インタビュー
「鬼哭街」から「沙耶の唄」「魔法少女まどか☆マギカ」までミッチリ質問攻め! 虚淵 玄氏&中央東口氏のロングインタビューを掲載
リファインされた「鬼哭街」
続いて,今回発売された15歳以上推奨版の「鬼哭街」について。そもそも企画がスタートしたきっかけは何だったのでしょうか?
虚淵氏:
実はニトロプラスには,「鬼哭街」が好きで就職してくれた人が結構たくさんいるんですよ。
4Gamer:
つまり元ファン,現社員からの要望があったということですか。
虚淵氏:
はい。前々から彼らの「リメイクをやりたい!」という声は聞いていましたし,非常に簡易なプログラムを使用していた昔と比べて,今ではゲーム内部で走らせるプログラムエンジンなども進歩していますから。
「Fate/stay night」以降,ビジュアルノベルはギュンギュン画面を動かすのが当たり前になっていますし,弊社も「装甲悪鬼村正」などでそういったノウハウを蓄えました。なので,「今の技術で『鬼哭街』を作り直したら凄くね!?」という夢が実現した形になります。あと,お偉いさん方がアニメでドタバタしている間のドサクサに紛れてやっちゃおう……という企みもありましたね(笑)。
4Gamer:
では虚淵さん的にも,「鬼哭街」という作品をあらためて作り直してみたい,という想いはあったんですね。
虚淵氏:
そうですね。でも,テキストに関しては18禁版でやり尽くした感があるので,そんなにいじっていません。15歳以上推奨版にするにあたって,角川スニーカー文庫のノベライズ版を元にしているという程度です。どこかを手直しというのは,あえてやっていません。今あまり手を入れてしまうと,昔作った“バランス”みたいなものが崩れてしまいそうなので……むしろ,それ以外の演出やイラスト,背景の部分がどう化けるのかと期待していました。
4Gamer:
結果を見て,どう思われましたか?
虚淵氏:
なかなか凄いものになりましたよ(笑)。
4Gamer:
18禁版では,性的な描写の中にもストーリー的に重要なポイントがありましたが,15歳以上推奨版では,その辺はどのように?
虚淵氏:
スニーカー文庫のノベライズでOKが出た部分は残してあるので……つまり,ヤることはヤっちゃってるんですが,ガッツリ描写はしませんよと。そういう感じに濁してあります。
ただ,絵はもちろん修正されているんですが,困ったことに18禁版よりエロいんですよね。
4Gamer:
ちょっと,どういうことですか(笑)。
虚淵氏:
東口が,長い年月を経てエロ絵の技術を上げてきたんです。局部と乳首を見せないという縛りのもとで「何かいかがわしいことをしているシーン」が……。
4Gamer:
むしろ直接的に描写しないことでエロくなったと……。それは,何というか,大丈夫なのでしょうか?
虚淵氏:
ライトノベルの挿絵だって,今はエロいのが多いですし,大丈夫だと思いますが,少し不安ではありますね(笑)。
4Gamer:
では東口さんは,そういったシーンも含め,過去の絵を描き直していてどう思われましたか?
中央氏:
絵描きは皆さんそうだと思うのですが,自分はもう「直すチャンスを与えられた!」という感覚でした。
虚淵氏:
絵描きはライターと違って,芸風がガンガン変わっていっちゃうのが普通だからね。
中央氏:
18禁版のときは,いわゆる「かわいい女の子」というのが描けずに試行錯誤をしていた時期だったんです。「鬼哭街」に出てくる瑞麗なんかは,色々と細かいパーツをつけて,なんとか形にしていました。そのせいで,今になって描くのが面倒くさいなぁと。
虚淵氏:
あのゴージャス感が,中華っぽくて良いと思うんだけどね。
中央氏:
今になると,そうも考えられますね。
キャラクター以外の演出部分や,背景のグラフィックスなどもすべてリファインされていますが,その辺で苦労などありましたか?
中央氏:
18禁版のときと同じように,今回も苦労できる時間がほとんどなかったので……あまり考えないようにしていました。でも,微修正などのクオリティアップには時間をかけましたね。
虚淵氏:
構図を考えながら描かなきゃいけない部分なんかは,だいぶ時間がかかったよね。
4Gamer:
新たな構図,つまり追加されたイラストも……。
虚淵氏:
バッチリあります。背景に至ってはムービーになっている部分までありますよ。
中央氏:
背景美術に関しては,デザインからすべて一新していますね。
虚淵氏:
キャラクターは描き直してはいますが,デザイン自体は一緒なので,変化の分かりにくい部分があるかもしれません。でも,背景はガラッと変わっているので,18禁版をプレイしていればすぐに気付くと思いますよ。ニトロプラスのポリゴン番長の欲望が炸裂しまくっています。感想としては,「何もそこまでやれとは言ってないよ!」というくらい作りこんでいます。
4Gamer:
過去に「やり過ぎた」と語っていた3Dモデルもあったと思うのですが,それも使わずに作り直したのですか?
虚淵氏:
はい,モデリングからすべて作り直しですね。
中央氏:
それでいて,18禁版よりも制作期間が短いとは……。
虚淵氏:
今回はちょうど3か月くらい。そんなの絶対おかしいよね(笑)。
4Gamer:
意味が分からないですよ(笑)。開発エンジンの変化など,環境の違いによる影響もあったのでしょうか。
虚淵氏:
シームレスにアニメーションを挿入できるようになったり,色々と技術面の向上はあるのですが,一番大きいのは東口の頑張りですね。描くスピードが半端じゃなくて,2か月で70枚くらい仕上げてました。
4Gamer:
凄まじい作業量ですね……。
中央氏:
まぁ,確かに全部合わせればそれくらいありましたね。
虚淵氏:
実際,脅迫されたようなもんだからね。「直さなかったら,昔の絵のまま出すぞ!」っていう(笑)。
4Gamer:
18禁版の総プレイ時間は大体5時間くらいだったと思うのですが,今回もそのくらいでまとまっているんですかね?
虚淵氏:
フルボイスになった分,体感的にはもうちょっとかかるかもしれません。これがまた,声優さんが素敵な作品にしてくれていますので,ボイスはちゃんと聞かなきゃ損ですよ。
4Gamer:
過去にドラマCDが出ていて,今回はキャストを一部変更しての収録でしたよね。感想はいかがでしたか?
虚淵氏:
もう,文句なしですよ。以前出したドラマCDのときは寿命が縮む思いでしたが。
4Gamer:
ドラマCDのほうが大変だったんですか?
虚淵氏:
「鬼哭街」15歳以上推奨版もそうなんですが,ゲームの収録では,声優さんは個別に収録することが多いんです。でも,ドラマCDは全員が一緒に収録をするので,あのキャストに集まられてしまって……しかも真横に肝付兼太さんがいて,自分が原作者先生扱いだなんて,緊張しすぎて本当に死ぬかと思いましたよ。あれで2年は寿命が縮みました(笑)。
4Gamer:
なるほど(笑)。では収録の際,演技指導などについても虚淵さんから色々と?
虚淵氏:
そうですね。いわゆる掛け合いではなく,自分のセリフだけ読み上げる別録りのスタイルだと,やっぱり分からないところが出てきますから。ゲームの場合はキャラクターやシーンを把握してもらう材料が少ないので,ただ任せっきりという訳にはいきませんでしたね。昔は別録りの仕事ばかりだったのですが,アニメやドラマCDに携わるようになってからは,「ああ,声優さんにとっては別撮りのほうがやり辛いんだな」と勉強になりました。
4Gamer:
東口さんは,フルボイス化について,どういった感想を持たれましたか?
中央氏:
ドラマCDの段階から,予算的にかなり厳しくならざるをえない豪華なメンツを揃えていたので,「あれ,また揃えちゃって大丈夫なの?」という気持ちでした。最初に見たときは,とにかくびっくりしましたね。
4Gamer:
ほかにも音響関係だと,名曲と名高い「涙尽鈴音響」に加えて,今回は新たに「Soul For The Sword」というイメージソングが追加されていますが,こちらについてはどう感じられましたか?
虚淵氏:
非常に良い曲ですよ。ただ作品としてはすでに完成していたので,入れどころには悩みました。なので,プロモーションやオープニングに使用されることになりましたね。
4Gamer:
ゲーム中でも流れるのでしょうか?
虚淵氏:
メニュー画面で流れるタイプのものです。劇中に演出として組み込まれている曲ではありません。「鬼哭街」はストーリーが静かに始まるので,作品内で使わないからこそ独特のテンポを持った曲になったと思います。
作品に垣間見える強いこだわり
虚淵さんの作品はバイオレンスなのもそうですが,一般的にはタブーとされるような性描写も多く見られますよね。そういった部分にも,やはり独特のこだわりがあるのでしょうか?
虚淵氏:
ちょっと価値観が古いのでしょうけど,僕にはそもそも“性=タブー”という感覚があるんです。だからちょっと,今時の“和姦の波”に乗れていないんでしょうね。感性のまま作ると強姦描写とか入れちゃいますから。
4Gamer:
しかし「鬼哭街」の場合などは,そういった描写があるからこそ復讐というテーマやキャラクターの感情が活きるわけですし……。
虚淵氏:
「性的な行為はタブーであり,後暗い物であるのが当然である」というのが僕の考えなので,恐らく僕の中では,バイオレンス表現と一緒くたになっているんだと思います。
4Gamer:
性的な行為はタブーだからこそ……ということですね。
虚淵氏:
そうなんですよ。だから「ふたりエッチ」みたいな展開になっちゃうと,釈然としないというかなんというか……「それはエロなのか?」と。つまり,自分の嫁のオッパイを見るのは何もエロいこっちゃないだろうってことなんですよ。それは後ろ暗いことでも何でもないので,そこにエロスを感じないんです!
4Gamer:
流石のこだわりですね……! では東口さんがそういったシーンを描くときには,虚淵さんから細かい注文があったりするのでしょうか?
中央氏:
いえ,そんなこともないですよ(笑)。
虚淵氏:
昔ならいざしらず,もう今となっては,東口のほうが構図に関してはレパートリー豊富だもんね。エロ原画家としては大成したと言っていい。
4Gamer:
先程も,「鬼哭街」は15歳以上推奨版の方がエロくなったと言ってましたね(笑)。
虚淵氏:
本当にもう「propellerさんありがとう!」という感じですよ。だって,「あやかしびと」1本で,ニトロプラスでこれまでに描いたエロ描写の倍くらい描いたんじゃない? そりゃあ修行にもなるよ。
中央氏:
確かに,それくらいは描いたかもしれません。でも今回は,ニトロプラスがどのくらいで「やめて!」って言ってくるかのチキンレースみたいになっていまして(笑)。それで相当な部分までやっちゃったというか。
4Gamer:
意外に止められなかったと。
虚淵氏:
局部も見えてないし,挿入している描写もない。なら大丈夫だろうと(笑)。初回生産分に入っているオーディオコメンタリーでは,あれは「マッサージ」ですから,と言い張っています(笑)。
4Gamer:
エッチなお店と同じ言い訳すぎる……。
虚淵氏:
何気にコメンタリーのクオリティも高いですよ。よく2時間も喋り尽くしたもんです。社員が次々と,入れ替わり立ち代わりする形式で,挙句の果てには社長まで入ってくるというカオスっぷりでした。
中央氏:
そして昔の暴露話をすると。
虚淵氏:
そう,ニトロプラスの暗部を暴いてみたりね。聞いてると「この会社本当に大丈夫かよ!?」って思うよね。
4Gamer:
やはりニトロプラスには,青雲幇のような黒社会との繋がりが……。
虚淵氏:
作品を紹介する上では,かなりの見どころではありますよ。「ニトロプラスの暗部がついに明かされる!」みたいな(笑)。
4Gamer:
そんな見どころタップリの「鬼哭街」ですが,それぞれ好きなキャラクターやシーンを挙げるとしたら?
虚淵氏:
脇役なんですが,“元氏双侠”の元家英と元尚英ですかね。彼らがアサルトギアを“阿吽覆滅陣”で殴り壊すシーンとか,小説ではできない出鱈目さがお気に入りです。名前の凄みだけで,何が起こっているかはあえて描写しない……というのは,武侠だけに許されたやり方ですよね。「技の名前が凄い,つまりこれは凄い技なんだ!」みたいな(笑)。
中央氏:
自分は主人公の孔濤羅です。一時期ハマっていた映画の「ブレイド」みたいに,コートに日本刀という,やりたいことをやりたいだけ入れられたキャラクターですので。
4Gamer:
そういえば,孔濤羅は倭刀を使っていますが,「鬼哭街」に出てくる武器の多くは,普通の人ならまったく知らないような,マニアックな物ですよね。
虚淵氏:
それもまた,武侠小説にハマっていたときの流れから来ています。
4Gamer:
つまり,武侠物に登場する武器なんですね。
虚淵氏:
はい。武侠物に出てくるトンデモ武器って,あまりにマニアックなものだと巻末に解説が載っていたりするんですよ。とくに金庸の作品では,お約束みたいにイラスト付きで載っていて,参考になった部分は多いです。
4Gamer:
マニアックな武器がお好きなのですか?
虚淵氏:
変な武器はかなり好きですね。「ヴェドゴニア」でもそうだったんですが,「いかに変な武器を出そうか……」というくらいの気持ちで作っていましたから。さらに“社内変な武器コンテスト”とかやったくらいですからね。
東口さん的には,オーダーの来る武器が普段見たことのないものばかりで,苦労されたのでは?
中央氏:
そうですね,さすがに資料をもらって描きました。名前を言われても分からないので,ビジュアルで判断してましたね。
4Gamer:
では,そんな変な武器の中でもとくにお気に入りのものはありますか?
虚淵氏:
護手鉤ですね。あの気持ち悪い造形は本当に大好きです。
4Gamer:
元家英が使っていた武器ですね。近接戦闘をこなしつつ,ソードブレイカー的な役割も果たすという……。
虚淵氏:
「何考えて作ったんだこれ」っていう気分にさせる,あの禍々しさは中華武器の真骨頂なのではないかと思います。結構カンフー映画や小説の中では見るんですよ。片手に護手鉤,片手に剣を持ったりしてて,これがまたカッコ良いんです。
4Gamer:
では,東口さんが好きな武器といえばやはり?
中央氏:
はい,お察しのとおりブレイド繋がりで日本刀ですね。
4Gamer:
多くの作品において主人公の持つ刀といえば,何らかの名刀だったりすることが多いのですが,孔濤羅が使っているのは「無銘の刀」なんですよね。そのへんの設定にもこだわりがあったりするのでしょうか?
虚淵氏:
そこはもう,自分の“ボトムズ精神”ですね。ありものを使って十分強い,そして折れたら別のを使う,みたいな。孔濤羅の刀は確か,適当なヤツからかっぱらった物という設定です。
4Gamer:
ライバルとなる劉豪軍はレイピアを使っていますし,その辺りは対比を持たせたかったのでしょうか?
虚淵氏:
やっていることはカンフーなのに,武器が違う。言ってみれば,やりたかったことは「ハイランダー」ですね。
4Gamer:
なるほど,確かに「ハイランダー」に通じるものを感じますね。そういえば,「鬼哭街」にはさまざまな拳法が出てきますが,虚淵さんも実は何かの達人だったり……?
虚淵氏:
いえ全然(笑)。皆さんがっかりされるのですが,バイクも乗らないし拳法もやらないんです。どんどんイメージが先行しちゃうんですよね。実際は,酒は飲まない背は低い,車は四角いファミリーカーという,かなりのがっかりクオリティですよ(笑)。そういう部分は自分にない要素だからこそ,フィクションの世界に反映されているのだと思います。
……そう考えると,つまり自分は超心優しい人間なのでは? そういう事にしておきましょうよ(笑)。
4Gamer:
ああ……なるほど(表向きはそういうことにしておかないと,きっと公安にマークされるんだろうな……)。
虚淵氏:
きっと,雨の中で子猫拾っちゃったりするんですよ!
中央氏:
絶対そんなことしないと思うけど(笑)。
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