インタビュー
「メルルのアトリエ」でガストサウンドを表現する3名の歌い手にインタビューを敢行。オープニングテーマ「Cadena」のフルVer.を4Gamer独占でUp
アトリエシリーズは表題のとおり,複数のアイテムを合成して異なる何かを生み出すという錬金術をテーマにしたRPG。作品によって若干味付けは異なるものの,このコンセプトは最新作であるメルルのアトリエでもまったくぶれていない。道端に落ちているような草や石から,生活や戦闘,ひいては街の名物になるようなアイテムを生み出すアトリエの錬金術は,さながら誰もが憧れる魔法のような力である。
しかしちょっと考えてみれば,現実にも「まるで魔法だ」と思わされる事柄はいくつもあるように思う。その一つが,音楽だ。いくつもの短い音が絶妙に組み合わさって旋律となり,さらにそれが緻密な設計の上に織り成されて楽曲へと姿を変える。音楽関係の職業に従事する人達からしてみれば,楽曲を生み出すためのある程度確立されたロジックが存在するのだろうが,素人からしてみれば,まるで錬金術と同等の魔法である。
そんな前置きと関係なくもないが,今回はメルルのアトリエのオープニング&エンディングテーマ,ならびに挿入歌を歌う3名の“歌い手”に対して行った,インタビューの模様をお伝えしよう。質問に答えてくれたのは,「ロロナのアトリエ」「トトリのアトリエ」に続いてオープニングテーマを担当する山本美禰子さん,トトリのアトリエと今作の2作で締めを飾るエンディングテーマ担当のmaoさん,そして今作のゲーム内挿入歌を担当する,シリーズ初参加の野見山睦未さんだ。
山本さんとmaoさんは,近年のアトリエ作品をプレイしている人にとってはおなじみの2名。彼女達が表現する歌に誘われてメルルのアトリエを手に取る人もいることだろう。
野見山さんは,PlayStation 2用ソフト「ポポロクロイス 月の掟の冒険」のメインテーマとして高い人気を得た「桜見丘」を手がけた人物として知られている。優しくもどこか切ない歌声は,メルルのアトリエの挿入歌「Little Crown」でも健在だ。
また今回は,4Gamer独占で山本さんが歌うオープニングテーマ「Cadena」をフルVer.で掲載できることになった。本稿初公開となるオープニングムービーからのカットも数点記事の中に散りばめてあるので,ぜひ一緒に楽しんでほしい。
「ロロナちゃん達と一緒に,私も歌手として成長してきた」
山本美禰子:オープニングテーマ「Cadena」
4Gamer:
山本さんはオープニングテーマ「Cadena」を担当していますが,どのような楽曲に仕上がったのでしょうか。
Cadenaは,まずパッと聞いたときに皆さんがワッと驚くような,壮大な感じの曲になっています。アーランドシリーズ(※)の3作目,大団円を飾るような壮大で元気でエネルギーのある曲ですね。頑張っていこうぜ! と拳を振り上げてもらえるような感じになっていると思いますよ。
(※)アーランドシリーズとは,名前のとおりアーランドの地を舞台としたアトリエ作品群。具体的には「ロロナのアトリエ」「トトリのアトリエ」「メルルのアトリエ」の3作を指す
4Gamer:
今回,メルルのアトリエのオープニングテーマを歌われ,ロロナ,トトリと合わせて,3作連続でアトリエ新作のオープニングテーマを担ったことになりますね。
山本さん:
そうですね。私はこれでアーランドシリーズすべてに関わらせていただいたことになりますから,すごく思い入れが強いです。私の歌手としてのデビュー曲が,「ロロナのアトリエ」のオープニングテーマだったものですから,ロロナちゃん達と一緒に歌手として成長してきたという気持ちがあります。
4Gamer:
ロロナ達と一緒に成長ですか。その気持ちは,どういったときに感じられますか?
山本さん:
毎回自分の異なる面というのを楽曲をとおして出させていただいているんですよ。そのレコーディングをとおして成長を感じますし,そういう場を提供してくださる方々にすごく感謝しています。ロロナちゃんのか弱いところから始まり,トトリちゃんの迷いを経て,メルルちゃんの未来へゴー! みたいな楽曲の流れは,私の歌手としての人生とも重なるところがありますから,今回のCadenaにもすんなり感情移入できました。
4Gamer:
今,3作品の収録を振り返ってみていかがでしょう。
山本さん:
毎回,アトリエのオープニングでは多重録音でたくさんのコーラスを重ねさせていただく,というのをやっているんです。最初のロロナのときはレコーディングに5時間くらいかかったんですよ。メルルでは,それと比べて重なってる声もパートも増えていて,今までの中で一番レコーディングが長引いてしまいました。
4Gamer:
確かに,いわゆるガストサウンドは音の重なりが一つの特徴のような気がします。ちなみに,多重録音というのはどれくらい声を重ねるものなのでしょうか。
山本さん:
今回はコーラスだけで,4パート×4声で16本。ほかにメインのハモリ2パートが2本ずつくらいですから……全部で20人くらいの山本美禰子が歌っていると思っていただければ。大体7時間のレコーディングだったんですけれど,今回の曲の「いくぞ!」というイメージを長時間維持するのは,結構つらかったんですよ。
4Gamer:
長時間のレコーディングをこなすコツみたいなものがありそうですね。
うーん,レコーディング全般に言えることなんですけど,自分がリラックスした環境を作れることは大切かなと。ふかふかの足に力の入るスリッパとか,首に巻くタオルとかを用意して万全の体制で挑みました。あと,パンじゃなくてお米を食べてから歌うことも大事(笑)。
4Gamer:
なるほど,しかしそれだけ長いレコーディングだと終わった頃には……。
山本さん:
個人的に,どれだけ魂込めて歌えるか,みたいな勝負もしていたので,クタクタになりました。全力投球しすぎて,終わった頃にはもう歩けないくらいに(笑)。でも,とても充実した時間でしたよ。
4Gamer:
では,プレイヤーに聞いてもらいたい楽曲のポイントを教えてください。
山本さん:
アトリエシリーズは曲が素晴らしくて,今回もすごく豪華なサントラがリリースされるようなので,そのサントラの世界もゲームと一緒に楽しんでほしいです。私の曲Cadenaは,明日に向かってという希望を込めて歌ったつもりなので,気軽に何度も聞いて,元気を吸収してください。
「メルルのアトリエ」ディレクター岡村佳人氏:
アーランドシリーズのオープニングテーマは,主人公となるキャラクターの性格を色濃く反映していると思います。ロロナはほんわか系だったので,それを思い描きつつ綺麗な感じに。トトリは,いなくなったお母さんを探すという確固たる目的があったので,静かでシリアスな雰囲気に。そして,メルルの場合は性格もすごく元気で,国を発展させるという明確な意思のあるキャラクターですから,Cadenaという力強い曲になりました。
「純粋な感謝の気持ちを込め,今までとは逆の自分を」
mao:エンディングテーマ「メトロ」
4Gamer:
maoさんがアトリエのエンディングテーマを歌うのは,トトリのアトリエに続いて2回目ですね。今回の「メトロ」にはどんな印象をお持ちですか?
メトロは,すごく弾けていて可愛らしい曲ですね。前作のエンディングテーマだったDiaとまったく違う印象を受けました。それこそ180度くらい。アトリエシリーズでmaoという歌手を知って,ファンになってくださった方もたくさんいると思うのですが,そういう方々の期待を良い意味で裏切れたらいいなと思います。
4Gamer:
確かにmaoさんが最近手がけている楽曲は,比較的バラードが多いですよね。今回のような可愛らしい楽曲は珍しい。
maoさん:
ええ。ですからまずは,これまでの自分と可愛らしい自分とのギャップを楽しんで,とにかく恥ずかしがらずに思い切り歌いました。本当にこういう曲を歌わせてもらうのは久しぶりだったので,可愛いってどういうものだっけ……? というところからのスタートでした。
4Gamer:
可愛らしい楽曲を歌うというのは,想像よりもずっと難しいことなんですね。
maoさん:
実を言うとメトロは,可愛いだけではなく,メロディでかなりトリッキーなことをしている楽曲なんですよ。
4Gamer:
トリッキーなメロディですか。
maoさん:
ええ。作曲の柳川さんは前作から結構難しいメロディラインとかを作ってきてくださって,それは歌い手としてはやりがいがあるし,楽しいことでなんですけど……。現場では「なんでこんな可愛らしい中にトリッキーなものを混ぜるの!? 変態〜!!」ってこぼしたりもしました。柳川さんは,ご自身の世界観が明確にある方ですので,私はそれに寄り添いながら楽しく踊っているような感じでしたね。
4Gamer:
個人的にエンディングテーマというとしみじみとしたイメージがあるのですが,確かにメトロは踊っているような,本当に明るい楽曲ですよね。
maoさん:
そうですね。メトロは終わりではなくて,またここから新しい物語が始まっていくんだという期待感を煽る曲だと思います。メルルちゃんはたくさんの人と会っていろいろなことを経験して,そしてその経験をとおしてさまざまな気持ちを感じて,それを未来に活かしていくと思うんです。そういう出会いに感謝しているような気持ちをメトロの中に感じたので,そのイメージも表現の一つとして出せていたらいいなと思います。
4Gamer:
可愛らしさを表現すること以外に,レコーディングをとおして苦労したことはありますか?
美禰ちゃん(山本さん)と同じく,私の担当する曲も,毎回コーラスのラインとかハモリのラインとかがすごく個性的なところがあります。なので,そこが難しかった! と言おうと思っていたんですけど,ちょっと美禰ちゃんの話を聞いていたら……。私なんて2声のダブル,合わせて4人のmao程度なので,もう何も言うまいと。
4Gamer:
4人のmaoさんでも十分多いと思います(笑)。
maoさん:
いえいえ……。ただ,私は楽曲の中に可愛らしいさだけでなく,意志の強さというか未来への展望みたいなものを歌の中に散りばめていきたいと思っていたので,それを表現するための試行錯誤は大変でした。
4Gamer:
それでは,メトロのここがポイントというか,聞きどころみたいものはありますか?
maoさん:
歌詞の中に「みんな,ありがとう」っていうフレーズがあるんですけれど,私もこうやって歌わせていただくにあたって,本当にいろいろな人に支えられています。今まで出会った人の誰か一人でも抜かしてしまったら,私は今ここにいられないと思います。なので,そういう人達への純粋な感謝の気持ちというものを,メトロの中に散りばめているつもりです。
そういう気持ちって前に進むためにすごく大切だと思うので,その想いを,あの可愛らしい歌詞とか曲の中から感じ取っていただけたらなと思います。
「メルルのアトリエ」ディレクター岡村佳人氏:
前作のトトリは旅をして,最終的に自分の家に戻ってきて,それまでの自分の旅を回想するというエンディングだったんです。やっぱり,アトリエってゲームとしてもそうなんですけど,1回遊んで終わりというものではないんですよね。何回も遊んでもらって,いろいろなお話を見て,プレイヤーさんの中にそれが蓄積されていくというゲームだと思うんです。エンディングを一度見たからといって終わりではなくて,プレイヤーにしても,物語にしても,未来に続いているということを感じてほしかった。なので,今回は明るいエンディングを印象付けるような楽曲をと,うちのサウンドに要望を出し,maoさんにもちょっと違う一面を出してもらえるようにお願いしました。
「一音に,一言に注がれている気持ちが大きい」
野見山睦未:挿入歌「Little Crown」
4Gamer:
野見山さんが担当されたのは挿入歌の「Little Crown」ですね。ファーストインプレッションはどうでしたか?
Little Crownは,普段は大人しい子が,ある出来事をきっかけに前に進んでいこうとか,一歩進んでみようと思う,そんな印象を受ける曲でした。
4Gamer:
アトリエシリーズには初参加となる野見山さんですが,過去にゲーム内楽曲に携わった経験がありますよね。そのときと比べて今回の楽曲はいかがでしたか。
野見山さん:
今回は初めて,自分で作った曲ではないものを歌わせていただくことになったので,「どのような感じで歌ったらいいか」というのを事前に話し合ったんです。そのときに大きな視点で,過去の自分を振り返り,包み込むような気持ちで歌ってほしい,という要望を受けましたので,そういう感情を大事にして歌わせていただきました。あとLittle Crownの歌詞の中には,子供っぽいようなところもあるんですけれど,そこも可愛いと思います。
4Gamer:
他人の曲を歌うというのは,ご自分で書かれたものを歌うよりも難しいのでしょうか。
野見山さん:
ええ,やっぱりいただいた曲のほうが難しいなと私は思います。今回の曲は一音一音に乗っている言葉が少ないので,一つ一つの言葉が重い。しっかり歌わないといけないんです。でもだからといって力むと勢いがついてしまって,包み込むようなイメージからはちょっと離れちゃう。リラックスして一音ずつしっかりと歌うというのが大変でした。
4Gamer:
それは,これまでのご自身の歌い方とは違う?
野見山さん:
これまでの自分の歌い方とは違いましたね。とても一音が長くて,普段自分で書いたものを歌うときにごまかしてしまっていたところも,ごまかしが効かない。でもきっとそれは,それだけ一音に,一言に注がれている気持ちが大きいということなのでしょうね。
4Gamer:
収録中はどのようなことを意識しながら歌われたのでしょうか。
野見山さん:
ギャップというのをmaoさんがおっしゃっていましたけれど,Little Crownも歌詞自体は普遍的な内容ですが,印象はとても可愛いらしいものだったので,その……私も性格を偽って頑張りました(笑)。実は,元々あまり感情を込めて歌うほうではなく,歌詞を見ながら音に反応して歌うほうなんです。
4Gamer:
ということは,ちょっと歌いにくさを感じていたり?
いえ,今回の曲は音作り,というかアレンジがざっくりしたもので,ドラムラインとかがすごく面白かったので,そういう部分で個人的には歌いやすかったです。のびのびと歌えましたよ。
4Gamer:
そういえば野見山さんは,今回の3名の中で唯一アトリエシリーズのプレイ経験がないそうですね。逆に,未体験者の視点から見た「メルルのアトリエ」の印象に興味があります。
野見山さん:
本当にそのままなんですけど,可愛い。画像も綺麗だし,女の子も可愛らしいし,衣装とかのセンスもすごい。ギャザー感がいいなとか。えっと,も,萌え〜っていう感じですね(笑)。
4Gamer:
では改めて,Little Crownの魅力とポイントを教えてください。
野見山さん:
Little Crownに込められたメッセージは,前に進んでいこうという普遍的なテーマのものですから,誰でも聞きやすいと思います。私の中でこの楽曲は新緑のイメージで,ちょうどこれからの季節と合っていると思いますから,そういうものを感じ取っていただければ。あとは作曲の柳川さんが仕掛けたキラキラっというアレンジが曲の中に散りばめられているので,そんなところも気にかけてもらえたら嬉しいです。
「メルルのアトリエ」ディレクター・岡村佳人氏:
アトリエシリーズというのは,主人公がいろいろなことを経験して成長していくお話なんですけど,大体どの作品にも物語の中に一区切りつくタイミングがあるんですよ。今作でもそういった区切りがあるんですが,そのときにメルルが今までの過去を振り返って,次の未来に進もうと決心する。Little Crownは,そういう場面で流れる曲なんです。なので,大きな視点で過去を振り返っていく,ゆったりとした曲にしたいと思いました。元々,野見山さんの歌からそういった綺麗な印象を受けていたものですから,今回お願いすることにしたんです。
ガストサウンドの表現者達
文中で派生はしているものの,3名にはほとんど同じ質問を投げかけている。それにも関わらず三者三様の回答が得られたことは,各歌い手独自の音楽性と,担当歌そのものの個性によるところが大きい。
一方で,ディレクターの岡村氏が語ったようなメルルのアトリエのテーマについては,3名ともほぼ共通の認識を持っていることが,各々の回答から窺える。
また,それぞれの会話の節々からはガストのサウンドチームとしっかり連携が取れている印象を受ける。3名の表現した曲がメルルのアトリエという一つの作品の中の音楽であるという統一感を持ちながらも,歌い手と楽曲の個性を損なっていない理由は,この信頼関係があるからこそなのだろう。
最後に,今回インタビューを敢行させてもらった3名からいただいた,4Gamer読者ならびにファンに向けてのコメントを掲載しよう。彼女達が歌う楽曲が詰まったサントラも,メルルのアトリエの発売日の前日,6月22日に発売されるので,ゲーム本編と合わせて味わってみてほしい。
山本さん:
5月8日のティームエンタテインメントさんのライブ2011に私とmaoちゃんが出演させていただきます。そこでメルルのアトリエのオープニングテーマも歌わせていただく予定ですから,楽しみにしていてください。私の公式Webサイトにも情報を載せていますので,詳しくは「こちら」へ(笑)。
あとは4Gamerさんの読者さん,メルルのアトリエがとても素晴らしいゲームになっていることは間違いないので,ぜひプレイしてください。
maoさん:
今年の後半はライブで生歌をたくさん届けられるような機会をたくさん作っていきたいなと思っています。そのときにはもちろん,今回のメトロも聞いていただけるようにしていきますので,楽しみにしていてください。
ゲームに関しては,もう間違いないのでとくに言うことはありませんが,ゲームの中に散りばめられた曲達。素晴らしい曲達がたくさん詰まっていますので,ゲームの前日に発売されるサントラも,一緒に楽しんでもらえればいいなと思います。音楽を聞きながら,ゲーム本編を振り返るといった楽しみ方もしていただけると嬉しいですね。
野見山さん:
私はまだ自分の曲しか聞いたことがないので,これから聞けるのが楽しみです。ゲームも皆さんと一緒にやってみます(笑)。私のグループ「Local Bus」は休火山のように活動をあまりしないんですが,今年は少し頑張ってやろうかなと思っていますので,Local Busファンの方もよろしくお願いします。
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メルルのアトリエ〜アーランドの錬金術士3〜
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(C) GUST CO.,LTD. 2011