を最適化すれば,オープンエア型でもここまでの音を実現できるということを示し,さらに,2010年10月の時点で手に入るPC用ヘッドセットとして,群を抜いて優れているバーチャルサラウンドを提供してくれるのは,DR-GA500だけなのである。
DR-GA500製品情報ページ
■マイク特性の測定方法
マイクの品質評価に当たっては,周波数と位相の両特性を測定する。測定に用いるのは,イスラエルのWaves Audio製オーディオアナライザソフト「PAZ Psychoacoustic Analyzer」(以下,PAZ)。筆者の音楽制作用システムに接続してあるスピーカー(ADAM製「S3A」)をマイクの正面前方5cmのところへ置いてユーザーの口の代わりとし,スピーカーから出力したスイープ波形をヘッドセットのマイクへ入力。入力用PCに取り付けてあるサウンドカード「PCI Express Sound Blaster X-Fi Titanium」とヘッドセットを接続して,マイク入力したデータをPAZで計測するという流れになる。もちろん事前には,カードの入力周りに位相ズレといった問題がないことを確認済みだ。
PAZのデフォルトウインドウ。上に周波数,下に位相の特性を表示するようになっている
測定に利用するオーディオ信号はスイープ波形。これは,サイン波(※一番ピュアな波形)を20Hzから24kHzまで滑らかに変化させた(=スイープさせた)オーディオ信号である。スイープ波形は,テストを行う部屋の音響特性――音が壁面や床や天井面で反射したり吸収されたり,あるいは特定周波数で共振を起こしたり――に影響を受けにくいという利点があるので,以前行っていたピンクノイズによるテスト以上に,正確な周波数特性を計測できるはずだ。
またテストに当たっては,平均音圧レベルの計測値(RMS)をスコアとして取得する。以前行っていたピークレベル計測よりも測定誤差が少なくなる(※完全になくなるわけではない)からである。
結局のところ,「リファレンスの波形からどれくらい乖離しているか」をチェックするわけなので,レビュー記事中では,そこを中心に読み進め,適宜データと照らし合わせてもらいたいと思う。
用語とグラフの見方について補足しておくと,周波数特性とは,オーディオ機器の入出力の強さを「音の高さ」別に計測したデータをまとめたものだ。よくゲームの効果音やBGMに対して「甲高い音」「低音」などといった評価がされるが,この高さは「Hz」(ヘルツ)で表せる。これら高域の音や低域の音をHz単位で拾って折れ線グラフ化し,「○Hzの音は大きい(あるいは小さい)」というためのもの,と考えてもらえばいい。人間の耳が聴き取れる音の高さは20Hzから20kHz(=2万Hz)といわれており,4Gamerのヘッドセットレビューでもこの範囲について言及する。
周波数特性の波形の例。実のところ,リファレンスとなるスイープ信号の波形である
上に示したのは,PAZを利用して計測した周波数特性の例だ。グラフの左端が0Hz,右端が20kHzで,波線がその周波数における音の大きさ(「音圧レベル」もしくは「オーディオレベル」という)を示す。また一般論として,リファレンスとなる音が存在する場合は,そのリファレンスの音の波形に近い形であればあるほど,測定対象はオーディオ機器として優秀ということになる。
ただ,ここで注意しておく必要があるのは,「ヘッドセットのマイクだと,15kHz以上はむしろリファレンス波形よりも弱めのほうがいい」ということ。15kHz以上の高域は,人間の声にまず含まれない。このあたりをマイクが拾ってしまうと,その分だけ単純にノイズが増えてしまい,全体としての「ボイスチャット用音声」に悪影響を与えてしまいかねないからだ。男声に多く含まれる80〜500Hzの帯域を中心に,女声の最大1kHzあたりまでが,その人の声の高さを決める「基本波」と呼ばれる帯域で,これと各自の声のキャラクターを形成する最大4kHzくらいまでの「高次倍音」がリファレンスと近いかどうかが,ヘッドセットのマイク性能をチェックするうえではポイントになる。
位相は周波数よりさらに難しい概念なので,ここでは思い切って説明を省きたいと思う。PAZのグラフ下部にある半円のうち,弧の色が青い部分にオレンジ色の線が入っていれば合格だ。「AntiPhase」と書かれている赤い部分に及んでいると,左右ステレオの音がズレている(=位相差がある)状態で,左右の音がズレてしまって違和感を生じさせることになる。
位相特性の波形の例。こちらもリファレンスだ
ヘッドセットのマイクに入力した声は仲間に届く。それだけに,違和感や不快感を与えない,正常に入力できるマイクかどうかが重要となるわけだ。
- 関連タイトル:
DR-GA
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