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中東最大の格闘ゲームイベント運営者が語る,日本の格闘ゲームシーンへの憧れ。アールのクウェート滞在レポート(後編)
また実況担当として現地入りした筆者・アールの視点から見たクウェートについても,コラム形式で若干ながら付け加えている。前回の記事から若干時間があいてしまったが,クウェートにおける熱い格闘ゲームシーンを垣間見ることができる内容になっているので,格闘ゲームファンはぜひチェックしてみてほしい。
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KOFGF運営 Mohammad Al Mahmeed氏インタビュー
さっそくですが,今回のKOFGF開催に至った経緯からお聞かせください。
Mohammad Al Mahmeed氏(以下,アハメド氏):
まずクウェートでは,マンガやアニメなど日本文化が浸透していたという背景がありました。近年ではそこにゲームが加わって,こちらも活性化してきています。
4Gamer:
そういえば,KOFGFの会場にも「マジンガーZ」のフィギュアなどがありましたね。
アハメド氏:
ええ。マジンガーZは,イスラム圏では誰しもが子供の頃から慣れ親しんでいるアニメです。インターネットを通じて,最新のマンガやアニメに触れる機会も増えてきましたが,アラビア語に翻訳される作品は,まだまだ少ない。だから少し古くても,ちゃんと翻訳されているものに馴染みがあるんです。ほかにも「北斗の拳」や「キャプテン翼」とかね。
4Gamer:
なるほど。ではゲーム,とくに格闘ゲームについてはいかがですか。
アハメド氏:
格闘ゲームは,クウェートでも昔から人気です。それこそ「ストリートファイターII」の頃からのプレイヤーも多くて,イベントでギターを演奏したハレドや,それから私なんかは,「スーパーストリートファイターII X」の熱心なプレイヤーだったんですよ。そういう古くからの格闘ゲームファンが集まってできたのが,我々の運営する「WHITE TOWER」です。日本のアーケードのような環境が作りたくて。
4Gamer:
格闘ゲーム好きが集まってできた団体なんですね。今はオンライン対戦があるにも関わらず,日本的なアーケード環境を目指したというのは,とても興味深いお話です。
■(コラム)クウェートってどんなところ?
日本に住んでいると,あまり馴染みのない場所である中東世界。クウェートの人達が,普段いったいどんな生活をしているのか,ちょっと覗いてみよう。
まずクウェートの街を眺めていると気付くのが,近代的な建物が建ち並ぶ場所と,いかにも発展途上な感のある街並みが,くっきりと色分けされつつ,しかしごちゃ混ぜになっていることだろう。驚くような高層ビル群があったかと思えば,一つ裏道に入ると,いかにも肉体労働者風の人達が,道ばたに座って食事をしていたりする。また治安という意味でも,中東の中では比較的安定しているようである。
道はどこもかなり広いのだが,8:00と14:00,それから19:00頃には渋滞も発生する。ちなみに8:00が通勤ラッシュで,14:00が帰宅ラッシュ。19:00は遊びに出かける人のラッシュなのだそうだ。14:00に帰宅ラッシュ? と思うかもしれないが,彼らの一日の労働は4時間(休憩含む)が基本とのこと。
ただし,これは生粋のクウェート人の話で,国民の7〜8割を占める他民族の場合は,この限りではない。クウェート人として生まれれば,大学までの教育費は国が出してくれるうえに,結婚すれば補助金と車が与えられる。親から家がプレゼントされることも珍しくないのだとか。日本人からすると,なんとも夢の様な話で,彼らがお金持ちである事は間違いないのだが,だからといって自由というわけでもない。イスラム教の戒律によって,いわゆる娯楽――グルメやお酒,賭博や異性交遊など,その大部分が禁止されているからだ。
このため可処分時間の多くは,勉強するか体を鍛えるか,あるいはマンガやアニメ,それからゲームといったものに費やされるとのこと。
今大会で見られたクウェート人選手達のストイックなプレイスタイル――派手な逆転劇よりも,堅実な立ち回りを選ぶ傾向や,動画などの研究からくる徹底したキャラ対策――の秘密は,もしかしたらこういうところにあるのかも?
キャプション:クウェート人1人当りの車の所有台数は3台とのことで,街の道路には高級車が溢れていた。ただし交通ルールのマナーはかなりアバウトのようだ 家の中は非常に広く,部屋もたくさん。その割に物が少ないのが特徴的
アハメド氏:
そんな中,クウェート代表チームが一昨年の「闘劇」に参加したことが,大きな転機になりました。コンシューマゲーム機は,我々にとってまだ高価なものでしたが,クウェート代表チームは闘劇の一か月前から日本に滞在して,新宿で練習を繰り返し,そして本戦でも大きな活躍を見せてくれました。凱旋した彼らのインタビュー動画が,ネット上で公開されたこともあり,それがクウェートのゲーマーに大きな衝撃を与えたんです。
4Gamer:
ああ,自分もその時,クウェートのトッププレイヤーの一人であるNOX2選手から,メッセージをもらったのを覚えています。新宿でお会いして,交流が生まれました。あの時にその場にいた日本人プレイヤーは,クウェートのプレイヤーについて,皆,謙虚で繊細というイメージを持ったみたいです。
アハメド氏:
クウェートのプレイヤー達は,YouTubeに掲載された日本のトッププレイヤーの動画を見て,研究していますからね(笑)。だからスト4シリーズでは,とくにそういった日本のプレイヤーを尊敬しています。私自身も,クウェート代表になった選手達に,謙虚さと尊敬の気持ちを常に持ちなさいと伝えたんですよ。
4Gamer:
今回KOFGFには,多くの日本人が参加しました。クウェートの選手と交流が深かったプレイヤーに声がかかったと聞いています。
アハメド氏:
そうですね。クウェートの選手達は,日本でお世話になったプレイヤーにとても感謝しています。それで私自身,彼らの話に出てくる日本のプレイヤー達に会ってみたかった。だからKOFGFを開催するにあたって,そういった方を中心に声をかけました。
4Gamer:
日本の選手だけでなく,世界各地のプロプレイヤーも集まっていて,すごくインターナショナルな大会だったと思います。
アハメド氏:
ええ。DAIGO(ウメハラ選手)は,一昨年,昨年と,クウェートで開催された組み手イベントにも参加してくれました。クウェートのプレイヤーにとって,彼は憧れの存在なんです。なので,今回KOFGFを開催するにあたっては,DAIGOはもちろんのこと,彼のチームメイトであるTOKIDO(ときど選手)とMAGO(マゴ選手),そしてライバルであるJustin Wong選手など,多くのプロプレイヤーにも声をかけ,参加してもらいました。
4Gamer:
各国からの招待選手はもちろんですが,クウェート選手達の対戦レベルがとても高く,我々も驚きました。
アハメド氏:
クウェートのプレイヤーは,大きなトーナメントに慣れていないこともあって,普段通りの動きができている選手は少なかった。そんな中,Ganon選手とAzizu選手は経験豊富なだけ合って,良い動きをしていました。とくにクウェートチームが勝利した,インターナショナルチームとのエキシビションマッチは,すごくエキサイトしましたね。大将を努めたdohye選手はとくに,本当に素晴らしかった。
4Gamer:
あのJustin選手を倒した試合は圧巻でしたね。クウェート選手が世界で活躍する日も,そう遠くはないのではないでしょうか。
アハメド氏:
大舞台で緊張しない度胸と,プレイ人口の少なさからくる対策不足が,クウェート選手の課題だと思っています。日本の☆シン☆選手のジュリは,彼自身が素晴らしいプレイヤーなのは間違いありませんが,クウェート側がちゃんと対策できていれば,結果は変わっていたかもしれない。
4Gamer:
確かにそうかもしれません。
アハメド氏:
すぐには解決できない問題かもしれません。でもだからこそ,今回のKOFGFのような大会を我々は企画したんです。経験を積むことが,なにより大切ですからね。来年はもっと大きな会場で,日本はもちろん,世界中のプレイヤーを招待して開催したいですね。
4Gamer:
そうなれば,僕等としても嬉しいです。ぜひ来年も参加させてください。ところで,今回招待を受けた日本人選手達は,運営側の手厚い歓迎に,皆とても感激したみたいです。どうしてここまでしてくれるのか,不思議なくらいなんですが……なぜなんですか?
アハメド氏:
クウェート人は,訪れてくれた人を自分達の家族として迎え入れたいと考えているんです。肌の色や目の色などは関係なく,私達の国に来てくれた人を精一杯もてなしたい。ですから,喜んでもらえたら我々もすごく嬉しいし,あなたのように「来年もまた参加したい」と言ってもらえることは,私達にとって最高の喜びなんですよ。
4Gamer:
僕自身も,今回のクウェート滞在を通して,中東のイメージが大きく変わったように思います。最後に,このインタビューを見ている日本のプレイヤー達にメッセージをお願いできますか。
アハメド氏:
今回クウェートに来てくれた日本選手達は,みな素晴らしい人ばかりで,多くのクウェートプレイヤーに刺激と交流をもたらしてくれました。日本は格闘ゲームにおいて,世界で最もレベルが高い国です。だから,来年もぜひ多くの日本人に参加してほしい。ですが,資金的な問題もあって,すべての選手を招待できないのが残念です。
多くの日本のプレイヤーに,参加したいと思ってもらえる大会になるよう,改善していきますので,興味のある人は,ぜひ参加してください。最高のイベントを,またみんなで作りましょう。
4Gamer:
本日はありがとうございました!
日本語で実況する筆者。日本語の実況で本当にいいの? と思ったが,彼ら的にはそれが嬉しかったとのこと |
ニシキン選手に贈られたケーキ。当日たまたま誕生日を迎えると聞いたスタッフが,急遽用意したものだという |
■(コラム)クウェートの食事事情
クウェートに滞在するにあたっての大きな懸念事項だったクウェートの食事事情。筆者周辺の前情報では,日本人の口には合わないとの噂が広まっており,胃腸の弱い筆者としてはかなり心配していたのだが,実際口にしてみると,これがけっこう美味しかった。もちろんカルチャーショックを受ける料理もありはしたが,基本的に肉も魚もパンも美味しくいただけたので,少なくとも量以外の部分で困ることはなかった。ただ,連れて行かれた店は,どれもかなりの高級店だったような気がするので,クウェートの一般的な食事なのかどうか,正直分からなかったりするのだが。
ちなみにイスラム教徒であるクウェート人は,豚肉を決して口にしない。牛肉や鶏肉についても,加工や調理に一定の作法が要求されるそうで,こうした作法を守って作られた食品(ハラールという)のみ,食べられるという。このため,彼らが日本に来た際には,かなり食事に困ったのだそうだ。
絶対にゲストより先に食事を口にしないクウェートの人達。食べ終わった後も,「味はどうだった?」と心配そうに聞いてくる。美味しかったと伝えると,とても嬉しそうに笑っていたのが印象的だ
※YouTube版は「こちら」
多くの交流が生まれたクウェート滞在。次回大会にも期待大
2回に分けてお届けしたクウェート滞在レポートだが,いかがだっただろうか。インタビュー中にも書いたように,今回のクウェート滞在を通して,筆者の中東のイメージは,大きく変化したように思う。とくにクウェート人のフレンドリーさには驚くばかりで,短い滞在期間ではあったが,同じ格闘ゲームを愛する者として,なんとなく共通するものを感じたのは,決して気のせいではないはずだ。
例えばMCとして配信席にいた筆者は,イベント中,何度か写真やサインを求められることがあったのだが,どの人も少し申し訳なさそうな感じで話しかけて来たのが印象に残っている。その後は日本語で「ありがとう」と声をかけてくれて,この慎ましやかな感じが,日本人との共通点と感じられた。彼らは体格も大きく,日本人からすると大人びて見えることが多いのだが,そうして笑った時の仕草からは,年齢なりの心が透けて見えて,それがなんともこそばゆい。
一方で,一度打ち解けてしまうと非常におおらかで,筆者がマイクでしゃべっているときにも,隣に来て一緒に騒いだりと,そこは日本とはちょっと違う部分だったりするのかもしれない。
今回KOFGFに参戦した日本人選手は10名以上。その数日で多くの交流が生まれ,再会を約束した選手が数多くいたようだ。筆者も,また来年のKOFGFが開催されるならば,ぜひ参加したいと考えている。
ちなみにクウェートは今回で3回目というウメハラ選手に,クウェートについて聞いてみたので,その答えをもって,今回のレポートの締めとしよう。世界各国から招待を受け,常にあちこちを飛び回っているウメハラ選手は,基本1度参加したイベントには再訪しないそうなのだが,クウェートだけは別なのだという。
ウメハラ「とりあえず,どの国のイベントにも1回は参加しようと思ってる。でもこれだけ喜んでくれて,手厚くもてなしてくれる国には,何度も来たくなっちゃうよね」
2014年,よりパワーアップして開催されるだろうKOFGFと,世界に広がる格闘ゲームコミュニティの活性に期待しよう。
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