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グルーヴコースター
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  • 発売日:2011/07/28
  • 価格:250円(税込)
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印刷2012/08/21 17:13

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[CEDEC 2012]iOS向け大ヒット音楽ゲームの生まれた経緯が明らかに。「メイキング オブ グルーヴコースター 〜ジェットコースターにGROOVEを添えて〜」レポート

 CEDEC 2012の初日となった2012年8月20日,タイトーのiOS向けゲーム「グルーヴコースター」のゲームデザインおよびグラフィックスを担当した石田礼輔氏と,同作のサウンドを担当した小塩広和氏によるセッション「メイキング オブ グルーヴコースター 〜ジェットコースターにGROOVEを添えて〜」が行われ,ゲームデザイン/サウンドの両方の視点から,本作の開発手法が明かされた。

(左から)ディレクター 石田礼輔氏,サウンドデザイナー 小塩広和氏
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「音楽にノる」ことに比重を置いたゲームデザイン


 「グルーヴコースター」は,ジェットコースターのようなレール上を疾走しながら,譜面に合わせて画面をタップしていく音楽ゲームだ。日本国内のみならず,海外でも高い評価を得ており,リリース後もバージョンアップや追加曲の配信が行われている。

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 今回のセッションでは,まず石田氏から,本作のゲームデザインについて詳しく語られた。本作の出発点にあったのは,「1ボタンゲームを作ろう!」という発想だという。これは,iOSデバイスにおける操作性や,海外向けの展開を考えて,シンプルさを重視したためだ。
 そこで最初に決められたのは,「音楽を演奏」「じっくり腰をすえて楽しめる思考型パズル」「タイミングよくボタンを押して移動」「2D画面固定型」といった要素である。しかし,本作をプレイしたことがある人ならば,これらの要素がほぼ原形を留めていないということに気付くだろう。実際のゲーム内での仕様では,「思考型パズル」は「音楽にノるだけの直感型アクション」に,「ボタンを押して移動」は「オートで移動」に,「2D画面固定型」は「3D画面スクロール型」にそれぞれ変更されているのだ。

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 では,もともとのアイデアから,どのようにして完成形に昇華されていったのだろうか。その過程には,「演出」「肉付け」「操作とリアクション」,そして「ゲーム+αの価値」といった部分が大きく関係しているのだという。

 まず,本作の演出については,既存の音ゲーと大きく異なった考え方で作られている。「グルーヴ×ジェットコースター」というコンセプトや,実際のゲーム画面からも分かるように,楽曲そのものを,ステージ構成やエフェクトなどを通して表現しているのだ。例えば,曲の中でギターの音が鳴っているような場面では,ギターの弦を弾くように連続してフリック操作が入る。ほかにも,音の波形に合わせてコースの形状が変わるなど,直感的に曲にノれるような工夫が随所にみられる。
 なお,「コースの形状を難度によって変える」「ゲームオーバー制にしてクリア時の達成感を高める」といったアイデアもあったそうだが,ゲームが苦手な人でも楽しめるように,これらはあえてボツとしたそうだ。

 こうした演出からも分かるように,本作では,攻略性よりも「音楽にノる」という要素が優先されている。石田氏は「感情の起伏」こそがゲームの面白さに深く影響していると考えており,本作では攻略とはまた違った部分,つまり,直感的に「音楽にノる」ことを通して,感情の起伏を生んでいるのだ。

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 一方で,斬新なアイデアだけでは「通」にリーチすることしかできない。より広い層に商品価値を伝えていくため,アイデアを引き立てる「肉付け」も重要だと石田氏は述べる。
 本作では,先述のステージ演出や,3D画面の動かし方でジェットコースターの疾走感を表現していることが,肉付けに該当する。

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 また,ゲームの魅力を引き出すための導入部分として,本作のメニュー画面はジェットコースターを模したものとなっている。縦に伸びたコースに沿って各ステージが配置されており,上下にスクロールしてステージ選択を行うのだ。

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 操作が「タイミングよくボタンを押して移動」から「オート移動」へと大幅に変更されたのは,操作の因果関係をシンプルにすることで,より多くの人に届きやすくするためだという。
 例えば,「プレイヤーキャラクターがリモコンでロボットを操作するアクションゲーム」の場合,プレイヤーが「プレイヤーキャラクターを操作」して,そのプレイヤーキャラクターが「ロボットを操作」する――という,入り組んだ因果関係をプレイヤーに理解してもらう必要がある。つまり,間接的な要素が入れば入るほど,プレイヤーが何かを考えることになってしまうわけだ。そのため,操作の直感性を追求している本作においては,あえてオート移動が採用されたのである。

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 さらに,プレイの充実感を増すため,大げさなほどのリアクションが返ってくることも大事だと石田氏は語る。もし,複雑なコマンド入力で出した必殺技の演出が地味であったなら,プレイヤーは物足りなさを感じるはずだ。しかし,これを逆に言いかえれば,想像を上回るようなリアクション(本作の場合はエフェクトの表示)ならば,プレイヤーはそれだけ大きな充実感を味わえるということでもある。

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 このように操作とリアクションが優れているゲームは,例えるならば「気軽に話しかけられるリアクション上手な人」である,と石田氏は述べる。確かに,そういった人に対しては話しかけやすいし,相手の反応が良いと楽しいと感じる。なるほど,これはゲームにも共通して言えることだろう。

 このほかに,「ゲーム+αの価値」を作ることも大事であると石田氏は強調する。世の中にエンターテイメントは満ちあふれている。その中で自分達のゲームを手にとってもらうためには,ただ面白いだけではなく「これをプレイすることで,あなたの実生活にも“価値”がもたらされる」ものを目指すべきだというのだ。
 グルーヴコースターでは「音楽・映像・ゲームを融合することで,音楽というメディアのプリミティブな魅力を掘り下げる」というテーマを掲げ,ゲームを持っていること自体がステータスになるようにしている。

 また,プレイヤーの思い入れを増幅するための仕掛けも,ゲーム内に施されているそうだ。本作のメニュー画面がジェットコースター型であることは先にも述べたが,実はこのメニュー画面自体がステージとして遊べるようになっており,しかもそのコース形状はプレイヤーによってそれぞれ違っている,いわば「自分だけのステージ」になっているのだ。さらに,シンプルなところでは,iOSのGameCenterに登録されているユーザーネームがスタッフロールに表示されるといった仕掛けもある。

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 こういったゲーム+αの価値が具体的にどういった効果を生むかというと,「誇りと自己の投影が思い入れを生み,バズ(口コミ)を生む」と石田氏は述べる。実際に本作がヒットした経緯を辿ると,App Storeで配信が開始された当初は,石田氏の前作「スペースインベーダー インフィニティジーン」のファンなどのコアプレイヤーが購入層の中心だったそうだ。だが,そこから次第に「このゲームが面白いよ」と,バズで幅広い層に広がっていったのである。


スマートフォンでも「演奏感」が最大に味わえるサウンドシステムの設計


 ここで,石田氏に代わって小塩氏が登壇し,本作におけるサウンドシステムの工夫について詳しく語られた。
 「プレイの充実感は大げさなリアクションによって生まれる」という考え方が石田氏によって語られていたが,これは小塩氏が担当したサウンドシステムにおいても同様だという。具体的には「プレイヤーのアクションに,即座に音で反応が返ってくること」「音がBGMとリンクしていること」という2つのポイントで,いわば「疑似演奏感覚」を重視したそうだ。

 まず,サウンドシステムを設計するにあたって小塩氏は,既存の音楽ゲームのサウンドシステムを以下の3タイプに(独自に)分類した。

・アクションに対してリズムと音脈に沿ったサウンドを鳴らす「楽音型」
・アクションに対してリズムに沿って固定のサウンドを鳴らす「効果音型」
・アクションに対してサウンドを鳴らさず,画面演出のみを行う「アクション型」

3つのタイプを,「演奏感」の大小,「コストパフォーマンス」の良し悪しで分類すると,このようになる
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 中でも注目すべきは,アクション型とほかの2タイプの間にみられる,コストパフォーマンスの大きな差だ。楽音型や効果音型の場合,BGMのリズムを監視して,それに合うように効果音や楽音のタイミングを補正する(=クオンタイズする)必要がある。つまり,それだけハードウェアの処理負荷や制作のコストが大きくなってしまうのだ。
 実際,小塩氏が調べたところによると,スマートフォン向けの音楽ゲームの場合,コスト的な都合からアクション型のシステムを採用しているタイトルが非常に多いという。
 だが,グルーヴコースターでは疑似演奏感覚を重視し,「楽音型のシステムを,コストをおさえつつ実現する」ことを目指した。

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 そこで採用されたのが,「ミュート2トラック方式」というサウンドシステムだ。このシステムでは,楽曲を「BGM」(例:ドラムやベースなどのパート)と「SHOT BGM」(例:メロディパート)の2つのトラックに分割して,両方のトラックを同時に再生する。ただし,ステージ開始時点ではSHOT BGMの音量は0%(ミュート)になっており,プレイヤーのアクションが成功したときのみ,SHOT BGMの音量を100%にするのだ。
 この方式であれば,BGMのリズムや再生時間を監視する必要がなく,処理の負荷も軽減される。さらに,トラックも2つだけ用意すれば良いため,同じコストでより多くのステージが制作できるのだ。

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 ゲーム内でさらなる演奏感を味わわせるため,細かな工夫や調整も行われている。その一例がアドリブシステムだ。
 演奏ポイント以外のタイミングでもタップ時には効果音が鳴るが,中でも曲に合わせて特定のタイミングでタップすると,特別な効果音とともにスコアが加算されるのだ。

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 また,譜面作りにあたっては,楽曲の中でも耳につく音を優先してSHOT BGMに割り振ったそうだ。ポイントは「プレイ(アクションに成功)しないと曲がスカスカになるくらい」であること。
 さらに,BGMよりもSHOT BGMのボリュームを大きくすることで,リアクションも分かりやすくなっている。このボリュームのバランスについては,小塩氏の経験上,BGMに対して3〜5割ほど大きくするとちょうど良いとのこと。

 そして何より,音楽ゲームのプレイ感覚に深く影響するのが,演奏ポイントからどれだけの時間のずれ(早い/遅い)を合格とみなすかの「判定バランス」の調整だ。
 これが本作の場合は,1/20拍単位(BPM120の曲であれば25ミリ秒)という非常に細かい精度で調整されている。判定バランスがたった1/20拍だけ変化したとしても,実際にゲーム上でカウントされるスコアは大きく変化するそうだ。

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 なお,ここまではサウンドシステムについての話題だったが,小塩氏は本作のBGMも手がけており,最後に作曲の裏話も明かされた。

 一般的な音楽ゲームの場合,メニュー画面ではビートの効いた曲が流れることが多い。だが,本作のメニュー画面の楽曲「The Beginning」については,「宇宙を形成する」という世界観を表現するため,あえてセオリーから外れた,アンビエント調の楽曲となっている。
 具体的な曲のイメージとしては,ジェットコースターが上昇しているときの緊張感を表現しているそうだ。また,The Beginning(最初の音=演奏の最初)という曲名にちなんで,オーケストラの聴音もエッセンスとして使われている。

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 BGMに合わせてプレイヤーがアクションすることで味わえる,「自分ならではの音楽体験」。それこそが,小塩氏は本作の開発を通して考えた音楽ゲームの楽しさだという。小塩氏は,今後もこの「自分ならではの音楽体験」を大事にして音楽ゲームの開発を続けていきたいと述べた。

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 最後に,石田氏がふたたび登壇。本作の起動画面に表示される「PLAY MUSIC」というフレーズを引用し,この言葉に込められた3つの意味を述べた。

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 世の中には多くの音楽があふれているが,その一方で,実際に曲を作ろうと思うと,音楽理論などの専門的な知識がハードルとなってしまう。しかし石田氏は,音楽の本当の魅力は「音が鳴って気持ちいいな,ほかの人と一緒に音を鳴らしてみよう」という素朴な楽しみにこそあるのではとし,その考え方から本作を開発したそうだ。
 そして石田氏は,この考えをもっと多くの人に広げるため「近日中に,何か仕掛けようかなと思っております」と意味深な言葉を残し,今回のセッションを締めくくった。


 セッション終了後に行われた質疑応答では,「音楽ゲームを作るにあたって,音楽に関する造詣は必要なのか?」という質問が投げかけられた。それに対して石田氏は「若気の至りでDJに手を出して,リズム感のなさに挫折した」「曲を作ろうと思って,実際に音楽理論の壁にぶち当たった」といった自身のバックグランドを明かし,本作の開発では,音楽に対する気持ちの強さや,小塩氏にうまく意図を伝えることで完成させていった,と回答した。

 「ジェットコースター」と「音楽」という,一見してつながりが無いように見えるモチーフを組み合わせて,ほかにはないプレイ感覚を実現したグルーヴコースター。その裏側には,「音楽にノる」というシンプルな楽しみを徹底的に追求する試みがあったのだ。

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「グルーヴコースター」公式サイト

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