インタビュー
DS版「ゴースト トリック」の開発スタッフが直接移植。発売後半年でiPhone/iPod touch版リリースに至った経緯を,プロデューサーの竹下博信氏に聞いてきた
なお,オリジナルとなるニンテンドーDS用ソフト「ゴースト トリック」は,「逆転裁判」シリーズで知られる巧 舟(たくみ しゅう)氏が手がけた完全新作のミステリーとして,2010年6月にリリースされた作品となる。
主人公・シセルが死んでタマシイとなった状態でスタートする本作。シセルは記憶を失っており,自分が誰で,なぜ死んだのか分からないのだが,そうこうするうちに,夜明けと共にタマシイが消失してしまうことを知る。
シセルはタイムリミットとなる夜明けまでに,自分の身に何が起こったのかを解明することになるのだ。ゲーム自体の詳細は,「こちら」のレビュー記事を参考にしてほしい。
シセル |
リンネ |
カノンとミサイル(子犬) |
今回4Gamerでは,DS版およびiPhone版のプロデューサーである,カプコンの竹下博信氏にインタビュー取材を行った。DS版が発売されてからわずか半年という短期間で,iPhone/iPod touch向けに同作が移植された経緯や,部分的ではあるが無料で遊べる形式でリリースすることになった理由などについても聞いている。
iPhone/iPod touch版「ゴースト トリック」公式サイト
DS版の開発スタッフが
そのままiPhone版への移植を担当
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
まずは,DS版「ゴースト トリック」をiPhoneに移植することを決めた理由から聞かせてください。
DS版をリリースした頃からiPhoneでも出してほしいという要望があったこともあります。ただ,直接のきっかけとしては,海外版の開発が終わりかけの頃に,開発の現場から「iPhone版を作ってみたい」という要望が浮上してきたことなんです。
4Gamer:
開発スタッフ自身が,iPhoneに移植したい,と?
竹下氏:
ええ。最初のうちは実験的な意味合いが強かったんですが,思いのほかうまくいきそうな手応えを感じたので,そのまま進めることになりました。
というのも,もともとゴースト トリックって,DSの2倍の画面サイズで開発していたものを,縮小して表示していたんですね。なので,iPhoneに合わせたサイズで出力してみたら,これが凄く良かったんですよ。
4Gamer:
iPhone版は,DSでは2画面だったものを1画面で表示していますよね。画面の比率も違うし,1画面にまとめるのは大変だったんじゃないですか?
竹下氏:
DS版の上画面をどう処理するかは最初の課題でしたね。おっしゃるとおり,iPhoneとDSでは画面の比率が違うので,下画面の見える部分を横に広げて,上画面に表示されていたものは,画面を切り替えて見せるという案もありました。
ただ,画面比率を変えてしまうと,ゲーム中の演出など,見せ方がすべて変わってしまいます。それならばと,画面の隙間に上画面の情報をまとめてみたら,意外にうまくはまったんです。
4Gamer:
例えば,iPhoneを縦持ちする形で2画面分を表示させるというアイデアもあったんじゃないかと思うんですが……?
竹下氏:
もちろんそういったアイデアも出ました。ただ,iPhoneの場合は指でタッチして遊ぶのが前提ですから,画面が小さくなると,操作が厳しくなってしまうんです。せっかくなので,できるだけ大きく綺麗な画面でプレイもしていただきたかったですしね。
もちろん,高精細な画面に表示することによって出てきた,絵的に気になってしまうポイントは,すべてチェックし直して最適化しています。
4Gamer:
そのほか,移植にあたってiPhone向けに調整を加えた部分などはありますか?
竹下氏:
今回の移植は,DS版のオリジナルスタッフがそのままスライドして開発しているんですね。しかも,iPhoneというハードウェアで開発すること自体,チームとして初めてのことだったんです。
例えば,マルチタスクでの動作に対応させないといけないなど,ゲーム自体の制作とは別の次元での苦労はありました。そこで,余計な色気は出さず,完全移植を目指すことにした次第です。
4Gamer:
ゲームとして要素を追加するのではなく,あくまでもDS版からの完全な移植を目指したわけですね。
竹下氏:
そういうことです。ただ最初は,グラフィックスの容量が凄く大きくなってしまって,iPhone上での処理が重くなっていました。
それも開発陣がいろいろと勉強したり,弊社の技術研究室の手助けを受けたりして,結果的にうまくまとめることができて,ほっとしています。
4Gamer:
それにしても,DS版の開発スタッフが,そのままiPhoneというまったく別のハードへの移植を担当するというのは,あまり聞いたことがないですね。
竹下氏:
そうですね。少なくとも弊社では初めてのことでした。基本的に開発部署はコンシューマとモバイルで分かれていますので。やはり,求められるものがまったく違いますし。
4Gamer:
ですよね……。
竹下氏:
なので通常は,完成したプログラムやデータをモバイルの開発部署に渡して,あとはお任せということになるんです。でも今回は,現場から上がってきた企画だったこともあり,直接やってしまおう,と。そしてなるべく短期で完成させようという課題を持って,制作に取り組みました。
これが可能だったのも,iPhoneの爆発的なヒットや,今後のラインナップを見据えた試験的な試みとして,会社の理解を得られたからこそなんですけどね。
4Gamer:
DS版スタッフが開発されているということは,プレイ感覚などのチューニング部分に関しても安心できそうですね。
竹下氏:
スタッフ達も,感覚の違いが極力出ないように心がけていました。そこはもう,DS版を作った本人達が手掛けていますから,信頼していただいていいと思います。
家庭用ゲームユーザーとiPhoneユーザーの
ゲームに対する意識の違い
4Gamer:
iPhone版に取り組むにあたって,実際の開発以外の部分で苦労した点はありますか?
App Storeでの販売ということも含めて,とにかく初めて尽くしだったので,分からないことだらけでした。
何より一番難しかったのは,お客様の傾向がまったく違うということでしたね。いわゆる家庭用ゲーム機のお客様と比べて,ゲームに対するモチベーションが異なるんです。
目的を持って購入される方だけでなく,流行りや口コミなどで即決して購入される方が多いので,配信の仕方などについては,すごく考えさせられましたね。
4Gamer:
先にiPhone版がリリースされた「逆転裁判」では,1話ごとの個別販売ですべて有料,時期もずらしての配信でしたよね。
ゴースト トリックは2章までが無料で,アプリ内の追加販売という形で3章以降も一気に同時配信という形をとっています。しかも,分割購入と一括購入の両方を用意したのはなぜですか?
竹下氏:
時期をずらして章ごとに配信するという案もありました。
ただDS版では,「最後まで一気に遊んでしまった」という方も多かったので,お待たせせずに最初からまとめてしまおうと判断したんです。
iPhoneという市場では,お客様のその場の反応=口コミですから,とにかく最初から満足していただけるような配信方法を心がけましたね。
4Gamer:
DS版のように,別途Web体験版のようなものを用意するという案はなかったんですか?
竹下氏:
すでにDS版の本編が発売済みという状況もありますし,先を見たくなるような内容で,やり直すことなく次へ進めることができたほうが,ユーザーの皆様にとってもいいだろうと判断したんです。
DSのときのWeb体験版は,遊び方の紹介が中心なので,ストーリー的な“続きが気になる”度は少し弱いんですよ(笑)。
無料で遊べるのを2章までとしたのも,次の部屋を見せてあげることで,世界の広がりを感じられるように,と思案した結果です。
4Gamer:
iPhoneアプリの市場では,ダウンロードのランキングが命ですもんね。
竹下氏:
長く売っていく場があるのはありがたいのですが,競争倍率が高いですからね。
もともと本作を手掛けた巧※は,逆転裁判シリーズなども含めて,「10年後,20年後でも古くならずに遊んでもらえるゲームを」というポリシーで制作しています。開発としても満足のいく完成度の作品として仕上がったので,iPhoneの市場でも長く親しんでいただきたいですね。
※「ゴースト トリック」ディレクターの巧 舟氏
4Gamer:
移植のコンセプトとしては,やはりDS版を遊んだことのない人に向けている部分が大きいんですか?
竹下氏:
そうですね。まだゴースト トリックという面白いミステリーを遊んでいない人に,楽しんでもらいたいという気持ちは大きいです。
ゴースト トリックは,iPhoneのコンテンツの中でも毛色が違う作品だと思うんですよ。電車の中でちょっとずつ手軽に遊んでもらうのもいいんですが,どちらかというと,自宅でしっかりと音を聞きながら集中してやってもらいたい気持ちもあるんですよね。
4Gamer:
DS版をプレイしたときが,まさにその状態でした。やめどきが見つからずに困ったことも多かったです(笑)。
開発陣の願いは
「ゴースト トリック」というコンテンツを広めること
4Gamer:
DS版の発売から半年という短期間でのリリースでしたが,iPhone版の開発にはどのくらいの期間がかかっているんですか?
DSの海外版の開発が終わってから着手したので,実質は2か月半くらいですね。クリスマスには間に合わせたかったので,とにかく早く完成させることを前提にしていました。
4Gamer:
ずいぶん短かったんですねぇ。
竹下氏:
プログラマーを中心に,全員がチャレンジ精神旺盛なタイプなので,苦労すらも楽しみながらスピード重視で作っていましたからね。
4Gamer:
コンシューマゲーム以上にスピード感が必要な市場ですしね。
ところで,竹下さんご自身は,現在のiPhoneアプリの市場についてどのようにお考えですか?
竹下氏:
コンテンツを提供する側として,決して無視できない市場になっていますね。
従来のゲームファンだけでなく,趣味嗜好やライフスタイルの違う方などもiPhoneユーザーには多いですから,これまで以上にいろいろな方向への可能性を追求していかなければ……と考えています。
4Gamer:
ゴースト トリックも,コンシューマゲームファン以外にも遊んでもらえるといいですよね。
竹下氏:
そうですね。とくにiPhone版のゴースト トリックについては,一人でも多くの皆さんに遊んでもらいたいという想いを込めて制作しています。皆さんにぜひ楽しんでいただいて,そこからさらに次へとつなげられれば最高ですよね。
4Gamer:
次……ですか?
竹下氏:
逆転裁判のときも,ゲームボーイアドバンスから始まって,その後iモードなどで長く展開したことで,結果的に逆転裁判というコンテンツのファンを増やすことができたんです。
今回も,とにかくゴースト トリックというコンテンツのファンが増えてほしいというのが,僕らの願いなんです。
4Gamer:
それが次に繋がる日が来ることを楽しみにしています。
それでは最後に,読者に向けてメッセージをお願いします。
竹下氏:
このインタビューが掲載される頃には,すでに「お話の続き」も購入していただいて,最後までクリアした方もいらっしゃるかと思います。このゴースト トリックは,僕らが凄く愛着を持っているコンテンツなので,もっとたくさんの方々に遊んでもらいたいという想いがひときわ強いです。
ゲームが得意でない方でも楽しんでいただけるタイトルになっていると思いますので,まずはお試しで遊んでいただいて,願わくば最後までプレイしていただければ嬉しいです。
4Gamer:
ありがとうございました。
iPhone版「ゴーストトリック」は,12月21日時点でApp Storeの「トップセールス」(※売上高順)のランキング1位をキープしており,非常に順調なスタートを切っている。価格は,最終章まで一括購入した場合は1500円(※1月4日までは特別価格1200円),分割購入でも合計1800円と,iPhone/iPod touchユーザーにはかなりお買い得だ。
DS版のゴースト トリックは,筆者を含め,実際にプレイした人の多くが高く評価している作品だが,残念ながらセールス的には期待したところまで届かなかったというのも事実。ビジネス的に見れば,続編が作られないまま“終わってしまう”可能性もあるだろう。
しかしカプコンは,DS版が発売されてからわずか半年という短い期間で,iPhoneという新しいプラットフォームに移植を決め,それを実現した。価格的にも大きな挑戦をしている。
これはやはり,竹下氏をはじめとしたスタッフがコンテンツに愛着を持っている以上に,会社としても「このまま終わらせたくない」コンテンツであるととらえているからではないだろうか。
これまで,ゴースト トリックに興味を持ちつつも,なかなかプレイする機会に恵まれなかったという人も多いはず。もしiPhone/iPod touch(正式サポートはしていないがiPadでもプレイ可能)を持っているならば,まずは試しに無料で遊べる第1章〜第2章を体験してみてほしい。
iPhone/iPod touch版「ゴースト トリック」公式サイト
- 関連タイトル:
ゴースト トリック(2010年版)
- 関連タイトル:
ゴースト トリック
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