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AMD,「Richland」こと新世代A-Series APUを発表。電力効率と性能の向上を図った“Trinity+”的な存在
以下,A-Seriesの製品をいずれも開発コードネームで表記することをお断りしつつ,本稿では,発表に先立ってアジア太平洋地域のメディア向けに行われた電話説明会の内容を基に,Richlandの概要を紹介してみたい。
発表されたのはノートPC向けの4製品
Trinityとの違いは少なく,GPU名はリネームに
今回発表されたのは「A10-5750M」「A8-5550M」「A6-5350M」「A4-5150M」の4モデル(表)。製品型番に「M」の名があることから想像できるように,いずれもノートPC向けの製品だ。Trinityがそうだったように,RichlandでもノートPC向けが先行して登場したことになる。
なお,GLOBALFOUNDRIESの32nm SOIプロセス技術で製造され,2基の整数演算ユニットと両ユニットで共有する浮動小数点演算ユニット1基を1モジュール化した「Piledriver Module」と,TeraScale 2アーキテクチャでVLIW4(Very Long Instruction Words 4)エンジンを採用した「Northern Islands」世代のGPUコアを採用するというのは,RichlandとTrinityで共通だ。
Richlandの利点をまとめたスライド。先頭に挙げられている「素早く製品を市場に送り出せる」という点は,電話会議でも強調された |
AMDでノートPC部門のディレクターを務めるKevin Lensing氏は,電話会議で,現行の製品とRichlandが完全な互換性を持つことから「OEMパートナーは素早く,より強化された機能を持つ製品を市場に投入できる」と強調していた。とはいえ,シリコンダイに変わりがない以上,Trinityからの大きな飛躍はないはずだ。上の表ではGPUブランド名が「Radeon HD 8000」シリーズになっているが,これも純粋なリネームだと考えられる。
そうは言っても,当然ながらAPU全般の仕様には,Richland世代でさまざまな改良が加えられている。AMDによれば,Richlandでは下に挙げるような新要素が追加されているという。次の段落では,このスライドからとくに重要な点をかいつまんで紹介していきたい。
Richland世代のAPUを特徴付ける要素をAMDがまとめたスライド |
より賢くなった電力制御で性能もやや上昇
発表された4製品は,ノートPC向けTrinityと同じ35WのTDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)を維持しながら,若干だがCPUコアおよびGPUコアクロックの引き上げが行われている。
たとえば,Richlandの最上位モデルとなるA10-5750Mでは,CPUクロックはベースが2.5GHz,「AMD Turbo CORE Technology」(以下,Turbo Core)有効時の最大クロックが3.5GHz。ノートPC向けTrinityの最上位モデルとなるA10-4600Mでは順に2.3GHz,3.2GHzだったので,ベースクロックは200MHz,最大クロックは300MHzの引き上げを実現したことになる。
GPUクロックも,A10-5750M(のRadeon HD 8650G)だとベース533MHz,最大720MHzで,これはA10-4600M(≒Radeon HD 7660G)の同497MHz,686MHzと比べて,いずれも数%向上している。
しかも,バッテリ運用時間はTrinityより伸びているという。
いくつかのワークロードでRichlandとTrinityの消費電力,バッテリ運用時間を比較したグラフ。とくに720pの動画再生において47%もバッテリ運用時間が伸びるとしている |
クロックを引き上げながら,バッテリ運用時間を延長できている理由は,より賢くなったという電力制御にある。
AMDのAPUは,負荷やコア温度に応じて動作ステートを切り替え,ステートに応じたクロックで動作するようになっている。そして,Richlandでは従来のP1ステートとP2ステートの間に,新たなステート「PNew」を新設。合わせて,よりきめ細かな制御を行うために,「コア上に設けられたセンサーからのデータを基に,動作ステートを切り替えるアルゴリズム」を一新したとのことだ。
Trinityでも,CPUパワーが必要なときにはGPUクロックを落としてCPUクロックを上げ,逆にGPUパワーが必要になるとCPUクロックを落としてGPUクロックを上げるという制御が行われていたが,その制御周りをより賢くしたと考えていいようだ。
P1とP2の間に,「PNew」という新しい動作ステートが設けられた。これにより従来よりきめ細かな制御が可能になる |
とくにRichlandでは,温度に関わる制御が改善されたようで,センサーからのデータに基づいてAPUの発熱状態を推定し,CPUとGPUのクロックや消費電力を制御するとのこと。これをAMDは「Temperature-smart AMD Turbo Core」と呼んでいる。そのおかげで,TDPを維持しつつクロックを引き上げ,さらにバッテリ運用時間も伸ばしたというわけである。
Temperature-smart AMD Turbo Coreは,CPUの温度センサーから冷却状態を計算して,コアの温度上昇を先読みしながらCPUやGPUのパワーを制御する……というイメージのようだ |
GPUのパワーをエンドユーザーが実感できる
アプリケーションを提供。新たなブランドロゴも
AMDはこれまでも,APUを搭載するPC向けにオリジナルソフトウェアを提供してきたが,Richlandではそれも強化される。あまりゲームに関連したものはないのだが,「GPUのパワーを生かしたユーザー体験ができる」(Lensing氏)というのがウリだ。
Richlandに合わせて提供される新たなAMDオリジナルソフトウェア。Webカメラを使ったジェスチャーコントロールを実現する「AMD Gesture Control」や,Webカメラで顔を認識してログインする「AMD Face Login」などは,GPUパワーを生かしたユニークなアプリと言えよう |
これは,PCの画面をDLNA対応テレビに表示できる機能だ。APU内蔵のハードウェアエンコーダで,PCの画面をH.264/AVC形式のビデオストリームへ圧縮し,LAN経由でDLNA対応テレビに表示させるというもの。なので,接続に無線LANを使えば,ケーブルレスでPCゲームを大画面で楽しめる可能性があるわけだ。……もっとも,ゲームで使えるレベルのレイテンシを実現しているかどうかは未知数だが。
また,Webカメラを使ってジェスチャーコントロールを実現する「AMD Gesture Control」や,顔認識でログインできる「AMD Face Login」も,なかなかユニークな機能といえる。Intel CPUに対して大きなアドバンテージを持つGPUの性能を,一般のユーザーでも実感できるアプリケーションとして,ユーザーに提供していこうというAMDの意欲が見えるラインアップ,と言っていいのではないだろうか。
そのほかに,A8シリーズおよびA10シリーズに対して,新たなブランドロゴの使用を開始するという発表もあった。「Richlandがこのブランドロゴを採用する最初の製品になる」(Lensing氏)とのことで,新しいロゴでは,「A10」などの製品名がぱっと見て分かるようになる。地の色やブランド名の下に付けられる文字列――下のスライドの例では「ELITE QUAD-CORE」――は,製品によって変わるようである。
Richlandで始めて採用されるAPUの新ブランドロゴ。地にホログラムが使われるのが特徴 |
というわけで,RichlandというAPUは,電力や温度制御周りの改善が進み,動作クロックが引き上げられ,GPU性能を活かすためのAMDオリジナルソフトウェアが提供されるという,“Trinity+”的なプロセッサになっているといえるだろう。一方で,APUアーキクチャ自体は第2世代に留まる。次の大幅な進化は,次世代APU「Kaveri」(カヴェリ,開発コードネーム)の登場まで待たなければならないようだ。
しかし日本ではまず,「このRichland世代で,APU搭載のノートPCがもっと発売されるといいなあ……」というのが,AMDファンの願いではないだろうか。
- 関連タイトル:
AMD A-Series(Trinity,Richland)
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