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[GDC 2023]スマートフォンでリアルタイムレイトレーシングを実現するArm製GPU「Immortalis-G715」の実力は?
リアルタイムレイトレーシング技術は,当然ながらいずれはスマートフォンにも降りてくることは確実視されていた。それが2022年6月,Armは,リアルタイムレイトレーシング技術に対応したスマートフォン向けGPU「Immortalis-G715」を発表して先鞭を着けた(関連記事)。
Immortalis-G715の実動デモは,いくつかの開発者向けイベントで公開されたことがある。しかし,大規模なゲーム開発者向けイベントでの公開は,GDC 2023が初めてということもあり,改めてその見どころをチェックしてみたい。
Immortalis-G715とはどんなGPUか?
Armのスマートフォン向けGPUといえば,「Mali」シリーズが有名だ。Immortalis-G715は,Maliの最上位モデルである「Mali G715」の後継製品に相当する新GPUだ。
最大の特徴は,リアルタイムレイトレーシング技術に対応した交叉判定エンジンを搭載していること。VRなどへの応用も視野に入れているため,視線連動描画系のFoveated Rendering実装との相性もいい「Variable Rate Shading」(VRS)にも対応している。VRSレートは最大4x4まで。つまり,最も低解像度に描画する場合,1ピクセルでの陰影演算結果を16ピクセル分へコピーできるということだ。
最大GPUコア数は16コア。16コア版で約5.3 TFLOPS,10コア版でも約3.3 TFLOPSのFP32理論性能値があるそうで,スマートフォン向けとしてはかなり高性能なGPUになる。
影,鏡像生成や屈折表現をレイトレーシングで描画
実動デモの様子を筆者が撮影した動画で見てみよう。
宇宙船の中なのか,それとも幻想的なサイバーチックな都市なのかはよく分からないが,不思議な発光体が配置されたあまり広くない屋内空間を徘徊するだけの,いかにも「技術デモらしい技術デモ」といった感じの内容だ。
このデモでは,レイトレーシングを影生成や,映り込みの鏡像生成,屈折表現などに活用している。動画の途中で影や鏡像のオン/オフを行っているシーンがあるので,効果の有無が分かりやすいだろう。たとえば,レイトレーシングによる鏡像オフ時は,映り込みは粗い環境マップだけになるが,レイトレーシングの鏡像は,極めてくっきりとしたものになっているのが見て取れる。
屈折表現は,動画の1:00あたりにあるピンク色に光る立方体のシーンで確認できる。半透明の立方体内部に発光体があるのだが,レイトレーシングオフでは,立方体の表面だけしか描かれない。それをオンにすると,立方体の内側に屈折して入ったレイが,内部にある発光体の情報を拾うので,内側の様子がぼんやりと描かれるわけである。
なお,このデモマシンに組み込まれたImmortalis-G715は,11コア仕様らしい。FP32理論性能値にすると,約3.6 TFLOPS程度のようである。PCでいえば,「Radeon RX 6400」程度といったところか。
2023年3月時点で,スマートフォン向けGPUで,レイトレーシング技術に対応したGPUとしては,Qualcomm製のハイエンドのSoC「Snapdragon 8 Gen 2」に組み込まれた「Adreno 740」がある。そのほかに,スマートフォン向けGPUで世界初のレイトレーシング対応GPUとしては,Imagination Technologiesが発表した「PowerVR Wizard」もある。
現時点では,スマートフォン用のゲームでレイトレーシング対応タイトルは,ほとんどないだろう。とはいえ,スマートフォン向けSoC業界ではリーダー的存在のArmとQualcommが対応GPUを揃って投入したことで,今後は,スマートフォン向けゲームのグラフィックスも。進化が加速するかもしれない。
ArmのImmortalis-G715製品情報ページ
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