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「GRAVITY DAZE」では“何も決めない”ことを貫きました――ディレクター外山圭一郎氏インタビュー
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印刷2012/03/03 00:00

インタビュー

「GRAVITY DAZE」では“何も決めない”ことを貫きました――ディレクター外山圭一郎氏インタビュー

画像集#002のサムネイル/「GRAVITY DAZE」では“何も決めない”ことを貫きました――ディレクター外山圭一郎氏インタビュー
 2012年2月9日に発売されたPlayStation Vita用ソフト「GRAVITY DAZE/重力的眩暈:上層への帰還において、彼女の内宇宙に生じた摂動」。本作は,フレンチコミックを彷彿させる幻想的なグラフィックスや,浮遊感を伴う独特のプレイフィールが特徴的なアクションアドベンチャーゲームだ。

 完全新規のオリジナルタイトルということもあって,事前の注目度こそ決して高いとは言えなかった本作だが,発売されるや否や,「この新しい感覚は凄い!」と,プレイヤーの間でも評判となったことは記憶に新しい。
 PlayStation Storeでの評価が3000件以上で5点満点中4.92,4Gamerの読者レビューでも,95点という高得点(2012年3月3日時点)を記録しているところからも,本作の評判の良さはうかがえるはずだ。

 今回4Gamerでは,そんな「GRAVITY DAZE」について,ディレクターである外山圭一郎氏に再び話を聞く機会を得た。新型ゲーム機初期のタイトルとしては,異例とも言えるクオリティを誇る本作は,いったいどのように,そして何を目指して作られたのだろうか?
 外山氏の考え方や,外山流のゲーム開発の手法についてなど,さまざまな質問を投げかけて,本作の“凄さ”に迫ってみた。

ソニー・コンピュータエンタテインメント ワールドワイドスタジオ JAPANスタジオ 制作部 ゲームデザイングループ クリエイティブディレクター 外山圭一郎氏
画像集#001のサムネイル/「GRAVITY DAZE」では“何も決めない”ことを貫きました――ディレクター外山圭一郎氏インタビュー

関連記事:“気持ちの良い嘘”が生み出す独特の浮遊感に注目。「GRAVITY DAZE/重力的眩暈:上層への帰還において、彼女の内宇宙に生じた摂動」インタビュー

関連記事:ゲームに触れて感動したのは,もう何年ぶりだろう――今までない体験が味わえる「GRAVITY DAZE」をプレイムービーで紹介


4Gamer:
 まずは,発売おめでとうございます。

外山圭一郎氏(以下,外山氏):
 ありがとうございます。

4Gamer:
 以前,コンセプトの大枠などについてはインタビューをさせて頂きましたが,今回は,もう少しゲームの細かい部分……「いったいどうやってこんなゲームを作り上げたんだろう」みたいなところを探っていければと思います。

外山氏:
 なかなか難しそうなテーマですね……(笑)。お手柔らかにお願いします。

4Gamer:
 「GRAVITY DAZE」を遊ばせてもらって,改めて「これは凄いゲームだな」と思ったんですけど,ゲームのコンセプトとして,企画当初から「浮遊感」だったり「オープンワールドを自由に飛び回れる」みたいなものが念頭にあったんですか?

画像集#003のサムネイル/「GRAVITY DAZE」では“何も決めない”ことを貫きました――ディレクター外山圭一郎氏インタビュー
外山氏:
 そこを語り始めると長くなるんですけど……いいですか?(笑)
 「GRAVITY DAZE」の根幹となる“重力操作”の部分は,本当に何回も練り直した部分です。紆余曲折ありながら,かなり長い時間をかけて取り組んでいたんですが,なかなか出口が見えないところでもありました。
 で,ご質問について言うと,開発初期の方では,今のようなビュンビュン飛び回るような方向ではなくて,もう少しパズル性というか,かっちりしたゲーム性のようなものを押し出したゲームデザインを考えていたんです。

4Gamer:
 パズル性というと,例えば「Portal」みたいな?

外山氏:
 うーん,今の空中でいったん止まったりする形ではなくて,目標となる地点に狙いを定めて,そこに上手に落ちていけたらゴールというか,最初に僕が考えていたのはそういうゲームだったんです。
 基本的なシステム自体は,現在の「GRAVITY DAZE」とそう大きく変わらないんですけど,もっとこう「意を決してダイブする」みたいなものだったんですね。落下していって,失敗するとペチャって死んでしまうみたいな。

4Gamer:
 それは興味深いですね。僕らは出来上がった作品しか見てないので,最初から「飛び回る爽快感」みたいなものを目指したゲームなのかな,と思っていたのですが……。そこからして違ったとは。

外山氏:
 いや,「飛び回る」という部分は最初からあったんです。以前にもお話したかもしれませんが,本作のコンセプトは,まずフレンチコミックからの強いインスパイアがあって。「女の子が空を駆けている」っていうイメージに憧れがあったんですよね。

4Gamer:
 そのぼんやりとした外山さんイメージが実際の企画としてまとまったのが,PlayStation 3の発売前あたりの時期というお話でしたよね?

外山氏:
 はい。PlayStation 3の発売前に,SIXAXIS(6軸検出によるモーションコントロールが可能なPS3用コントローラ)を使った企画を練る機会があって。そのタイミングで,「空を飛ぶイメージ」と「重力操作というアイデア」を組み合わせて,「GRAVITY DAZE」の原型となる企画が出来上がりました。

4Gamer:
 しかし,パズル的なゲーム性を志向していた当初の企画から一転して,開放感溢れる今のようなスタイルへ路線変更をすることは,かなり大胆な決断ですよね。

外山氏:
 僕は当初,成長を遂げた後半は解放感で楽しませるとして,そこに至るまではそういうパズル的な要素というか,ゲーム的な面白さというか,いろんな“仕掛け”をたくさん盛り込んでいかないと,すぐプレイヤーさんに飽きられてしまうと思っていたんです。……ところが,実際に作っていくと,これがなかなか面白くできなくて。

4Gamer:
 プレイヤーからすると「難しくて面倒」みたいな話ですか?

外山氏:
 社内でテストプレイをしてもらったりして,いろんな方の話を聞いていたんですが,やっぱり「難しい」「ストレスになる」みたいな意見の方が強かったんですね。僕としては,むしろそこ(パズル的な部分)が面白いだろうと思っていた節もあったので,そうしたフィードバックを受けて,「どうすればいいんだろう?」とかなり悩む時期がありました。

4Gamer:
 路線変更のキッカケはなんだったんですか?

外山氏:
 何度もテストプレイを重ねていくなかで,「自由に飛び回れる部分が面白いので,そこだけやりたい」という話が出て来たんです。でも,ここがまた悩ましくて。自由に飛び回れるような方向性を押し出していくと,“爽快だけど,大雑把”なゲームになりやすいんですね。確かに飛び回れるのは気持ちいいんだけど,それだけだと大味で。そこでまた,「うーん」と悩んでしまって(苦笑)。

4Gamer:
 実際「GRAVITY DAZE」って,遊んでいても「いろんな試行錯誤があったんだろうな」というのが感じられるんですよね。

外山氏:
 その通りです。
 ゲーム的なカチっとした面白さ/攻略感みたいな部分と,開放感/爽快感のバランスといったところは,ずーっと悩んでいたんです。それでも,E3(Electronic Entertainment Expo)用のデモを作っていた5月頃には,だいぶ吹っ切れて。そのあたりから,社内評価の感触もぐっと良くなっていきました。


独特のプレイ感覚を作り出すために


4Gamer:
 「GRAVITY DAZE」は,とにかくその独特のプレイ感覚が大きな特徴ですよね。そしてだからこそ,“動かしているだけで楽しい”ゲームになり得ていると思うのですが,開発にあたっては,どういったことを念頭において作業を進めていたんですか?

画像集#004のサムネイル/「GRAVITY DAZE」では“何も決めない”ことを貫きました――ディレクター外山圭一郎氏インタビュー

外山氏:
 オープンワールド的なゲーム性を取り込んでいくうえでは,「主人公の自由度に付いていけるように敵のバリエーションを充実させよう」みたいな話は割と最初から言ってました。あとは,ゲームデザイン上のチューニングで常に僕が話していたのは,「世界を傾けるゲームじゃないんですよ」という部分でしょうか。

4Gamer:
 ああ,確かに従来のゲームのモーションセンサーの使い方って,マップを傾けたりするものが多かったですね。

外山氏:
 はい。でも「GRAVITY DAZE」はそうじゃなくて,あくまで「自分を中心にした半径数メートルの重力がシフトする」ものなんです,という説明をしていて。だから,それが相対的に目に見えたり,感じられたりしないといけない。
 本来あるべき重力の方向と,“ずれた自分”との相対性というか,乱れる面白さみたいな部分は,かなり強く意識して取り込んでいました。

4Gamer:
 それは,建物のデザインや配置といった,レベルデザイン部分も含めてですか?

外山氏:
 そうですね。背景についてもかなり気を配りました。それに,実際に作っていてすごく思ったんですけど,人間の上下感覚って,視覚から得られる情報を,頭の中でかなり補完して得られるものらしいんですよ。

4Gamer:
 どういう意味ですか?

画像集#015のサムネイル/「GRAVITY DAZE」では“何も決めない”ことを貫きました――ディレクター外山圭一郎氏インタビュー
外山氏:
 簡単に言うと,真っ直ぐなはずなものが視界に入ると,三半規管うんぬんの前に「それが正しい上下だ」と脳が認識する,という。逆に,現実の世界ではあり得ない傾き方を情報としてとらえると,それだけで脳が「何かがおかしい」というサインを出すというのかな。そういうところがあるみたいで。
 だから,マップのデザインにしても,基本的に「見慣れたもの」を配置して,それが横向きとか逆さまに映って見えることで,より上下感の乱れみたいなものを表現できる。重力を操っているというのが伝わりやすくなるんですね。

4Gamer:
 なるほど。

外山氏:
 逆に宇宙ステーションのような背景だと,「重力が変わった」っていう感覚にはなりにくいというか。そういう発見もありました。

4Gamer:
 そういえば,「GRAVITY DAZE」って,視点を動かす操作にアナログスティックとモーションセンサーの“両方を使う”じゃないですか。それも「どちらを使ってもよい」という形ではなくて,大まかな視点の移動をスティックでやってから,最後の調整をモーションセンサーでやるみたいな。この絶妙なバランスの操作が興味深くて。

外山氏:
 そのあたりも試行錯誤の繰り返しで,絶対の正解を見つけた,というわけではないんですけどね。

4Gamer:
 でも,仮にこれがスティックを使うだけというスタイルだったら,おそらく全然違う感覚のゲームになったと思うんです。

外山氏:
 はい。そこはまさにおっしゃるとおりで,だからこそ,ちまちまとチューニングをかけた部分ですね。それこそ,弊社の吉田(吉田修平:SCE ワールドワイド・スタジオ プレジデント)にプレイしてもらった時も,「モーションセンサーだけで後ろとかは向けないの?」って言われました。

4Gamer:
 そこは,最初に触ったら普通にそう思いますよね。

外山氏:
 ええ。なので,じゃあやってみようとモーションセンサーだけで後ろに振り向けるようにもしてみたんですけど,やっぱりこれはなにか違うかなと。で,いろいろと試して,大雑把なところはスティックでやって,細かい補正をモーションセンサーでやるという今の形に落ち着いたというわけです。

4Gamer:
 他に細かいところでいうと,重力を変化させた時のカメラワークや,落下するときの主人公のモーションなんかも,かなりチューニングされているという印象を受けます。あの落下感って,どうやって表現されているんでしょうか。

画像集#005のサムネイル/「GRAVITY DAZE」では“何も決めない”ことを貫きました――ディレクター外山圭一郎氏インタビュー
外山氏:
 キトゥン(主人公)のモーションは,お手製というか,手付けのモーションと物理エンジンを組み合わせる,といった形で表現しています。

4Gamer:
 落下している時の姿勢の取り方一つをとっても,かなり作り込まれていますよね。

外山氏:
 ありがとうございます。これは僕自身が直接指示したわけではないので,担当者から聞いた話になってしまいますが,普通に人型のモデルを物理演算で動かすと,変にグニャグニャしちゃうというか,そういうところがあって。そのへんの調整で結構苦労していたみたいですね。

4Gamer:
 いわゆるラグドール効果(※)を使うと,そういう風になりがちですよね。

※ラグドール(ぬいぐるみ)効果:キャラクターの動きに物理演算を取り入れて表現する手法。重力や運動エネルギー,回転モーメントなどを適用して,多関節構造の物理的な挙動をシミュレートする。

外山氏:
 ええ。生き物っぽくないというか。だから「GRAVITY DAZE」では,落下時のモーションを単純に物理エンジンに任せるのではなくて,ある程度は,自動で制御を加えるというプログラムが組まれているんです。
 さらに,落下時にプレイヤーが能動的に操作しようとしている時は,その姿勢制御のプログラムが強く働いて,逆に身を任せるような落ち方の時は,ラグドール的なものを強く出すという,そんな調整をしているんですね。

4Gamer:
 「GRAVITY DAZE」のあの独特の操作感や浮遊感は,やっぱり,そういった細かい調整の積み重ねの結果だったんですねぇ……。


  • 関連タイトル:

    GRAVITY DAZE/重力的眩暈:上層への帰還において、彼女の内宇宙に生じた摂動

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