インタビュー
「鬼哭街」から「沙耶の唄」「魔法少女まどか☆マギカ」までミッチリ質問攻め! 虚淵 玄氏&中央東口氏のロングインタビューを掲載
影響を受けた作品の数々
では次に,お二人の作風に関する質問をしていきたいと思います。話を聞いているとかなり映画がお好きで,色々と影響を受けておられるようですが,お気に入りのタイトルを挙げるとしたら?
虚淵氏:
何でしょうね……。その日の気分によって変化するから難しいですね。
中央氏:
言ってみれば時価みたいなものですからね。
虚淵氏:
最近見たのであれば「ブラック・スワン」は面白かったですよ。
4Gamer:
確か,役に入りきったバレリーナの女性が,どんどん壊れていく話でしたよね?
虚淵氏:
個人の幻想が徐々にリアルを侵食していくというか,幻想を見ている本人からすると,目の前で起こっている出来事が幻想なのか現実なのか分からない。そういった不安みたいなものがよく表現できていて,すごく気持ちよく見られました。
4Gamer:
となるとやはり結末は……。
虚淵氏:
端から見れば明らかにバッドエンドなのですが,当事者は満足しているので,“虚淵定義”においてはシロ。ハッピーエンドでしたよ(笑)。
4Gamer:
虚淵定義においてはシロ……凄く分かりやすいです。そういった意味では,「沙耶の唄」や「鬼哭街」に通ずるものがありますね。
虚淵氏:
そうですね。あと,いつだって見直したくなるという意味ではジョン・ウーやセルジオ・レオーネの作品が好きです。あの辺りは,オール・タイム・イズ・ベストですね。
4Gamer:
では,東口さんはいかがですか?
中央氏:
最近では「シューテム・アップ」と「月に囚われた男」が良かったです。とくに「シューテム・アップ」は映像が非常にカッコイイので,トレーラーだけでも見てほしいですね。赤子を抱えた主人公がマフィアに追いかけまわされながら,ド派手な銃撃戦を演じるという映画なんですが,武器としてニンジンを使ったり,それがものすごく強かったりと,内容的にはかなりくだらないB級映画的なネタが多いんですよ。それを至極真面目にやっているんです。
虚淵氏:
成り行きでその場の人間を皆殺しにしたり,ブラックユーモアコメディって感じだよね。
中央氏:
「25,000発の弾丸が!」みたいな売り文句が懐かしくて,何だか嬉しかったです。
4Gamer:
なるほど……。では映画以外だと?
虚淵氏:
「装甲騎兵ボトムズ」と,スティーブン・キングや菊地秀行の作品ですね。なにより大きな影響を受けた,いわば自分にとってのターニングポイントのような感じです。
中央氏:
僕は士郎正宗さんの「攻殻機動隊」や「アップルシード」ですかね。あの,もっともらしく描いて見せる技術,というのは学ぶべきところだと思っています。
4Gamer:
となると,元々サイバーパンク系のイラストが得意だったのですか?
中央氏:
いえ,そんなことはないですよ(笑)。あくまで趣味の範疇で,そのジャンルが好きだっただけです。絵を描いていると,例えば肉を描くにしたって「生き物っぽい」ほうが良いじゃないですか。その場合はまず「生き物らしさって何?」というところから考えるんです。メカなどを描く場合でも,それは同じなんですよね。
“心温まる物語”の定義と
裏切りの「まどか☆マギカ」
そういえば虚淵さんは過去に,「心温まる話を書きたい」と言っていましたよね?
虚淵氏:
実は今までも,“心温まる”作品を書いてきたつもりがなきにしもあらずだったのですが,なかなかそこに到達できずに無難な落としどころにおさめていますね。いつかは書きたいという,遠い目標といった感じです。
4Gamer:
しかし,世間一般で言うところの心温まる話は,いわゆるバトル物とは対極にありますよね?
虚淵氏:
世間様の心が温まっても,僕の心は温まらないんですよ(笑)。
4Gamer:
ああ,心温まるってそういう……。
虚淵氏:
そう,俺の心を温めろと。人のことはいいんです。どういう話で心温まるかなんて知ったこっちゃないんです(笑)。僕がハートフル感動巨編を作ったとして,皆が感動できる保証はまったくないわけですから。どうも世間とその辺の定義がズレているのは,仕方のない部分だと感じていますね。
4Gamer:
では,世間的な“虚淵像”というものを,虚淵さん自身はどう感じておられるのでしょうか?
虚淵氏:
自分でガッツリ真っ黒な作品を作ったなと思えたのは,「白貌の伝道師」くらいですよ。ほかの作品にはそれなりに,白い絵の具が入っている気はするんですよね。
4Gamer:
では,虚淵さんに“黒さ”を期待しているファンに対してはいかがでしょうか? 期待に応えたいと思っているのか,それとも関係なく我が道を突き進んでいるのか。
虚淵氏:
基本的には関係ないですね。方向性を持った“期待”というのは“予測”とほぼ同義なので。そこはできるだけ裏切っていきたいと思っています。僕の中では「びっくりさせたい」という気持ちが強いので,あまり黒いのを期待されたら,白い方向に行くでしょうし,その逆もあるでしょうね。
4Gamer:
「まどか☆マギカ」でやったのがまさにそれですよね。
虚淵氏:
あれは新房監督が視聴者を驚かせたいと企んでいましたね。驚きをかなり大切にする方なので,「タイトルロゴはあえて丸いフォントでいこう」とか,アイデアを出してくれましたし。ただ,僕がどういう評価を受けているライターなのか,最初は知らなかったみたいなんですよ。それに関してはちょっと申し訳ない気持ちでした(笑)。
4Gamer:
ずっと虚淵さんの名前が伏せられていたら,凄いことになっていたでしょうね(笑)。
虚淵氏:
自分が脚本をしていると知った人の「あ,やっぱり」という感じをできるだけ薄めたかったのですが,なかなかこう,過去の作品が足を引っ張っているとなると,申し訳ないですね。それで,一時期Twitterで猫をかぶっていたんですけど。まったく意味がなかったです(笑)。
4Gamer:
「まどか☆マギカ」は今後の展開についても気になります。ぶっちゃけ,2期はあるのでしょうか……?
虚淵氏:
やれたらいいですよね。
4Gamer:
おお……期待しています! ほむらが荒野で魔獣に向かっていくというあのラストシーンは,やはり何かの伏線なのでしょうか?
虚淵氏:
いえ,実は何も考えていなかったです。演出のさまざまな悪ノリが入った結果ですね(笑)。脚本の中では,あのシーンは「日本ではない」程度のことしか書いていなかったんですよ。各所で言われていることですが,あれもまた「ブレイド」のオマージュなんです。「戦いは続く……ほむら,世界へ!」みたいなイメージだったんですが,色々な考察が生まれていて驚きました。中には「彼女こそ最後に生き残った魔法少女に違いない!」という説もあって,「えっなにそれ!?」みたいな(笑)。
4Gamer:
あのシーンを見た瞬間,「マッドマックス」になるのかと思いましたよ(笑)。
虚淵氏:
ガソリンをめぐって戦うのですね(笑)。「魔法少女まどか☆マックス」みたいな! ……楽しいかも。
4Gamer:
これは多くのファンが期待していると思うのですが,「まどか☆マギカ」がゲーム化される可能性はあるのでしょうか?
虚淵氏:
ぜひやってみたいですね。何なら,イヌカレーさんの演出をガンガンに使ったシューティングゲームなんかをやってみたいです。
4Gamer:
あの雰囲気でシューティングをするとなると,相当SAN値(正気度)を削られるゲームになりそうです……。
虚淵氏:
あの世界観で,戦うたびに背景が崩れていったり。楽しいと思うんだけどなぁ。
4Gamer:
シューティングゲームがお好きなのですか?
虚淵氏:
下手なんですけど,画面の作り方とかボスのハッタリの利かせ方とか,ああいった部分が好きなんですよ。「やっつけた!」と思ったら手が生えてきたり。
4Gamer:
「まどか☆マギカ」は二次創作も非常に盛り上がっていますよね。それこそ,ゲームを作ったファンもいたり。
虚淵氏:
ありますね。出来が良すぎてびっくりしましたよ。
4Gamer:
Twitterを見る限りでは,恐らく虚淵さんも「Incubator」をプレイされたと思うのですが(笑)。
虚淵氏:
あれはもうヤバかったです。ハマりすぎてしばらく仕事が手につきませんでしたから(笑)。弊社の鋼屋ジンもプレイしていましたよ。
4Gamer:
制作者は感無量でしょうね……。最終的にはどれくらいのスコアを出せたんですか?
虚淵氏:
ごく初期のバージョンで10万越えぐらいまではいったのですが,バージョンアップが進むうちに僕のノートPCのスペックが追いつかなくなって。iPadか何かで配信してほしいですよもう(笑)。
4Gamer:
Twitterでは死亡者リストが欲しいという要望まで出していましたよね(笑)。
虚淵氏:
呟いてからたった一日で,死亡者リストがシステムに追加されたときは,もう感動を覚えましたよ。あれがあるだけで,プレイ後の欝度が倍増しですから(笑)。
4Gamer:
シューティングになるかどうかはともかく,公式でゲームを作るとしたら,アレに負けないものにしないといけませんね。期待しております。
今後の活動にも注目
現在動かしている案件について,話せる範囲で何かありますか?
虚淵氏:
しばらくは仕込みに入って,2012年の末頃には新作のオリジナルアニメを世に出せるかもしれない……という話が進行しています。
4Gamer:
「Phantom」のように,虚淵さんが手掛けたゲームをアニメ化……という話はないのでしょうか?
虚淵氏:
今のニトロプラスで一番アニメ化がありえるのは「装甲悪鬼村正」だと思うので,自分の作品だとちょっとなさそうですね。むしろ,自分に来る話の多くは,オリジナルアニメのオーダーです。
4Gamer:
ゲームでも新作の構想があるとのことですが,それについてはいかがでしょうか?
虚淵氏:
それはそれで,しっかり進行していますよ。
4Gamer:
なるほど。では,東口さんはいかがでしょうか?
中央氏:
直近では,propellerから出ている「Bullet Butlers」のPSP移植が決まっていますので,そちらにご期待ください。
4Gamer:
諸々期待しております。本日はありがとうござました!
なにぶん,15歳以上推奨版「鬼哭街」が2003年に発売された作品のリニューアル版であること,そして記事の掲載がソフトの発売後になることを考慮し,今回は通常のゲームインタビューからは少しハズれた質問を多めにしてみた。武侠小説やサイバーパンク,影響を受けた映画など,かなりマニアックな話が多くなってしまったが,非常に濃い話が聞けたので,コアなファンには喜んでもらえる内容になったのではないだろうか。
また,企画が進行中だという虚淵氏と中央東口氏による新作ゲームや,虚淵氏が脚本を手がける新たなオリジナルアニメ,そして「魔法少女まどか☆マギカ」の新展開など,今後の活動に期待が持てる話も色々と聞くことができた。虚淵氏,中央東口氏,そしてニトロプラスを愛する読者諸君にも,楽しんでいただけたのなら幸いだ。筆者はひどく楽しかった。
「鬼哭街」公式サイト
「ニトロプラス」公式サイト
- 関連タイトル:
鬼哭街
- この記事のURL:
(c)2002-2011 Nitroplus co.,ltd. All rights reserved.